目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「あと牟岐垣の方では海岸でやるんだけど、そこの前に松林あるじゃん。あそこもそうらしいって聞いたんだよな」

「……ずいぶん、詳しいな」

「お前んとこと違って、うちは代々地元民だからな」

 たしかに自衛官で転勤してきたうちの両親はS市の歴史なんてまったく知らない。とんどさんもろくに参加してないし。

「でも、間引きで子供捨てた場所なんがそこら中にあるなんてな。ちょっと信じられないな」

「この辺りの農村は昔は搾取されまくりで悲惨だったらしいぞ」

「でもとんどさんとかって、他の県とかでも普通にやるって聞いたし、変な神様ってことはないだろう」

「とんどさんってのはあくまで儀式だしな。やってることは同じでも、祀ってる神様はそれぞれの地域独自の土着神だって。うちのはどうも胡散臭い神様じゃないかって気がするんだよな。なんか怖ぇし、この辺のって」

 食いぶちを減らすために、子供を殺した間引き。そしてその場所で行われる、厄落とし……悪いものをとんどさんに被ってもらう儀式。

 こんなどうでもいいことを気にするのはやめよう。正月のとんどさんなんかよりも、明日の撮影が大事だ。

「明日、朝何時ごろなら大丈夫?」

 二人に都合のいい時間帯を訊ねる。

「あたしは何時でもオーケーだよ。迅君のお好きなように」

「俺もべつに。そっちで指定してくれた方が楽だし」

 そうだな……明日は明日で予定が入っているから、それにかからないようにしないと結局どんどんずれてくる。となると結構、早くに来てもらうことになるが……。

「七時半頃って大丈夫か?」

「俺は大丈夫だけど……」

 瑠璃の方に視線をやる赤夏。

 ああ、そうか……瑠璃は電車で来るわけだから、時間的に厳しいな。ただでさえここは電車の本数が少ない上、瑠璃の家はうちと違って駅からかなり離れている。時刻表がないのでわからないが、電車のタイミング次第では朝五時代に起きて準備しなければならない。さすがにそこまでは頼めない。

 瑠璃は人指し指を口に当てて考えるような仕草をする。そしてニッコリ笑って言った。

「じゃあ、あたし今日、迅君の家に泊まるよ」

「なっ……」

 何を考えてるんだ、この娘は!?

「無理無理、そりゃ駄目だ!」

「えー、何でぇ?  赤夏君は良かったのに?」

「男同士とはまた違うだろ。だいたい、親が……」

「お前んち、今日、親いないんだろ?」

 赤夏に言われて思い出す。そうだ、高知の実家の方の都合で親父と母親は、明日の夕方頃まで帰ってこない。俺と友希英も行かないかと言われたが、俺は撮影があるし友希英は親戚連中に会いたくないからということで残ることに。つまりまあ、誰を泊めても文句を言う人間はいないということだが……。

「いいんじゃねぇの、泊めてやればー」

「わーい、じゃあお泊まり決定ねー♪」

 ニヤニヤとこちらを見る赤夏。こいつ……。


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「そうだな、よし。赤夏も一緒に泊まろう。そしたら朝も多少余裕ができるし」

「いやぁ、俺は遠慮しとくよ。うちもあんまり外泊すると親がうるさいし、二人の邪魔したら悪いしねぇ」

「悪くない、全然悪くない!」

 邪魔って何の邪魔だよ、まったく……。

「迅君、そんなにあたしと一緒が嫌なんだ……エーン、シクシク」

 うわぁ、何このわざとらしい泣き真似。もうどうしようもない奴らだな、おい。

「わかった、わかったもう。好きにしろ……」

「わーい」

「ああもう、いちいちに飛び付くな!」

 ったく、こいつは……いつまでもガキじゃないってわかってるんだろうか?  まあ、これくらいの性格の方がいちいち気を使わんで済むからいいのかもしれんけど……。

 家まで戻ったところで赤夏とは別れた。そのまま車に乗って帰っていく。考えてみれば泊まりだから昨日からずっと山岸家の車はうちにあったわけだ。親がうるさいと言うのは、あながち嘘でもないかもしれない。

