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16.明かされ始めた真実

16-1


愛菜との電話を交わしてから一週間が経過-



翼は愛菜に呼ばれ、とある墓地・"聖ミカエル霊園"へと来ていた。

「愛菜、一体何でこんなところに俺を?」
翼は辺りを見回した。
所々ステンドグラスに彩られた、白を基調にした入口からすぐの小綺麗な教会・そして見渡す限りの十字架の墓標は、神話のような神々しさを醸し出している。
大地に無数に突き刺さるように広がる白き十字架たちは、翼に不思議な緊張感を与えていた。

「一体ここは?」
敷地内に足を踏み入れた翼がそう呟きながら歩いていると、教会の扉から一人の外国人神父が姿を現す。
すると神父は翼のもとへとゆっくり歩いてくる。
翼も神父の存在に気付き、彼に聞いてみることにした。

「えっと……Japanese speaking OK?」
翼が慣れない英語で問い掛けると、神父はにこりと微笑み口を開く。

「ツバサさん、ですネ?」
神父が片言の日本語を口にしたことで、翼の中の妙な緊張がするりと解ける。

「はい、僕が翼ですが……ここで女の子と待ち合わせなんですが」
「彼女でしたラ、アチラの教会の礼拝堂にいまス。さぁドウゾ」
神父は、翼を警戒することなく簡単に教会の中へと招き入れる。
翼は神父に一礼すると、彼の後についていった。


入っていった教会の中の礼拝堂は、ステンドグラスから差し込む光と、ユラユラと動く陽炎のような蝋燭の炎が薄暗い中を照らしていた。
その幻想的な中を、響き渡るパイプオルガンの音が切なく儚いメロディを奏でている。



『何なんだここは……』



ゆっくり、ゆっくりと奥行きのある道を神父の後に沿って歩く翼は、アロマキャンドルの匂いが鼻を突く別世界のようなその空間に胸が締め付けられるような感覚を覚える。

「アチラです」
ピタリと立ち止まった神父は、礼拝堂の奥の方へ手をかざした。


そこには、祭壇前で膝をついて祈っている一人の女性の華奢な後ろ姿があった。
握った両手を合わせている彼女の向いている方には、子供をその手に抱く聖母の像の存在があった。

「愛菜?」
翼が声をかけた瞬間、オルガンのメロディがピタッと止まる。
すると、彼女はスッと後ろを振り向いた。

「翼、来てくれたのね」
「愛菜、ここは一体?」
「お祈りも済んだから……場所を移して、そこで話しましょう。神父さま、ありがとう」

愛菜は一礼すると、神父はにこやかに頷く。
そして、彼女は翼の手を取り入口へとゆっくり歩き始めた。

「……」
翼は、ただ無言で自らの手を取る愛菜についていった。
教会の外の日差しがが、二人を暖かく包み込む。


「ビックリしたでしょう?いきなりこんなところに呼び出して」
「まあ。でも、どうしたんだ?」
「うん」
愛菜は、ゆっくり歩いていた足をピタリと止めた。
翼もそれにならう。
すると、彼女は白い十字架に埋め尽くされた墓地をまっすぐ見つめていた。

「今日はね、翼に見せたい場所があるの」
「俺に?」
「そう。前から一度、あなたを連れてきたかった場所よ。さぁ、行きましょう」
「あ、あぁ」
愛菜は再び翼の手を取り、歩いていく。


「愛菜」
「なぁに?」
「大丈夫なのか?おばあさんのこと……」
愛菜は歩きながら数秒ほど黙ったが、翼の瞳を見つめながら口を開いた。

「うん、もう何とか大丈夫。ありがとう、心配してくれて」
にこやかさを見せるものの、やつれた感を漂わせる彼女の表情に、翼はどこか違和感を覚えていた。


さかのぼること一週間前の夜-



「愛菜、どうした?」
「……」
翼はケータイごしに、愛菜と話していた。



ただ黙って、彼女の言葉に耳を傾け、頷いていた。



「わかった……」



翼は、直ぐさま部屋を飛び出し、愛菜に告げられたある場所へと向かっていった。





1時間後-

タクシーをおりた翼は、外観が白黒の旗で被われた一軒家の目の前にいた。
所々には、きれいにまとめられた菊の花たちがスタンドで飾られている。
それらを目にした翼は、そこのあまりにも静かな雰囲気に息を呑んだ。

