目次
奥付
奥付
日常編
0  それは始まりであり序章であると人は言った
1 日常
2 君の知らない事
3 体と心は繋がっている
4 放課後狂想曲
5 狂想の協奏曲
6 花開く過去
聖性編
7 思い込み眼鏡(フィルター)
8 変な人の基準
9 謎を明らかにする為の覚悟
10 『夜明』の称号の意味
11 比較対象が無ければ判断出来ない
12 魔法的道具と効能
13 精霊ってなあに?
14 氷の花が紅にきらめく時
15 強引g・まい・うぇい
16 常にこれから
間章・学校の一コマ編
17 マリア・ビルカと言う女
18 家族といえば急展開
19 好みと趣味と悪い事
20 薬とギルドと魔法の関係
召喚編
21 それは誤解で…違うんですか?
22 静かなる対立
23 これはこれで予想外の現象
24 彼に何が起こったのか
25 例え火の中水の中…行き過ぎ
26 空気を読むとはこういう事さ
27 思えば遠くへ来たのかな
28 真打でなくても後から来る者はいる
29 状況説明をお願いします
30 忠義の犬と盲目の踊り子
新人参入編
31 遠い惑星から来た犬
32 忠犬と駄犬の違いについて
33 星に泣く犬
34 黒い蝶は導きに羽ばたく
35 とある学生の憂鬱
36 秋の水は澄んでいる
37 未来(さき)見えぬ限界
38 知らない事を学ぶ方法
間章・転換編
39 思うとおりに行かない事を人生と言う
40 隠してない事に気が付かず
41 初めてに年齢は無関係
42 無駄な矜持(プライド)は捨てればいい
43 そんなこんながありまして

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奥付



君は輝く星


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著者 : 源三津樹
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0  それは始まりであり序章であると人は言った

 それは、特別でも何でも無かった。
 極々普通の、日常の光景。

 毎日寝起きした部屋。
 毎日通った道。
 毎日出会った顔、たまに会う顔、会わない顔。

 たわいもないお喋り。
 もう、次の瞬間には忘れている。

 興味もなく食べた物。
 数字以外は気にならない。

 望んでいるわけでもなく聞く声。
 こちらからかけた事は一度もない。

 あえて言うのならば、それが世界の全て。
 見るわけでも流れる箱の中、脳裏に引っかかったものが生きている間に役に立つかなんて誰にも判らない。興味もない。

 覚えてもいない噂話。
 でも話を聞いているフリとあわせる技術は年々向上していく気がする。

 特に何かを思うでもなく。
 ひたすらに求める物があるわけでもなく。
 まるで流されている最中の様な流れの中で。
 ただ体も心も浸していて。
 そんな事が。

 幸せだったのだと。
 知った時、全てが遅かった事を知った。

 毎日を過ごした建物が。
 いつも話していた相手が。
 望まなくても流れていった情報が。

 震えて。
 揺れて。
 混ざって。
 渦を巻いて。
 溶けて。

 消えた。

1 日常

 慎重である事は必要な事だ。
 それは全てに通じるものであると、その空間に居る全ての者は知っていた。
 静謐な空間は、それだけで貴重なものであると言う事実も……。
 残念な事ながら、得がたいものであるが故に。
 知っていた。

「ドーン!」
 それは、あるまじき事である。
 もし、この場に「正常な思考回路を持つ大人」が存在していたとすれば言ったかも知れない。
 しかしながら、残念な事に「正常な思考回路を持つ大人」は存在していなかった……大人そのものが存在していなかったと言う解釈もあるが、だからと言って「正常な思考回路を持つ子供」は過半数を占める割に優位性を持っていないと言う悲しい現実がある。
「待ってください、レン・ブランドン様!」
「レン・ブランドン様ぁ!」
「ちょっとドーン、レン・ブランドン様が呼んでらっしゃるのに返事もないとはどういうことなの。
 すぐに出ていらっしゃい」
「ねえ、ドーンは奥?」
 つい今しがたまで、広いとは言えない薄暗い室内を満たしていた静謐で清浄なる空気は木っ端微塵に打ち砕かれた。悲しい事に現実で、この室内に居る者達は眉をひそめながらも日常として受け入れている……受け入れさせられてしまっていると言うのが実際には正しい。
 何しろ、彼女達は問答無用なのだから困る。
 困るついでに、そこに彼はあまり関与していない。正確には、別に彼自身は特に何か悪いことをしているわけではないのだから当然と言えば当然だ。けれど、だからと言って彼が何一つ悪くないというわけでもないことが矛盾をはらんでいないと言う現実が何よりも矛盾だ。
「ありがとう、ドーン!」

