目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 まあ、そんなこんなで俺も恋の一度や二度はしたことあるってことですよ。好きになったからってどうこうするとかは全くなかったんで、周囲からは恋愛に興味のない鵲君と捉えられていたみたいだが。

 だってそんな変にアプローチかけたり、告白したりしても何になるわけでもないし。そういうこと出来る奴って、自分が相手に好かれて当然って思ってるナルシストか、本当にモテる奴かのどちらかだろう。ある意味羨ましい性格だ。俺も赤夏もそういうのとは無縁な人間だし。

「ほい、チェック完了。撮影ノートにメモっとけ」

「どうも」

 部屋の隅に放り投げてある鞄を引っ張る。俺の愛用のビジネスバッグで、かなりの収納力があるのだが、それ故にごちゃごちゃして中身が分かり難くなる。ノートはいつも適当に突っ込んであるんだが、どこだったかな……。

 指先に何か冷たいものが触れた。何だろう? 手当たり次第に詰め込まれた日用品の中からそれを摘み、引っぱり出す。

 それは金属の装飾品だった。銀色の蛇に青いガラス玉が嵌った美しいブレスレット。そう、あの同窓会の日に買ったものだ。

「あ、それって友希英ちゃんに買ったやつだっけ? あのきしょい爺のとこで」

 俺の手からブレスレットをひったくり、珍しそうに見る赤夏。あのときは店と店主の薄気味悪さでそれどころではなかったようだが、やはりこの一風変わったアクセサリーは赤夏から見ても中々の物らしい。室内の電気を反射するブルーの珠を見て、俺の脳裏には骸骨みたいな爺さんの顔が甦る。

「いいなあ、俺も何か買っときゃ良かったし」

 ブレスレットを嵌める赤夏。正直、似合ってない……てかそのスマイリー柄のTシャツに、こういう中世幻想世界っぽいアクセサリーは相性悪すぎだ。本人もそれに気付いたのか、ブレスレットを外してこっちにポンッと投げる。

「ハァ……せっかく友希英たんに買ってきたのに、完全に無駄だな……」

「そう落ち込むな。自分で使えば良いじゃないか」

 落ち込むなって、それは無理な注文ですぜ……。自分で使えと言われてもな……ブレスレットを着けてみるが似合ってるかそうでないかは自分ではよくわからん。

 複雑に絡み合う蛇の中心、青い硝子の中にぐにゃりと歪んだ俺の顔が映り込む。ミッドブルーの宝玉は、美しくもどこか背筋が震えるような妖しい光を放っていた。


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2-1

第二章「精霊と青年」

 

 

 暗い闇の中にそれはいる。一切の明かりがないので姿を見ることはできない。だが、その異形のものは確実に俺の後ろに存在し、少しずつ少しずつこちらに歩み寄ってくる。俺の体はまるで全身をタールで塗りで固められたみたいに動かない。背後の気配はもうすぐ後ろまで来ている。息遣いや、動いたときの空気の淀みまで感じられるほどに……。

 俺の肩にそいつは触れた。続いて胴体、足、首と全身にそれは絡み付く。それでも俺は抵抗できない。暗い暗い、真っ暗闇の中に、俺は引きずり込まれていった……。

 

 

 寝間着の背中が汗でぐっしょりと濡れて冷たい。真夏の夜中にも関わらず、全身が肌寒く身を震わせる。時刻は深夜二時を回ったところだ。

 ……嫌な夢だった。体に触れた、なんとも言えない感触はまだリアルに残っている。痛いとか、気持ち悪いとかではない、触られたところから腐食し、体が死んでいくような……。 肩に手を触れ、マッサージするように動かす。続いて足、首……一ヶ所ずつ、体の無事を確認し、ほっと溜めをつく。悪夢にうなされた後は、必ず安堵感と脱力に襲われる。どんなに恐ろしいことでも、それは夢の中のことであって、現実には無縁なものだから。

 多量の汗で水分を失ったからか、それとも濡れたせいで夏風邪でもひいたのか、喉がカラカラに乾いて痛い。だるい体を起こし、布団から這い出る。

 暗い廊下を通り、誰もいない居間を抜ける。普段ならまだ友希英が起きているであろう時間なのだが、今日は寝てしまったらしい。さっきの夢のせいだろう、暗く誰もいない中にいると、見慣れた家が何か違うものに感じられた。

 コップに茶を注ぎ、三分の二ほど一気に飲み干す。ねとついた汗とは違う、心地よい冷たさが体内へと伝う。一息ついて口元を拭う。窓の隙間より流れ込む風が気持ちいい。干からびた喉は正気を取り戻し、もっともっと、とさらなる水分を要求する。コップに茶を継ぎ足すため、流し台横に置いたペットボトルに手を伸ばす……。