 うちに上がると、とりあえず瑠璃を和室に案内する。襖を空けるなり、瑠璃は顔をしかめた。

「何これ、汚いなぁもう」

 たしかに汚い。昨日の作業途中でそのまま放ってあったから。さすがにもう臭いはとれたが、散らかりきった部屋は目を覆いたくなる有り様だ。

「仕方ないだろ、嫌なら帰れ」

「こんなん見たらよけい帰れないよ。片付けしてあげる」

 そう言うなり、瑠璃は部屋の隅にあったゴミ箱を手にし、ポンポンと物を投げ込み始める。

「ああもう、ゴミもろくに捨ててないんだから!  これはいるの?」

「いや、いらない」

「あたし、片付けしとくから迅君、お風呂洗っといて。ぼさっと立ってても暇でしょ?」

「あ、ああ……」

 何なんだよ、こいつ……部屋を片付けてもらうのは助かるっちゃ助かるんだが、もの言いがまるで母親みたいだ。

風呂を洗って戻ってくると、和室は見違えるように綺麗になっていた。

「ほら、ちょっと手間を惜しまなきゃすぐ綺麗になるんだから」

「お見逸れしました……」

 ふと、腹の虫が鳴る。まいったな、そういえば昼飯抜いて撮影してたし。その音を聞いて瑠璃はクスりと笑った。

「ご飯にしよっか」

「ああ。台所にカップ麺が確か……」

「もう!  そんなんばっか食べてるから倒れるの。台所あっちだよね? あたしが作ったげる」

 ずかずかと居間の方に歩いていく瑠璃。おいおい、ちょっと待ってくれよ……。

「あ、こんにちはー」

 なんと間の悪い……居間ではちょうど友希英が作業しているところ。まずい、これはまずい。

「友希英ちゃんだよね?  あたし、迅君の友達の鈴木瑠璃っていいます。今日はこちらで一夜を過ごさせていただきますので、よろしくね♪」

 ああ、わざわざそんなことまで……これじゃ家に女の子泊めたのが親にバレるじゃないか!  しかもなんか意味深な言い方を……。こっちの気など知らない瑠璃は、奥の台所に行って料理の準備を始める。


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「えっと、冷蔵庫の中見て良い?  この辺のは適当に使って良いのかな?」

「ああ、もう好きにしてくれ……」

 うん、プラス思考で考えよう。今日はカップ麺だったところを、瑠璃のゴージャスな料理を食べられる。これは素晴らしいことだ。ハハハ……。

「お兄ちゃん」

 背後から友希英の呼ぶ声が。あからさまに呆れと非難色が感じられる。

「な、何?  友希英たん……」

「私、お兄ちゃんが親がいないからって、家に女の子を連れ込むような人とは思ってなかった」

「い、いや……べつに、そういうわけじゃ……」

 だが友希英はすでに、座卓に向き合い、俺の言い訳など聞く耳持たぬという姿勢だ。ハァ、美味い飯にありつく代償は、かなり高くついたようだ……。

 三十分ほどたって夕食が完成した。瑠璃は友希英にも勧めていたが、友希英はけっこうですと断り自室に戻ってしまった。どうもこの二人は相性最悪みたいだ。瑠璃は人懐っこくて誰にでも慣れ慣れしいのに対し、友希英は人見知りでかまわれるのが好きでないのだから仕方ないかもしれないが……。

 瑠璃が深い溜め息をつく。

「あたし、妹さんに嫌われるようなことしちゃったかな……?」

「気にするな、あの娘は俺に対してもあんなんだ」

 難しい年頃なんだろう。ましてや人一倍、悩みが多そうな娘だし……もう少し大人になれば落ち着くだろう、たぶん。そう思いたい……。

 十センチほど開いた襖の隙間から、ひょっこりポン太が顔を出す。猫特有の柔らかい体で、起用に滑るように和室に入り込んできた。

「お、ポン太ー。どした?  腹減ったか?」

 鼻先に味付け海苔を差し出してやると、パリパリと食べ始める。前足で海苔を押さえる仕草が、なんとも言えず可愛らしい。

「迅君ってほんと猫好きだよねぇ」

 瑠璃が飽きれ半分、笑い半分に言う。

「だって猫は可愛いじゃないか」

「あたしはそういう風に猫と遊んでる迅君の方が可愛いなぁ」

 俺が可愛いって……ほんとに大丈夫か、この娘は? まず男に対して可愛いという感情を抱くのが変だ。そりゃ例外的に可愛い男もいるかもしれんが、そういうのはジャニーズ系とかヴィジュアル系とかみたいなごく限られた存在だろうし。

