目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「なんじゃ。銃撃てるぞ? パァンって」

 あのなぁ……猟銃免許ない俺が撃ったらまずいだろ。

「昔はけっこう行っとったけどなぁ。わしの友達が、一人、山で死んでのぉ。あの馬鹿は……まあ、なんとなく久しぶりに行ってみようかな思ってな。お前も来いや。こっそりやったらばれんばれん。わしが撃ったことにすればいいから」

 なんて人だ……この親父はどうも自由人すぎて困る。こち亀の両津勘吉やじゃりん子チエのテツとかが好きらしいが、普通の人なら漫画で読んで笑って終わるところを、両津みたいな生き様を現実にやってきているのだ。他人から見れば面白いし、人気もあるだろうが、身内からしたらたまったもんじゃない。

「ただいまー……お父さん、またこんな時間からお酒飲んで!」

 親父より少し遅れて帰ってきた母親が口をとがらせる。

「なんや、固いこというなや」

「ああもう、体壊してもしらんからね!」

 ぶつくさ言いながら、買い物袋を台所に運ぶ母。まったく、母の言う通りだ。帰ってくるなり、酒を煽るとはアル中直前なんじゃないだろうか?

 音もなく居間のドアが開いた。友希英が無言で入ってくる。

「おう、今まで寝とったんか?」

「起きてたから。部屋にいただけで」

 そっけなく親父に答える友希英。顔つきを見る限りたしかに寝起きではなさそうだ。となると、下に降りてこなかったのは俺のせいか……さっきから俺と目を合わせようとしないし。

「なあ、友希英たん」

「……何?」

 チラリとこちらを一瞥し、明らかに不機嫌そうに言う友希英。

「今日は一日どうしてたの?」

「部屋で絵描いてた」

「珍しいな、いつもはここで描いてんのに」

「あたしの勝手でしょ」

 そう言って、俺のことを睨みつける。もうかまうなというオーラ全開で、それ以上話しかけることはできなかった……。


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「どうしたの?  元気ないよ」

しゃがんでる俺の背中にどかっと乗り掛かってくる瑠璃。

「暑い……」

「ああ、迅君酷いー」

 だが、暑いものは暑い……海風がそよいでいるとはいえ、気温は三十度越えの夏まっただ中なのだから。後ろの方で赤夏と外原が渋い顔でこっちを見ている。

 俺たちが今いるのはY市の湊山公園。勿論撮影の為である。海に面した公園の沿道が、ヒロインと恋人が語り合うシーンにぴったりだったのだが……。

「悪いな、ちょっと寝不足でさ」

 そう、昨日は友希英のことを気にして眠つけなかった。結局、二日連続でろくに寝てないことになる。

「何だぁ?  どっかの誰かと夜の仕事に励みすぎたか?」

 笑いながら俺の頭をはたく外原。この男には品性というものがないのだろうか?

「アホか……妹とちょっとな」

「何っ? 相手は妹だと?  それはさすがにまずいぞ」

「殺すぞ、ハゲ」

「ハッハッハ、怒るな、怒るな」

 手にしたペットボトルの水をラッパ飲みする外原。この男には反省がないらしい。赤夏は相変わらず、細めた目で傍観者的に見守っている。

「どうでもいいけど、よく水飲むなお前」

 外原の手にしているペットボトルは二リットルサイズ。しかも凍らせた予備を他に二本持ってきている。

「ああ、俺水飲んでないと駄目なんだよ。干からびちまうから」

「干からびるってな、おい……」

 そういや、こないだの撮影のときもずっと水飲んでたな、こいつ。

「あんま水分とり過ぎても体に悪いぞ」

「大丈夫、大丈夫。俺、そういう体質だから」

「あっそ……」

 本人が大丈夫って言ってるんだからまあ大丈夫だろう。しかしこうも暑いと撮影も進まん。前回は森だったから日が遮られてたが今は直射日光がモロに降り注いでくる。本日の撮影予定は十二カットだが、今現在で撮り終わったのは三カットのみ。

「さて……続きいきますか」

 いつまでも座り込んでてもらちがあかんし。よっこらせと立ち上がり、上半身をブンブン振って気合いを入れる。

「よしっ! 次のカットは……これだ、瑠璃があそこに座って待ち合わせしてるとこ」

 絵コンテを指して、座る位置やポーズを指示する。

 ふと、瑠璃の足元に一匹の黒猫が擦り寄ってきた。俺は触りに行きたい衝動に駆られるが、ここはぐっと我慢する。今は撮影中だ、公私を混同してはいけない。

 瑠璃の方のスタンバイができたら次はカメラだ。

「どうだ?」

「こんなもんかな」


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 一応、チェックの為にカメラを覗いてみる。うん、ちゃんと絵コンテに描いた通りに仕上がって……。

