目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「は? ぜってぇ教えねえ」

「何でだよ、ネットストーカーが」

「誰がネットストーカーだ……ってうおっ!」

 突然、身体が宙に浮き、前に吹っ飛ばされる。なんて乱暴な急停車だ、シートベルトをしていなければダッシュボードに頭をぶつけていた。

「危ねえな、何だよ」

「ほれ、到着だ」

 悪びれもせずにキーを抜く赤夏。たしかに、窓の外には久しぶりに見る妖怪ロードの風景が広がっている。

「ったくよ……」

 不満はあったが、こいつにこれ以上言ってもしょうがない。それは十年来の付き合いで重々承知だ。そもそも模型店までの足として呼び出したのは俺だったしな。

 S市駅前の駐車場に降り立つと、少し驚かされた。最後にきたときは小学生くらいだったので記憶がさだかでないが、それにしても俺の知る駅前通りよりもはるかに綺麗に、豪華になっている。

「ここって、こんなんだったか?」

「ああ、何か観光客増えるにつれて色々やってるらしいよ。ここのおかげで市はかなり潤ってるから観光事業にはいくらでも金出すんだと」

 そうなのか……潤ってるという割にはどうも俺たち庶民としては生活レベルの変化は感じられなかったが。観光事業も良いが、少しは地域住民の方にも還元して欲しい。

 S市の繁栄は妖怪ロードの一極に集中し、他の地域は畑と墓場に囲まれているのが現状だ。おかげで模型店に来るのにも自転車を小一時間こぐか車を使わなければならない。

「さてと、じゃあベース模型まで観光しながらぶらぶらと行きますか」

 俺たちの目当ての店、ベース模型は残念ながら妖怪ロードには入れていない。ロードを抜け、その先の商店街のさらに端っこにある。おかげで妖怪ロードの恩恵には預かれず、いつ潰れてもおかしくない。てかまだ潰れていないかも疑わしい。

 それほどまでにこのS市の商業格差は激しいのだ。

 妖怪に取り入ったものと、そうでないもの……ここで生き抜くには妖怪に魂を売り渡すしかないらしい。この市は妖怪に取り憑かれている。まあ、妖怪の映画を撮っている俺たちも似たようなものか。

「久しぶりに来たけど、やっぱこの辺は人多いな」

「そうか?  俺はけっこう来てるからよくわからんけど」

 人が多い、と言ってもS市の中ではということだが。大阪の梅田や難波とは比べる余地もない。これで大きな観光名所となってるんだから、T県そのものが存続がかなり危ういのかもしれない。そういえば大阪で見るT県の観光案内といったら砂丘とこの妖怪ロードくらいしか見ないし……。

 そうは言ってもこの妖怪ロード、何だかんだで見ている分には楽しいところだ。小綺麗に開かれた道路の脇に立ち並ぶ妖怪のブロンズ像、久しぶりに見たがなかなか凝った作りをしている。妖怪ファンにはたまらないものがあるだろう。

「お、雷獣だ。案外顔は可愛いな」

 なにやら熊のような動物の像に目が行く。

 その先にあるでっかい頭だけのはおおかむろ。姿見れば名前までわかるのは、俺もS市で育っただけはあるな。ここで幼少期を過ごした者は、知らず知らずのうちに記憶の中に妖怪を刷りこまれているらしい。


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  目に付いた菓子屋で妖怪煎餅と目玉キャンディー(目玉を模した棒つきキャンディーで、舐めてるうちに白目がどんどん赤くなってくるという恐ろしい食べ物)を買い、頬張りながら歩く。

 妖怪菓子、妖怪グッズ、妖怪神社……それらの間を通り抜け(何でも妖怪ってつけりゃいいってもんでもない、と少し思う)、駅から徐々に外れるにつれ人影は少なくなり、妖怪ロードから一般の商店街に移った頃にはまったく人間の姿は見えなくなった。

「相変わらず寂れてるな、この辺りは」

 赤夏が呟く。たしかに店は並んでいるが、どれも古臭く、開いているのか閉まっているかすらわからない。どこからともなく吹き付ける風が古新聞を飛ばすさまがまたもの悲しさを助長し、まるでゴーストタウンのような有り様だ。これが妖怪から見放された人々の末路だとするならば、あまりにも悲しすぎる。