「行くか」
翼はそう呟きながら、ゆっくりとその中へと足を運んでいく。
飾られた外観からはわからなかったせいか、そこは木造の古い一階建ての一軒家だった。
辺りを見回すと、ドアが一つ翼の前に現れる。
インターフォンがないその木造のドアを、彼はノックすることにした。

「愛菜?いるのか?」
ノックしながらドアごしに声をかける翼。
すると、意外にも早くそのドアは開かれた。

「翼……」
中から現れたのは、黒い喪服に身を包んだ愛菜だった。
髪の毛もストレートにおろしているせいか、いつものきらびやかな雰囲気を感じさせている彼女とは明らかに違っていることに、翼も違和感を覚えていた。

「愛菜……」
「ありがとう……仕事後で疲れてるのに来てくれて」
その時、愛菜はその場でフラッと身体をよろけさせる。
「愛菜っ!」
翼は彼女の身体を両手で支えた。
「大丈夫か?」
「うん大丈夫、ちょっと疲れたのかな」
「とにかく、中へ入ろう……って、俺が入ってもいいのかな?」
「うん、入って翼……」
いつもとも、半ば元気な今朝とも違う彼女の言葉は、とても弱々しかった。
「では、失礼します……っと」
翼は彼女を心配しながらも、家の中へと入ることにした。



中へ歩いて奥の部屋に着くと、そこには木魚や火のついた蝋燭・棺など通夜の形跡を残していた。
中央には、あの時病院で亡くなった老婆の遺影が飾られている。

「他の人は?」
翼が問い掛けると、愛菜は首を横に振った。
「おばあちゃん、基本的に他に身寄りがなかったから。明日には遠い親戚の人が来てくれるらしいんだけどね。だから、今日は施設の人やおばあちゃんのお友達とお通夜あげたの」
愛菜は俯きながら言った。

「そうか」
線香の煙が昇るそこには、優しい笑顔の老婆の遺影があった。
どこと無く、愛菜と翼を見つめているかのようなその雰囲気は、重苦しい中に不思議な柔らかさを感じさせている。

「お線香、つけてあげて」
「あぁ」
愛菜に促され、翼は遺影の前の座布団に座り、一本の線香に火を燈した。
その線香を添えると、彼は静かに揃えた掌を合わせる。

数秒間ほど閉じた瞳を開けると、翼は改めて遺影を見つめた。
病院で見た老婆が亡くなる瞬間の記憶が、頭の中で甦っていく。

「優しそうなおばあさんだな…」
翼は突然そう呟いた。

「うん…」
愛菜は、静かにそれに相槌を打つ。
そして、彼女は手で隠すように顔を覆った。

「愛菜」
「うん大丈夫……大丈夫だから……」
「気張るなよ」
翼は顔を隠し背けたままの愛菜の肩に軽く手を置いた。

「うん……翼、やっぱりあたし……!」
愛菜は翼に抱き着つくと、泣いた顔を見せないように胸に顔を埋めた。

「うぅ……えっ……」
ホテルの部屋にいたときと同じように、愛菜は甘える子供ように泣いていた。
必死で泣き声を抑えながらも、その頬を伝う涙は次々と限りなく溢れ出していく。
翼は何も言わず、ただ泣きじゃくる愛菜の頭を撫でながら彼女の肩を抱いていた。


「翼ゴメン。あたし、もう絶対泣かないって決めたのにさぁ……」
「いいじゃないか泣いたってさ」
「うん……でも、でもさ……」
「愛菜」
「うん、わかってるよ、今は無理しちゃいけないってのはさ。でも-」
「でも?」
「……」