 そのとき、ふとちょっとした違和感を感じた。暗さに目が慣れてきたからだろう。

 ペットボトルを置いた流し台の向こうにはすりガラスの窓がある。風通しを良くするためと、離し飼いのポン太がいつでも入れるように常に十センチほど開けてあるのだが……。

 俺は目が悪い。普段はコンタクトをしていて、裸眼視力は〇. 一だ。近眼な上、夜でかなり視界が悪い。その違和感の正体を確かめるため、目を細めじっと凝視する。

 ……俺は後悔した。気付かない方が良かった、見ない方が良かった……。

 

 

 すりガラス越しに見える黒い影、そして窓の隙間からは、白い顔が覗いていた。長い髪が皮膚にまとわり着き、口元の両端を引き上げ笑っている。黒く淀んだ瞳で、まっすぐこちらを見据えるそれと目が合った。

 ……そこで俺の意識は途絶えた。


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2-2

 気が付いたとき、俺は布団の中にいた。もうとっくに日が登り、眩しい光が目にしみる。

「……夢?」

 昨日の出来事を思い出す。たしかに俺はここから起き上がり、台所に行った。そして…………。

 夢にしてはやけにリアルだ。全ての情景がこと細かに思い出せる。だが、あの後どうなったかはどうしても思い出せない。そして気が付いたら元の和室にいた。常識的に考えるなら、あれも夢だったと考えるのが妥当だろう。悪夢から覚めた先もまた悪夢だった、よくあることだが……。

 考えていても仕方がないので起き上がって居間に行く。親父が座椅子に座り込み、母親が朝食を運んでいた。親がまだいるとは珍しい。掛け時計を見上げると、まだ七時前だった。

「おはよ……」

「おお、やけに早いのお」

「うん、目が覚めてね」

 親父の後ろを通り抜け、台所の方に行く。窓の方に目をやるが、当然のことながら何もない。母親が怪訝な目でこちらを見た。

「どうしたん?」

「いや、なんでもない……」

「来たついでだからお父さんにお茶持っていって」

 母親が流台の上からペットボトルをとり、こっちに差し出す。

「ぬるいな、この茶」

「仕方ないでしょ、誰か出しっぱなしにしてたんだから」

 文句を垂れる親父に対して、母親が言う。まったく、贅沢な親父だ。

 ……ん?  お茶がぬるい、誰かが出しっぱなしにしてた……昨日の晩…………。

俺の中で、さっと血の気が引いていった。やはり俺は昨晩ここに来た、その後お茶を飲んだ、そして…………ここから先も現実なのか、それともただの夢だったのか……わからない。


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2-3

「……てことでどうよ。ん?  おい?」

「ああ。すまん、すまん」

 呆けてまったく話を聞いてなかった俺を、飽きれ顔で見る赤夏。いかん、どうも朝から心、ここに有らず状態だ。

 昼過ぎに集合し、いくらか編集作業をした後に、俺たちは車でY市に向かっている。今日の目的は撮影ではなく買い物。カメラのテープと予備バッテリーが欲しいのだが……これがなかなか金食い虫だ。テープは一本八百円程度だが、消耗品なんで作品の規模によってはそれこそ無限に要る。五本で四千円、十本で八千円……予備バッテリーにいたっては一本で五千円~一万円。カメラ付属のものだけですませたかったが、やはり撮影が進むにつれ厳しくなってきたので購入を決意。二人で割り勘だが、それでもこれで財布はスカスカだ。映画制作は金がかかる、これはプロアマ問わずの真理らしい。

「あんま無理しすぎんなよ。また監督に倒れられたらかなわんからな」

「ああ……」

 どうも赤夏は、俺の覇気がないのは連日の撮影で疲れてるからだと思っているらしい。まあ、それもあるのだが、今の俺は疲れ以上に頭にのしかかってくるものがある。

「で、どうするよ?  ゲオゲオと十万ボルトどっちにする?」

「ああ、とりあえずゲオゲオで。なけりゃ十万ボルトの方向で」

「あいよ」

 品揃えとしてはどちらの電気屋も似たようなものだが、ゲオゲオはポイントカード持ってるから。

 時刻は夕方過ぎだったが、平日ということもあり店内は思いの外、人がいなかった。ぱっと目についたのは、パソコンソフトコーナーに見るからにオタクくさい連中が数人。あと、和服姿の女の人が俺たちに続いて入ってきた。真っ赤な着物がやたら目につく。家電屋に着物とはまたなんともミスマッチな……いや、和風の人だって電化製品くらい買うだろうけどさ。

 しかしまあ、こういう店に来ると、いらない物でもついつい色々見てしまう。ノートパソコン、スキャナー、デジカメ……新型で高性能な機器を物色していると、それだけでワクワクしてくる。もっとも、買うような金はないので文字通り、見るだけだが。貧乏性なもんでして。

 目的の物だが、テープの方はすぐに見付かった。これだけならコンビニでも売ってるような物だし。バッテリーの方は置いていなかったが店員にビデオカメラの機種名を言うと、数日で取り寄せられるとのことだった。

