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第一幕

「いや、さすがに太平洋を越えるのはしんどかった」

そう言うと、“それ”は小高い丘に降り立ちました。

「おやおや、それはご苦労様でした。私なんぞは途中で渡り鳥の群れに出くわしましてね、もう追い回されて大変でしたよ」

 

日本のある港に面した公園は夜中にもかかわらずお祭り騒ぎです。と言っても、おみこしや山車、ハッピ姿で踊る人間の姿はどこにも見当たりません。それは夜中だから!?いえ違います。今宵の催しものは、虫たちが主役の催しものだからです!

 


第二幕

 昆虫たちはバラの花の匂いが立ちこめる広場まで辿り着くと、一列に並び始めました。

「やっぱり日出ずる国はどことなく雰囲気が違いますな!あなたはどこからいらっしゃったんですか?」

アゲハ蝶が自慢の口をスルスルと伸ばしてそう尋ねました。

「私はインドからやってきました。ここは私の国とは全然雰囲気が違いますよ。あなたはどこから?」

蛾が豪華な羽を震わしながら後ろに並ぶトンボに尋ねました。

「私はアメリカのシアトルからです」

トンボは前足で眼鏡を掛け直しながらそう言いました。

この公園に集まった虫は蝶や蛾、トンボだけではありません。クモもいればコオロギやスズムシといったバッタ、ハチにアリ、カブトムシ…カメムシ……ありとあらゆる種類の昆虫たちがいました。

「それにしても、生きている間にこのような集会に参加できるとは!」

セミがそうつぶやくと、潮っ気の強い風が彼らの羽を湿らせました。

 


第三幕

 この集会は数ヶ月も前に「風の便り」によって、世界中の昆虫たちに知らされました。真南から吹く風は温かい空気とともにそういった「虫の音」も乗せているものです。だとしても、世界中から虫が集まってくる集会は滅多にありません。ですから、先ほど談笑していた蝶などは蝶ネクタイを締め、自慢の楽器を抱えるコオロギは黒いタキシードをまとい、クモは自ら出した糸で編んだフカフカの帽子をかぶって、ミツバチの女王様にいたってはハチミツの香りがする香水を全身にふりまいて列に並んでいました。今日はそれくらい“特別な集まり”なのです。なぜなら、ある昆虫が先日“絶滅”してしまったからです。今日はその虫のお別れ会なのです。

 

 


第四幕

 その虫は昆虫の世界で大変嫌われていました。その虫は他の虫と同様に昼夜飛び回り、花の蜜を吸い、恋しくなると鳴きました。でもその虫の鳴き声はとても大きく、他の虫の声をかき消してしまう程でした。また、その姿は他の虫とは違い、足が十三本もありました。だから六本足の昆虫や八本足のクモからは大変気味悪がられました。でも、それだけならまだ他の虫たちも目をつぶったことでしょう。でも、もう一つその虫がうとまれる大きな理由がありました。そして、それがこの虫が嫌われる一番大きな理由だったのです。それは、「いまだかつて人間に発見されていない」ということでした。人間に見つかって以来、しいたげられ続けてきた昆虫たちは、最初はこぞってその虫のことを羨みましたが、次第にその存在を妬むようになりました。

 



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