目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「ちょっと寄ってみるか」

「ああ」

 ガラス戸の干からびた木枠に手をかけて横に引くと、ギシギシと軋む何とも言えない嫌な音が……本当に大丈夫なんだろうか、この店は。

 小汚い外観とは裏腹に、店内は狭いが案外に綺麗だった。薄暗い店を天井の裸電球と、棚に並んだステンドグラスのスタンドが照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。もしかしたら、これはこのファンタジーに出てきそうな小物、雑貨を売るための売り場演出なのかもしれない。たぶん違うだろうけど。

「おお、これ良いな。千二百円だって、買おうかな」

 首が沢山ある蛇が巻きついたデザインの小物入れを手に、赤夏がはしゃいでいる。ほんと、この男はファンタジー系が好きだな。

 髑髏の装飾が施された懐中時計、鉤十字の刻印がしてある指輪、鷹のペンダント……実用品というよりは装飾品としての物を扱う店らしい。凝ったデザインの割りに、値段は千円~三千円と手頃だ。友希英に買っていってやろうか、あの娘もこういうの好きだったし。

 アクセサリーの棚を見ていると色々と目移りしてしまう。友希英の趣味で考えるとどういうのが喜ぶだろうか? あまりゴテゴテしたやつよりもスッとした感じのやつの方がいいかもしれない。シンプルで、それでいてさりげなく目に付くもの……。

「すません、これいくらですか?」

 棚の奥、一つだけ置いてあったブレスレットを手に取り、店の老人に尋ねる。綺麗な青いガラス玉に銀の蛇が巻きついた物が連なったデザイン、細かいところまで作りこまれた装飾は美しく、それでいてシンプルで嫌味な感じはしない。洋風の小物が多い中、一つだけ和風テイストなデザインだったのも目を引いた。

何より惹かれたのはその輝きだ。何だかわからないが、吸い込まれるような魅力がある。もしかしたら、ガラス玉でなくて本物の宝石ではないかと思ったほどだ。だが値札に書いてある数字はわずか千五百円。これは買うしかない。

「すいません、これ下さい」

「ああ……はいな」

 黄色く濁った白目がこちらを見上げる。気持ちの悪い爺さんだ……ほんとに生気がなく、なんというか死体が動いてるような感じがする。口は常に半開きだし、焦点の合わさらない視線はどこを見ているのかわからない。骸骨のような指が、蟲の足みたいにカサカサと小刻みに動きレジを打つ。

もしかしたら半分、ボケてしまっているのかもしれない。禿げ上がった頭に出来た染みは悪魔の笑みのような形に見える。

この不気味さは赤夏も感じたらしく、買おうとしていた蛇の小物入れを棚に戻して、戸口のところで待機している。一刻も早くここを立ち去りたいらしい。それには俺も同感だ。店を後にしようと、戸口に手を掛けたとき、背後から蚊の鳴くような老人の声が聞こえた。

「……気をつけろや」

 一体何に気をつけろというのだ、この商店街で。振り返って軽く会釈すると、俺たちは足早に店を立ち去った。

「何だよあのジジイ……」

 店を出てからの赤夏の第一声がこの暴言だった。俺は、聞こえているはずないとわかっていながらも老人の店の方を振り返りびくびくする。

「あれはヤバイな。俺、金払うとき怖かったもん」


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 まあ良い物が買えたし、よしとしよう。あの爺さんさえいなけりゃまた行きたい店なんだが。

「どうでもいいけどお前、そのブレスどうすんだ?」

「ん?  プレゼントだよ」

「誰にだ?  瑠璃ちゃんか?  真尋さんか?」

「アホか、友希英たんにだ」

何でここでその二人の名前が出てくるんだよ。

「何だ、いつものシスコンかよ」

「シスコン言うな」

「妹をたん付けで呼んでる時点で充分にシスコンだ」

……まあそれはあれよ、呼び方なんて人それぞれじゃないですか、ね?