愛菜はそれ以上は何も言わなかった。
それ以上何も言えず、ただ啜り泣くだけで精一杯だった。


"弱いところを見せたくない"
きっと彼女の中にそんなプライドがあるんだということを、翼はどこと無く気付いていた。


しかし彼は何も言わず、力無く自分に寄り添う愛菜を、その重い沈黙の闇夜の中で支えるように抱きしめていた。


1時間か2時間か、二人にはわからないくらい、翼と愛菜はじっとそのまま動かなかった。
気がつくと、ずっと流れ続くと思われた愛菜の涙も止まり、彼女の頬には流しただろう溢れた涙の痕がくっきりと残っている。
今はじっと瞳を閉じている愛菜は、眠ったようにピクリとも動くことはなかった。

「……」

自分に寄り添うそんな彼女を、翼は子供をあやすように撫でていた。


「翼」
「ん?」
「疲れたでしょ……」
「いや、大丈夫だよ」
「ゴメンね……疲れてるのにたかが一人の客の事情に巻き込んじゃって」
愛菜は目を虚ろにしながら呟いた。

「気にしなくていいっていったろ?」
翼はそう言いながら、愛菜の肩をポンと叩いた。

「うん、ありがとう」
すると愛菜はスッと立ち上がり、老婆の遺影の前にヨロヨロと歩み寄る。

「おばあちゃんね」
「えっ?」
「すっごい優しかったんだよ、こんな汚れたあたしにも」
遺影を前に話し出す愛菜の横に、翼も座り疲れた体を起こすように立つ。

「おばあちゃん、優しかったな……。ホントに優しかった……」
「……愛菜」
「ねぇ翼」
「何だ?」
「人の命ってさ、ホントに意外と呆気ないんだよね。ついこないだまで元気だったかもしれない人がさ、もうしゃべらないし、自分のことを気にかけてくれることもないんだよ」
「……そうだな」

愛菜の瞳が再び潤み始める。

「あたしもね、昔は誰も人を信じてなかったからさ。誰が生きようが死のうが別に関係ないって思ってた……。でも-」
「でも?」
翼が聞き返すと、愛菜は息をスウッと吸い込んで再び口を開いた。

「やっぱりさ……自分に優しくしてくれたり、愛情を注いでくれた人が突然いなくなるってさ。やっぱり……こたえるもんね……」
「……」
「状況は違うけど、翼があの時泣きながら話してくれた自分の過去の辛さが、今は身に染みてわかるわ」
愛菜は取り出したハンカチで、スッと自分の目を拭った。
翼は、常に愛菜の視線の先にある老婆の遺影を黙って見つめる。

「おばあちゃんね、もう体も弱ってたのに、最後まで一生懸命生きてた。痴呆も少し進んでたから、あたし時間あるときはずっと病院行っておばあちゃんのこと看てた。でも……」
愛菜は一旦言葉を止めひと呼吸おくと、すぐに続けた。

「あたし、おばあちゃんのために何もできなかった……あんなに助けられたのにさ……痴呆になっても、亡くなるときまであたしのことは忘れないでいてくれたのに……」



『愛菜……』



翼は、ただ黙って愛菜の横顔を見つめていた。


「ごめんね、おばあちゃん……ごめんなさい……」


遺影に向かって謝る愛菜の瞳からは、


その夜涙は止まることはなかった。





………………………。



時は戻り、翼と愛菜は白い十字架だらけの霊園の中の通り道を歩いていた。


翼は時折愛菜の顔を横目で見てみるが、あの通夜のときからは想像できないほど、彼女の表情はスッキリとしていた。

「なぁに翼、さっきから見つめちゃって」
翼からの視線に、愛菜は気付いていた。
「あ、いや……思ったより元気だなぁと思ってさ」
「そりゃあれだけ泣けばね」
愛菜が軽く笑いながらウインクしてみせると、翼はどこかホッと胸を撫で下ろしたようだった。


「愛菜、これから行くのって誰かの墓参りかい?」
「そうよ」
「おばあさん……の?」
「まさか。こんな場所はおばあちゃん好まないし」
「じゃあ、誰の?」

翼が最後にそう問い掛けると、愛菜はピタリと立ち止まった。
「ついてくればわかるわ。どうしてもあなたに逢わせたいの」
そう口にすると、愛菜は再び歩きだした。
翼はどういうことか理解しがたかったものの、それ以上は何も言わず彼女についていくことにした。

