目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「ヒロインの衣裳、何でセーラー服なんだ?」

「そりゃ、女子高生だからに決まってるだろ。シナリオ読んでないのか、お前は」

「いや、そもそも女子高生である意味がない気がすんだよ、このシナリオ。瑠璃ちゃんはもう高校も卒業してるわけだし」

 何を言い出すかと思えばこの男は。そんなことも理解できないだなんて。

「女子高生でセーラー服って言ったら、萌えの定番だろうが!」

 そう、日本男児は基本的に女子高生が好きだ。インターネットで『女子高生』と検索するとアダルトサイトや萌えアニメが大半を占めるのがその証拠。ましてや瑠璃は一般的に見るとかなり可愛い。これで客の心を掴んで人気をとるのだ。

「そんなもんかねぇ。俺としてはヒロインはお姉さまキャラを推したのに」

「お姉さまも捨てがたいが、瑠璃は童顔だし、そもそも実年齢的にもお姉さまは無理だ」

「それなら真尋さんあたりに頼めば良かったのに。それに女子高生にてしても、やっぱセーラー服よりブレザーの方が……」

 萌えの形は人それぞれ、百人いればそこには百通りの萌えがある。人と人が理解し合うのは難しい。だからギャルゲーとかは女の子たくさん出てきて、どんなタイプの萌えにも対応できるように作ってあるのだろう。

「真尋さんには出てもらいたかったけどあの人も仕事してるからなぁ、なかなか出演までは頼めんよ。しかし、ブレザー好きといいながら、セーラー服はちゃんと持ってるじゃないか」

「必要な衣装だから用意しただけだよ。俺のネットワークを使えばどんなコスプレでもすぐに調達できるけどね」

 衣装は赤夏の担当だ。どんなネットワークかはあまり想像したくはないが、買うと出費が馬鹿にならないので毎回、撮影の度に世話になっている。赤夏の部屋に遊びに行ったとき、絶対に見せてくれない物入れがあったから、たぶん、あそこに色々コレクションが詰まっているのだろう。コレクター同士は横の繋がりがある。俺は友達がほとんどいないので、顔の広い赤夏を友人に持ったのは救いだ。

「おまたせー」

 セーラー服姿の瑠璃がひょっこり顔を出す。イイッ、眩しい! この前のシーンは私服だったが、やはりこちらの方が断然良い。しかし、制服というものは何故、こうも美しく見えるのだろうか? 特別、デザインがお洒落とか奇麗というわけでもないのに。人類、七不思議の一つに数えてもいいかもしれない。

「あたしの学校ブレザーだったから、セーラーとか初めてなんだけど……どうかな?」

「うん、良いよ、似合ってるよ。ただ……」

「ただ?」

「スカートの丈をあと三センチほど短くしてくれた方が」

 痛っ! 赤夏と瑠璃のダブルパンチが頭部を打ちすえる。

「何だ、何だ! その方が受けが良いに決まってるだろ!?」

「客の受けじゃなくて、お前の劣情だろうがっ!」

 うう、あえて否定はしまい……だがしかし、客の立場に立って考えるのが良い作品を作る鍵だ。自分自身すら満足させられない作品で、他人を満足させることなどできるはずがない。

「ま、まあ、とりあえず撮影行こ、撮影。赤夏、カメラと三脚よろしく」

「あいよ」

 撮影場所はうちからすぐ近く。駅との間にあるあの墓場だ。しかし、外に出てみるとやはり暑い。いつにも増して陽射しが強い気がする。羽織っていた上着を脱いでTシャツ一枚になり、脱いだ方のシャツは墓石に掛ける。

「ちょっと、何やってんのよ!」


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「へ?」

「お墓に掛けちゃ駄目でしょ。祟られるよ」

 ああ、そのことか。変なことを気にするやつだな。まあ、オカルトマニアって言ってたから祟りや呪いの類には敏感なんだろう。

「だって地面置いたら汚れるし、神様だってこんなんで祟りゃしねえよ」

「もう!  そもそもこういうホラー映画撮るときは、撮影前にちゃんと御払いしなきゃいけないんだから」

 四ッ谷怪談などの劇を上演すると事故が起きるとかいう話は江戸時代からある。カメラや電波を発する機器は霊を呼びやすいともいうし。有名なのは心霊写真。ビデオに何か写っているというのもよくある。なんて話は聞いてても、わざわざ実際御払いまでするほど信じてはいないが。