 べり。

 広くはない室内が薄暗いのは、各々が自分自身でそれぞれ作業を行っているので狭く見えていると言う事もあるのだが、その人物達の心は一つではあったが……口にするほど愚かでもなかった。
「レン」
 仕切られた扉の奥、普通ならばたいていは準備室として使われるものだろう。
 いわゆる、倉庫と言っても良い。
 だが、そこには淡く光るいくつかの球体に見える物体と、張り巡らされた管がある。
 テーブルの上に載っているのだろうが、うっかり遠目で見ると浮いている様に見えてはじめて見たらうっかり悲鳴をあげてしまうかも知れない。
「ご、ごめん……」
 なぜか扉をはぐように開けたのは、この薄暗い空間の中でも数少ない光を集めてスポットライトを集めて浴びているんじゃないかと思えるほどに美しい顔立ちをした少年だ。とは言っても、もうそろそろ少年と言うには少し精悍な顔立ちをしているが。
「まあ、レン・ブランドン様が謝る様な事は何一つありませんわ!
 ドーンがうすのろで愚図で間抜けで、レン・ブランドン様を煩わせるのがいけないのです!」
 レン・ブランドンと呼ばれた光り輝く少年は、髪の色が黒に近い藍色なので表情が際立って白く浮かんで見える……と言うのが、先程からドーンと呼ばれた全身を長衣でくるまれてるかの様に着ている人物の印象だった。
「そうですわよ、ドーンったらいっつもこんな所で引きこもりの様にしてるんだもの。
 ほら、早くレン・ブランドン様にお詫びの一つでも申し上げたらどうなの」
「私としても、君がどこで何をどうしようが気にはしないがレン・ブランドン様がどうしても君と同じ部活が良いと言うからお付き合いしてるが……いい加減にレン・ブランドン様のお手を煩わせるような卑屈な態度は止めたらどうなんだ」
「ちょっと、皆……」
 押しのける様な事は流石にしないが、レンの背後に居たのはそれぞれ褒め言葉で飾られてもおかしくない美少女ばかりが三人ほど。
「レン・ブランドン様、幾ら幼馴染で乳兄弟とは言え主人との立場の違いを教えて差し上げるのも温情と言うものですわ。
 そもそも、公爵閣下とレン・ブランドン様のお力添えでこの学園に居る事が出来る身の上だというのに、レン・ブランドン様のお側に仕えないとは使用人の癖に傲慢にもほどがありましてよ!」
 一人は上級貴族のレディ・リリアント・マイソロジー。通称はレディ・リリィ。
 少し型遅れではあるし、場違いなほどではあるが質の良いドレスを着ている。
 豪華な金の巻き毛とぱちぱちに整えられたまつげだけを見ていると、二通りの印象を周囲に与える事を彼女が知っているかどうかは別の話だ。
「レン・ブランドン様も、そろそろこんなの捨てて新しいのにすればいいのに……」
 一人はアンレーズ・フォン・ブーリン。通称はアンヌ。
 リリィより爵位は下ではあるし、比べると簡素に見えなくもないがふりふりでレースでピンクでリボンでドレープが多彩に散りばめられている。普通の感性からしたら場違いだといいたくなるが、側にリリィが居るせいかそこまで酷く見えないのが視覚マジック。
「レン・ブランドン様。言いたくはないがドーンに構うのもほどほどにしてはどうだろう?
 アンヌではないが、あまり使用人と馴れ合うのは貴族としてどうかと思う。それに、レン・ブランドン様がそうやってドーンに優しくしていたらドーンが貴族を舐めるような性質になる可能性がある」
 もう一人は、カーラ・リヒテンシュタイン。貴族ではなく大商人の家柄。
 二人とは違ってパンツルックなので、一見すると護衛の騎士がよろいをつけていない様に見えなくも無いと言う少し悲しい見え方をされているのだが、スタイルは良い上に身長があるので内心微妙だったりする。
「いや、だから……」
 この三人がレン・ブランドン時期公爵に入学当初から付きまとっていると言うのは、今や公然の事実だ。
 ただし、この三人は勝手に付きまとっているだけであって付き合っているわけではない。
 本当の本当に、ただ付きまとって勝手に言い争っているだけだ。
「ちょっとカーラ! それは先にワタクシがレン・ブランドン様に申し上げた言葉よ!」
 一応ではあるが、この学園に在籍している間の彼らの身分は現実に左右される事はない。
 どちらかと言えば、この学園で培われた経験値や成績が立場を決める事となる。
 例えば、学園寮には幾つかのランクがあるが平民や流れ民の子であっても成績が良ければ豪華な部屋に住むことが出来る。そこに家や後見人の存在はまったく存在しない。
 あるいは、例え上級貴族であろうと成績不振だったり問題児であれば部屋も待遇も落とされる。
