目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 最初、俺は作業するに当たって同じく居間を作業スペースにしていた友希英に猛反発を食らってしまった。

「もう、お兄ちゃん邪魔、いい加減にして!」

「そこをなんとか頼むよ……」

「私が漫画描けないでしょ!」

 たしかに俺がほぼ一面に資料だ機材だを広げてた座卓は、友希英が漫画を描くようなスペースは残されていない。

「お兄ちゃんは友希英たんのことも大事だけど、監督としての責任があるんだ。わかってくれ!」

「私だって次の新人賞に出すやつ描かなきゃいけないんだって!」

 友希英、兄ではなく映画制作者としての自分を選んだ俺を許してくれ……だが信じてもらいたい、俺の君に対する愛情は本物だと。

 だが、この一週間の作業は熾烈を極めた。アドレナリン全開で寝るのも惜しみ作業を続ける。何せ、この一ヶ月程度の夏休みの間に全て撮影を終わらせなければならないのだ。ゆっくりはしていられない。

 キーボードを叩く手が震える、画面がぼやけてくる、頭は冴えてるのに身体がついてこない……五日間、睡眠も食事もすべて不規則でついに限界が来たのだろう。最後の台詞を打ち終えると同時に、俺の意識は途絶えた。

 目が覚めたとき、俺はソファーベッドの上だった。昨日寝込んだあと、無意識にここまで歩いてきたのだろうか? ふと、座卓の方に目をやると友希英が漫画を描いている。俺の作業スペースは撤去して!

「おいおい……」

 俺が起きたことに気付いた友希英は軽くこちらに視線を向けると、無言でソファーの下を指差した。

 そこには二冊の紙束が。一冊は俺が昨日書き上げたシナリオ。綺麗に印刷されて、端がクリップで留めてある。もう一冊は……。

「これって……」

 俺は衝撃を受けた。もう一冊は絵コンテ用紙だったのだ。昨日の段階では絵コンテはまったく手付かずだったのに、これにはびっしりと記入してある。パラパラと数枚めくると、俺の書いたシナリオを元にかなり高いレベルの画力・構図で、しかもラストまですべて描きあげてあるのだ。

「気に入らないところあったら適当に直しといて」

 友希英がこれを……? 時計を見ると午後四時、今日の朝方から十二時間も寝ていたのか、俺は。その間に友希英が映画一本分の絵コンテを描き上げてくれた、俺の為に……。

 何か胸の奥からこみ上げて来るものを感じる。思えばこの娘が俺に対して何かをしてくれたのは、何年ぶりだろうか。昔は仲が良かったのにいつからだろうか、友希英は俺のことを邪険に扱うようになってしまった……でも、心の奥から嫌っていたわけではなかったのだ。

「友希英たん、ありがとう!」

 俺はソファーから飛び出し、後ろから友希英を抱き締める。

「離れろ!」

「みぎゃっ!」

 瞬間的に俺の手を掴んだ友希英が一気に手首を捻あげる。彼女は小学校の頃から六年間、少林寺拳法の道場に通い黒帯まで取得している。文化系に見えて、案外に武闘派なのだ。

「痛い、痛い……折れる!」

 俺の必死の叫びで、ようやく手を離してくれた。痛かった、ほんとに痛かった……。関節技は一度完璧に極まると抜け出るのが容易ではない。その上、梃子の原理を使っているので女性の力でも激痛を与えることが可能である。だからこそ護身術としてなりたっているわけだが。


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「べつにお兄ちゃんの為にやったんじゃないから。いつまでもそこにいられても邪魔だし」

 はいはい、そうですね……ま、いずれにしても友希英が手を貸してくれたことに違いはないし良しとするか。兄妹なので感性が似ているのか、クリエーター同士シナリオでもっとも良い場面をチョイスすると形が限られてくるのかわからないが、友希英の描いたコンテは俺のイメージにかなり近いものだった。後は実際の撮影条件に合わせて弱冠の修正を加えるのみ。