「ん?  ちょっとピントずれてない?」

「そうか?」

「瑠璃の辺りがピンボケっぽいんだけど……」

 右足から擦り寄ってる猫にかけてがかなりぼやけて見える。ピントをいじってみるが、どうも上手くいかない。顔は綺麗にくっきり写っているのに、その部分だけはどうやってもぼやけたままだ。猫はどうでもいいのだが、瑠璃がぼやけているのはいただけない。

「どれどれ、見せてみ」

 俺からカメラを取り上げ、ファインダーを覗く赤夏。

「んー、べつにピンボケしてないじゃん」

「は?  肩のあたりだぞ?」

「うん、大丈夫だぞ?  ほれ」

 いや、そんなはずはない。たしかに目に見えて画面がボヤけてたはずだが……。

「あれ?」

 ほんとだ……特にピンボケというわけでもなく、瑠璃の全身はちゃんとはっきりと写っている。

「どうしたのー?」

 待たされている瑠璃が、心配そうに言う。

「いや、問題なかった」

 さっきはどうあれ、今ちゃんとしてるなら良いか。俺の見間違いかもしれないし、微妙に動かしたときに合ったのかもしれない。いつの間にか猫も離れていた。わざわざ追い払うのも気がひけたからちょうど良い。さっさと撮影を終わらせてしまおう。

「はーい、じゃあ本番行きまーす!  三、二、一、スタート!」

 しかしまあ、世の中思う通りには中々いかないもので……早く終わらせたい俺たちの思いとは裏腹にスケジュールは圧して結局、予定カット終了したのは夕方六時頃だった。まあ、無駄に時間がかかったのは、暑いからとだらけながらやってたせいなので自業自得なわけだけど……。

 撮影終了後、Y市在住の瑠璃と外原はそのまま帰宅。俺と赤夏は、帰りに晩飯を食っていくことにした。

「さーて、どれにするかな」

 テーブルに着くなり、さっとメニューを広げる赤夏。

ビーフカレー、ポークカレー、チーズカレー、ハンバーグカレー……そう、ここはカレー専門店。赤夏は無類のカレー好きなのだ。三日くらいまでなら三食カレーでもいけると、以前言っていた。

「お前はどうする?」

「ん?  そうなぁ……」

 いつもなら俺はチーズカレーと決まっている。だが今回は、通常メニューとは別に挟んである、期間限定特別メニューとやらに目が留まった。

「この黒いイカ墨カレーってどうだろ?」

「うお、何か凄い色だな」

 メニューに着いてる写真、真っ黒なカレーはかなり異彩を放っている。イカ墨と数種類のソースをブレンドした特別仕様のルーだとか。見た目だけで言えばまるでヘドロのようだ。


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「よし、俺はこれにする」

「チャレンジャーだな、おい」

「昔、小一くらいの頃、イカ墨ポテトチップスってのがあったよな」

「あったっけ?」

「ほんと、真っ黒なポテチで食べた後は口も手も黒くなってな。めちゃくちゃ美味かった記憶があるんだが、期間限定だったから今じゃどこにも売ってない」

「ふーん」

「だから期間限定のイカ墨と聞いちゃあ放っておけん」

「まあ、よくわからんがイカ墨カレーな」

 うむ、自分でもよくわからん理屈だ。

「じゃあ俺はこっちの、あさりカレーにしよ」

 あさりカレー、これも期間限定だ。やるな赤夏。

 呼び出しスイッチを押すと、十秒ほどで中年の店員がやってきた。こちらの注文を聞き、丁寧に復唱する。

ここの店員は基本アルバイトだったはず。この年でカレー屋でバイトとはリストラでもされたのだろうか? 結婚しているなら、妻子を養うにはかなり厳しかろう。独身であれば、この歳でアルバイト生活となると結婚は難しい。この、まったくの他人であるおっさんの人生を考えると少し哀れになった。だが、それは未だ就職の目処のついていない自分自身の将来にもなりえること……うん、マイナスなことを考えるのはやめよう。