「てかさ」

 赤夏が口を挟む。

「これただの死人だから。神様みたいに徳の高いもんじゃないから。祟るよ、きっと」

 妙なとこだけ冷静に分析して突っ込むな、赤夏……。

 

 ――じゃあたくさん埋まってるんだね。死体。

 

 心霊現象などは基本的に信じてはいない。だが、さすがに少し不気味に思えてきた。墓石から上着を外して肩にかける。

「じゃあいくぞ。まずこれ、死体発見シーン。ほれ死体、スタンバイ」

「はいはい……あの血糊ベタベタしてきしょいんだよな」

「後でうちのシャワー貸してやるから」

 渋々、寝っ転がる赤夏。地面に顔が着いた瞬間、悲鳴を上げる。

「熱っ!  この砂やばい!  太陽熱で焼けてる」

「耐えろ、耐えろ。ほーれ」

 無情に血糊を浴びせる。「後で殺す」と赤夏が呟いたのが聞こえたが気にしない。カメラ越しに覗くと本当に死体のようだ。白眼むいたり、呆けた顔したりと、こういう微妙な顔芸は得意だからな、赤夏は。血まみれの死体、それを発見する瑠璃、そして絶叫……今回の撮影は、珍しく順調に進んだ。

「じゃあ次のカット、シーン三六、カット八。死体を揺する瑠璃。よー……い……」

 ……あれ?  声が……出ない?  いや、厳密には違う。声が出せないというより、息が出せない。吸うこともできない。何かこう、空気がドロドロした膜になって顔に経張りついているような……。頭がぼうっとしてきて、目の前が白くなる。

 脳に酸素が通わなくなり、意識が飛ぶ……絞め技などで落とされたときの感覚によく似ている……。

 

 

「……ん君!  迅君っ!」

 体を揺すられて気が付く。目の前には俺を見下ろす瑠璃の顔が。いつの間にか俺は地面に倒れてしまったらしい。

「どうしたの? 急に……」

 どうしたの、と言われても……俺が知りたいくらいだ。何だったんだ、今のは……?

「いや、何か頭ぽーっとして意識飛んじまってさ」

「それたぶん、熱中症だよ。熱いからさ」


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 なるほど、そうかもしれない。このギラギラした太陽の中、帽子も被らず作業してたら熱中症になってもおかしくないか。ましてや連日、一日中撮影したり徹夜したりとかなり無理もしたし。

「ああ、悪いな撮影中断して……ちょっと休んだら治ると思うから」

「今日はもうやめた方が良いよ」

「そういうわけにはいかんだろ、ただでさえ遅れてるのに監督である俺がこんなことでへこたれるわけには……」

「めっ!  ちゃんとお家帰って休みなさい。撮影ならあたし、朝一で来て終わらせてあげるから」

「俺もちゃんと行くから、お前さっさと戻って寝てろ。監督倒れたら話にならん」

 瑠璃……赤夏……改めて思った。こいつら、良いやつ等だな。起き上がろうとしてふらつく俺を、横から支える瑠璃。しかし、この二人は平気だったのに、この俺が真っ先にダウンとは情けない話だ……ランニングでもして体力を着けんとな。

 墓場から続く道路をトボトボと歩く俺たち。途中ですれちがった婆さんが、目を見開いて足早に去っていったのを見て、自分たちの姿を思い出す。血まみれ男とセーラー服少女、カメラと三脚持った奴の三人組は怪しすぎるだろう。苦笑いが漏れた。

