目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 どこか遠くから規則的な電子音が聞こえる。それに続いて何やら話声が。昨晩は、頭が真っ白になって結局そのままに……放心状態で、寝ることも動くことも出来ないまま、いつの間にか朝になっていた。話声が段々大きくなってくる。

「ごめんね、朝早くに」

「いえ、お兄ちゃんこそ、約束があるのに寝たままなんて……はい、昨日の和室にいるはずです」

 赤夏と友希英……?  ハッとして、枕元の時計に視線を移す。まずい、もう七時半だ!  昨日は慌てて就寝したからアラームをかけ忘れてた。とっさに布団を跳ねのけ、飛び起きる。

 それと襖が開くのは、ほぼ同時だった。しばし、和室に沈黙が流れた。友希英と赤夏の視線を見て、俺はとても、とても重大なことを思い出した……そう、俺の隣にはパジャマ半脱ぎのあられもない姿の瑠璃が寝ていたのだ!  しかも同じ布団で、俺に絡み付くようにして。

 赤夏が猛烈な悪意に満ちた、ニターッとした笑いを浮かべる。

「ほほう、そうかそうか。まさかとは思ったけど、鵲君もついにやりましたか」

「やってない、俺は何もしてないっ!」

 俺の抗議の声も気にすることなく、赤夏は糸のように細めた目でニタニタと笑う。友希英の方に目をやると、ただ黙ってこちらを見ている。まるで汚い物を見るかのように、侮蔑を込めて。

「不潔……私、お兄ちゃんのこと信じてたのに」

「待ってくれ、誤解だ。完全なる誤解だっ!」

「寄るなっ、汚らわしい!」

 瑠璃がうーんと伸びをする。友希英の声に目を覚ましたようだ。そうだ!  ナイスタイミング、瑠璃に説明してもらえば俺の潔白は証明される。

「瑠璃、瑠璃!」

「みゅ……どしたの、迅君?」

「昨日の夜のことをこいつらに話してくれ!  俺は何もしてないよな? そうだよな!?」

 肩を掴んで揺すると、瑠璃は何がなんだかわからないといった様子で、困惑気味だ。うむ、たしかに寝起きでいきなりこんなこと言われたらこうなるよな。でも俺の方も今、大変なんだ、平常でいられないんだ、察してくれ! 

 瑠璃は俺から視線をそらし、軽くうつ向いて言った。

「昨日は……迅君の体、凄く温かかった」

 ノオオオオッ!  何でそう余計誤解されるような言い方を!  しかも頬を赤らめるな!  あ、友希英、違うんだ……行かないで、行かないでくれ友希英ぇぇっ! うう、この間に続いて、二度目だよ、友希英…………。

 うなだれ、地に這う俺の肩をポンと叩く赤夏。

「まあそう落ち込むな、妹に捨てられても俺はお前を見捨てないよ」

「そうだよ。それに何があったか知らないけど、いつかきっと妹さんもわかってくれるよ」

 ……お・ま・え・ら・なぁ。

「てめぇ等のせいだろがぁっ!」


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 まあ、朝からハプニングで、かなり落ち込みながらもやることはやらねばならんのでさっさと撮影に出た。瑠璃の出るシーンは昨日の取り残しだけなので、十時には撮影終了。出演シーンが終わったので、今日の残り撮影部分は俺と赤夏で撮り、瑠璃は先に帰ることに。

「ごめんねぇ、ほんとは最後まで付き合いたいんだけど、今日バイトでさ」

 申し訳なさそうに手を合わせる瑠璃。

「いやいや。こっちこそ、いつも来てもらってさ」

 ほんと、感謝こそすれ謝られるようなことは何もないのに。

……むしろ、俺としてはそれより、朝のことを謝ってほしいのだが、こっちの方は自分が何をしでかしたかすらも自覚していないらしい。まったく、この天然娘は……。

 電車から手を振る瑠璃を見送り、撮影に向かう俺たち。今日も日差しが強い。今度は倒れたりしないように、飲み物を持参している。しかし、昨日の日射病には本当にまいった、何の前兆もなくいきなりバッタリだったからな。

……あのとき一瞬、祟りという言葉が脳裏を過った。無論、それは直前まで祟りの話をしていたのと、墓場という立地条件だったからというだけで、俺が倒れたのはただの日射病に他ならないが。何にしても、気持ちの悪い話だ。

 まあ、前日の教訓が生かされたのか午後からも撮影は順調に進み、誰も倒れることなく終了した。俺の不安は杞憂に終わったわけだ。それは良いことだ。

「えっと、これで今日の撮影予定は終わりか……あ、そうだ。昨日撮れなかった祠、撮りに行こう。鎮守の森に」

 そう、日射病騒動で放置になってたインサート撮影。短いカットだから、思い立ったときに行っておかないとまた忘れてしまう。

 鎮守の森に近い孤篠津神社は、地区内で一番大きな神社だ。鳥居の前には、天にそびえるような二本の巨大な木が立っている。まるで何か異世界への門みたいだ。この神社の石畳を進むと道の両サイドに、小屋に入った笑い顔と怒り顔の人形が座っている。子供の頃はこれがえらく怖かった。今見るとそうでもないが、やはりあまり気持ちの良いものではない。