 もしもそれが嫌だというのであれば、学園の寮ではなく学園都市で一般市民や企業が経営している宿泊施設に高い金を使って借りれば良い。
「あたしも、カーラなんかにアンヌなんて呼んでいいなんていった覚えないんだけどー」
 上級貴族のプライドで鼻持ちなら無いリリィ。
 我侭なお嬢様の典型なアンレーズ。
 一見クールな取りまとめ役に見えて、実際にはそうでもないカーラ。
 三人が一緒に居るのは、単にレン・ブランドンを狙っていると言う為だけの話。
 だから、別に三人は仲良しでもなんでもない。正直、相手をどうにか引きずり落としてレン・ブランドンを手に入れる為の捨石にしたいとすら思っている……かどうかは別である。
「ちょっと、三人とも……」
 いつもの事と言えば、いつもの事。
 そう、これは何時もの事である。
 ……が、何事も王道展開もあれば堪忍袋の緒が切れる事もままあるものだ。
「出て行け」
 そう。
 一人が激昂し、一人が冷めて、一人が冷静を求め、そして一人が事態を終わらせようとしたところで飛び込んできたのが、この言葉だった。
「もう一度言う、出て行け」
 誰かのわななく音と、誰かの息を呑む音と、誰かの米神がぶちきれる音がして嵐が吹き荒れる瞬間を狙ったとしか思えない、そんな空白の中で。
「言っておくが、この場で暴れるとこの中身がぶちまけられて……どうなるか知りたいか?」
 先に述べておくが、この場でレンを追いかけていた三人は女の子である。淑女とは言えない年齢だ。
 ついでにいっておくが、それぞれ一生働かなくても贅沢をしなければ食べていける人とか贅沢しても食べていける人の集まりだ。贅沢がすきでもない人も居るが。
 更に言えば、上流階級のマナーは一通り叩き込まれた将来が楽しみな粒ぞろいだ。見てくれだけは。
「ちなみに……」
 よく、あんな格好で全力疾走が出来るものだと感心すらしていた所ではあるが。
「それをぶちまけたらどうなるんだい?」
 取り残されたレンは、少しの笑顔で問いかける。
 ぎりぎり引きずりかけている長衣を身にまとい、反射する眼鏡の光以外は表情が見えない相手を前に慣れたものだ。
「汚れる」
「……うん、そうだろうね?」
 僅かに逡巡して、内心でそれは期待していた答えとは違うんじゃないかとレンの脳裏には過ぎった。
「配合の途中なんだ」
「うん、そうなんだ?」
 と言う事は、まだいきなり爆発とか、いきなり発煙とか、いきなり閃光とか言う危険な段階ではないという事でもある……かも知れない。
 そのあたり、ドーンはあまり必要の無い状況での明確な返答はストレートに聞かない限り与えてくれる事はほとんどない……例えば、数学の問題で答えだけを出すようなものの言い方が多いと言うことだ。
 流石に、公的な場ではそれなりの態度と言うものをわきまえてはいるのだが。
「仕上げの段階ではなくて良かった」
「あ、そうだね」
「……レン」
「ごめんなさい」
 声のトーンの変調に即座に対応はしてみる……が、ドーンは手綱を緩めるつもりは毛頭ないらしく。張り詰められた声はそのまま、ぴんと張った糸の様な厳しさがある。
 通常、周囲はレンや取り巻きのような金持ちか権力者か元知名人などが入学する事の多い学園で、ドーンの様に後ろ盾こそあるものの有名無実な状況にある存在は居ない。
 例えば、パトロンの庇護の下にある一般市民は己がいかに権力を持っている人の庇護にあるかを自慢するのが普通といえば普通だ。そうして強がっていなければ本物のセレブリティな人々の間で勝手な卑屈間に押しつぶされてしまうものらしい……たまに例外があるのは、よくある事ではあるが。
「もう二桁にも上る謝罪の言葉は意味がない。出禁にするよ、張り紙も読めないような奴の為に割く時間がもったいない」
「だってさあ……」
 口尖らせてぶちぶちと文句を言う気持ちも、正直判らなくはない。
 少なくはなく余波的な迷惑をこうむっているが、当事者でなくて良かったと常に人身御供となっているレンへ感謝の念を忘れたことはない……が、元凶もレン本人なのだから死んでも口にしたくないと思っている事は上手に生きて行く為の賢いやり方だ。
「暇なら手伝え」
 まるでご主人様に見捨てられた小動物の様な幻が見えると、こういう場合のレンを見るとドーンは思う。
 実際には、ドーンはレンの実家で働いている両親の関係で仲良くさせて貰っている。それこそ飼われている立場だと言うのは三人娘などに言われなくても重々承知している……が、人にはそれぞれ事情とか人生とか置かれた立場とかあるのだ。
 ドーンだって、何も好き好んでこんな状況に居るわけではない。
 たまに叫びたい衝動に駆られるけれど、言うと結果がわかっている事を口にするほどドーンは己が浅慮ではないつもりだった。