「あそうだ、あれ。祠と鳥居どうする? 明日の朝一緒に撮るか?」

 そういえば、今日の予定では墓場のシーンだけでなく、祠と鳥居のインサートも撮る予定だったな。まあ、役者のいない場面だし、撮るのはすぐだろう。

「すぐそこだし今度撮ってくるよ」

「祠なんてあるの?」

「ああ、瑠璃は知らないか。うちの向こうに神社あるじゃん? そのさらに向こうに鎮守の森があって、そこに祠みたいなんがあるんだよ」

 鎮守の森、本来は神社を囲むようにして存在する森林。昔はどこの神社にも必ずあったらしい。まあ、現在は小さな神社には森と呼べるような物はないところが多く、うちの近所のだって、神社の近くに広がる畑の中に一部木々が茂っているだけだ。面積にしてうちの庭のせいぜい三、四倍といったところ。森と呼べるかと言えば微妙なところだが、それでも何やら古い鳥居と奥の方に小さな祠があって怪しい雰囲気は満点だ。おそらく、昔は神社近辺一帯を森が囲っていたんだと思う。人が住むにつれて伐採が進み、申し訳程度に、祠と鳥居の周りだけ木々を残したといったところだろう。

「そういや、とんどさんってあそこでやるんだよな」

 赤夏がぽつりとつぶやく。

「ああ、そういやそうだな」

「とんどさんって、こないだ図書館で言ってた?」

「うん。正月の神様を祀る行事」

「神様っても、ここのやつはけっこう怪しい神様だけどな」

 赤夏の発言に、俺と瑠璃は顔を見合わせる。ニヤリと笑う赤夏。

「考えてみろ。神社が目の前にあるのに、わざわざあの祠のとこで燃やすってのも変な話だろ? それもここだけじゃないんだな、これが。賽之木町のとんどさんは線路沿いの竹林でやるんだけど、あそこは”間引き”で死んだ子供埋めてたとこらしいぜ」

 一瞬、背筋に冷たいものが走った。間引きとは、畑の農作物を育てる際に少数の苗を残して残りを抜いてしまう作業を言う。転じて、生まれた子供をすぐに殺してしまうこと刺す言葉としても使われた。貧しい家で食い縁を減らすための間引き、その埋葬場で行われるとんどさん……。


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「あと牟岐垣の方では海岸でやるんだけど、そこの前に松林あるじゃん。あそこもそうらしいって聞いたんだよな」

「……ずいぶん、詳しいな」

「お前んとこと違って、うちは代々地元民だからな」

 たしかに自衛官で転勤してきたうちの両親はS市の歴史なんてまったく知らない。とんどさんもろくに参加してないし。

「でも、間引きで子供捨てた場所なんがそこら中にあるなんてな。ちょっと信じられないな」

「この辺りの農村は昔は搾取されまくりで悲惨だったらしいぞ」

「でもとんどさんとかって、他の県とかでも普通にやるって聞いたし、変な神様ってことはないだろう」

「とんどさんってのはあくまで儀式だしな。やってることは同じでも、祀ってる神様はそれぞれの地域独自の土着神だって。うちのはどうも胡散臭い神様じゃないかって気がするんだよな。なんか怖ぇし、この辺のって」

 食いぶちを減らすために、子供を殺した間引き。そしてその場所で行われる、厄落とし……悪いものをとんどさんに被ってもらう儀式。

 こんなどうでもいいことを気にするのはやめよう。正月のとんどさんなんかよりも、明日の撮影が大事だ。

「明日、朝何時ごろなら大丈夫?」

 二人に都合のいい時間帯を訊ねる。

「あたしは何時でもオーケーだよ。迅君のお好きなように」

「俺もべつに。そっちで指定してくれた方が楽だし」

 そうだな……明日は明日で予定が入っているから、それにかからないようにしないと結局どんどんずれてくる。となると結構、早くに来てもらうことになるが……。

「七時半頃って大丈夫か?」

「俺は大丈夫だけど……」

 瑠璃の方に視線をやる赤夏。

 ああ、そうか……瑠璃は電車で来るわけだから、時間的に厳しいな。ただでさえここは電車の本数が少ない上、瑠璃の家はうちと違って駅からかなり離れている。時刻表がないのでわからないが、電車のタイミング次第では朝五時代に起きて準備しなければならない。さすがにそこまでは頼めない。

 瑠璃は人指し指を口に当てて考えるような仕草をする。そしてニッコリ笑って言った。

「じゃあ、あたし今日、迅君の家に泊まるよ」

「なっ……」

 何を考えてるんだ、この娘は!?

