目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「むしろ喜劇の人だろ」

 ちなみに上記の話はネットで仕入れたものなので、どこまで事実かわからん。でもうちの親父とか見てると、さもありなんって感じだが。

「『殺人鬼カード』ってのも載ってたけど、これちょっと欲しいなぁ。世界の有名な殺人犯をトレーディングカードにしたやつ」

「いらねえよ……」

「そうか、俺はそういうの大好きだけどな」

 うちの納戸には猟奇殺人のプロファイリングや、犯罪者の手記、拷問の本等が多数ある。こういう、人間の負の部分や暗黒面に強い興味を持つ者を“GOTH”というらしい。俺やうちの母親などは完全にこのGOTHに分類される人間だろう。

「そういや、S市でも何か事件あったらしいな、昔」

 赤夏のスプーンが止まる。

「あれな……うちの近所だった」

「……マジ?」

 S市は数時間あれば自転車で一周できるくらいの広さしかない。その中で事件が起きたとなると、近所である確率は決して低くはないが……。

「俺、全然知らんかった」

「お前、一回引っ越してるだろ?  小学校のとき。あんとき離れてたじゃん」

 たしかにうちは一度、引っ越しをしている。今でこそ赤夏と俺の家は徒歩でも行き来できる程度の距離だが、あの頃はかなり離れていた。また、悲惨な事件のことは子供にわざわざ教えないだろうし、ニュースなんて見ない幼稚園児の頃では事件を知らなくても無理はない。

「よく覚えてないんだけどな。何か警察の聞き込みとか、テレビの取材とかしょっちゅう来て、親父がキレてたのは記憶に残ってる」

「そりゃ大変だな……」

「保育園だったからな、あの頃。もう怖くて怖くて、夜も寝れんかったわ。だから未だに殺人事件とか苦手なんだよな」

「ああ……それは、すまんかったな……。でもそんなに怖かったのか?」

「だってあれ、事件がエグいからな。旦那は心臓一刺しで、奥さんは首切り落とされてたんだぜ?  寝てる間に犯人が部屋入ってきて、刺されたらどうしようって。布団に潜り込んで、怖くて足も出せんかった」

 まあ、五、六歳の子供なら無理もないだろうな。首切り、心臓を刺す、惨殺……言葉だけでもショッキングなのに、それが近所で起きた現実なのだから。

「今でも、実家で夜寝てると無性に怖くなることあるしな」

「おいおい、そりゃもうある種のトラウマだな。何年前の事件だよ」

 ほぼ空になった皿の残りを、スプーンでかき集める赤夏。最後の一口を食した後に、コップの水を飲み干す。そしてこちらを真っすぐ見据えてこう言った。

「犯人、まだ捕まってないからさ」

 コップに残った氷がカラリと鳴った。


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「ただいま」

 自宅に着いたのは午後八時頃。親には晩飯は外で食べるから遅くなると電話しておいたから問題ない。

「おじゃまします」

 俺の後から着いてくる赤夏。今日は、赤夏はうちに泊まりだ。二人で今まで撮った素材をチェックして、編集の算段を立てる。卒業まで半年以上あるといっても、本来映画っていうのは年単位で作るものだし、就職活動のこと等を考えるとあまり時間的余裕はない。人数面でもグループ制作のチームは分担作業ができるが、俺たちは二人だけ。一刻も無駄にはできない。

「いらっしゃい、まあ狭い所だけどゆっくりしていってね」

 居間から出てきた母親が笑顔で言う。外観は優しい母親を気取っているが、かなりご機嫌斜めなはずだ。うちで泊まりの作業をすることに関して、絶対駄目だと言われ前日に喧嘩になった。最終的に親父がまあいいじゃないかと味方してくれたのと、作品を完成させないと学校を卒業できない、そうなるとニート確定だという半ば脅しに近い俺の言葉で渋々首を縦に振った。使っていいのは一階の和室、そこから必要以外では出ないという条件付きだが。この母親は自分の生活空間に他人が入るのがよっぽど嫌らしい。

「さて、やりますか」

 必要な機材や資料は昨日のうちに和室に運びこんである。畳に置いたノートパソコンを起動し、ビデオカメラを繋いだ。まずは撮った素材のチェックをする。そこから使えるもの、そうでないものを選出し編集していくのだ。

