目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 たしかに……大きな布を袋状に縫い会わせ、いらなくなったものをひっつけていく。それを人間が被れば、デザイン通りになるはずだったのだが……。これではガラクタ妖怪ではなく、ほんとにガラクタだ。

「これをこれから本物っぽくする為に、わざわざお前を呼んだんじゃないか」

「いっそ、作り物って設定にすっか。何かであったろ、森に現れる怪物は実は着ぐるみ着た人間だったって」

「シナリオが変わるから却下。それにそのネタは禁じ手だ」

 実は全部作り物の偽物でした、というのは夢オチと同じくらいしらける、やってはならないラストらしい。まあ、にも関わらず、最近でもそれをやった監督はいたけど。

「いいか、赤夏。『エイリアン2』にでっかい女王エイリアン出てきただろ?」

「ん?  ああ出てきたな」

「あのエイリアンの外観はゴミ袋でできてんだよ」

「え、マジで?」

「黒いゴミ袋を骨組みに巻き付けたり、千切って垂らしたりして作ったってテレビでやってた。照明暗くしたりすると本物っぽく見えるんだな、これが」

 暗い照明、怪物の全体像が見えない、急に飛び出してきて脅かし、すぐに隠れるというのは、低予算のホラー映画等では常套手段だ。モンスターがちゃちいのを見抜かれない為の。

「だからやりようによっては何とかなるはずだ」

「じゃあ、まずはこれを怖く見せるにはってことだよな、うーん……」

 ゴミの塊にしか見えない物体を前にして、思考を色々とめぐらせる。

「しかし、こうやってると昔を思い出すなぁ」

 工作をするなんて小学校以来だ。二十歳越えて部屋で二人してガラクタで怪物を作ることになるとは思いもしなかった。

「うん、そういや学校の図工でよくこんなんやったな。鵲はプラモとかゴジラ持ってって怒られてたよな」

「いや、あれはおかしいだろ。何でも自由に作っていいって言ってたのによ。俺はゴジラのジオラマ作るつもりだったのに」

「俺も墓場とゾンビとバラバラ死体作ってたら怒られたし。わけわからん」

「まったく、洒落のわからんクズ共が」

 命を何だと思ってるのかとか、不謹慎だとか、ホラー映画や怪獣映画を真っ向から否定する暴論だ。まあ、怪獣のジオラマで、兵士の人形の首もいで血しぶき飛ばしたり、市民が踏まれたりとか作ったのは少しやりすぎだったかもしれんが。それにしても所詮作りものだ。ガメラ3ではガメラが吹いた火炎で人間黒焦げで吹っ飛んだり、踏みつぶされたり普通にしてたし。

 まあ、未だに妖怪ホラーとか作ってるわけだから、俺も赤夏もあの頃から精神年齢はさして変わってないらしい。

 まさに三つ子の魂百までというやつだな。


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 私は、あの人の声を聞くたび、あの人の楽しそうな話を聞くたびに憂鬱になる。

 決してあの人が嫌いなわけじゃない。ただ、あの人みたいに楽しいことって、私にはないから。自分の好きなことに打ち込み、仲間たちに囲まれて……そんなあの人が羨ましい。あの人と仲良くしている皆が羨ましい。

 私もその和の中に入りたいのに、入れない……。あの人は私を受け入れてくれると思う。でも、やっぱり怖い……私が近付いたら、あの人は掌を返したように拒否するのではないかと。

 私は、こんなに駄目な人間なんだから……。


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 朝、八時にセットしておいた携帯のアラーム音が鳴り響く。目が覚めるなり、異臭が鼻を突き刺してきた。まだ眠かったが、耐え難い臭いで、一度意識してしまったら気になって二度寝はできない……て、まあこの時間に起きる予定だったのだから、もともと二度寝なんてしていられないが。

 サッシの端を軽く開けて換気をする。清々しい朝の空気が入り込み、鼻孔を洗浄してくれる。臭いの原因はわかっていた。和室の隅に置いてあるグロテスクなゴミの固まり、九十九神の親玉である。

 ただのガラクタを妖怪に見せ為に、俺たちはまず塗料を使った。ゴミそのままではなく、汚しをかける、気持悪い色に塗る。さらに、プラスチックをライターで焙って溶かす、接着剤をかけてテカりとドロドロにする、と色々試行錯誤しながら作業していたのだが……まあ、当然のごとく、溶けたプラスチックやらシンナーが、猛烈な異臭を発するわけだ。