 とまあ、そんなくだらない話をしているうちに商店街アーケードの出入口までたどりついた。そう、思わぬところで寄り道をしてしまったが、当初の目的はここに来ることだった(まあ、暇つぶしも目的の一つだったが)。

 アーケード横にある小さな店舗がベース模型だ。外観はさっきの爺さんの店と似たり寄ったりだが一応潰れてはいないらしい。弱小の店なのに何故か消費税はサービスで、小中学生くらいの頃はよく来たものだ。

 引き戸を開けて、店内に入ると所狭しと並んだプラモデルやエアーガンが目に入る。奥のカウンターに座っている店主がこちらに視線をやる。このおっさん、商品探しの間ずっと見つめてくるのでどうも落ち着かない。中学生くらいの頃はそれが少し怖かったが、さすがに今となってはそこまでの気持ちはない。さっきの爺さんに比べたら、ここの店主なんてチワワみたいなものだ。

 それに何だか俺の知るよりも、やつれて小さくなったような気がする。いや、俺が大きくなったのか。記憶に残る中年の店主はもっと力強い男だったが、今は初老に差し掛かり髪も白くなってしまった。一極集中の興行政策、高齢化、金銭こそが絶対の資本主義社会、そんな時代の波の中で緩慢に消え行く運命なのだろう。しかしそれも社会を維持するための尊い犠牲。

「おお、ザクだ、ザク!」

 俺の思考などよそに、ガンダムのプラモにガキのようにはしゃぐ赤夏。ま、これが正しい姿勢か、自分に関係ない問題をあれこれ考えることほど無駄なことはない。

「そういやお前、何買うん?」

「えっとな、シナリオの後半でナイフで戦う場面あるだろ。さすがに本物は使えんからさ」

 戦車や戦闘機のプラモデルの棚、かなり下の方に押し込むような形でそれはあった。

 等寸台のプラスチックナイフ。各国の軍が使用してるコンバットナイフを模したもので、主にコスプレ用。本物は値段が張るし、公式イベント等では刃物持ち込み禁止のところも多いので、気分を味わいたいサバイバルゲーマーや軍装コスプレイヤーが腰に吊るしたりしている。基本的に子供が欲しがる類のものじゃないので置いてあるか不安だったが、小さな店の割りにちゃんと大人向けおもちゃのラインナップも揃えている。

「これの刃にアルミホイルとか貼ればそれなりに見えるだろ」

 作中には、田舎猟師相手のガンアクションもあるので、猟銃のモデルガンもないかと探してみたが、さすがにこれはなかった。ま、ガンマニアが欲しがるのはカッコいいアサルトライフルやマシンガン、ショットガン等だからダサい猟銃なんてそもそもメーカーが発売してないだろう。家に昔買ったショットガンがあるのでそれで我慢しよう。

 ナイフのプラモ二箱を引っ張り出したとき、金属性サッシの擦れる音が。がたのきた引き戸の奏でる不協和音と共に、サングラスをかけた外国人が入ってくる。肩まで髪を伸ばし黒いジャケットを羽織った、見るからに怪しいその男は、狭い店内で大柄な身体を窮屈そうに丸めて俺のいる棚の反対側に歩いていく。俺よりかなり高い棚の上部から、頭の先が見えている辺り、相当の長身だ。


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 赤夏が俺の方に足早に駆け寄ってくる。そういえばガンダムのコーナーはここの裏だったな……てことは、あの外人はガンプラを買いにきたのか? まあ、日本のアニメは海外でも評価は高いし、趣味は人それぞれ、国籍も関係ないが。

 俺も赤夏も背が低く、小柄な部類に入る。だからどうもでかい人間が近くにいると落ち着かない、妙に圧迫感があるし上から見下ろされているというのは潜在的な嫌悪を煽る。この狭い空間にでかい外人と押し込まれているというのは、あまり居心地が良いものではないので、さっさと会計を済ませエース模型を後にした。

「オー、ザクー、ザクー!」

店を出る瞬間、背後から聞こえた声に思わず振り返ってしまう。あの外人がザクのプラモを片手に何やら興奮しているところだった。

「お前と同じ趣味だな。声かけてこいよ」

「ぜってー、やだ……」

 ま、そうだろうな。

 同窓会場、居酒屋「へぷし」の前にはすでに数人の参加者が集まっていた。どれも見たことのある顔、S市二中の同級生たちである。

 あの後、駐車場に戻りY市まで直行。同窓会開始時刻にはまだ三十分ほど早い時間に到着したはずなのだが、皆、気の早いものである。

「おー、久しぶりー」

 車から降りる俺たちの姿を見つけ、幹事の松田竜太がやってくる。

「今どうしてるん?」

「鉄工所に就職してな。毎日、赤い鉄と戦って火傷してるよ」

 そう言って竜太はバンソーコーを巻いた指を見せる。五年振りに会ったはずなのに、顔はおろか髪形さえ変わっていない。ただ体型だけは、中学時代はやばいくらいに太っていたのに、今はぽっちゃり系という程度になっていた。ダイエットに成功したのか鉄工所で肉体労働をしている賜物かはわからないが。