「お、結構いい感じに撮れてんじゃん」

 液晶画面に映し出される海沿いの風景。生で見ると、はっきり言って汚いだけの海なのだが、ビデオに映されたそれは夏の情緒を含んだ美しい光景だ。さすが赤夏。俺はカメラはからきしなので、この技術は素直に尊敬に価する。

「あー、これちょっといまいちだな」

「だな。テイク・ツーの瑠璃ちゃんは可愛げに撮れてるけどどうだ?」

「うん、二回目の使おう」

 撮るのも査定も、風景より難しいのは人間だ。わずかな角度で、カメラ写りが全然違ってくる。影とか皺の一つで普通の人が美人になったり、逆に見るに耐えなくもなるのだ。女の子ならできるだけ可愛く、男なら男前に写ったカットを選び出すことで被写体とキャラクターの魅力を引き出せる。その点では瑠璃は見た目は良いから、こちらとしてもやりやすい。

 問題は……俺の方だ。今回、俺も出演しているのだが、自分の姿や芝居というのは、客観的に見るのが非常に難しい。何か物凄く気恥ずかしいし。とりあえず自分の写ってる部分は、赤夏にチェックしてもらう。

「とりあえずこれかな」

「えー、これ目付悪いやん、俺」

 瑠璃と二人並んでるシーン。無表情でなんかちょっとヤバそうな顔してるぞ、俺。

「他も似たようなもんだ。てかこれが一番マシだ」

「チッ、もっとうまく撮れよな」

「お前はもともとこういう顔なんだよ。だいたいこいつはキャラ設定として、こういうちょっと何考えてるか、わかんねーやつだから良いんだよ」

 そう言われると辛い……そういうえば俺は表情に乏しいし、目付きが悪いからシナリオ段階でそういうキャラクターにしたんだっけ……。

 ざっと見ていったがその他は特に問題あるシーンは見つからなかった。今日撮ったのは全部で十分程度。撮影は一日仕事なのに、撮れる量は驚くほど少ない。リハーサルや準備にかかる時間に比べ、カメラが回ってる時間というのはせいぜいワンカット数秒~数十秒でしかない。このペースで夏休み中に二時間映画を撮り終えられるか、かなり不安だ……。


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 赤夏が大きく伸びをした。小さなノートパソコンの前で、男二人縮こまって画面を凝視していたらけっこう疲れる。

「ああ、しんどい。テレビでも見るか」

「このパソコンってチューナー内蔵?」

「いや、でも一応こっちに受信用アンテナが着いてるから……」

 ビデオキャプチャボックスに付属しているアンテナを伸ばす。これで電波を受信してどこででもテレビが見れる。もっとも、かなり画質が悪いのでほとんど使わないが。

案の定、チャンネルを回しても砂嵐ばかり。一番ノイズの少ない番組にチャンネルを合わせる。

 T県のローカルニュース番組だ。やはりトップニュースは、この間やっていた大量行方不明事件。依然、何の手がかりもないとのこと。他はまあ田舎の平和なニュースだ。爺さん婆さんの畑仕事のインタビューとか、小学生がボランティアしてるとか、河童が目撃されたとか……。

「河童だってよ。こんなんテレビでやるか?」

「でも、うちの婆さんの知り合いも見たって言ってたぞ」

「マジで?」

「何か夜の畑でキュウリ盗って行ったって」

 マンガみたいな話だな、おい……。大方、畑泥棒を見間違えたんだろうけど。

 何にしても『衝撃! 河童の出る街、S市!』なんて、どぎつい真っ赤なテロップ出して特集組むような事件でもないだろうに。いや、S市は妖怪を売りにしてるからこれも商業戦略ということもありうる……て、それは考えすぎか。

 テレビの映像が、スタジオからS市に移った。美人のレポーターが、登下校中の子供や畑仕事をしている爺さん婆さんにインタビューをしている。

 まあ、もし本当にいるんだったらお目にかかってみたいものだが。ビデオに撮って学校に提出すれば、成績トップ間違いなしだな。て、考えることのレベルが俺と同じじゃないか、大丈夫かよディレクター……。

 まあ、そもそもT県ローカル番組にあまり大層なものを求めても酷なことかもしれない。毒にも薬にもならない番組を流し見しながら、映画制作ノートを広げる。今回、撮影しなければならないのは全部で九八二カット。