 寝る前に一応、換気はしたのだが、あまりに臭い中で作業していたので、鼻が麻痺していたのだろう。あのときはだいぶマシだと思ったのに、改めて嗅ぐと耐えがたい空気だ。寝てる間に脳が溶けたんじゃないかと本気で心配になる……。

「おい、赤夏。起きろ、朝だ」

「ああ……って、臭っ!」

 起きて第一声はやっぱりそれか。

「今、換気してるから問題ない。ほれ、さっさとしろ」

 九時に瑠璃が来る予定だ。それまでに準備をしなければならない。洗面所にいって、さっと洗顔を済ませる。朝食は台所にインスタント食品があったはずだ。

「ビビンバとドリアどっちがいい?」

「じゃあドリアね」

「了解」

 台所のカゴからインスタントドリアを出してレンジにかける。さて、俺は必然的に残ったビビンバになるわけだ。べつにビビンバは嫌いではない、寧ろ好きな方だが朝からインスタントというのはエネルギー源として少し弱いな。かといって自分で料理は作れんし、母親はもう出た後だし……。

 ふと、台所の向こうにある、居間の座卓に目をやる。そこには布に包まれた長方形の物体が置かれていた。弁当箱だ。母親が出る前に作っておいてくれたらしい。なかなか気が利くではないか。

 ドリアと弁当を持って、和室に戻る。

「ほらよ」

「おお、サンキュ」

 弁当のおかずはカボチャの野菜炒めとスパゲッティ、あと冷凍のハンバーグ。カボチャオンリーの野菜炒めは初めて出るメニューだ。不慣れなせいか弱冠焦げているが、なかなか旨い。今度、晩飯にも作ってくれるように頼んでおこう。

「今日の撮影はどこだっけ?」

「ん? あれだ、墓場で村人が殺されてるシーンだ」

 ちなみに村人の死体役は赤夏である。

「あ、そうだ。忘れてた、ちょっと待ってろ」

 このシーンの撮影に必要なものをちゃんと作って置いたのに、忘れるところだった。危ない、危ない。

俺は“それ”をとりに、冷蔵庫に向かった。

「おじゃましまーす♪」

 玄関先のインターホンが鳴ってすぐに、瑠璃の元気な声が聞こえてきた。

出迎えるなり、いきなり飛びついてくる瑠璃。


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「おはよー、迅くーん」

「こ、こら……」

 危うくバランスを崩しそうになる。ていうか、こいつには女としての恥じらいとかそういうのはないんだろうか?

「いちいちに抱きついてくるな」

「だって、迅君って細くて適度な体してるから、抱き心地いいんだもん」

「セクハラだ、セクハラ!」

「何それ、女が男に触ってもセクハラにはならないよ」

「アホか、男が女にやってセクハラなことは、女が男にやってもセクハラだ」

 暑苦しい瑠璃を振りほどいて、和室に向かう。襖を空けた瞬間に、瑠璃が悲鳴を上げた。

「キャーッ!」

 再び飛びついてくる瑠璃、今度は悪意はないだろう。まあ暑苦しいことに変わりはないが。和室には顔面流血で真っ赤になった赤夏が座っていた。

「おはよ」

「お、おはよって、どうしたの赤夏君っ!?」

 声を上ずらせ、ビクビク震える瑠璃。密着した胸から、心臓の鼓動が伝わってくる。

「いや、べつにどうも」

「どうもじゃないでしょ、病院行かなきゃっ」

 慌てふためく瑠璃の姿に、俺は堪えきれず吹き出してしまった。

「ハハハ、心配するな。これは血糊だ」

「へ? 血糊……?」

「ほら。今日、死体のシーンがあるだろ? あれ用に作ったんだよ」

 簡易血糊の作り方は、以前に自主映画の本で読んだ。ガムシロップに食紅を混ぜるだけという非常にお手軽なものだが、これがなかなかにリアル。少しからかってやるだけのつもりだったのだが、予想以上に面白い反応をしてくれた。