 竜太の他にも懐かしい連中が何人も。中学時代から全然変わってない奴、少し見ない間に大人っぽくなってる奴、変わりすぎて誰かわからなかった奴、色々だ。一番ショックだったのは、あの頃は俺や赤夏より十センチは背が低かった人が、俺たち十センチ以上高くなり上から見下ろされたことだが……。

 ある程度参加人数が集まり、十八時半になったところで店の中へ。店員さんに案内され、奥の宴会室にぞろぞろと列をなして進む。

 二十畳程度の部屋を襖を取り払って、二つ繋げた場所へ案内された。ほほう、中々いい場所を借りてるじゃん。人付き合いの少ない俺は飲み会といっても、せいぜい数人で小さな居酒屋でというのしかしたことないから、けっこう驚きだ。

「まことに申し訳ございませんが、こちらのお部屋もご利用ください」

 店員が廊下を挟んだ、小さな六畳間の襖を開ける。

 俺たちの学年は確か全部で百二十~三十人、広い会場とはいえ全員収容するにはわずかにスペースが足りなかったらしい。

「どっち行くよ?」

 問いかける赤夏。他の皆はぞろぞろと大広間の方に入っていく。瞬く間に席がうまってギュウギュウ詰めに。

「小さい方、行こう。あっち狭いし」

「そうだな」

 フッ、馬鹿共め。狭いスペースを避けるため広い部屋に行き、余計に窮屈な目に遭うとは。それに俺は大人数でわいわいより、少人数で内輪の盛り上がりの方が好きだし。


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 案の定、六畳間に行きたがる人は少なく、部屋には十人ほどしかいない。してやったりぃっ!

 席が埋まるなりさっと襖を閉める。これで人数過多になった向こうから人間がなだれこんでくることを防げる。

 若干、背筋に震えが走った。狭い部屋なので、エアコンが効きすぎているのかもしれない。外は暑かったのに……こういうのは体に悪そうだ。

「鵲君、お久ぁ」

「おお、高橋君、久しぶりやね」

 向かに座っている高橋亀雄(たかはしかめお)は俺や赤夏と同じ剣道部員だ。といっても、興味半分で始めた俺たちと違って真面目な部員だったけど。

凹凸に乏しい顔で、無表情に口元だけで笑う高橋。ベッタリとした髪と相まって、能面のようだ。

「卒業してから全然会ってなかったもんな」

「俺はけっこう会ってたけどな」

 そう言う赤夏。高校は俺だけY市の学校で、赤夏はS市の工業高校に進学したから、こいつの方が卒業後もS市内の同級生との付き合いが多い。まあ、性格的なものもあるだろうが。

「今は二人とも大阪いるんだよね?」

「うむ、一応映画の学校行ってる」

 周囲から、「おおー」とか「凄ぇ」といった声が上がる。ま、特殊な業界ですからね。

「そういやさ」

「ん?」

「シルバームーンってまだ撮ってるの?」

 予期せぬ言葉に、飲みかけていたお茶を吹き出してしまった。赤夏の方を見ると、こいつも苦笑いと驚きの混じったような顔でこちらを見ている。

 月光戦士シルバームーン、それは俺たち二人が初めて撮影し、世間に公開した自主制作映画だ。いや、おそらく真面目にやってる人からしたら映画と言える代物ではないだろう。デジタルビデオで撮影した一話、三分程度の動画で、百円ショップのパーティーグッズや、エアーガン、木刀等を使った変身ヒーローもの。タイトルは主人公が銀色の月の仮面をかぶっているのが由来。

ひきこもりでオタクの主人公が、シルバームーンに変身して奇人変人共と死闘を繰り広げ、ときに間違えて善良な市民をやっつけてしまうというドタバタコメディ。インターネットを通じて公開したのだが……。

「な、何でシルバームーンを知ってるの?」

「だって俺、ダウンロードして見たもん」

 ……うかつだった。いや、インターネットで公開する以上、不特定多数に晒すのは覚悟の上だったが、まさかリアルの知り合いに見られるとは思っていなかった。身近な人間に視聴されると猛烈な恥ずかしさが……かなり狂った演技・ストーリー展開だったし。ある意味、一番自分たちの好き勝手をやった作品だったけど。考えてみると、あの頃が最も楽しんで映画を作っていた時期かもしれない……それでも恥ずかしいことに変わりはないが。