 そんなこんなで、今回の作品は物凄く自信がある。友希英たんに報いるためにも負けられない。いや、負けるはずがない。練りに練ったシナリオ、描き込んだコンテ、優秀な人材、恵まれた撮影場所、今度こそいける。敗因など存在しない。

「フフフ、これならアカデミー賞確実だな」

「ほんと!?」

「当然。俺はアカデミー賞大賞、瑠璃は主演女優賞。二人で日本映画界のトップに立つんだよ」

「やったー、あたしも映画史に名を刻むのね♪」

 瑠璃の場合、このアホみたいなノリがどこまで本気かよくわからんな。ま、楽しくて良いけど。

「どうでもいいがこれは下ろしていいのか?」

 馬鹿話をしてる後ろから、呆れと文句半々の声が。

 しまった、外原茂樹(そとはらしげき)のことをすっかり忘れてた。

 彼は演劇関係の先輩で、さすがにスタッフが二人じゃ人数が足りないから助っ人としてきてもらった。ちょっと苛立ち気味に釣竿をプラプラさせ、頭のバンダナをいじっている。

 どうでもいいことだが外原はいつもバンダナ、もしくは帽子を着用して頭部を晒さない。俺の予想ではハゲてるんじゃないかと思う、実際ハゲって言うと怒るし……って誰でも怒るか。ま、こんなハゲでも大事なスタッフだけど。

「ああ、ごめんごめん。その辺に降ろしといていいよ」

 俺が許可すると竿の先に釣られた、白い布を地面に下ろす。よほどしんどかったのか、竿から手を離すなり、ペットボトルを取り上げて水を一気に飲み干した。

 ボロクソに言って、偉そうにあごで使ってるけど一応、先輩だから高校での学年は二つ上だったりする。まあ、高校卒業すれば学校での先輩後輩なんて関係ないし、俺たちの間柄はこのように年齢上下といった枠を越えた関係になっている。俺が頼めば助っ人としてくれるありがたい存在だ。顔が広いから、人間が必要になったらさっと集めてきてくれるし。

「よし、今日の予定分は思ったより早く終わったな」

「……てか、ほんとにあれでオーケーだったのか?」

 赤夏が不服そうに言った。駄目出しされたと思った瑠璃は顔を曇らせる。

「あたし、なんか駄目だった!?」

「いや、妖怪の方が」

「何! 俺の特撮アクション妖怪バトル映画にケチをつけるのか!」

「んなこと言ってねぇよ、これだこれ」

 外原が置いた釣竿と白い布を指差す赤夏。

「俺が夜鍋して作った一反木綿にケチをつけるのか!」

「何が一反木綿だ! ただの布じゃねぇか、もっとマシなもん作ってこいよ」

 そう、これは昨日の晩いらないシーツを引っ張り出してきて、工作本片手に寝ずに作った俺の努力の結晶だ。それをただの布だと……!?

「ただの布じゃねぇよ、目が付いてるじゃねぇか」


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 ほら、よく見ろ。ちゃんとおどろおどろしい青い眼球が……。

「マジックで描いただけだろ、無い方がマシだこんなの」

「これ、一反木綿だったんだ……」

 瑠璃、あなた今、さり気に呟いたね。俺は聞き逃さないぞ。まったく……。

「どいつもこいつも、俺の力作を」

「とにかくこれを見ろ、見てからものを言え」

 カメラを差し出す赤夏。上等だよ、俺の力作の一反木綿の勇姿を見てやろうじゃないか。さあ皆も見てくれ、そして判断してくれ、正しいのは俺の一反木綿か、それとも赤夏か。再生ボタン、オン!

