目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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「はぁ? 二十分くらいかかるっつったろ?」

「そうじゃなくて連絡がだ」

「はいはい、悪うございましたね」

 互いに文句を垂れながら車に乗車し、商店街の方を目指す。

「で、結局同窓会って何処で何時から?」

「ああ、ほらよ」

 運転席からこちらに携帯のディスプレイを向ける赤夏。どうでも良いが、運転中に携帯をいじるのはやめて欲しいんだが……。

 

『件名:同窓会のお知らせ

 

 お久しぶりです、皆元気にしてますか? 実は七月二十九日にS市二中卒業生で同窓会を行いたいと思ってます。開場は居酒屋『へぷし』十八時半集合で参加費は二千円です。

 参加可能な方は幹事の松田竜太(taputapu-boya@docono.nk.jp)まで連絡を。二中卒業生に知り合いがいたら、このメールを転送してください。

 皆に久しぶりに会えるの楽しみだな(●´-`●)

 

 だってよ。俺は参加するけどどうする?』

 

「なるほど、で二中卒業生の知り合いがいるにも関わらず、お前はメールを回さなかったわけだな」

「いやぁ、まさかお前がそこまで友達少ないとは思ってなかったからさ」

「そうだな。俺、友達いないから、フフフ」

「気にするな、俺も友達いないから、ハハハ」

 窓の外に畑と廃倉庫が流れてゆく……ほんと、友達ってなんだろうな。一般的に友達っていうのはどういう人間を指すんだろうか? ある程度親しい人? 話してて楽しい人? プライベートで遊べる人? 難しいな。たとえその場は仲良くしていても相手がいなくなったとたんに、悪口を言い出すのが人間という生き物だし。大阪の学校でも友達と呼べるのは赤夏くらいのものだ。

 ハンドルを裁く赤夏の横顔に目をやる。こいつや瑠璃とも今は友達だけど、明日もそうとは限らないんだよな。その時、仲良くしていても今はまったく交流の無い中学の友人たちのように、こいつらともいずれ離れるときがくるのだろう……。

「どうした?」

「いや、何でもない」

 ……それはないか。これだけ馬鹿言って、お互いやりたい放題やってても十年以上付き合い続いてるわけだし。いや、むしろやりたい放題やってるから変に裏表ができない分長続きしたのかもしれない。まあ、俺の知らないだけで赤夏には心に孕むものがあるのかもしれんけど。

 急に黙って物思いにふける俺を赤夏が不審な目で見てくる。いかんな、何かしら話題を振らねば。

「そういや、同窓会六時半からだろ? ベース模型寄ったとしてもだいぶ時間あるとけど、どうするよ?」

「あー、そうだなぁ。妖怪ロードの辺りでもうろうろするか」

 妖怪ロードか。妖怪漫画を売りにしているS市の中でも最大の観光スポットだ。駅から商店街にかけての道路に、漫画の作中に出てくる妖怪のブロンズ像が立ち並んでいるのだ。ここを造るにあたって、S市駅周辺は大幅に改革され、それまでただの寂れた商店街だったところが一変することに。


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  道路には妖怪の絵が描かれ、マンホールの蓋も妖怪が彫ってある。中でも異彩を放っているのは等間隔で立てられた街灯で、電灯部分がなんと巨大な目玉を模してあるのだ。

最早、狂っているとしか思えない有様だが、その百鬼夜行さながらに生まれ変わった街のおかげで観光客は激増。S市は一気に潤うことに。おかげで観光客目当てにY市から吸収合併の話が何度も持ちかけられたが、そのすべてをつっぱねている。他の市と比べ人口、面積共に数分の一しかないS市が独立して存在していられるのは、この妖怪産業のおかげなのだ。まさに妖怪様々である。

 まあ、そのように他所から見たらとても珍しい妖怪ロードなのだが、地元民としてはいつでも行けるしただでさえそこらじゅうに妖怪を模したものは溢れていたので、案外に足を運ぶことは少ない。

 俺も出来た当初は物珍しくて喜んでいたが、それ以降は数えるほどしか行った記憶がないし。

「久しぶりに行ってみるか、妖怪ロード」

「あそこの煎餅、案外美味いぞ」

「ほう、それは楽しみだ」

 妖怪煎餅といっても他の煎餅と何が違うのだろう? という突っ込みは野暮というものか。ああいう場所は雰囲気を楽しむものだ。

「あ、そうそう、聞きたいことあったんだけどよ」

「ん、何だ?」

 赤夏が聞きたいこと……一体何だろうか?