 しばらくすると、トレイに乗せられて二つのカレーが運ばれてきた。香辛料の匂いが鼻につき、食欲を刺激する。

 イカ墨カレーはその外観に似合わずコクがあって美味い。期間限定などにせず、レギュラーメニューにすればいいのに。まあ、美味いものが今しか食べられないというのが客の購買意欲をそそるという店側の戦略なのだろうけども。

「そういや、赤夏……」

「ん?」

「うちの親父が子供の頃、水死体を見つけてな。その日の晩飯がカレーだったらしいが、グチャグチャの死体を思い出して食えんかったらしい」

「お前、わざわざ今そんな話をするか? する必要があるのか?」

「いや、カレーで思い出してな」

「まったく、悪趣味な男だ」

「『悪趣味の本』の愛読者ですから」

 鞄から本を取り出してテーブルに置く。古本屋の百円コーナーにあったのを衝動買いしてしまった。その名の通り、世の中の悪趣味をルポしてまとめた本だ。

「ガラスとか釘を食べる連中の対談とか、小人プロレスとか、アダルトビデオ撮影現場ルポとか、寄生虫博物館が出来るまでとか……」

「あー、聞いてるだけで食欲を削がれる」

「そうか。こういう無意味に変な話、好きだけどな。こないだ読んだのは、降霊術師が三島由紀夫の霊を呼び出して……」

「三島由紀夫なんてただのホモじゃねぇか」

「ただのホモではない!  偉大なホモだ」

 べつに三島由紀夫信者ってわけじゃないけどね。

「三島由紀夫は自衛隊員に必死で訴えかけた。それなのに、それが昼飯時だったから飯が食えないと自衛官たちから猛反発を受けて、誰からの賛同も得られず、最後には割腹自殺したんだ。まさに悲劇の人じゃないか」


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「むしろ喜劇の人だろ」

 ちなみに上記の話はネットで仕入れたものなので、どこまで事実かわからん。でもうちの親父とか見てると、さもありなんって感じだが。

「『殺人鬼カード』ってのも載ってたけど、これちょっと欲しいなぁ。世界の有名な殺人犯をトレーディングカードにしたやつ」

「いらねえよ……」

「そうか、俺はそういうの大好きだけどな」

 うちの納戸には猟奇殺人のプロファイリングや、犯罪者の手記、拷問の本等が多数ある。こういう、人間の負の部分や暗黒面に強い興味を持つ者を“GOTH”というらしい。俺やうちの母親などは完全にこのGOTHに分類される人間だろう。

「そういや、S市でも何か事件あったらしいな、昔」

 赤夏のスプーンが止まる。

「あれな……うちの近所だった」

「……マジ?」

 S市は数時間あれば自転車で一周できるくらいの広さしかない。その中で事件が起きたとなると、近所である確率は決して低くはないが……。

「俺、全然知らんかった」

「お前、一回引っ越してるだろ?  小学校のとき。あんとき離れてたじゃん」

 たしかにうちは一度、引っ越しをしている。今でこそ赤夏と俺の家は徒歩でも行き来できる程度の距離だが、あの頃はかなり離れていた。また、悲惨な事件のことは子供にわざわざ教えないだろうし、ニュースなんて見ない幼稚園児の頃では事件を知らなくても無理はない。

「よく覚えてないんだけどな。何か警察の聞き込みとか、テレビの取材とかしょっちゅう来て、親父がキレてたのは記憶に残ってる」

「そりゃ大変だな……」

「保育園だったからな、あの頃。もう怖くて怖くて、夜も寝れんかったわ。だから未だに殺人事件とか苦手なんだよな」

「ああ……それは、すまんかったな……。でもそんなに怖かったのか?」

「だってあれ、事件がエグいからな。旦那は心臓一刺しで、奥さんは首切り落とされてたんだぜ?  寝てる間に犯人が部屋入ってきて、刺されたらどうしようって。布団に潜り込んで、怖くて足も出せんかった」

 まあ、五、六歳の子供なら無理もないだろうな。首切り、心臓を刺す、惨殺……言葉だけでもショッキングなのに、それが近所で起きた現実なのだから。

「今でも、実家で夜寝てると無性に怖くなることあるしな」

「おいおい、そりゃもうある種のトラウマだな。何年前の事件だよ」

 ほぼ空になった皿の残りを、スプーンでかき集める赤夏。最後の一口を食した後に、コップの水を飲み干す。そしてこちらを真っすぐ見据えてこう言った。

「犯人、まだ捕まってないからさ」

 コップに残った氷がカラリと鳴った。



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