 ……………………。

 液晶ディスプレイに一反木綿が映し出された瞬間、その場の全員が言葉をなくした……。鉛色の沈黙の中、蝉の鳴き声だけが遠くに聞こえる。

「ただの布だな……」

「ただの布だろ」

 ……これは酷い、どう見ても糸で吊った布です。本当にありがとうございました。

「で、でも一反木綿に見えないことも……」

 瑠璃がフォローを入れてくれるが、すぐに外原がそれを打ち消す。

「いや、どう見てもシーツの切れ端にしか見えんぞ、これ……」

 何だよ、何なんだよ。俺か、俺が悪いのか? シーツで一反木綿作ったら誰が作ったって同じようなできだろ。そもそも一反木綿ってのは布が宙を舞ってる妖怪なんだ。これでいいんだ! だいたい思ってることあれば撮る前に言えよ、お前ら。

「ま、まあ……編集でなんとかなる。きっと、たぶん」

「いや、編集でなんとかなるのかこれ」

 赤夏の突っ込みはとりあえず無視しておく。

「とりあえずまあ、うん。フォトショップとプレミアでなんとかいじってみる。色合いとか、特殊効果とかでなんとかなる……と思う」

 編集のことは何も知らない瑠璃が話しについていけず、怪訝な顔をした。

「そのフォトなんたらとかプレミアムって何?」

「フォトショップってのは写真をいじるソフト。色合いを変えたり、合成したり」

「あれだ、アイコラ作るソフトだよな」

 外原の馬鹿が俺の解説を遮る。また誤解されそうなことを……いや、実際そういう使い方をする人間も多いが……。

「そこ、間違った情報を与えない。でだ、プレミアは動画編集が専門でカメラで撮ったやつの必要な部分だけ切り取って、繋げて一つの作品に……」

「AVの抜きどころだけまとめるのに便利なソフトだよな」

 再び外原の下品な割り込みが。瑠璃が顔を赤らめて「そうなんだ」と呟いてる……この馬鹿が。

「いい加減にしないとぶち殺すぞ、このハゲめが!」

「誰がハゲだ!」

「ハゲにハゲっつって何が悪い? 上段回し蹴りでバンダナ飛ばすぞハゲチャビンのハゲ人間!」

「もうやめてっ!」


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 ……たしかに、くだらないことで少し熱くなりすぎたな、俺ともあろう者が。いちいちハゲ相手にマジになっていてはいけない。

