閉じる


<<最初から読む

9 / 10ページ

第七幕

 夜中の零時から始まった会は三時を過ぎても熱が冷めることはありませんでした。いつもは仲の悪いもの同士も今日ばかりは虫の法律にのっとり、みなが仲良くおしゃべりをしました。ハエなんて本来なら天敵であるクモの手足を器用に握り一緒にダンスを踊るくらいです。今回の会の資金を調達したカナブンはたくさんの虫に囲まれ、商売の秘訣を語っていました。アリはというと、ハチに助けてもらい参加している全員に夜露のシャンペンを振る舞っていました。

 

 そんな中、再びてんとう虫が舞台の上に立ちました。今度は弟分の二つ星てんとうむしが話し出します。

「みなさま、盛り上がっているところ恐縮でございますが、間もなく夜明けを迎えます。規則に従いまして、人間たちが起きてくる前に『 』の思い出を振り返りながら、みんなで『 』の冥福を祈りましょう」

そう言うと、コオロギやスズムシ、キリギリスたちが立ち上がりホタルが待ち構える舞台へ向かいました。それを見たタマムシやカナブンが空を飛び、羽を月光に照らし、よりいっそう美しい照明を作り出しました。

「そう言えば、去年のこの時期『 』はまだ元気な声で鳴いていましたね」

ロンドンに住むカゲロウがそう呟きました。

「ああ。ずっと鳴いていた」

三角の顔のカマキリが大きな目に涙を浮かべながらそう応えました。

「もっと早く『 』の気持ちに気付いてあげられたなら、もう少し優しくしてあげられたのにな」

クモがそう言いました。

「確かに。人間に見つかっていないがために名前すら与えられなかった彼の気持ちに…もっと早く気付いてあげられたならな」

参加している全員が口惜しそうに頭を下げます。しかし、シャクトリ虫婦人が背筋を伸ばし口を開きました。

「いえ、きっと満足してらっしゃいますよ。彼が生前、おしゃってました。『“思い通りに行った”と、“上手く行った”とは全く別の意味だ』とね」

「それは、どういうことだい?」

トンボが眼鏡を掛け直して婦人に尋ねました。

「はい。彼の亡くなり方は孤独に…寂しく…それは決して彼の思い描いた理想通りの亡くなり方ではなかったでしょう。けど、さきほどの彼のエピソードでみんな優しい気持ちになれたはずです。これで彼はみんなの記憶に優しく残ります。こうして種を超えてたくさんの方に送られて、彼の最期は上手く行ったに違いありません」

 

 土の中に住むケラが低い声でリズムを刻みます。コオロギがそのリズムに合わせて先陣を切ります。高い音が港町の公園に響き渡り、マツムシの鳴き声がその音に華を添えます。三重奏からキリギリスも加わり四重奏になり、鳴けない虫たちは羽音や足踏みして“とむらい”の「合奏」に参加しました。

 

次第に足踏みをしていた昆虫たちも鳴いていた昆虫もみんなで一斉に泣き出しました。そのみんなの優しい涙が地面にたくさん落ちたとき、名前のない昆虫が人知れず天に召されました。

 


第八幕

 

 やっぱり、良く働くアリがせわしなく後片付けをしています。『 』を送る会はとどこおりなく無事に終了しました。

蝶ネクタイを外したアゲハ蝶が昇り出す太陽を眺めながらこう呟きました。

「ところで、何で『 』は人間に見つからなかったんだろう?大声で鳴く上に、見た目にも珍しい生き物だったのに!?」

「確かに昆虫七不思議の一つだね」

そうナナフシが応えます。

「きっと鳴き声とかは周波数の問題で、見た目はカモフラージュかなんかで

利口な七つ星てんとう虫も会話に参加してきました。それにトンボが続きます。

「でもさ、人間って、見えないものや聞こえないものにこそ、心をかき立てられる生き物のはずだよね?」

「確かに、夢とか理想とか、愛情とか」

だからこそ気付いてあげられなかったのかな?」

 

 夜中の虫たちの大合唱はバラの甘い匂いを乗せて天まで届きました。それに機嫌を良くした太陽が、港町の宙にきれいな空色を塗ります。

また今日も朝を迎えた人間たちが我が物顔で忙しく駆け回ります。

実は知らない世界の方が多いということに気付かないまま。

 

 

 

 

 

5261

 

 

 

『 』

 

 

 

企画 制作 75°

編集 75°and 遠名 

 

©2012-2014    75°

 

75° HP  → http://75do.populr.me/75

         fbp  →   https://www.facebook.com/75dostory?ref=hl



遠名奏 http://tonakanata.jimdo.com/

 


この本の内容は以上です。


読者登録

75°さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について