「こないだの市民の森だけどよ」

「うん」

「剣術の練習したとき」

「何だよ?」

 ああもう、じれったいな。言いたいことがあればさっさと言え。

「何でお前、真尋さんの連絡先知ってんだよ!」

「ハァ?」

 それかよ、聞きたいことって!

「だってよ、俺、電話番号もメアドも知らないし。なのに何でお前が知ってんだよ、同窓会の連絡も来ないようなお前が!」

「ああ、そんなことか……あれだ、hexiで見つけたんだよ」

「hexiって、今流行りのあれか?」

 hexi、ソーシャルネットワークの一つ。インターネット上にあるコミュニティで、そこに参加しているもの同士、互いのプロフィールや日記を公開し、似た趣味の者で語り合ったり、名簿検索で特定の人物にコンタクトをとることができる。無論、インターネットで名前を晒すのは危険と考える人もおり、偽名やニックネームでの登録も多いが、たまたま真尋さんは本名で登録していたので見つけることができたのである。

「名簿検索してみたら真尋さんいたからさ。メッセージ送って色々やりとりしてたわけだよ」

「ほーう、何で君は真尋さんの名前をわざわざ名簿検索したんだね?」

「べ、べつに俺の勝手だろうが。知り合いがいないか調べてみるのは普通だ」

 赤夏は例のごとく目を細める。意図的にやってるのか、自然に表情に出るのか知らんがこのときの顔はありえないくらいに嫌味だ。

「あっそ、まあいいや。今度、真尋さんのアドレス教えてくれ」


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「は? ぜってぇ教えねえ」

「何でだよ、ネットストーカーが」

「誰がネットストーカーだ……ってうおっ!」

 突然、身体が宙に浮き、前に吹っ飛ばされる。なんて乱暴な急停車だ、シートベルトをしていなければダッシュボードに頭をぶつけていた。

「危ねえな、何だよ」

「ほれ、到着だ」

 悪びれもせずにキーを抜く赤夏。たしかに、窓の外には久しぶりに見る妖怪ロードの風景が広がっている。

「ったくよ……」

 不満はあったが、こいつにこれ以上言ってもしょうがない。それは十年来の付き合いで重々承知だ。そもそも模型店までの足として呼び出したのは俺だったしな。

 S市駅前の駐車場に降り立つと、少し驚かされた。最後にきたときは小学生くらいだったので記憶がさだかでないが、それにしても俺の知る駅前通りよりもはるかに綺麗に、豪華になっている。

「ここって、こんなんだったか?」

「ああ、何か観光客増えるにつれて色々やってるらしいよ。ここのおかげで市はかなり潤ってるから観光事業にはいくらでも金出すんだと」

 そうなのか……潤ってるという割にはどうも俺たち庶民としては生活レベルの変化は感じられなかったが。観光事業も良いが、少しは地域住民の方にも還元して欲しい。

 S市の繁栄は妖怪ロードの一極に集中し、他の地域は畑と墓場に囲まれているのが現状だ。おかげで模型店に来るのにも自転車を小一時間こぐか車を使わなければならない。

「さてと、じゃあベース模型まで観光しながらぶらぶらと行きますか」

 俺たちの目当ての店、ベース模型は残念ながら妖怪ロードには入れていない。ロードを抜け、その先の商店街のさらに端っこにある。おかげで妖怪ロードの恩恵には預かれず、いつ潰れてもおかしくない。てかまだ潰れていないかも疑わしい。

 それほどまでにこのS市の商業格差は激しいのだ。

 妖怪に取り入ったものと、そうでないもの……ここで生き抜くには妖怪に魂を売り渡すしかないらしい。この市は妖怪に取り憑かれている。まあ、妖怪の映画を撮っている俺たちも似たようなものか。