「どうでもいいけど、食い物っていつくるんだ?」

 違う話題を振って話を逸らそうとする赤夏。ナイスだ。

「そういやもうだいぶたってるよな。七時半だし」

「何か、向こうの方で参加費の徴収とかで揉めてるらしいよ」

 まったく、何やってんだか……まあ、向こうは百人以上の大所帯だからな。小部屋グループは人数少ないから皆すぐ出して幹事の竜太に渡したんだが、あっちは金集めるだけでも一苦労だろう。そこから計算だなんだしてたら、そりゃ時間もかかるというものか。


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「ま、適当に待っときましょうや」

 時間はたっぷりある、皆久しぶりに会ったのだから楽しくやっておこう。

 ……それからさらに一時間あまりが経過した。時刻はすでに八時半を回っている。最初は懐かしさや、卒業後の身の上話で盛り上がっていたのだが、さすがにネタも尽きてきて話すこともなくなってきた。そもそもにして、わざわざ小部屋にくるようなメンバーなので、俺を始めとして皆、話下手で盛り上げ役というものが存在しない。

「腹減った……」

誰となく呟く声がする。この言葉は一時間のうちに十回は聞いた。そう、まだ料理がきていないのだ。鉛色の沈黙と気まずさに加え、飢えが俺たちを襲う。

 遅い、あまりにも遅すぎる。まさかまだ参加費でごたついてるってことはあるまい。いったい何をしているんだ、この店は?

「お、あっちは来たみたいだぞ!」

 赤夏の言葉に、一斉に顔を上げる部屋のメンバー。誰一人言葉を発することなく、じっと耳をすます。

 聞こえる、たしかに聞こえる。襖越しに、喜びの声を上げる人々のざわめきが。向こうには料理が運ばれてきたんだ。ということは……。

「すいません、大変長らくお待たせいたしました」

 キターッ、長らくお待たせどころじゃないぜ。会場到着、第一号は豚カツの盛り合わせだ。皿が卓上に置かれた瞬間、飢えた獣と化した十人が一気に飛びかかった。

死肉に群がる烏のように無数の箸が肉を啄む。ものの十秒足らずでで、皿の上は空となった。

まだだ、まだ足りない……! 飢えた俺たちの欲求を満たすべく、次々と運ばれてくる料理の数々。刺身、キムチ鍋、フライドチキン……互いに奪い合い、汁を啜り、肉を喰らう。その姿は人に非ず、餓鬼道に落ちた畜生そのもの。全ては一瞬にして無残に消え去った。

 最後に運ばれてきた若鳥のカツを食い散らかしたところで、メンバーの箸はようやく止まる。さすがに大きな皿数個と鍋を一気食いしたら多少腹もはり、落ち着きを取り戻した。まったく、とんだ同窓会だ……。

「ハロハローッ、元気してるー!?」

 いきなり襖が開け放たれ、甲高い金切り声が耳をつんざく。その場の全員が、凍りついた。俺たちの視線の先には、身長目測百五十センチ程度、そして体重はどんなに少なくみつもっても八十キロはあるであろう、酷くバランスの悪い女が立っていた。

 俺はこいつを強く覚えている。山淵磯良(やまぶちいそら)、同じクラスだった。何せこの強烈なビジュアルは忘れようがない。糸のように細く、その上窪んだ目。鼻はさながら大魔神のような恐ろしい作りで、唇は普通の人の三倍は厚さがある。山淵はその上に毒々しい紫のルージュを引いていた。ニキビの痕に埋め尽くされた土色の肌はまるでひび割れた土偶のよう。

 黒いパンク風の服を身にまとっているが、似合うとか似合わないというレベルではない。腕にはめたトゲが付いたブレスは、本来ならお洒落なのだろうが彼女がはめてると北斗の拳のモヒカンか何かのようだ。中学時代から変わらないお下げの三つ網はぶっとい登山用ロープを頭から吊るしているみたいだ。このビジュアルと年齢にして、このファッション、美醜とかそういう問題を一億光年は通り過ぎている。最早、救い難い。

「あーっ、懐かしい。皆、元気にしてたぁ?」

 やたらハイテンションで、一オクターブ高い声を発する山淵。よくある声優さんの営業ボイスみたいなやつ? 本人はそのつもりなんだろうが、俺には奇声にしか聞こえなかった。高橋だけは例の無表情な笑顔を投げかけているが、他の連中は明らかに引いている。 



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