 そもそも、俺としては可愛いなんて言われても良い気分ではない。

「だって迅君って普段、ぶすっとしてるのに猫の前だと、すっごいユルユルでさぁ」

「何だよ、ユルユルって……」

 こいつの言うことは、やっぱりよくわからん……。海苔を平らげたポン太は舌をペロペロさせてさらなる食物を催促するが残念ながらもうやるような物は残っていない。背中を軽く撫でてやると、ポン太は二、三回頭を擦り付けて去っていった。

 俺たちの方も飯を食い終わり、することがなくなったので、そこら辺に転がってる本を読む。先日、図書館で借りた内、何冊かはまだ読み終わっていない。


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  『S市の怪談・伝承』、タイトルそのまんまでS市に伝わる怪談や伝承について色々書いてある。といっても、半分くらいまで読んでわかったがよくある民俗学とかに基づいて真面目に検証しているのではなく、どちらかというとオカルトと突拍子もない説で面白おかしく煽っているタイプの本だった。まあ、そっちの方が読んでて面白いし、映画の参考にもなるので問題はないのだが。

「えいっ」

 うげっ!  突然、両肩にのしかかってくる重量感。例の如く背後から飛び付いてきた瑠璃に、俺は前につんのめって開いた本に頭突きをかますはめに。

「何だよ、何なんだよお前は!」

「暇ぁー」

 暇だからって不意打ちを仕掛けるな!  せっかく読みかけてた部分が全部頭から飛んでしまった、まったく。

「だって、迅君本ばっか読んでてつまんないんだもん……」

 拗ねたように言う瑠璃。そういえば昔、部活の先輩が言ってたな。女と居るときは相手のことをかまってやれ、放っておいていい女はB型の女だけだって。

「ああ、瑠璃って幽霊とかそういうの好きだったよな?  だったらこれ、けっこう面白いと思うぞ」

 本の目次を開いて見せてやる。案の定、瑠璃は目の色を変えて、ページに引き込まれていった。

「わあ♪  ねえ、この本貸して」

「アホ、それは図書館のだ」

「ぷぅ」

 べつに今読んどけばいいじゃないか。暇だからって言うからわざわざ見せてやったのに……なんだかなぁ。

「あ、これにも“とんどさん”って載ってるね」

「ん?  そうだっけ」

 目次の最後の方を指差す瑠璃。たしかに『とんどさんについて』という項目が存在する。夕方、赤夏が言っていたことを思い出す……。

 この本に載っているということは、やはり怪談めいた逸話があるのだろうか?  それともこの地域に伝わる儀式として、その由来やルーツを分析しているのだろうか?

 指先を滑らせ、記されたページまで一気に捲る。上から覗き込んでくる瑠璃。そこに載っていたのは、赤夏から聞いたものより、さらに衝撃的な事柄だった。

 

 

『……この“とんどさん”というのは平安時代に宮中で行われていた祭事であり、日本各地で同様の儀式は見られる。だがしかし、この儀式が宮中の貴族から、一般の平民、農民に広がった際に、少し違う意味合いになっていったことはあまり知られていない。

 正式な手順を踏んで宮中で行われる神聖なる儀式とは違う、簡略化されそれぞれの地域の特色を盛り込んだ平民たちの間で行われた独自の“とんどさん”が多数生まれたのだ。

 特に、T県S市の“とんどさん”について興味深い伝聞が残っているので紹介したい。

 “とんど”を漢字で書くと“豚土”、すなわち豚を土に埋めるとなる。農民たちは不作が続いた際に、豚を生贄として畑に埋め、そこで火を焚いて神に祈りを捧げる儀式を行ったというのだ。