「今まで撮れたのが一一二カットだから……」

「結構撮れてんじゃん」

「ってもこれは風景とか、インサートショットも含めた数だからな」

 インサートショットというのは、シーンとシーンの間に繋ぎとして入れる、カットのこと。主に空や建物の外観といった静物画が多いので撮るのは比較的楽だ。

「まだ妖怪は一反木綿しか撮ってないしな」

「ああ、あのシーツな」

「シーツ言うな、シーツ」

 恐らく、撮るのが大変なシーンは準備もかかるので、どんどん後に回っていくだろう。そう考えると、決して順調な撮影ペースとは言えない。まあ、だからこうしてわざわざ夜通しの作業をするわけだが。

 俺たちはこれから、ボス妖怪の着ぐるみを作らなければならない。古い物が妖怪化した九十九神というのがコンセプト。だからガラクタが寄せ集まった怪物というイメージ画を描いたのだが、実際に作るとなると中々うまくいかない。途中まで出来たものを赤夏に見せると、案の情顔をしかめた。

「鵲、こりゃどう見てもゴミだろ」

「ううむ……」


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 たしかに……大きな布を袋状に縫い会わせ、いらなくなったものをひっつけていく。それを人間が被れば、デザイン通りになるはずだったのだが……。これではガラクタ妖怪ではなく、ほんとにガラクタだ。

「これをこれから本物っぽくする為に、わざわざお前を呼んだんじゃないか」

「いっそ、作り物って設定にすっか。何かであったろ、森に現れる怪物は実は着ぐるみ着た人間だったって」

「シナリオが変わるから却下。それにそのネタは禁じ手だ」

 実は全部作り物の偽物でした、というのは夢オチと同じくらいしらける、やってはならないラストらしい。まあ、にも関わらず、最近でもそれをやった監督はいたけど。

「いいか、赤夏。『エイリアン2』にでっかい女王エイリアン出てきただろ?」

「ん?  ああ出てきたな」

「あのエイリアンの外観はゴミ袋でできてんだよ」

「え、マジで?」

「黒いゴミ袋を骨組みに巻き付けたり、千切って垂らしたりして作ったってテレビでやってた。照明暗くしたりすると本物っぽく見えるんだな、これが」

 暗い照明、怪物の全体像が見えない、急に飛び出してきて脅かし、すぐに隠れるというのは、低予算のホラー映画等では常套手段だ。モンスターがちゃちいのを見抜かれない為の。

「だからやりようによっては何とかなるはずだ」

「じゃあ、まずはこれを怖く見せるにはってことだよな、うーん……」

 ゴミの塊にしか見えない物体を前にして、思考を色々とめぐらせる。

「しかし、こうやってると昔を思い出すなぁ」

 工作をするなんて小学校以来だ。二十歳越えて部屋で二人してガラクタで怪物を作ることになるとは思いもしなかった。

「うん、そういや学校の図工でよくこんなんやったな。鵲はプラモとかゴジラ持ってって怒られてたよな」

「いや、あれはおかしいだろ。何でも自由に作っていいって言ってたのによ。俺はゴジラのジオラマ作るつもりだったのに」

「俺も墓場とゾンビとバラバラ死体作ってたら怒られたし。わけわからん」

「まったく、洒落のわからんクズ共が」

 命を何だと思ってるのかとか、不謹慎だとか、ホラー映画や怪獣映画を真っ向から否定する暴論だ。まあ、怪獣のジオラマで、兵士の人形の首もいで血しぶき飛ばしたり、市民が踏まれたりとか作ったのは少しやりすぎだったかもしれんが。それにしても所詮作りものだ。ガメラ3ではガメラが吹いた火炎で人間黒焦げで吹っ飛んだり、踏みつぶされたり普通にしてたし。

 まあ、未だに妖怪ホラーとか作ってるわけだから、俺も赤夏もあの頃から精神年齢はさして変わってないらしい。

 まさに三つ子の魂百までというやつだな。


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 私は、あの人の声を聞くたび、あの人の楽しそうな話を聞くたびに憂鬱になる。

 決してあの人が嫌いなわけじゃない。ただ、あの人みたいに楽しいことって、私にはないから。自分の好きなことに打ち込み、仲間たちに囲まれて……そんなあの人が羨ましい。あの人と仲良くしている皆が羨ましい。

 私もその和の中に入りたいのに、入れない……。あの人は私を受け入れてくれると思う。でも、やっぱり怖い……私が近付いたら、あの人は掌を返したように拒否するのではないかと。

 私は、こんなに駄目な人間なんだから……。



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