2 君の知らない事


 ドーンと言う人物について尋ねれば、代名詞は一つしかない。

 うさんくさい。

 その一言に尽きる。
 別に、側に光か宝石の様にきらきらと効果でもかかっているのではないかと思われるほどの権力と美貌を兼ね揃えた時期公爵閣下が付きまとっているからではなく……ちなみに、周囲に言わせればドーンが付きまとっていると思っている人も掃いて捨てるほど存在する。単に、その外見からの問題だ。
 ドーンは、この学園に所属する魔導師だ。見習いですらないが、その事実はあまり公にはなっていない。
 学園に所属し、学園や私的に依頼を受けて魔法的な分野。またはそれに付随したりしなかったりする項目によって料金を稼ぐフリーの何でも屋と言っても過言ではないだろう。だから魔導師と言うのもある意味おかしい、通常は教職にでも付いていない限り魔導師ではなく魔道士と呼ばれるのが普通だし、外聞的には学生や冒険者と言うのが正しいだろう。

 そう、ここは一つの学園都市。
 あらゆる産業、文化の発生と発展の種を生み出す町。
 多くの国から援助を受けて成り立ち始めた都市は手出し無用の不文律の中心地でもある……とは言っても、まったくの介入無用と言うわけにもいかないのが現実ではあるが、その当たりは無駄に権力を持っている狸や狐が馬鹿騒ぎをしていれば済むだけの話であり、実際にその「中」で生きている人たちにとってはさほどの問題でもない。
 もともと、この地には神話に繋がる伝説がある。
 その伝説そのものは世界をひっくり返すようなものではないが、何事も使いようと言うものだ。
 何しろ、この世界には魔法が存在するのだから。
 魔法は自然の理を読み取ったり、利を生かしたりするもの、または使用者の精神や生命に関わるものまでバラエティに富んでいる。
 ある意味、最も可能性があり。また、まったく可能性がないのが魔法と言えた。
 何故、と問われれば魔法に携わる者は口を揃えて言うだろう。
 魔法は基本的には調べつくされてしまったのだと。
 あとは、使用者がそれぞれの独自的発想を以って応用に活用する「しか」ないのだと。
 間違っているわけではないが、決して正しくも無い。
 それが、世界における魔法の概念である。

「レン、15分」
 ドーンは手に持っていた鈍い色をした入れ物をレンに渡すと、少しばかり酷な事を言った。
「え、混ぜるの? 手でやんの?」
 入れ物は中身が空で、レンの持っているガラスの入れ物がそのまま入る仕様になっているらしい。
 大人の男性が片手で何とか持てる程度ではあるが、まだレンの手はそこまで成長していない。加えて、多少の重さを感じる……質感からすると金属にも思えるのではあるが、そこまでの冷気を感じない。
「どうしろと?」
「いや……ほら、確かお菓子作りの道具とかでもあるじゃない? 手を使わなくてもかき回す奴」
 流石にレンは男性であり貴族だから撹拌機の名前までは判らない……町に出歩いて遊びまくったりしていることはあるので、製品は知っていても使ったこともないから知識が偏っているとも言う。
「ある」
「じゃあ……」
「無い」
 あるのか無いのかどっちなんだよ、と思ったけれどレンは流石に口にはしない。
 話の流れを推理すれば、持っていないと解釈するべきなのだろうとは思う。
「で……これ何なの?」
 硬いし冷たくはないけれど、片手で持ちきれない程度の大きさと体を鍛えるにしてはもち手がつるつるしている気がする物体。
 とりあえず、投げて当たったら痛そうだという程度の印象しかない。
「ドーン?」
 へそを曲げてしまったのだろうかと言う気もするが、逆に静かになってご機嫌なのかと言う気もする。
 本来、ドーンもレンもこういうしゃべり方が普通なのであって一から十まで懇切丁寧に解説をする様な性質は持ち合わせていない……ドーンはともかく、レンは周囲の女の子達から引っ付かれてる事が日常なので、流石にそこまで自分勝手に過ごすことはあまりないのだが。
「口はいい」

 つまり、手を動かせという事ね。
 言わないと言う事は、もしかしたら何か可愛い企みでもしているのだろうか?

 そんな風に想像をめぐらせる事が出来る人物は、少なくとも学園の中でレン程度のものだろう。
「あれ、ドーンはどこに行くのさ?」
 別の作業をするのであれば奥の作業台にいるだろうが、ドーンが向かったのはレンの背後……扉は外へ出る事が唯一出来る。
「止めるな」
 こんな会話がなされたと三人娘が知ったら、恐らく鬼のような形相になるのだろうと言う事をレンは知っている……と言うより、過去数度は起きた現実だ。しかも、割と生々しい記憶だ。
 ぶっきらぼうで必要な事の3割程度しか口にしないドーンが昔さながらに普通にレンと相手をするのだから周囲の主な女の子達はドーンへ鬼の首でも取ったかのように言葉で襲撃する。後日は手が出たり足が出たりもする……流石に直接的な妨害等は多くはないけれど、湾曲的なものであれば思い出すだけでいやになる程度はそこかしこにあったものだ。
「はあい、いってらっしゃい……」