「久しぶりに来たけど、やっぱこの辺は人多いな」

「そうか?  俺はけっこう来てるからよくわからんけど」

 人が多い、と言ってもS市の中ではということだが。大阪の梅田や難波とは比べる余地もない。これで大きな観光名所となってるんだから、T県そのものが存続がかなり危ういのかもしれない。そういえば大阪で見るT県の観光案内といったら砂丘とこの妖怪ロードくらいしか見ないし……。

 そうは言ってもこの妖怪ロード、何だかんだで見ている分には楽しいところだ。小綺麗に開かれた道路の脇に立ち並ぶ妖怪のブロンズ像、久しぶりに見たがなかなか凝った作りをしている。妖怪ファンにはたまらないものがあるだろう。

「お、雷獣だ。案外顔は可愛いな」

 なにやら熊のような動物の像に目が行く。

 その先にあるでっかい頭だけのはおおかむろ。姿見れば名前までわかるのは、俺もS市で育っただけはあるな。ここで幼少期を過ごした者は、知らず知らずのうちに記憶の中に妖怪を刷りこまれているらしい。


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  目に付いた菓子屋で妖怪煎餅と目玉キャンディー(目玉を模した棒つきキャンディーで、舐めてるうちに白目がどんどん赤くなってくるという恐ろしい食べ物)を買い、頬張りながら歩く。

 妖怪菓子、妖怪グッズ、妖怪神社……それらの間を通り抜け(何でも妖怪ってつけりゃいいってもんでもない、と少し思う)、駅から徐々に外れるにつれ人影は少なくなり、妖怪ロードから一般の商店街に移った頃にはまったく人間の姿は見えなくなった。

「相変わらず寂れてるな、この辺りは」

 赤夏が呟く。たしかに店は並んでいるが、どれも古臭く、開いているのか閉まっているかすらわからない。どこからともなく吹き付ける風が古新聞を飛ばすさまがまたもの悲しさを助長し、まるでゴーストタウンのような有り様だ。これが妖怪から見放された人々の末路だとするならば、あまりにも悲しすぎる。

 ふと、この屍の街の一角に目が止まる。テンションの下がっていた俺の心は一気に踊り狂った。そこにいたのはこの荒廃した世界に咲く一輪の花、まるで疲れた現代人の心を癒すために生を受けたかのような愛くるしい生き物。

 猫だ!  小柄な黒猫が小汚い店先にちょこんと座りこちらを見ている。俺は滑るような足取りでニャンコのところに飛込んでいく。そう、刺激してはいけない、素早く、それでいて静かに猫の前に立ちはだかる。突然と目の前に表れた人間に、猫を身を縮ませ警戒心を露にした。

「にゃーにゃー、ねこたん、可愛いでつねー」

 俺が僅かに間合いを詰めると、ニャンコも一歩後ろに下がる。一人と一匹の間に緊迫した糸が張りつめた……焦ってはいけない、ここで彼女(彼?)の信用をとりつけ仲良くならなければ。はぁい、スウィート・ハニー、私と一緒に恋のアヴァンチュールを……。

「お前、またアホみたいなことを」

 赤夏の一言で、俺とニャンコの見えない赤い糸はプっつんと切れた。猫は縮めていた体の溜めを一気に解放し路地裏へと飛んでいった。

「赤夏ぁっ、貴様のせいでニャンコが!」

「何で俺のせいなんだよ!」

「お前が声を発して刺激を与えるからっ!」

「アホか、お前の奇行ですでに警戒心マックスだったろうが。自分の姿を考えてみろ、いい歳した男が猫とにらめっこして、人間だって逃げ出すわ」

 くっ、それを言われると辛い。俺だって、俺だって客観的に見て自分の行動がおかしいことくらいわかってる、でも、でも……ねこたんは可愛いんだもの!