 神社を通り抜けた裏には線路が走っており小さな踏切がある。踏み切りと言っても遮断機もなく、あの黄色と黒の×印が小さく立ててあるだけのへんぴなところ。一時期、年寄りがよくここで電車で轢かれたと聞く。今では通る人はほとんどおらず、錆びた標識だけがもの悲しげに佇んでいる。

ここを超えると一面に畑が広がっているのだが、その中で一か所だけ木々が茂った場所がある。それが鎮守の森だ。

「おー、いい感じに薄気味悪いじゃないですか」

 赤夏が言う。狭い範囲とはいえ木々が生い茂り、さらに身の丈ほどある草が鬱蒼とした中にある古い鳥居というのはなんとも禍々しい雰囲気を醸し出している。外観からして、普通は中に入るのを躊躇われるが、かつて好奇心旺盛だった鵲少年は鳥居をくぐって奥まで入ったことがある。そこには、草と木に埋もれるようにして小さな石の祠が立ててあった。何を祀っているかはわからない、赤夏の言うことが本当ならここも間引きで殺された子供の可能性が高いが……いや、変なことを考えるのはやめよう。

 鳥居を中心にこの不気味な外観を撮影し、森の中に足を踏み入れる。一歩進んだだけで、藪蚊が一斉に飛びかかってきた。赤夏が、うおっと、すっとんきょうな声を上げる。

 外部の倒れるような熱さが嘘のように、森の中はひんやりとしていた。ギラギラした日の光も遮られ、枝の間からわずかな木漏れ日が射し込むのみ。薄暗くて、冷たい天然の冷蔵庫……立地やいわくのことを考えると、超自然的な何かが働いているのではないかと妄想してしまう。無論、そんなことあるはずないが。社だから神秘的なのではなく、それっぽい場所があったからそこに神を祀ったと考えるのが自然だろう。

 さて、肝心の祠だが……どこにあったかな? 記憶では入って数メートルしたらもうあった気がするのだが。そもそも、森そのものがそう大きな物ではないし。しかし、ざっと見渡しても祠は見当たらない。


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「祠ってどれだ?」

「いや、ここにあったはずなんだが……」

「ほんとか? 俺はこんなとこ入ったことないから、お前の記憶だけが頼りだぞ」

「そう言われても……あっ」

 見つけた。背の低い俺たちからすると、身の丈ほどもある草が密生しているせいで見落としていた。祠は俺の記憶通り、たしかにここにあった。あったのだが……。

 祠の形は、俺がかつて見たものとは違っていた。いや、最早、形を成していなかった。かつてそこにあった石の祠は、無残に砕けてただの石屑に。わずかに残った台座部分と、破片の形状だけが祠が存在したという事実を物語っている。

「これは酷いな」

「ああ……」

 俺も赤夏も言葉を失った。いくら神仏を拝まぬ俺とて、これはあまりにも……それこそ祟りや呪いがありそうだ。一体どこの誰がこんなことをしたのだろうか? 悪戯にしては手が込んでいる。石で出来た祠を破壊するのだ、並大抵の労力ではない。それに……。

 破片の一つを手に取る。かつて神聖なものを形成していた物の断面は、まるで刃物で切ったように真っ平だ。こんなことをするには、工事現場で使うコンクリートを切断するような器具でも持ってこないと無理だろう。それだけの手間暇と労力を使ってまでの行為……つまりこれを破壊した何者かは、そうとう強い意志に基づいてそれを実行したということだ。

「どうするよ、これ……撮る?」

「いや、辞めとこう。鳥居撮ったからいいだろ……」

 それ以上言葉を交すことなく俺たちは鎮守の森を後にした。正直、一刻も早くここから離れたかった。壊された祠はあまりにも不吉で、そこにいるだけで俺たちまで呪われそうな気がする。

鳥居を抜けると、真っ白な真夏の太陽が輝いていた。目の前に広がる青い空、一面の畑、代わり映えしない平常な空間……その全てが愛おしかった。背後を振り返りる。神の宿るはずの森は、先ほどまでと違って邪気を放つ忌まわしい場所に見えた。


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「祠ってどれだ?」

「いや、ここにあったはずなんだが……」

「ほんとか? 俺はこんなとこ入ったことないから、お前の記憶だけが頼りだぞ」

「そう言われても……あっ」

 見つけた。背の低い俺たちからすると、身の丈ほどもある草が密生しているせいで見落としていた。祠は俺の記憶通り、たしかにここにあった。あったのだが……。

 祠の形は、俺がかつて見たものとは違っていた。いや、最早、形を成していなかった。かつてそこにあった石の祠は、無残に砕けてただの石屑に。わずかに残った台座部分と、破片の形状だけが祠が存在したという事実を物語っている。