 ふと、この屍の街の一角に目が止まる。テンションの下がっていた俺の心は一気に踊り狂った。そこにいたのはこの荒廃した世界に咲く一輪の花、まるで疲れた現代人の心を癒すために生を受けたかのような愛くるしい生き物。

 猫だ!  小柄な黒猫が小汚い店先にちょこんと座りこちらを見ている。俺は滑るような足取りでニャンコのところに飛込んでいく。そう、刺激してはいけない、素早く、それでいて静かに猫の前に立ちはだかる。突然と目の前に表れた人間に、猫を身を縮ませ警戒心を露にした。

「にゃーにゃー、ねこたん、可愛いでつねー」

 俺が僅かに間合いを詰めると、ニャンコも一歩後ろに下がる。一人と一匹の間に緊迫した糸が張りつめた……焦ってはいけない、ここで彼女(彼?)の信用をとりつけ仲良くならなければ。はぁい、スウィート・ハニー、私と一緒に恋のアヴァンチュールを……。

「お前、またアホみたいなことを」

 赤夏の一言で、俺とニャンコの見えない赤い糸はプっつんと切れた。猫は縮めていた体の溜めを一気に解放し路地裏へと飛んでいった。

「赤夏ぁっ、貴様のせいでニャンコが!」

「何で俺のせいなんだよ!」

「お前が声を発して刺激を与えるからっ!」

「アホか、お前の奇行ですでに警戒心マックスだったろうが。自分の姿を考えてみろ、いい歳した男が猫とにらめっこして、人間だって逃げ出すわ」

 くっ、それを言われると辛い。俺だって、俺だって客観的に見て自分の行動がおかしいことくらいわかってる、でも、でも……ねこたんは可愛いんだもの!

 ……まあいい、これ以上騒いでいても店に迷惑だ。一見、潰れているようにも見えるが埃まみれのガラス戸越しにに人の姿が見えるから一応、営業はしているらしい。  

 こう言っては何だが、店と同じで今にも死にそうな爺さんだ。恐らく妖怪に見放された商店街共々、長くはないだろう。格差社会と高齢化社会の影、ここに有りか。

「あ、これ良くね?」

 赤夏が何やらショーウィンドウを指差している。見てみるとそこにはブロンズでできたドラゴンの置物が。目には真紅のガラスがはめ込まれており、大きな翼を広げている。

「やべ、ちょっと欲しいかも」

「ああ、たしかにかっこ良いっちゃかっこ良いけど……」

 かなり悪趣味にも見えるが、そこは口に出さないでおく。俺はどちらかというとその隣にある短剣に心引かれた。長さは三十センチ程度、洋風のこしらえで海賊が使っているようなタイプ。よく見ると店内にはそういったアンティークな装飾品が他にも沢山置いてある。


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「ちょっと寄ってみるか」

「ああ」

 ガラス戸の干からびた木枠に手をかけて横に引くと、ギシギシと軋む何とも言えない嫌な音が……本当に大丈夫なんだろうか、この店は。

 小汚い外観とは裏腹に、店内は狭いが案外に綺麗だった。薄暗い店を天井の裸電球と、棚に並んだステンドグラスのスタンドが照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。もしかしたら、これはこのファンタジーに出てきそうな小物、雑貨を売るための売り場演出なのかもしれない。たぶん違うだろうけど。

「おお、これ良いな。千二百円だって、買おうかな」

 首が沢山ある蛇が巻きついたデザインの小物入れを手に、赤夏がはしゃいでいる。ほんと、この男はファンタジー系が好きだな。

 髑髏の装飾が施された懐中時計、鉤十字の刻印がしてある指輪、鷹のペンダント……実用品というよりは装飾品としての物を扱う店らしい。凝ったデザインの割りに、値段は千円~三千円と手頃だ。友希英に買っていってやろうか、あの娘もこういうの好きだったし。

 アクセサリーの棚を見ていると色々と目移りしてしまう。友希英の趣味で考えるとどういうのが喜ぶだろうか? あまりゴテゴテしたやつよりもスッとした感じのやつの方がいいかもしれない。シンプルで、それでいてさりげなく目に付くもの……。

「すません、これいくらですか?」

 棚の奥、一つだけ置いてあったブレスレットを手に取り、店の老人に尋ねる。綺麗な青いガラス玉に銀の蛇が巻きついた物が連なったデザイン、細かいところまで作りこまれた装飾は美しく、それでいてシンプルで嫌味な感じはしない。洋風の小物が多い中、一つだけ和風テイストなデザインだったのも目を引いた。