 だが、この話には不自然な点がある。古い風習において儀式的に生贄を捧げるというのは珍しいことではない、だがしかし何故、豚なのだろうか? 一般の農民たちが豚を飼育していたという記録は存在しない。山間部に面した地域であれば、野生の猪が出没することもあるがS市の場合それも当てはまらない。そもそも、豚の食用は古くは弥生時代より行われており、徳川最後の将軍である徳川慶喜が好んで食べたとも言われる食材。そんな高級なものを不作の供物として捧げるということは考えられない。


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 だが、しかし、この“豚土”の儀式に秘められた真実を別の視点から考える説もある。豚というのは、本当の豚を表す言葉ではなく、何か別のものを指した隠語ではないかというものだ。不作や飢饉の際、農民たちの有様は凄惨を極めるものがある。「倒れた馬にかぶりついて生肉を食い、行き倒れとなった死体を野犬や鳥が食いちぎる。親子兄弟においては、情けもなく、食物を奪い合い、畜生道 にも劣る」という記録が残っているほどだ。

 飢えに狂った人間が、人肉を食らうという例はさして珍しくない。おそらく、不作に見舞われた農民たちは村人の中から一人、生贄としての“豚”を選び出し、“豚土”の儀式として豚の肉を食らい、残った頭部や骨を畑に埋めたのだ。

日本では古来より、大きな火を焚くことは魔除けや、洗浄のための大事な儀式とされている。“豚”を埋めた地で火を焚くことにより死者の怨念を浄化したのではないだろうか?

 宮中で行われている祭事である“とんどさん”。それとは対照的に、厳しい農民たちの間で行われた身も凍るような恐ろしい儀式“豚土さん”。ほのぼのとした正月行事には、実は表と裏の二種類があるのではないだろうか。

この説を裏付ける学術的な証拠は何もない。

 しかしS市のかつて農村だった地域から複数の人骨が発見された例がある。年代を推測するに、いずれも大飢饉に見舞われた時期であるらしい。これが何を意味しているか? 無論、ただの餓死者を埋葬しただけという可能性もある。いずれにしても真相は歴史の闇の中である。』

 

 

 二人の間に、しばしの沈黙が流れる。話の内容的にはいい加減な都市伝説よりも、さらに胡散臭い代物だ。だがしかし、今は有り得ない話として笑い飛ばせる気分ではない……。

 瑠璃の方を見てみると、いつになく無表情にページを凝視している。とりあえず、なんとなく雰囲気が気まずいので、違う方向に話を持っていく。

「さて、風呂にするか。先入る?」

「ううん、迅君先で良いよ」

「じゃあそうする」

 後もつかえてるので、入浴はさっと済ませる。寝巻きに着替えたとき、ふと思い出した。そうだ、瑠璃って着替持ってきてないはずだ。普段着というのも寝にくいだろう。納戸に寄ってから和室に戻り、瑠璃に着替を差し出す。

「ほれ、風呂入ったらこれに着替えろ」

「どしたの、それ?」

「ああ、友希英たんの。最近使ってないやつだし。洗って返せば問題ないだろ」

「うん、ありがと。妹さんによろしくね」

 衣服を受けとると、瑠璃は風呂の方に歩いて行った。よろしくか……友希英に言ったらたぶん、怒るだろうな。さっきの態度、瑠璃に対する敵対心はかなりのものだったから。同じ外来客でも、赤夏のときはべつに普通だったんだが……まあそれでも機嫌は悪かったけど。 母親と一緒で、彼女も家に他人がいるのを良しとしない性格だから。

 一人、することがなくなった俺は再び『S市の怪談・伝承』を手にとる。さっきは瑠璃に邪魔されてまともに読めなかったし。冒頭からの続きを読もうと思ったのが、手はいつの間にか最後近く、とんどさんのページを開いていた。

この不気味な話は本当なのだろうか?  それともただの作り話なのだろうか……。赤夏の話と合わせて考えるに、この辺がかつて貧しい農村で飢えの為に人を殺したということは事実なようだ。だが、同じ村人をわざわざ殺して、その肉を食らうなんてことが本当にあったなんて。間引きが行われていた場所、いたるところに墓場が広がっている町内、豚土さんの儀式……幽霊や妖怪の話であれば、そんな非科学的なことは有り得ないと一笑にふすこともできる。だが、人間の物語の場合、充分に有り得る範囲なのが、とても気味が悪い……。



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