「これは酷いな」

「ああ……」

 俺も赤夏も言葉を失った。いくら神仏を拝まぬ俺とて、これはあまりにも……それこそ祟りや呪いがありそうだ。一体どこの誰がこんなことをしたのだろうか? 悪戯にしては手が込んでいる。石で出来た祠を破壊するのだ、並大抵の労力ではない。それに……。

 破片の一つを手に取る。かつて神聖なものを形成していた物の断面は、まるで刃物で切ったように真っ平だ。こんなことをするには、工事現場で使うコンクリートを切断するような器具でも持ってこないと無理だろう。それだけの手間暇と労力を使ってまでの行為……つまりこれを破壊した何者かは、そうとう強い意志に基づいてそれを実行したということだ。

「どうするよ、これ……撮る?」

「いや、辞めとこう。鳥居撮ったからいいだろ……」

 それ以上言葉を交すことなく俺たちは鎮守の森を後にした。正直、一刻も早くここから離れたかった。壊された祠はあまりにも不吉で、そこにいるだけで俺たちまで呪われそうな気がする。

 鳥居を抜けると、真っ白な真夏の太陽が輝いていた。目の前に広がる青い空、一面の畑、代わり映えしない平常な空間……その全てが愛おしかった。背後を振り返りる。神の宿るはずの森は、先ほどまでと違って邪気を放つ忌まわしい場所に見えた。


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 家に帰ると、両親が実家の方からすでに戻っていた。赤夏の姿を見て、母親は笑顔で会釈する。だが俺は見逃さなかった、赤夏が和室に入った後、物凄い目付きで母親が俺を睨んだのを……まあ、実家から帰って疲れてるのに、外来客がいるんじゃ無理もないか。でも大丈夫です、母上殿。今日は赤夏は泊まらずに、素材チェックと軽く編集したら帰りますから。だから怒らないでくださいな……。

「しかし今日は驚いたなぁ」

 ビデオテープの映像を、パソコンに取り込みながら赤夏が言う。

「ああ、あれはちょっとビビったな。どこの馬鹿があんな罰当たりなことしたんだか」

「違う違う。それも驚いたけど、さっき言ったのは朝のことだよ」

 朝……瑠璃との一件か。嫌なことを思い出した。友希英はあのことを親に話したのだろうか?  もしそうなら、何かしらの言い訳を考えておかなければ……。

「思い出すだけで鬱になる……」

「気にすんなよ。妹だってすぐに忘れるって」

「いや、友希英たんのこともそうだけど……」

 昨晩の瑠璃とのこと自体がそうだ。俺はあのとき、はっきりと瑠璃を女の子として意識していた。もし、一歩間違っていたらあのまま襲っていたかもしれない。それほどまでに俺の気持ちは高ぶっていたのだ。最低だ、俺は……。

そのことを赤夏に言うと、こいつは声を出して笑い出した。

「そんなにおかしいか?  ……まあ、おかしいよな」

「ハハハッ……おかしい。うん、おかしい……ハハ。てかそんなこと気にしてるお前がおかしい」

 そんなこと?  この馬鹿が、いくら古い付き合いでも言って良いことと悪いことがあるぞ。

「あのな、それが普通だっての。女の子とあんな状況なったら。ましてや瑠璃ちゃんって可愛いし、何やら随分と刺激的な格好してましたからねえ。いやぁ、僕はてっきり鵲君が脱がしたのかと思ってたんですが……」

 赤夏の後頭部に肘打ちをぶち込む。アホか、誰が脱がすか!

「痛っ……。しかしまあ、鵲君も正常な男の子だったわけですな。お兄さん、安心したよぉ。お前、昔から色恋沙汰の話は全然聞かんかったからなぁ。もう現実の女の子には興味ないか、もしくはウホッな人なんじゃないかって心配だったんだよ、ハハハ」

 そんな目で人のことを見てたのかこいつは!  (ちなみにウホッというのは、ホモを表す隠語である)

 俺だって世間一般の健全な男子と同じくらいに女性に興味は……いや、あんま自信なくなってきた。そういえば、男は一日の半分はエロいことか女こと考えてるのが普通だと、大真面目に言われたことがある。そうはなりたくないな……。

「てか色恋沙汰と無縁ってんなら、お前だって彼女いない暦=年齢じゃねえか」

 赤夏の表情が曇る。

「相手が……いないから」

「すまん、悪かったよ……」

 彼の目の奥には、涙が光っていた。

「しかし、てことは赤夏。お前は瑠璃のことを、そういう対象として見てたのか?」

「馬鹿言うな、俺は年上のお姉様にしか興味ナッシングでつよ」

 そういやそうだったな……こいつはこいつで、昔から好みがはっきりしてる。俺の方はどうだろうか?  この歳まで恋をしたことがないと言ったら嘘になる。気になる女の子くらいいたし、漠然とだがこんな娘がいいなっていう好みもある……ちなみに俺は赤夏同様、年上が好きだ。同時に年下も好きだ。四、五歳程度上か下かがストライクゾーン。矛盾してるように見られるかもしれないが、要するに同年代が恋愛対象でないのだ。だから瑠璃に対してどうこう思うことはなかった……今までは。



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