「思ったより早く終わったな」

「ああ」

「飯でも食っていこうぜい」

 そうだな。晩飯には少し早いが、どうせ暇だし小腹もすいた。ゲオゲオに隣接するケンタッキーフライドチキンの店に寄ることにする。店頭に置かれている人形を見るなり、赤夏が某キャラの真似をしだした。

「はぅー、ケンタくん人形だぁ。お持ち帰りぃー」

「やめい、恥ずかしい!」

 まったく、お前はガキかと……ついでにケンタくんじゃなくて、カーネルサンダースだ、おのおっさんは。

「お前みたいなのがいるから、カーネルおじさんは鎖で繋がれてるんだ」

「ほんとだ。よく見ると、足に鎖がついてる!」

 カーネルおじさんを盗んでいく人が多い故に、彼は鎖で囚われの身になってしまったと聞く。ちなみに、大阪にいたころはカーネルおじさんの眼鏡が盗まれたのを目撃した。次の日からそこのカーネルおじさんは代わりに色の薄いサングラスをかけて道行く人々の注目を集めていたが……白スーツに薄い色眼鏡、どう見てもヤクザです、本当にありがとうございました。


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2-4

 カウンターで骨なしのカーネルクリスピー六本とペッパーマヨネーズ味ツイスター二本注文し席に着く。飲食店だからかゲオゲオとは打って変わって客が多かったが、とりあえずテーブルを確保できた。トレイを置き、座って一息つく。

「さて。撮影の方はこれからどうするよ」

「うーむ。正直、進み具合としては芳しくないからな……」

 こちらに帰郷してから二週間ちょっと。すでに夏休みの半分近くは経過している。撮影の進行としては、撮り終わったのが全体の四分の一程度。こちらにきて十日ほどは話し合いや、シナリオ執筆で撮影に入れなかったことを考えても、けっこうギリギリのペースである。

「ま、撮影のペースを上げるってことでいいんじゃね」

「うむ……って、この間からそう言いつつ、結局あんま進んでない気が」

「その辺は、監督さんを信じてますので」

 まったく……他のクラスメイトたちが、娯楽作品を作らない理由がなんとなくわかってきた。芸術系よりも長編エンターテイメントは撮影の手間が段違いにかかる。それで芸術系より評価下げられるんだから。

「とりあえずクオリティよりも完成させることを第一に考えよう。終わらんことには話にならん」

「たしかに。未完の映画などただの豚だ」

「豚かどうかは知らんが、とりあえず完成しないというのは作品として論外だ。当面の目標は何が何でも予定シーンを撮り終える。その上で時間が余ればより良いものに撮り直しを……」

 そのとき、俺の思考は一瞬にして停止した。赤夏の肩越しに見える向かいのテーブル。そこに着物姿の女が座っていた。さっき電気屋で見たあの女だ。それ自体はさして重要ではない、問題は……たまたま目に入ったとき、俺は思い出してしまったのだ。

 蒼白な顔に肩までの黒髪、どことなく艶めかしい雰囲気をかもし出す和服美人。客観的な印象としてはかなり魅力的な女性だろう。さっきはチラッと見ただけだからわからなかった。だが、赤夏を挟んで、正面から対峙している今はわかる。俺は女に見覚えがあった……。

 昨日の夜、窓から覗いていた顔……脳裏に焼き付いて離れない、あの爬虫類のような恐ろしい目。それが今、向かいのテーブルから真っ直ぐ俺を見据えている。俺が気付いたことがわかると、女は口元を歪ませて笑った。昨日の夜と同じように。背筋を虫が這うような怖気に襲われる。

「おい……大丈夫か?」

「い、いや……ちょっと、うん……」

 両手がカタカタと震える。赤夏に話すことはできない。というよりどう話せばいいのかわからない。あまりにも常軌を逸している。だが赤夏がいるということは多少なりとも心の支えにはなった。ついでに店内には他にも沢山客がいる。あの女が何かをしてくるということはあるまい……。

 いや、何かする以前に、そもそもあの女は何が目的なんだ?  先ほどから、特に何をするでもなく、ただじっとこちらを見つめている。昨日のことは夢ではなかったのか? だとしたら一体……今のところ、ただ見られているだけで実害はない。だが気味が悪い、怖い……一刻も早くここから離れたい。

「悪いけど、ちょっと体調優れんみたいだ……帰ろう」

「え?  あ、うん……ほんと具合悪そうだしな。その方がいいな」

「すまんな……」

「気にするな。残ったチキンはお持ち帰りぃすればいいだけだし。てかほんとに大丈夫か?  顔白いぞ?」

 自分じゃわからないが、たぶん今の俺の顔は死体みたいに蒼白なことだろう。震える両足でなんとか立ち上がり、店を後にする。店内から出るときテーブルの方に目をやると、女はやはりこちらを見つめ、ただ笑っていた。



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