目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 ふと、背後で襖の擦れる音がする。突然の物音に一瞬、心臓が止まるかと思ったがすぐに瑠璃が風呂から上がったんだと理解する。まったく、一々脅かして……って、俺が勝手にびびってただけか。

「うほっ……」

 振り返ってみると、そこにはなんとも言えない光景が広がっていた。いや、瑠璃がいたというのに間違いはなかった。なかったのだが……。

「迅君、これちょっとちっちゃいよ」

 そう、俺は重大なことを忘れていた。瑠璃は決して大柄だとか、太っているとかいうわけではない。だがしかし、友希英は女の子の中でも特別に痩せてて小柄な娘だったのだ。

 その友希英サイズのパジャマは、瑠璃の体にはあまりにも小さすぎた。ボタンはとまりきらず、胸元はおろか下着まで半分以上見えてしまっている。丈も短くて、ヘソ出しになってるし、ズボンもなんとか入ってはいるものの、体に密着して腰から脚にかけての体のラインがくっきりと際立って……風呂上りで濡れた髪と火照った肌も相まって、瑠璃が今まで見せたことないような色っぽい姿を晒してる。

「どしたの?」

「い、いや、何でもない……」

 どうやらこの娘は、今の自分の姿が如何様なものかまったく自覚がないらしい。こちらとしては眼のやり場に困って、変にそわそわするしかできないのだが……。

「も、もう寝るか。明日早いし」

「はーい」

 電気を消し、昨日の晩から敷きっぱなしになっている布団に潜り込む。これで変に意識せずに済む……。

「って、おい!」

 何と、瑠璃はさも当然のように俺の布団に潜り込んできたのだ! 隣に昨日、赤夏が使ってた布団があるにもかかわらず。

「何だよ、お前はあっちだろ!」

「さっきの本見て何か怖くなっちゃってさ……だから一緒に寝よ♪」

「お、お前というやつは……駄目だ駄目だ!」

「えー、他の人ならともかく、迅君ならべつに何もしないでしょ。それとも、一緒に寝たら変なことしちゃうのかな……?」

 こいつ、答えに困ることを……こう言われると変に拒否し続けると、一緒にいると手を出すって言ってるのと同じことになってしまう。

「だいたいお前、幽霊とか怪談とか好きなんだろ?  だったら何で怖いんだよ!?」

「好きなのと、怖い怖くないは全然違う問題なの」

 そう言うと瑠璃は俺の隣に横になり、寝る体勢を作ってしまった。仕方ない、こいつが寝ついた後に俺が隣の布団に移動しよう……。俺は観念し、瑠璃に背を向けて横になった。しばしのときが経過した。枕元の目覚まし時計の、夜光塗料で緑色に光る針は〇時前を差している。あれから一時間ほど経過した。背後から聞こえてくるのはスースーという静かな寝息。もう寝たか……呑気なもんだ。こっちはそれどころじゃないってのに。背中向いてはいるものの、どうしても体は触れ合うし、体温が感じられる。とても寝るどころじゃない……。くるりと後ろを向いて、一応確認をする。呼吸に合わせてゆっくりと上下する瑠璃の背中。よし、ちゃんと寝てるな……。

「!?」

 俺が布団から出ようとした瞬間、タイミングを見計らったかのように瑠璃がこちらを振り返った。やばい、起きてたのか? 


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 だが、よく見ると目は閉じたまま、相変わらず寝息を立てるのみ。どうやらただの寝返りだったようだ。それはいいのだが、しかし……これはこれでかなりまずい状況だ。半回転してこっち向きになったせいで、瑠璃との距離はさらに縮まり、無防備な寝顔が目の前に……ふっくらした頬、柔らかそうな唇、それらは俺から目測五センチ以内の超至近距離にある! たまらず視線を反らすと、下には脱げかけパジャマから覗く胸の谷間が……。

 俺は、今まで瑠璃を女の子として意識したことはない。可愛いとは思うし、良い娘だとも思う。だが、いわゆる異性として、男と女として考えたことはなかった。

しかし……今、俺の心臓はこの上なく高鳴っている。すぐ側の瑠璃に心音が伝わって起きてしまうんじゃないかというくらいに。

 落ち着け、落ち着くんだ鵲迅。俺は基本的に女っ気がない。だから慣れない事態に戸惑っているだけだ。目を閉じろ、そしてゆっくり大きく深呼吸するんだ。吸って……吐いて……吸って……よーし、段々落ち着いてきた。

「うおっ!」

 俺の首の辺りと、足に何かが巻き付いてきた。体が引き寄せられ、柔らかい物が顔を受け止める。

「うーん……」

 な、なんという寝相……いや、寝相事態は普通だ。よくあるだろう?  朝起きたら布団を抱き枕のようにぎゅーっとしてたとかって。

 だが、瑠璃が捕えたのは布団ではない、俺だ!  首に巻き付いているのは瑠璃の腕、足に絡み付いているのは瑠璃の足、そして顔に当たっているのは……胸だ!  しかもパジャマがはだけてるから生だ、肌と肌が直接触れ合っている!