「無理無理、そりゃ駄目だ!」

「えー、何でぇ?  赤夏君は良かったのに?」

「男同士とはまた違うだろ。だいたい、親が……」

「お前んち、今日、親いないんだろ?」

 赤夏に言われて思い出す。そうだ、高知の実家の方の都合で親父と母親は、明日の夕方頃まで帰ってこない。俺と友希英も行かないかと言われたが、俺は撮影があるし友希英は親戚連中に会いたくないからということで残ることに。つまりまあ、誰を泊めても文句を言う人間はいないということだが……。

「いいんじゃねぇの、泊めてやればー」

「わーい、じゃあお泊まり決定ねー♪」

 ニヤニヤとこちらを見る赤夏。こいつ……。


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「そうだな、よし。赤夏も一緒に泊まろう。そしたら朝も多少余裕ができるし」

「いやぁ、俺は遠慮しとくよ。うちもあんまり外泊すると親がうるさいし、二人の邪魔したら悪いしねぇ」

「悪くない、全然悪くない!」

 邪魔って何の邪魔だよ、まったく……。

「迅君、そんなにあたしと一緒が嫌なんだ……エーン、シクシク」

 うわぁ、何このわざとらしい泣き真似。もうどうしようもない奴らだな、おい。

「わかった、わかったもう。好きにしろ……」

「わーい」

「ああもう、いちいちに飛び付くな!」

 ったく、こいつは……いつまでもガキじゃないってわかってるんだろうか?  まあ、これくらいの性格の方がいちいち気を使わんで済むからいいのかもしれんけど……。

 家まで戻ったところで赤夏とは別れた。そのまま車に乗って帰っていく。考えてみれば泊まりだから昨日からずっと山岸家の車はうちにあったわけだ。親がうるさいと言うのは、あながち嘘でもないかもしれない。

 うちに上がると、とりあえず瑠璃を和室に案内する。襖を空けるなり、瑠璃は顔をしかめた。

「何これ、汚いなぁもう」

 たしかに汚い。昨日の作業途中でそのまま放ってあったから。さすがにもう臭いはとれたが、散らかりきった部屋は目を覆いたくなる有り様だ。

「仕方ないだろ、嫌なら帰れ」

「こんなん見たらよけい帰れないよ。片付けしてあげる」

 そう言うなり、瑠璃は部屋の隅にあったゴミ箱を手にし、ポンポンと物を投げ込み始める。

「ああもう、ゴミもろくに捨ててないんだから!  これはいるの?」

「いや、いらない」

「あたし、片付けしとくから迅君、お風呂洗っといて。ぼさっと立ってても暇でしょ?」

「あ、ああ……」

 何なんだよ、こいつ……部屋を片付けてもらうのは助かるっちゃ助かるんだが、もの言いがまるで母親みたいだ。

風呂を洗って戻ってくると、和室は見違えるように綺麗になっていた。

「ほら、ちょっと手間を惜しまなきゃすぐ綺麗になるんだから」

「お見逸れしました……」

 ふと、腹の虫が鳴る。まいったな、そういえば昼飯抜いて撮影してたし。その音を聞いて瑠璃はクスりと笑った。

「ご飯にしよっか」

「ああ。台所にカップ麺が確か……」

「もう!  そんなんばっか食べてるから倒れるの。台所あっちだよね? あたしが作ったげる」

 ずかずかと居間の方に歩いていく瑠璃。おいおい、ちょっと待ってくれよ……。

「あ、こんにちはー」

 なんと間の悪い……居間ではちょうど友希英が作業しているところ。まずい、これはまずい。

「友希英ちゃんだよね?  あたし、迅君の友達の鈴木瑠璃っていいます。今日はこちらで一夜を過ごさせていただきますので、よろしくね♪」

 ああ、わざわざそんなことまで……これじゃ家に女の子泊めたのが親にバレるじゃないか!  しかもなんか意味深な言い方を……。こっちの気など知らない瑠璃は、奥の台所に行って料理の準備を始める。



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