「とりあえず、午後からの予定があるから、一反木綿は置いといて休憩な」

「何だ、午後からもやるのか? 聞いてないから昼から予定入ってるぞ」

 文句を垂れる外原。

「いや、撮影は午前で終わりだから帰っていいぞ。午後からは殺陣の練習だから。教えてもらう先輩が昼からじゃないと来れないっていうからさ」

「なんだよ、面白そうじゃん。言ってくれたら参加したのに」

「ねえねえ、殺陣って何?」

 瑠璃が訊ねる。

「殺陣ってのはあれだ、時代劇とかのチャンバラシーンあるじゃん。ああいう剣を使ったアクションのことだよ。今回の台本もアクションあるから」

「へえ。でもそんなの教えられる人いるんだ」

 厳密には今日、講師として呼ぶ人はアクションとしての殺陣に関しては素人だ。まあ剣が使える人間には違いがないので問題ない。

「とにかく俺は帰るわ」

「ああ、じゃあな。またよろしく」

 外原は軽く手を振り去っていった。こいつも瑠璃と同じくY市在住でわざわざ車でここまで来てくれている。なんだかんだで良い奴だ。お下品なハゲだけど。

「さて、まだ予定時間まで三十分くらいあるし、あそこで休憩しようぜ」

 俺の指差した先、森の中心の小高い丘になっている部分に、屋根とベンチつきの休憩スペースがある。とりあえず三人で荷物を持って、そこに移動した。

木々が影になっているとはいえ、やはり夏の暑さは撮影にはこたえる。到着するなり、ベンチの上にぐだっと寝転がった。

「ああ、ひんやりして気持ちいいな、この椅子……」

「もう、迅君、お行儀悪いよ」

 瑠璃が呆れ顔をしているがそんなことは気にしない。だって暑いんだもの。

「ほら、お弁当作ってきたんだ。皆で食べよ♪」

「お、いつもごちそうになります」

 ベンチの上に弁当箱を広げる瑠璃。さっそく手を伸ばし、おにぎりを頬張る赤夏。

「あれ、迅君、食べないの? 三人分作ってきたんだよー」

「ああ、疲れたから後で良いや……」

こうも暑いと動くのも面倒だ、息をするのも面倒だ……もう少しこうやってごろついていたい。昼飯はその後でもいい。

「もう、早くしないとなくなっちゃうぞぅ。あ、そうだ!  あーん、してあげよっか?」

 また馬鹿なことを、この女は……。

「ああ、いいから。自分で食べるから」

「何でぇ? ほら、あーん」

 箸で唐揚げを俺の顔先まで持ってくる瑠璃。香ばしい肉の香りが鼻をつく。それに、可愛い娘にあーんで食べさせてもらうのって、良いかも……って、何みっともないこと考えてんだ俺は!


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 眼前まで迫った肉を指先で素早く掴み取り、口の中に放り込む。うむむ、外はカリカリ、中はジューシー、まさに美味。

「あー。何? あたしに食べさせてもらうのそんなに嫌だったわけぇ?」

「当たり前だ。うっかり気を許すと喉に箸を刺されそうだぜ」

「ひどーい、そんなことしないよー」

「そのまま刺していいよ」

 赤夏、お前ちょっと調子に乗りすぎだぞ。

 まあ何だかんだで瑠璃は料理は上手い。料理が大好きで高校のときも家政科専攻していたし、今は調理の専門学校に通っている。つまりセミプロの腕前だ。それだけあって今日の弁当もゴージャスそのもの。暑くて動きたくなかったが一度食いだすと、ものの十分で完食してしまった。

「はあ、食った食った」

 一瞬で食ってしまったとはいえ、重箱に三段重ねでかなりの量だ。充分な満足感。さらに野外で食べるというのがまた格別だ。安いコンビニ弁当でさえ、ピクニックで食べるとおいしく感じられる。瑠璃のスペシャルな弁当なら言わずもがな。

「おいしかった?」

「ああ、めちゃくちゃ美味かったよ」

「良かったー、また作ってくるね♪」

 料理もプロ級、演技も上手い。俺は良い友達に巡り合えたものだ。

ん? 赤夏がなんか目を細めた変な顔でこちらを見てるが……なんだこいつ、わけがわからん。

「そういえばさ、殺陣の指導に来る人ってどんな人?」

「ん? ああ。剣道部の先輩だよ。映画の話したら興味持ったみたいでさ。古流剣術とかも齧ってるみたいだから、お願いしたわけ」

「ふーん……迅君って剣道部だったんだ」

 そういえば瑠璃には言ってなかったっけ。俺と赤夏は中学で三年間剣道部に所属していた。入部理由は当時、剣術を題材にした漫画にはまっていたという不純そのものだったが。そんな理由で三年間も続けたんだから立派なものだと思う。

 だから今回も剣のアクション入れようと思ったわけだ。今日持ってきた練習用の木刀の他に、家には模造刀もある。

「ついでに俺は高校三年間、空手の道場にも通ってた」

「い、意外と体育会系なんだ……」

 ちなみに空手道場に通ったのも、アクション映画の影響だったりする。ま、それで色々身についてるんだから結果オーライってことで。ほんと、俺たちの行動はその場のノリが基本だ。

「で、今日呼ぶ先輩がすげえ厳しかったんだよな」

「ああ、あの人が来た日は地獄だった……」

 そう、先輩といっても卒業生なので毎日来るわけではなかったが、たまに来た日の稽古は熾烈を極めた……。

「そ、そんなに怖い人だったんだ……」

「いや、怖い人ってわけじゃないんだけどな」

「うちのキャプテンでも最後まで相手つとまらなかったし」

 俺と赤夏の脳裏に中学時代の日々が蘇る。暑い夏の武道場、汗臭い防具、竹刀の音……あまり真面目な部員でなかった俺たちは部活をサボることも多々あったが、それでもその先輩の来る日だけはちゃんと顔を出していた。

「何もそんな厳しい先輩呼ばなくても……あたし何か怖いよぉ」



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