16-2

 
また少し歩いていくと、愛菜はとある一角にある墓碑の前で立ち止まった。
「ここよっ」

翼と愛菜が立つ前には、一つの墓碑の姿があった。
「愛菜、ここが俺を連れてきたかった場所なの?」
「えぇ……」
すると愛菜は、墓碑の前に近づいて腰をおろし、持っていた花をその前にそっと差し出す。

「あなたのところに来るのも久しぶりね」
愛菜は墓碑に向かって語りだした。
すると、翼の方を振り向き彼にも傍にくるように手で招く。
翼は、無言で愛菜の真横に揃うように立ち、墓碑を見つめた。

そこには、とある女性らしき人物の名前が筆記体のローマ字で刻まれていた。
彼はそれを、ゆっくりと心の中で音読みした。



『…Mei……Fujisaki……』




翼が"彼女"の名前を読み終えると、横にいる愛菜がタイミングを計ったように口を開いた。
「翼は、この人物が誰か気になる?」
「そりゃあ……ね。誰なんだい?この名前の人は」
愛菜は視線を翼から再び墓碑に移すと、再び口を開いた。

「この子の名前は"藤崎明衣"。亡くなった私の後輩なの」
「??」
「意味わからないのは当たり前よね、翼とは全く面識のない子なんだから」
「あぁ。でも、その人と俺が一体何で?」



「あなたには全てを話すね」



愛菜は翼の手をギュッと握ると、語り始めた。



「私がホストに行き始めたこと、私があなたを指名したのも、全てはこの子とのことから始まったの」


「この人との?」


「えぇ……。3年も前に、彼女は私と同じ店のキャストとして働いてたの。飛び抜けて容姿も良くて、女なら誰もが羨むくらいの子だった……私も含めてね」


「……」


「彼女には、大きな心の傷痕があった。愛した人たちに裏切られて大切なものも奪われて」


「……」


「そんな彼女をねじふせて支配したのは"お金"の存在だった。それらのせいで、優しかった彼女は……自分自身とお金しか信じられない人間になったの」


「……!」


その時吹き抜けた風のせいもあるのか、翼は身に覚えのある事実に、身体を僅かに震わせた。
愛菜は続けた。


「でも彼女には、新しい愛する存在ができたの。もう傷つきたくないからって理由で愛することを恐れて拒否していた彼女は、もう一度愛することに素直に向き合おうとしたわ……」


「……」


「でも-」


「……」


ひと息落ち着けると、愛菜はさらに続けた。


「その愛する存在を、お金や力ではどうにもならない"死"というカタチで失った彼女にやってきたのは……」



そこから先の部分はどうしても言いたくなかったのか、愛菜は言葉を詰まらせていた。



「愛菜、無理するなよ」



「……彼女は……自分の無力感や愛するものを再び失った極度の恐怖や絶望に耐え切れなくなって……」



愛菜は顔を背けたまま、それ以上は話さなかった。
手を握る彼女の力が翼の手を圧迫し、つけ爪の先がそれにグッと突き刺さる。





それからわずか約1分の間だが、二人の間に恐ろしく永く感じるような沈黙の時が流れた。



しかし、その沈黙が終わる頃には、愛菜は再び意を決したように話し始めた。

「彼女は最期に、天使のように微笑んで消えていったわ……。まるで、魂のひとかけらになるまで生き抜いたみたいに」


愛菜は遠くを見つめていた。
緩やかになった風が、彼女の髪の毛をふんわりと揺らしていく。
今も愛菜の中では、3年前の雪の舞い落ちる中に消えた"彼女"の姿が、鮮明に映し出されていた。


「そんな人がいたのか……」
翼は、その"明衣"という人物のことを心の中で思い描いていた。
愛菜は翼に対し頷くと、さらに続けた。


「それから変な喪失感にかられた私は、寂しさもあってかそれまで絶対に行かないと思っていたホストクラブに行ってみたの。その時行った【Unicornis(ユニコーン)】ってお店のとあるホストに心を救われたの」
「あるホスト?」
「そうよ。翼も知ってる人だけど」