何より惹かれたのはその輝きだ。何だかわからないが、吸い込まれるような魅力がある。もしかしたら、ガラス玉でなくて本物の宝石ではないかと思ったほどだ。だが値札に書いてある数字はわずか千五百円。これは買うしかない。

「すいません、これ下さい」

「ああ……はいな」

 黄色く濁った白目がこちらを見上げる。気持ちの悪い爺さんだ……ほんとに生気がなく、なんというか死体が動いてるような感じがする。口は常に半開きだし、焦点の合わさらない視線はどこを見ているのかわからない。骸骨のような指が、蟲の足みたいにカサカサと小刻みに動きレジを打つ。

もしかしたら半分、ボケてしまっているのかもしれない。禿げ上がった頭に出来た染みは悪魔の笑みのような形に見える。

この不気味さは赤夏も感じたらしく、買おうとしていた蛇の小物入れを棚に戻して、戸口のところで待機している。一刻も早くここを立ち去りたいらしい。それには俺も同感だ。店を後にしようと、戸口に手を掛けたとき、背後から蚊の鳴くような老人の声が聞こえた。

「……気をつけろや」

 一体何に気をつけろというのだ、この商店街で。振り返って軽く会釈すると、俺たちは足早に店を立ち去った。

「何だよあのジジイ……」

 店を出てからの赤夏の第一声がこの暴言だった。俺は、聞こえているはずないとわかっていながらも老人の店の方を振り返りびくびくする。

「あれはヤバイな。俺、金払うとき怖かったもん」


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 まあ良い物が買えたし、よしとしよう。あの爺さんさえいなけりゃまた行きたい店なんだが。

「どうでもいいけどお前、そのブレスどうすんだ?」

「ん?  プレゼントだよ」

「誰にだ?  瑠璃ちゃんか?  真尋さんか?」

「アホか、友希英たんにだ」

何でここでその二人の名前が出てくるんだよ。

「何だ、いつものシスコンかよ」

「シスコン言うな」

「妹をたん付けで呼んでる時点で充分にシスコンだ」

……まあそれはあれよ、呼び方なんて人それぞれじゃないですか、ね?

 とまあ、そんなくだらない話をしているうちに商店街アーケードの出入口までたどりついた。そう、思わぬところで寄り道をしてしまったが、当初の目的はここに来ることだった(まあ、暇つぶしも目的の一つだったが)。

 アーケード横にある小さな店舗がベース模型だ。外観はさっきの爺さんの店と似たり寄ったりだが一応潰れてはいないらしい。弱小の店なのに何故か消費税はサービスで、小中学生くらいの頃はよく来たものだ。

 引き戸を開けて、店内に入ると所狭しと並んだプラモデルやエアーガンが目に入る。奥のカウンターに座っている店主がこちらに視線をやる。このおっさん、商品探しの間ずっと見つめてくるのでどうも落ち着かない。中学生くらいの頃はそれが少し怖かったが、さすがに今となってはそこまでの気持ちはない。さっきの爺さんに比べたら、ここの店主なんてチワワみたいなものだ。

 それに何だか俺の知るよりも、やつれて小さくなったような気がする。いや、俺が大きくなったのか。記憶に残る中年の店主はもっと力強い男だったが、今は初老に差し掛かり髪も白くなってしまった。一極集中の興行政策、高齢化、金銭こそが絶対の資本主義社会、そんな時代の波の中で緩慢に消え行く運命なのだろう。しかしそれも社会を維持するための尊い犠牲。

「おお、ザクだ、ザク!」

 俺の思考などよそに、ガンダムのプラモにガキのようにはしゃぐ赤夏。ま、これが正しい姿勢か、自分に関係ない問題をあれこれ考えることほど無駄なことはない。

「そういやお前、何買うん?」

「えっとな、シナリオの後半でナイフで戦う場面あるだろ。さすがに本物は使えんからさ」

 戦車や戦闘機のプラモデルの棚、かなり下の方に押し込むような形でそれはあった。

 等寸台のプラスチックナイフ。各国の軍が使用してるコンバットナイフを模したもので、主にコスプレ用。本物は値段が張るし、公式イベント等では刃物持ち込み禁止のところも多いので、気分を味わいたいサバイバルゲーマーや軍装コスプレイヤーが腰に吊るしたりしている。基本的に子供が欲しがる類のものじゃないので置いてあるか不安だったが、小さな店の割りにちゃんと大人向けおもちゃのラインナップも揃えている。