 何だこれは、何なんだ?  この状況で理性を保ってられる男はたぶん、ほとんどいないぞ。まさかこれは誘っているのか?  俺は二十歳、瑠璃は十九歳、もう子供じゃない。瑠璃はまだ成人していないが、世間的に充分に大人の男と女だ……いや、待て早まるな、冷静になれ。相手は瑠璃だ、ただの友達だ。誘ってるなんてあるはずない、俺を信頼しているからこそ、こういうことができるんだ。その信用を裏切るなんて……うわっ、手足がきつく……やばい、これはやばい、抱き締めるな!  体が完全に密着して……!

 その瞬間、状況が俺の理性の処理速度を超えて脳は強制的にシャットダウンされた。

おやすみなさい。


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 どこか遠くから規則的な電子音が聞こえる。それに続いて何やら話声が。昨晩は、頭が真っ白になって結局そのままに……放心状態で、寝ることも動くことも出来ないまま、いつの間にか朝になっていた。話声が段々大きくなってくる。

「ごめんね、朝早くに」

「いえ、お兄ちゃんこそ、約束があるのに寝たままなんて……はい、昨日の和室にいるはずです」

 赤夏と友希英……?  ハッとして、枕元の時計に視線を移す。まずい、もう七時半だ!  昨日は慌てて就寝したからアラームをかけ忘れてた。とっさに布団を跳ねのけ、飛び起きる。

 それと襖が開くのは、ほぼ同時だった。しばし、和室に沈黙が流れた。友希英と赤夏の視線を見て、俺はとても、とても重大なことを思い出した……そう、俺の隣にはパジャマ半脱ぎのあられもない姿の瑠璃が寝ていたのだ!  しかも同じ布団で、俺に絡み付くようにして。

 赤夏が猛烈な悪意に満ちた、ニターッとした笑いを浮かべる。

「ほほう、そうかそうか。まさかとは思ったけど、鵲君もついにやりましたか」

「やってない、俺は何もしてないっ!」

 俺の抗議の声も気にすることなく、赤夏は糸のように細めた目でニタニタと笑う。友希英の方に目をやると、ただ黙ってこちらを見ている。まるで汚い物を見るかのように、侮蔑を込めて。

「不潔……私、お兄ちゃんのこと信じてたのに」

「待ってくれ、誤解だ。完全なる誤解だっ!」

「寄るなっ、汚らわしい!」

 瑠璃がうーんと伸びをする。友希英の声に目を覚ましたようだ。そうだ!  ナイスタイミング、瑠璃に説明してもらえば俺の潔白は証明される。

「瑠璃、瑠璃!」

「みゅ……どしたの、迅君?」

「昨日の夜のことをこいつらに話してくれ!  俺は何もしてないよな? そうだよな!?」

 肩を掴んで揺すると、瑠璃は何がなんだかわからないといった様子で、困惑気味だ。うむ、たしかに寝起きでいきなりこんなこと言われたらこうなるよな。でも俺の方も今、大変なんだ、平常でいられないんだ、察してくれ! 

 瑠璃は俺から視線をそらし、軽くうつ向いて言った。

「昨日は……迅君の体、凄く温かかった」

 ノオオオオッ!  何でそう余計誤解されるような言い方を!  しかも頬を赤らめるな!  あ、友希英、違うんだ……行かないで、行かないでくれ友希英ぇぇっ! うう、この間に続いて、二度目だよ、友希英…………。

 うなだれ、地に這う俺の肩をポンと叩く赤夏。

「まあそう落ち込むな、妹に捨てられても俺はお前を見捨てないよ」

「そうだよ。それに何があったか知らないけど、いつかきっと妹さんもわかってくれるよ」

 ……お・ま・え・ら・なぁ。

「てめぇ等のせいだろがぁっ!」


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 まあ、朝からハプニングで、かなり落ち込みながらもやることはやらねばならんのでさっさと撮影に出た。瑠璃の出るシーンは昨日の取り残しだけなので、十時には撮影終了。出演シーンが終わったので、今日の残り撮影部分は俺と赤夏で撮り、瑠璃は先に帰ることに。

「ごめんねぇ、ほんとは最後まで付き合いたいんだけど、今日バイトでさ」

 申し訳なさそうに手を合わせる瑠璃。

「いやいや。こっちこそ、いつも来てもらってさ」

 ほんと、感謝こそすれ謝られるようなことは何もないのに。

……むしろ、俺としてはそれより、朝のことを謝ってほしいのだが、こっちの方は自分が何をしでかしたかすらも自覚していないらしい。まったく、この天然娘は……。

 電車から手を振る瑠璃を見送り、撮影に向かう俺たち。今日も日差しが強い。今度は倒れたりしないように、飲み物を持参している。しかし、昨日の日射病には本当にまいった、何の前兆もなくいきなりバッタリだったからな。

……あのとき一瞬、祟りという言葉が脳裏を過った。無論、それは直前まで祟りの話をしていたのと、墓場という立地条件だったからというだけで、俺が倒れたのはただの日射病に他ならないが。何にしても、気持ちの悪い話だ。