『まさか』
翼はハッとしながら愛菜の顔を見た。

「その通り。当時まだ【Unicornis】で、あなたと同じく新人ホストだった当時24歳の天馬のことよ。前も言ったと思うけど、天馬も昔は新人の頃の翼みたいにダサくて貧相なホストだったわ」
「ダサくて貧相で悪かったね」
「フフッ、ごめんね。天馬は当時持ち前のガッツやら気合いやらで、不器用だけど少しずつホストとして成長していったわ。私はあの時、天馬のそんながむしゃらな姿にどれだけ元気をもらったかわからない」
すると愛菜は、翼の肩にピタリと頭をくっつける。

「それに天馬はただカッコつけてるだけのチャラい男じゃない。きっとたくさんの女の人を元気付けるホストになるって思った。だから私は、天馬のことをNo.1にしようと思ったの」
「そうだったのか……社長と愛菜の関係にはそんな。それが今は-」
「そう、翼のことよ。ただ-」
「ただ?」
「翼には天馬とは決定的に違っていたものが一つあった」
愛菜は再び墓碑の方に視線を向けた。

「あの子……初めて会ったころの明衣とあなたの瞳の雰囲気がすごい似てたってこと」
「俺と明衣さんの瞳が?」
愛菜はコクリと頷いた。

「この世の何も信じていない……金と力に理不尽にねじふせられて、憎しみでしか自分の心を支えきれない。初めて翼と会ったとき、見事なほどにあなたとあの子がオーバーラップしたわ。だから私思ったの、天馬と似てるようで実は全く異なるタイプのホストを育ててみようって。それに-」
「それに?」
「あの子と同じ瞳をした人間が、必ずしもあんな結末になるんじゃないってことを証明したいの。不器用に傷ついてく人間がバカじゃないってことを証明したいの……!」

そう強く囁く愛菜の瞳は、翼から見たいつもの彼女のそれとは違っていた。
それを感じ取った翼は、愛菜に一つの質問をしてみることにした。

「愛菜、一つ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「俺にはよくわからないけど、俺とその人にあるその接点にやたらこだわってるけど、何でなんだ?」
「それは……」

愛菜は一瞬回答をためらったが、すぐに答えた。

「私も……昔おばあちゃんに出会うまで同じだったからよ」
「えっ?」
「おばあちゃんと出会うあの時までは、同じ瞳だったと思う……」
その瞬間、翼は愛菜の瞳が恐ろしいほどに黒く濁っていったのを見てしまった。
それは、いつもの彼女ではなく全くの『別人』のような。

「愛菜……?」
「私も昔は翼や明衣と同じだった……すべては、あんな事件があったせいで!」



『あんな……事件……?』



不思議に徐々に強く変わっていく愛菜の口調が、翼の中に戦慄すら覚えさせた。

「どうゆうことだ?」
翼は愛菜の手を握りながら尋ねた。
すると、愛菜はすぐに答えた。

「もう十年も前の話だけど。私にはね、家族がいたの」
「家族が?」
「えぇ。仲良い家族だった……」

愛菜は言葉を詰まらせるも、すぐに続きを話し始めた。
その際に、彼女の頬を涙が伝う。



「たった一人生き別れた弟を残して、みんな死んじゃったの……」


「そんな……。でも、弟さんが?」


「うん。今はどこにいるか、生きてるかすらわからないけど……」



その時、愛菜は一枚の写真をバッグから取り出した。










しかし、

何気なく覗いたその写真を見て、翼は驚愕した。



『羽月が持っていたのと同じ……!?』



翼が以前見たように、愛菜の手にあるそれには羽月が持っていたあの写真同様の仲よさ気な幼い姉弟の姿がほほ笑みながら写っていた。
その時、翼は羽月の言葉を思い出していた。



『俺、十年前に生き別れたアネキを捜しとるんや-』



翼は、横にいる愛菜のことを目を大きく開けて見つめた。
そして、愛菜は呟いた。


「もし生きているなら……元気にしているのかな、直人……」





その瞬間、翼は気付いてしまった。





今、自分の目の前にいる愛菜こそが





羽月が捜しているという





十年前に生き別れになった《彼》の実の姉だということを-





そしてその後、愛菜から語られたのは……





一人ノ少女ガ歩ムニハ堪エガタイ





凄惨ナ道程ダッタ。







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