ーーーーーーーーーー

 ドーンは、常に全身をフード付きの長衣を身にまとっている事が最大の特徴だ。
 下手するとろくに顔も見えない程度に覆われているのではじめてみた人は幽霊か何かと勘違いしてしまう事も少なくはなく……レンの側に居るから大変なんだろうというのは一部の人の意見であって大体の人はレンの側に居るのは相応しくないと大不評だ。
 それでも、ドーンにとってそんな事は些細なこと……頭の中をほとんどが考え事で埋め尽くされているドーンの中に他人からの評価なんてものが入り込む余地はない。
「ドーン、大丈夫だったか?」
「……いつもとおりだ」
「それ、大丈夫とは言わないんじゃないか?」
「どうだろうな?」
 ドーンに声をかけたのは、続き部屋の研究室の面々だ。
 意外かも知れないが、どこか似たような気質を持っているせいかドーンはこの部活の部長をしている。部長権限と学校側からの依頼を数多くこなすことが多い事もあって個室を持っているのはドーンだけだが、もともとがそこまで研究室を個人で持つような作業をする者は多くない……他の人たちとやっていれば、問題があれば逐一丁寧に教えてくれるし。また、人に意見を聞くことも出来るからだ。
 別の意味で意外だとは思うが、彼らは研究者であるよりも研究者の卵。
 最初に研究の道を開いてくれたドーンの事を尊敬し、仲良くしてくれる数少ない人物達……とは言っても、、この部屋の中でだけではあるが。
「どうだろうって……」
「面倒」
 翻訳するならば、手立てがないわけではないが実行をするに当たって手順を脳内で構築しただけでもため息物だと言うのに実際に行動を起こすなんて鬱陶しいことこの上ない事をするほど暇じゃないんだけどな。
 と言う事になる。
「面倒って……」
 付き合いの長いレンでさえ、正確に読み取るのは至難の業だ。恐らく検証こそしたことはないけれど正解率は7割といった所だろうとドーンは思っている。
 言葉の表面上しか読めない普通の一般人にいたっては、本当に額面どおりに受け取るだろう……流石に、この部屋の入出を許され研究の許可を出されている彼らには多方面の意味でその限りではないのだが。
「そうだよなあ、それに効果があっても家に対してであってあいつらには効き目なさそうだもんなあ……」
 何の作業をしているのかは判らないが……彼らの研究分野にはあまりにも光や温度に影響を受けやすい物質を取り扱うことが多い事もあって、常に室内は薄暗い状態だ。それでも手元だけ光をやんわりと灯したり暗闇でもある程度は物を見る事が出来る眼鏡をかけたりして研究に勤しんでいる彼らにしてみれば、研究者どころか人の研究の邪魔しかしない三人娘は天敵も良い所。だというのに、無駄に権力と財力を持っているのだから出入り禁止にしたいのが本音ではあるが……あのレンがこの部屋に来るのに付いてこないというのはなかなかに難しい。
 彼らはよく知らないが、一度ならずとも三人娘は奥のドーン専用研究室でも揉め事を起こしており。一度、何やら物凄い状態になって学長にまで話が通ったときなど一ヶ月近く三人はこなかったりもしたのだが……流石にトラウマは植えついた様だが、にも関わらずレンが来るからと言うだけの理由で再び現れる気になった根性だけはこっそり尊敬しても良いかもしれないけれど死んでも言わない。
 これは、研究室共通の公式見解だったりする。
「次はやる」
 ドーンの口調は基本、抑揚が少なめで静かな言葉だ。
 だが、それ故に感情的になった時のドーンがどんな反応をするのかは好奇心半分、恐怖心半分と言うのも研究室の共通した公式見解……これは本人には流石にバレてると思われるが、実際に誰かが行動に起こすわけではないのだからなんとも言えないのが現状だ。
「次があるんだ……」
「あいつら、何をやったんだ?」
「てか、ドーンはあいつらどうするつもり?」
 流石に顔面が引きつったのを感じた面々が、詰め寄る事こそしないものの好奇心半分、恐怖心半分と顔に張り付かせて……若干と言うか半分以上は好奇心が上回っているような気がするのは気のせいなのだろうか、果たして?
「……秘密」
 白い。
 意外な事だと誰もが思うが、ドーンの指は白く滑らかで細い。
 長衣にぐるぐる巻きになっているのではないかと勘違いしたくなるほど包まれまくっている……もはや長衣の中に人が居ると言う感想を抱くものがほとんど存在しないと言うのは、何やら問題なのか都市伝説なのか判らない状態だったりするのだが。それでも、ドーンの皮膚を見る事が出来るケースが稀である事を研究者達は思い出した。
 人差し指は、恐らく唇があると思われる顔の辺りに添えるように触れている。
 ドーンは長衣で全身を包んでいるし、垂れた前髪が顔を隠し、その上で大きな眼鏡が余計に顔を隠しているから誰もが素顔を聞かれたら長衣と眼鏡しか思い出すことは出来ない。
 いっそ、あまりの徹底振りに感嘆の息を漏らすものが過去に何人かいたそうだ。
「出かけるのか、ドーン?」
 言葉の外側には、まだ三人娘が扉の向こうにいるんじゃないか。居たらどうするのかと心配をしているように聞こえて、こっそりと内心で暖かい感情が沸き起こるのをドーンは感じる。
 良くも悪くも、彼らは研究者だ。
 この研究室は学生であるにも関わらず学園に貢献しているドーンの功績によって与えられた箱庭であり遊び場であり、彼らにとって理想に近い環境で、まさにチャンスがごろっごろ転がっている素敵空間だ。
 だから、ドーンの身に何かが起きればダイレクトに研究室に影響が出る。
 彼らにとっては居心地の良い研究室を守る為の行動と言う事なのだろうが、それでも研究者気質を持った彼らにそう思ってもらえる事は悪くないとドーンは思う。
 一つだけ訂正をすれば、彼らは決して研究と言う心惹かれる素材が無ければ。こんな広くもなく薄暗い部屋で一日中篭りっぱなしになどなりたくはないのだが。
「お茶」
「手伝おうか?」
「外」
 ドーンの言葉に、手伝いを申し出た研究者は残念そうな顔を隠さなかった。
 彼らは確かにドーンのおかげで素敵な研究室で好きな研究をする権限を与えられて、そういう意味からすればドーンを尊敬もするし好意的ではあるが……だからと言って、この部屋から出てまで仲がよいと思われたいわけではない。
 もし、ドーンがもっと社交的……レンの様な駄々漏れフェロモン系とまではいかなくても、一般的な。夜道に出会っても即効で逃げ帰りたいと思わない程度の社交性を身に着けていたのならば、少しは違ったのかも知れないとは思う。
 だが、現実問題としてドーンは学園一怪しい存在として不動の地位を確立している……これが本人の意図するところであるならば「どんな趣味だ」と突っ込みの一つや二つしたくなるし、実際に本人にはいえなくてもレンを相手に「どうなってるの?」と聞いた人が皆無ではない……が、その理由が明らかになっていないという事は。
 つまり……そういうことなのだろう。
「後で」
 扉を空ける直前、ドーンはそう言った。