 まあ、前日の教訓が生かされたのか午後からも撮影は順調に進み、誰も倒れることなく終了した。俺の不安は杞憂に終わったわけだ。それは良いことだ。

「えっと、これで今日の撮影予定は終わりか……あ、そうだ。昨日撮れなかった祠、撮りに行こう。鎮守の森に」

 そう、日射病騒動で放置になってたインサート撮影。短いカットだから、思い立ったときに行っておかないとまた忘れてしまう。

 鎮守の森に近い孤篠津神社は、地区内で一番大きな神社だ。鳥居の前には、天にそびえるような二本の巨大な木が立っている。まるで何か異世界への門みたいだ。この神社の石畳を進むと道の両サイドに、小屋に入った笑い顔と怒り顔の人形が座っている。子供の頃はこれがえらく怖かった。今見るとそうでもないが、やはりあまり気持ちの良いものではない。

 神社を通り抜けた裏には線路が走っており小さな踏切がある。踏み切りと言っても遮断機もなく、あの黄色と黒の×印が小さく立ててあるだけのへんぴなところ。一時期、年寄りがよくここで電車で轢かれたと聞く。今では通る人はほとんどおらず、錆びた標識だけがもの悲しげに佇んでいる。

ここを超えると一面に畑が広がっているのだが、その中で一か所だけ木々が茂った場所がある。それが鎮守の森だ。

「おー、いい感じに薄気味悪いじゃないですか」

 赤夏が言う。狭い範囲とはいえ木々が生い茂り、さらに身の丈ほどある草が鬱蒼とした中にある古い鳥居というのはなんとも禍々しい雰囲気を醸し出している。外観からして、普通は中に入るのを躊躇われるが、かつて好奇心旺盛だった鵲少年は鳥居をくぐって奥まで入ったことがある。そこには、草と木に埋もれるようにして小さな石の祠が立ててあった。何を祀っているかはわからない、赤夏の言うことが本当ならここも間引きで殺された子供の可能性が高いが……いや、変なことを考えるのはやめよう。

 鳥居を中心にこの不気味な外観を撮影し、森の中に足を踏み入れる。一歩進んだだけで、藪蚊が一斉に飛びかかってきた。赤夏が、うおっと、すっとんきょうな声を上げる。

 外部の倒れるような熱さが嘘のように、森の中はひんやりとしていた。ギラギラした日の光も遮られ、枝の間からわずかな木漏れ日が射し込むのみ。薄暗くて、冷たい天然の冷蔵庫……立地やいわくのことを考えると、超自然的な何かが働いているのではないかと妄想してしまう。無論、そんなことあるはずないが。社だから神秘的なのではなく、それっぽい場所があったからそこに神を祀ったと考えるのが自然だろう。

 さて、肝心の祠だが……どこにあったかな? 記憶では入って数メートルしたらもうあった気がするのだが。そもそも、森そのものがそう大きな物ではないし。しかし、ざっと見渡しても祠は見当たらない。


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「祠ってどれだ?」

「いや、ここにあったはずなんだが……」

「ほんとか? 俺はこんなとこ入ったことないから、お前の記憶だけが頼りだぞ」

「そう言われても……あっ」

 見つけた。背の低い俺たちからすると、身の丈ほどもある草が密生しているせいで見落としていた。祠は俺の記憶通り、たしかにここにあった。あったのだが……。

 祠の形は、俺がかつて見たものとは違っていた。いや、最早、形を成していなかった。かつてそこにあった石の祠は、無残に砕けてただの石屑に。わずかに残った台座部分と、破片の形状だけが祠が存在したという事実を物語っている。

「これは酷いな」

「ああ……」

 俺も赤夏も言葉を失った。いくら神仏を拝まぬ俺とて、これはあまりにも……それこそ祟りや呪いがありそうだ。一体どこの誰がこんなことをしたのだろうか? 悪戯にしては手が込んでいる。石で出来た祠を破壊するのだ、並大抵の労力ではない。それに……。

 破片の一つを手に取る。かつて神聖なものを形成していた物の断面は、まるで刃物で切ったように真っ平だ。こんなことをするには、工事現場で使うコンクリートを切断するような器具でも持ってこないと無理だろう。それだけの手間暇と労力を使ってまでの行為……つまりこれを破壊した何者かは、そうとう強い意志に基づいてそれを実行したということだ。

「どうするよ、これ……撮る?」

「いや、辞めとこう。鳥居撮ったからいいだろ……」

 それ以上言葉を交すことなく俺たちは鎮守の森を後にした。正直、一刻も早くここから離れたかった。壊された祠はあまりにも不吉で、そこにいるだけで俺たちまで呪われそうな気がする。

鳥居を抜けると、真っ白な真夏の太陽が輝いていた。目の前に広がる青い空、一面の畑、代わり映えしない平常な空間……その全てが愛おしかった。背後を振り返りる。神の宿るはずの森は、先ほどまでと違って邪気を放つ忌まわしい場所に見えた。



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