「もうー、脅かさないでよ!」

 抱きついてたのから一変、思い切り突き飛ばしてくる瑠璃。

「まあ、気にするな。悪気はない」

「俺としても勘弁してもらいたいんだけど……」

 ガムシロ血糊でベトベトになった赤夏が恨めしそうにこちらを見てくる。この姿で、いつもの細い目で見つめられると、冗談抜きに怖いんですが……。

「ったく、こんな悪戯のために血糊かけるなよな」

「ああ、もったいないからそのまま墓地までいけば良いじゃん」

「ふざけるな、それは勘弁だ」

 そう言って濡れタオルで顔を拭く赤夏。やっぱ駄目ですか。

「じゃあ瑠璃、さっそく着替えてきて。風呂場の脱衣所、空いてるから」

「はーい」

 差し出した紙袋を受け取り、脱衣所に向かう瑠璃。袋には衣装のセーラー服が入っている。

「なあ、一つ聞いていいか?」

「ん、何だ?」


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「ヒロインの衣裳、何でセーラー服なんだ?」

「そりゃ、女子高生だからに決まってるだろ。シナリオ読んでないのか、お前は」

「いや、そもそも女子高生である意味がない気がすんだよ、このシナリオ。瑠璃ちゃんはもう高校も卒業してるわけだし」

 何を言い出すかと思えばこの男は。そんなことも理解できないだなんて。

「女子高生でセーラー服って言ったら、萌えの定番だろうが!」

 そう、日本男児は基本的に女子高生が好きだ。インターネットで『女子高生』と検索するとアダルトサイトや萌えアニメが大半を占めるのがその証拠。ましてや瑠璃は一般的に見るとかなり可愛い。これで客の心を掴んで人気をとるのだ。

「そんなもんかねぇ。俺としてはヒロインはお姉さまキャラを推したのに」

「お姉さまも捨てがたいが、瑠璃は童顔だし、そもそも実年齢的にもお姉さまは無理だ」

「それなら真尋さんあたりに頼めば良かったのに。それに女子高生にてしても、やっぱセーラー服よりブレザーの方が……」

 萌えの形は人それぞれ、百人いればそこには百通りの萌えがある。人と人が理解し合うのは難しい。だからギャルゲーとかは女の子たくさん出てきて、どんなタイプの萌えにも対応できるように作ってあるのだろう。

「真尋さんには出てもらいたかったけどあの人も仕事してるからなぁ、なかなか出演までは頼めんよ。しかし、ブレザー好きといいながら、セーラー服はちゃんと持ってるじゃないか」

「必要な衣装だから用意しただけだよ。俺のネットワークを使えばどんなコスプレでもすぐに調達できるけどね」

 衣装は赤夏の担当だ。どんなネットワークかはあまり想像したくはないが、買うと出費が馬鹿にならないので毎回、撮影の度に世話になっている。赤夏の部屋に遊びに行ったとき、絶対に見せてくれない物入れがあったから、たぶん、あそこに色々コレクションが詰まっているのだろう。コレクター同士は横の繋がりがある。俺は友達がほとんどいないので、顔の広い赤夏を友人に持ったのは救いだ。

「おまたせー」

 セーラー服姿の瑠璃がひょっこり顔を出す。イイッ、眩しい! この前のシーンは私服だったが、やはりこちらの方が断然良い。しかし、制服というものは何故、こうも美しく見えるのだろうか? 特別、デザインがお洒落とか奇麗というわけでもないのに。人類、七不思議の一つに数えてもいいかもしれない。

「あたしの学校ブレザーだったから、セーラーとか初めてなんだけど……どうかな?」

「うん、良いよ、似合ってるよ。ただ……」

「ただ?」

「スカートの丈をあと三センチほど短くしてくれた方が」

 痛っ! 赤夏と瑠璃のダブルパンチが頭部を打ちすえる。

「何だ、何だ! その方が受けが良いに決まってるだろ!?」

「客の受けじゃなくて、お前の劣情だろうがっ!」

 うう、あえて否定はしまい……だがしかし、客の立場に立って考えるのが良い作品を作る鍵だ。自分自身すら満足させられない作品で、他人を満足させることなどできるはずがない。

「ま、まあ、とりあえず撮影行こ、撮影。赤夏、カメラと三脚よろしく」

「あいよ」

 撮影場所はうちからすぐ近く。駅との間にあるあの墓場だ。しかし、外に出てみるとやはり暑い。いつにも増して陽射しが強い気がする。羽織っていた上着を脱いでTシャツ一枚になり、脱いだ方のシャツは墓石に掛ける。

「ちょっと、何やってんのよ!」



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