3 体と心は繋がっている


 外からドーンが戻ってきたとき、手にしていたのは大降りのポットと小ぶりのポットだった。
 お茶を入れていたというのは本当の事で、どうやら大降りのポットは研究室の面々への差し入れらしい……彼らは大変喜んでいたが、これが稀なケースである事は彼らの反応からも判るだろう。
「おっかえりー、ドーン」
 だから、奥の部屋にドーンが入って来た時には当然と言うべきか。
 小ぶりのポットが、一つ。
「ちょっとドーンさん、これってばどうなってるの? なんかどんどん重くなるんですけど?」
 困った顔をしながらも笑顔を崩さないというのは器用なものだと、正直ドーンは思う。
 他人から見てどんな風に己が見られているのかドーンは興味がなかったけれど、きっと隠しているつもりはないから感情など幾らでも表情に表れているのだろうとドーンは思っていた。
 実際のところは、周囲には長衣と眼鏡しか記憶に残ってもらえないと言う現実があったりするのだが。
「疲労」
「……ああ、真面目にやっていた証拠って事?

 それって喜んでいいのかな? ご褒美ねだっても良いって事? だよね? 当然だよね?」

 根が真面目なのかどうなのか、ドーンが留守にしていた間はずっとしゃかしゃか振り続けていた様だ。
 首をこきこきと鳴らしながらも振り続けている姿と言うのもまた、器用なものだとドーンは思う。
 どんな妄想を脳内で繰り広げているというのか……外の連中と言うよりドーンの両親と古くからの使用人。それと真実レンの身内と呼べるべき存在以外は知らない事だが、レンにはかなりの妄想癖があるんじゃないかと言う気がドーンにはしている……実際、一度はそのあたりを両親やレンの身内に問いただしてみたのだが……そっと視線をそらされた以上は使用人の子供と言う立場的には何も言う事は出来ないものなのである。
 まあ、厳密に言えば本来は使用人でも使用人の子供と言うわけでもないのだが。
 もっとも、やはり三人娘あたりに知られたらえげつない形相で食って掛かられそうな気がするので断固として口を割る気は毛頭なかったりするけれど、ドーンはレンの身内である公爵一家から身内同然と言う扱いをしてもらっている……ドーンの両親は「お遊び気分で本気」と言う意味不明な信念の元に使用人を貫いているが、どうも両親も本当はそれなりに良い所の出ではないかといぶかしんでいる。
「レン」
 ついと伸ばされた手は、白い。白くて小さい。
 まるで子供……実際に成人には年数があるのだから子供で間違いはないのだが、幼児とまではいかなくても成人間近には見えない。
「やっと解放ううううううう! 自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 大げさな喜び方ではあるが、色々な方法で室内の音声どころから色々なものがもれない様なつくりになっているので研究室の面々はこの部屋で何が行われているのかは一切検知「出来ない」しないのではない。出来ないのだ。

