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ことの始まり

ゆうちゃんは、小学3年生の女の子です。パパとママと3人で、タンポポ団地に住んでいます。ところが、ある日突然パパの仕事の関係でパパが、一人だけ遠いところへ行かなくてはいけなくなりました。ママと二人だけの生活が始まったのです。 

 

ママも仕事をしています。学校から帰ったら、ゆうちゃん一人でお留守番です。お留守番は、パパがいるときもしていたので、慣れっこです。それでも、一人ぼっちの部屋は、どこか寂しく、悲しげに感じられます。パパがいたときは、そんなに寂しく感じなかったのに、なんか変です。そんなゆうちゃんの楽しみは、パパからの手紙を受け取ること。毎日はもらえなくても、郵便受けに手紙が入っていると、「やったー」って、思います。

 

学校から帰り、郵便受けをのぞくと、封筒が入っています。

「やったぁー」

ニコニコ顔のゆうちゃん。そうです。パパから手紙が、来たのです。

 
 

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一緒に、ね。

部屋に入りさっそく中を開けてみてみます。

「ゆうちゃん。元気ですか?今日は、とてもいいことを思いつきました。パパとゆうちゃんで、同じ植物を育てましょう。パパもこの植物を育てます。

これで、いつも一緒にいるのと同じですよ。    ぱぱより」


とん。とん。とん。封筒を逆さにしてふってみると、中から植物の種が出てきました。トマトの写真が、写っている袋です。

「植物って、トマトなんだ」 


ゆうちゃんは、トマトが大好きです。パパはそれを覚えていて、トマトの種を送ってくれたのでしょう。パパと同じトマトを育てる。そのことにゆうちゃんは、わくわくしました。

「ママ、トマトの種をパパが送ってくれたよ」


仕事から帰ってきたママにゆうちゃんは、トマトを植える準備をしてもらいました。去年チューリップを植えていた、茶色い植木鉢に土を入れました。土に種を3粒まき、上から肥料をかけました。

「ママ、おっきい、おっきい、トマトができるかな?」

「これは、プチトマトの種だから、ゆうちゃんみたいに、かわいいトマトができるわよ」


ゆうちゃんは、目を輝かせて、植えたばかりの植木鉢を見ています。

「早く、大きくなれ」

お水を上からそっとかけました。





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わーい。芽が出たよ!!

その日からゆうちゃんの楽しみが、増えました。学校から帰ると、まず郵便受けを確認して、それから、トマトの様子を見ます。パパからの手紙にも、植木鉢の写真が入っていました。「二人で育てるトマト。大きくなれ」手紙に書いてありました。


一週間位した日、パパからトマトの芽が出た写真が、送られてきました。ゆうちゃんのトマトは、どうなったのでしょうか。おそるおそるベランダへ行ってみると、

「私のトマトも芽が出た!」


ちっちゃくて、かわいいトマトの芽が、ちょこんと出ています。

「パパと育ててるトマト、芽が出たんだよ」


ご飯を食べているあいだじゅう、ゆうちゃんは、うれしそうに話します。

「もうちょっと大きくなったら、芽をまびきしないとね」

「まびきってなに?」

「一番大きく育っている芽を残して、あとは抜いちゃうの」

「せっかく、芽が出たのに、抜きたくないよ」


ゆうちゃんが、ふきげんそうに言うと、ママは、優しく答えます。

「パパと育てているんだから、パパと一緒に同じことをすればいいのよ」


それから、まもなく、パパから手紙が来ました。写真を見てみると、植木鉢に芽がひとつだけ、残っています。

「わかった。パパ。私もまびきする」


仕方なく、一番大きく見える芽をひとつ残して、あとは抜きました。かわいそうな残りの二つのために、ゆうちゃんは、お墓を作りました。手を合わせながら、心の中で、「ごめんなさい」と、あやまりました。


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スズメがやってきて


トマトは日に日に大きくなり、しっかりと立っていられるように、棒を立ててあげました。そして、花が咲き、ついに実が、5つできました。まだ、青い実です。パパからの写真には、まだ実がついていませんでした。



お日様の光を浴びてトマトは、ぐんぐん育っていきます。そして、とうとう、ひとつの実がまっかになりました。

「おいしそう」

ゆうちゃんが、トマトをつもうとすると、どこからか、声が聞こえてきます。

「ちょうだい。ちょうだい。そのトマト」


ベランダの手すりに、とまっていたすずめが、言っているのです。

「私、ずっと見ていたの。そのトマトが大きくなるの」




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スズメがちゅん、そして

ゆうちゃんは、悩みました。

「1個だけ、1個だけ。もう言わないから」

 

まだあと、4個あるから、1個くらいいいわ。すずめの言葉にゆうちゃんは、トマトをつんで、すずめにあげました。

 

「ありがとう」

すずめは喜んでつついています。ゆうちゃんは、喜んでもらえてよかったと思いました。

 

「みんなが食べたい、おいしいトマト」

ちゅん、ちゅん、鳴きながら飛び立っていきました。

 

 

2つ目のトマトが、真っ赤になりました。「今度こそ食べよう」と、ゆうちゃんが、トマトをつんで、すぐ、また、声が聞こえてきました。

 

「ちょうだい。ちょうだい。そのトマト」

 

今度は、リスです。

「どんぐりばかりで、あきてしまったの。たまには、トマトが食べたいわ」



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