「これの刃にアルミホイルとか貼ればそれなりに見えるだろ」

 作中には、田舎猟師相手のガンアクションもあるので、猟銃のモデルガンもないかと探してみたが、さすがにこれはなかった。ま、ガンマニアが欲しがるのはカッコいいアサルトライフルやマシンガン、ショットガン等だからダサい猟銃なんてそもそもメーカーが発売してないだろう。家に昔買ったショットガンがあるのでそれで我慢しよう。

 ナイフのプラモ二箱を引っ張り出したとき、金属性サッシの擦れる音が。がたのきた引き戸の奏でる不協和音と共に、サングラスをかけた外国人が入ってくる。肩まで髪を伸ばし黒いジャケットを羽織った、見るからに怪しいその男は、狭い店内で大柄な身体を窮屈そうに丸めて俺のいる棚の反対側に歩いていく。俺よりかなり高い棚の上部から、頭の先が見えている辺り、相当の長身だ。


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 赤夏が俺の方に足早に駆け寄ってくる。そういえばガンダムのコーナーはここの裏だったな……てことは、あの外人はガンプラを買いにきたのか? まあ、日本のアニメは海外でも評価は高いし、趣味は人それぞれ、国籍も関係ないが。

 俺も赤夏も背が低く、小柄な部類に入る。だからどうもでかい人間が近くにいると落ち着かない、妙に圧迫感があるし上から見下ろされているというのは潜在的な嫌悪を煽る。この狭い空間にでかい外人と押し込まれているというのは、あまり居心地が良いものではないので、さっさと会計を済ませエース模型を後にした。

「オー、ザクー、ザクー!」

店を出る瞬間、背後から聞こえた声に思わず振り返ってしまう。あの外人がザクのプラモを片手に何やら興奮しているところだった。

「お前と同じ趣味だな。声かけてこいよ」

「ぜってー、やだ……」

 ま、そうだろうな。

 同窓会場、居酒屋「へぷし」の前にはすでに数人の参加者が集まっていた。どれも見たことのある顔、S市二中の同級生たちである。

 あの後、駐車場に戻りY市まで直行。同窓会開始時刻にはまだ三十分ほど早い時間に到着したはずなのだが、皆、気の早いものである。

「おー、久しぶりー」

 車から降りる俺たちの姿を見つけ、幹事の松田竜太がやってくる。

「今どうしてるん?」

「鉄工所に就職してな。毎日、赤い鉄と戦って火傷してるよ」

 そう言って竜太はバンソーコーを巻いた指を見せる。五年振りに会ったはずなのに、顔はおろか髪形さえ変わっていない。ただ体型だけは、中学時代はやばいくらいに太っていたのに、今はぽっちゃり系という程度になっていた。ダイエットに成功したのか鉄工所で肉体労働をしている賜物かはわからないが。

 竜太の他にも懐かしい連中が何人も。中学時代から全然変わってない奴、少し見ない間に大人っぽくなってる奴、変わりすぎて誰かわからなかった奴、色々だ。一番ショックだったのは、あの頃は俺や赤夏より十センチは背が低かった人が、俺たち十センチ以上高くなり上から見下ろされたことだが……。

 ある程度参加人数が集まり、十八時半になったところで店の中へ。店員さんに案内され、奥の宴会室にぞろぞろと列をなして進む。

 二十畳程度の部屋を襖を取り払って、二つ繋げた場所へ案内された。ほほう、中々いい場所を借りてるじゃん。人付き合いの少ない俺は飲み会といっても、せいぜい数人で小さな居酒屋でというのしかしたことないから、けっこう驚きだ。

「まことに申し訳ございませんが、こちらのお部屋もご利用ください」

 店員が廊下を挟んだ、小さな六畳間の襖を開ける。

 俺たちの学年は確か全部で百二十~三十人、広い会場とはいえ全員収容するにはわずかにスペースが足りなかったらしい。

「どっち行くよ?」

 問いかける赤夏。他の皆はぞろぞろと大広間の方に入っていく。瞬く間に席がうまってギュウギュウ詰めに。

「小さい方、行こう。あっち狭いし」

「そうだな」

 フッ、馬鹿共め。狭いスペースを避けるため広い部屋に行き、余計に窮屈な目に遭うとは。それに俺は大人数でわいわいより、少人数で内輪の盛り上がりの方が好きだし。



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