 ぽん

 振り回すかのように振っていたレンから受け取ったドーンは、いともあっさりと片方を開けた……どうやら物入れになっていたと言うのは振っている段階で気が付いてはいたのだが。
「出来た」
 何時の間に用意されたのか、テーブルの上にはポットから注がれたお茶の入ったカップが二脚。
 そして、透明な器に出された中身は……白い。
「何、これ?」
 レンの疑問にそっと差し出された器には、スプーンがきちんと添えられている。
 ついでとばかりに、そこに細長い四角い物体も添えられている。
 どうやら、食べ物らしい事が判った。
「……冷たい!」
「チーズバニラアイス」
 茶色くて四角い物体はウエハースで、レンはしばし甘さを抑えたひんやりとサクサク感に舌鼓を打った。
「相変わらずドーンのお茶は美味いなあ……て、それどうするの?」
 今の今まで十人が見たら十人がメロメロな上にもれなく卒倒しそうな笑顔をしていたレンは、突如として不機嫌な顔になる……こんなに表情豊かな顔を、ドーンは外でレンがしたのを見たことはない。
「外」
「勿体無い! 奴らにくれてやるなんて損失も良い所じゃないか!」
 法廷ならば「意義あり!」とでも言う台詞が出てきそうな勢いだが、ドーンにしてみれば「何をこの程度で」と言う所なのだろう。
 実際、その心積もりを隠す気も無ければきちんと読み取ったレンは、いかにドーンの作ったチーズバニラアイスが美味なのかを絶賛し……つまり、他人に分け与えるならばこの場で一気食いしてやるとまで宣言した。
「いつも言ってるじゃないか、僕はドーンがこっそり奴らにお茶を入れてやるのだって本当は心の底から反対なんだ。奴らは別にドーンの事なんて何も知らないし知らなくても生きていくのに支障があるわけでもない、単に利用できると思っているだけの事であって研究室を貸す事だって十分すぎるほどの施しなんだよ」
「……別に」
 大した事だと思っているのはドーン以外の全ての人たちなだけで、ドーン本人には美味しいお菓子の開発も美味しいお茶を入れるのも、研究室を雑務と引き換えに入り浸る面々にもどうだって良いと言う気持ち程度のものしかない。
 その感性そのものがおかしいとは誰もが思うけれど、相互理解が出来ているわけでもない人達は事実を検証するでもなく摺り合わせをするわけでもない為、結果としてすれ違ったまま遠く離れてしまう。
「とにかく! あんまり奴らに餌を与えちゃ駄目だ、時には厳しく接するのも躾の一環なんだよ」
「躾……」
 ドーンに言わせれば、レンは研究室の面々をペットか何かに見えているのではないかと言う気がしてならない。
 本人的にはどうだって良いと言うレベルで気にもかけていないのだが、まるで動物園の飼育員にでも見えているのではないかと言う気すらするのだから不思議だ。
「生めない」
 辟易した気分で口にしてみれば、レンは残っているチーズバニラアイスを是が非でも食いきろうとしているらしく……別にまた作ればよいわけだし腹を壊すのはレンだから余計にどうでも良い事だが。そろそろ舌が麻痺しているだろうに一生懸命さだけは伝わった。
 そう言う所は、正直嫌いではない。
 ただ、迷惑な所はあるけれど。
「そらあでえ……しだが動かない……」
 多少は冷めたとは言え、紅茶を差し出してやれば口の中が冷え切っていたのだろう。
 しばし口に含んだ上で飲むのだから、その根性を別の所に使えばいいのにとも思う。
 口にしたところで無意味だから、ドーンは決して口にはしないが……過去、一度ならずとも言ったのだ。そろそろ自力での進化学習を行ってもらいたいものだ。
「だから! ドーンの作るものは全部僕の物だって事、判ったね!」
 まったく聞いていませんでした。
 そんな事を言ったらどうなるだろうか……と、内心でドーンが思っていた事は口にしない方が二人とも幸せになれるのだろうとドーンは思う。
「ねえ、ドーン」
 切り替わりが行われるのは、いつだって突然だというのが現実だ。
 レンの口調と表情が真面目なものになったのは、どう言う意図があるとしても。
「僕達の世界はあの家から学園都市へと広がったけれど、その分だけ僕は心配なんだ。
 ……ドーンはとても素晴らしく優しい良い子なのに、学園のほとんどの人たちは知らないし知ろうとも思っていない。影でドーンがどんな扱いをされているか、泣かされたり苛められたりしてるんじゃないかと思うだけで、僕はそいつらを一族郎党呪い滅ぼしてやりたくなる程度には心配なんだ」
 茶化したり、大げさな態度だったりしたら対応もそれなりで済むのだが。
 こうして、心の底からの感情を持ってこられると普通は対応に困ると言うものだ。
 ドーンだとて、不安に思われているのも心配されているのだって判らないわけではない。むしろ、わからない方がどうかしていると言ってよいくらい理解出来る。
「洒落にならない」
「本気だからね!」
「尚悪い」
 レンが本気になれば、今までだってドーンに悪意を持って接してきた人達をどうにかする事は決して不可能ではなかっただろうし今からだって出来ないわけではないだろう。
 それだけの権力を、レンは持っている。
 公爵家と言うだけの話ではなく、またレン・ブランドン個人としての能力でもある。
 しかも、それをドヤ顔で公言されたドーンにしてみれば頭痛の種としか評価のしようがない。
「やる」
 他人の評価も見る目も気にしないと豪語出来るドーンではあるが、己が原因扱いで別の誰かに悪い影響が及ぼされる事は流石に止めてほしいと思う程度の感情はある。後が面倒だからだが。
「やったあ! 入れ物ごと持ってっていいの?」
「……後で返せ」
「今日のデザートは決まりだね! 夕飯が楽しみだ」
 ちなみに、ドーンの想像では今までの言動はアイスを独占する為だけの台詞だろう……ただし本気の。ならば、アイスを献上してご機嫌を取れば済む話だ。
 最悪なのは、例えアイスを献上してご機嫌だとしてもアイスは一晩もすれば流石にどろどろの液体になるという所くらいなもの。幾らレンが他人には見せないドーン専用の我侭小僧でも、これでアイスがどろどろになった責任を取れと詰め寄られるのは嫌だなあと思うくらいの感情はあった。
「でもさ……本当にドーンの作るものってすごいよね、幾らでも沸いて出てくるって感じで」
 ドーンがこの学園に来た理由の一つは、レンのお供だ。
 いかに公爵家がバックに付いてるとは言っても、単なるパトロンとしては破格の扱いだと言う事くらいドーンが世間知らずでも判っている……もっとも、それ以上の成果は出しているという自負はあるが。
「もしかして、まだ気にしてるわけ?
 ドーンがどうしても気になるって言うなら、僕は止めないよ?
 止めないけど……本音を言えば、別にそんなのどうだっていいじゃないって気はする。
 だってそうだろう? ドーンが生まれた時からの事を知っている僕らが居るのにさ……」
 拗ねた様子を見て、これが何度も繰り返されてきた会話だと言うはドーンにもレンにも判っていた。