 ……まあいい、これ以上騒いでいても店に迷惑だ。一見、潰れているようにも見えるが埃まみれのガラス戸越しにに人の姿が見えるから一応、営業はしているらしい。  

 こう言っては何だが、店と同じで今にも死にそうな爺さんだ。恐らく妖怪に見放された商店街共々、長くはないだろう。格差社会と高齢化社会の影、ここに有りか。

「あ、これ良くね?」

 赤夏が何やらショーウィンドウを指差している。見てみるとそこにはブロンズでできたドラゴンの置物が。目には真紅のガラスがはめ込まれており、大きな翼を広げている。

「やべ、ちょっと欲しいかも」

「ああ、たしかにかっこ良いっちゃかっこ良いけど……」

 かなり悪趣味にも見えるが、そこは口に出さないでおく。俺はどちらかというとその隣にある短剣に心引かれた。長さは三十センチ程度、洋風のこしらえで海賊が使っているようなタイプ。よく見ると店内にはそういったアンティークな装飾品が他にも沢山置いてある。


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「ちょっと寄ってみるか」

「ああ」

 ガラス戸の干からびた木枠に手をかけて横に引くと、ギシギシと軋む何とも言えない嫌な音が……本当に大丈夫なんだろうか、この店は。

 小汚い外観とは裏腹に、店内は狭いが案外に綺麗だった。薄暗い店を天井の裸電球と、棚に並んだステンドグラスのスタンドが照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。もしかしたら、これはこのファンタジーに出てきそうな小物、雑貨を売るための売り場演出なのかもしれない。たぶん違うだろうけど。

「おお、これ良いな。千二百円だって、買おうかな」

 首が沢山ある蛇が巻きついたデザインの小物入れを手に、赤夏がはしゃいでいる。ほんと、この男はファンタジー系が好きだな。

 髑髏の装飾が施された懐中時計、鉤十字の刻印がしてある指輪、鷹のペンダント……実用品というよりは装飾品としての物を扱う店らしい。凝ったデザインの割りに、値段は千円~三千円と手頃だ。友希英に買っていってやろうか、あの娘もこういうの好きだったし。

 アクセサリーの棚を見ていると色々と目移りしてしまう。友希英の趣味で考えるとどういうのが喜ぶだろうか? あまりゴテゴテしたやつよりもスッとした感じのやつの方がいいかもしれない。シンプルで、それでいてさりげなく目に付くもの……。

「すません、これいくらですか?」

 棚の奥、一つだけ置いてあったブレスレットを手に取り、店の老人に尋ねる。綺麗な青いガラス玉に銀の蛇が巻きついた物が連なったデザイン、細かいところまで作りこまれた装飾は美しく、それでいてシンプルで嫌味な感じはしない。洋風の小物が多い中、一つだけ和風テイストなデザインだったのも目を引いた。

何より惹かれたのはその輝きだ。何だかわからないが、吸い込まれるような魅力がある。もしかしたら、ガラス玉でなくて本物の宝石ではないかと思ったほどだ。だが値札に書いてある数字はわずか千五百円。これは買うしかない。

「すいません、これ下さい」

「ああ……はいな」

 黄色く濁った白目がこちらを見上げる。気持ちの悪い爺さんだ……ほんとに生気がなく、なんというか死体が動いてるような感じがする。口は常に半開きだし、焦点の合わさらない視線はどこを見ているのかわからない。骸骨のような指が、蟲の足みたいにカサカサと小刻みに動きレジを打つ。

もしかしたら半分、ボケてしまっているのかもしれない。禿げ上がった頭に出来た染みは悪魔の笑みのような形に見える。

この不気味さは赤夏も感じたらしく、買おうとしていた蛇の小物入れを棚に戻して、戸口のところで待機している。一刻も早くここを立ち去りたいらしい。それには俺も同感だ。店を後にしようと、戸口に手を掛けたとき、背後から蚊の鳴くような老人の声が聞こえた。

「……気をつけろや」

 一体何に気をつけろというのだ、この商店街で。振り返って軽く会釈すると、俺たちは足早に店を立ち去った。

「何だよあのジジイ……」

 店を出てからの赤夏の第一声がこの暴言だった。俺は、聞こえているはずないとわかっていながらも老人の店の方を振り返りびくびくする。

「あれはヤバイな。俺、金払うとき怖かったもん」



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