 ドーンには、幼い頃の記憶がない。

 正確には、5歳より前の記憶がない。
 単に成長して忘れてしまっただけの話、と言うには済まない気がしてならないのがドーンの抱えている闇だ。
 両親が居て、両親の雇い主が居て、彼らは生まれた時から側に居てくれる。置いてくれている。
 これまで何度も繰り返してきて、けれどドーンは思う。
 心が悲鳴を上げる、何かが違うのだと叫んでいる。
 忘れている事を思い出せない、何を忘れているのか判らない。
 そもそも、忘れていると言う事そのものが勘違いなのではないかと言う気だってする。誰かが嘘をついていない限り、ドーンの持つ焦燥感は単なる勘違いに過ぎない。
「「ごめん」」
 同時に繰り出された言葉は、やはりこれまで何度も繰り出されたことだ。
 ドーンのごめんは、それでも諦めきれない自分自身を許して欲しい。でも許されなくても繰り返すだろうと言う謝罪。
 レンのごめんは、子供っぽい感情をさらけ出してしまう。けれど、これからも繰り返す事が判っていると言う謝罪。
「ドーンの事は、生まれた瞬間から知ってるのになあ……」
「どんな記憶力……」
「ドーンの事だったら、何時どんな言動をしたかまで全部覚えてるからね!」

 それってどこの犯罪者……。

 美形だから許される犯罪と言うのは、美形でなかったら許されないという事。
 だが、幼い頃から毎日だって見てきた顔に今更見ほれるほど浅い付き合いをしてきたわけではないので。
「ドーン、引いた? 引いちゃった?」
 うきうきわくわくと言う表情を顔に乗せたレンは、瞬きすらしないでドーンをじっと見つめている……至近距離で。

 正直、息がかかりそうで鬱陶しい。

 自分の分さえまともに食べる前にぶんどられたドーンにしてみれば、舌の感覚が麻痺するほどアイスを食べまくって満足したレンを見るのも……うんざりだった。



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