目次
序章  「日曜日の朝」
1
第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
第二章「精霊と青年」
2-1
2-2
2-3
2-4
2-5
2-6
2-7
2-8
2-9
2-10
2-11
2-12
2-13
2-14
2-15
2-16
2-17
2-18
2-19
2-20
2-21
2-22
2-23
2‐24
2-25
2‐26
2‐27
2‐28
2‐29
2‐30
2‐31
2‐32
2‐33
2‐34
2‐35
2‐36
2‐37
2‐38
2‐39
2‐40
2‐41
2‐42
2‐43
2‐44
2‐45
2‐46
2‐47
2‐48
2‐49
2‐50
2‐51
2‐52
2‐53
2‐54
2‐55
2‐56
2‐57
2‐58
2‐59
2‐60
2‐61
2‐62
2‐63
2‐64
2‐65
2‐66
2‐67
2‐68
2‐69
2‐70
2‐71
2‐72
2‐73
2‐74
2‐75
2‐76
2‐77
2‐78
2‐79
2‐80
2‐81
2‐82
2‐83
2‐84
2‐85
2‐86
2‐87
2‐88
2‐89
2‐90
2‐91
2‐92
第三章「決戦、妖怪都市」
3‐1
3‐2
3‐3
3‐4
3‐5
3‐6
3‐7
3‐8
3‐9
3‐10
3-11
3‐12
3‐13
3‐14
3‐15
3‐16
3‐17
3‐18
3‐19
3‐20
3‐21
3‐22
3‐23
3‐24
3‐25
3‐26
3‐27
3‐28
3‐29
3‐30
3‐31
3‐32
3‐33
3‐34
3‐35
3‐36
3‐37
3‐38
3‐39
3‐40
第四章「夏の想い出」
4‐1
4‐2
4‐3
4‐4
4‐5
4‐6
4‐7
4‐8
4‐9
4‐10
4‐11
4‐12
4‐13
4‐14
4‐15
4‐16
4‐17
4‐18
4‐19
4‐20
4‐21
4‐22
4‐23
4‐24
4‐25
4‐26
4‐27
4‐28
4‐29
4‐30
4‐31
4‐32
4‐33
4‐34
第五章「堕天使の囁き」
5‐1
5‐2
5‐3
5‐4
5‐5
5‐6
5‐7
5‐8
5‐9
5-10
5‐11
5‐12
5‐13
5‐14
5‐15
5‐16
5‐17
5‐18
5‐19
5‐20
5‐21
5‐22
2‐23
5‐24
5‐25
5‐26
5‐27
5‐28
5‐29
5‐30
5‐31
5‐32
5‐33
5‐34
5‐35
5‐36
5‐37
5‐38
5‐39
第六章「世界ノ終ワリ……」
6‐1
6‐2
6‐3
6‐4
6‐5
6‐6
6‐7
6‐8
6‐9
6‐10
6‐11
6‐12
6‐13
6‐14
6‐15
6‐16
6‐17
6‐18
6‐19
6‐20
6‐21
6‐22
6‐23
6‐24
6‐25
6‐26
6‐27
6‐28
6‐29
6‐30
6‐31
6‐32
6‐33
6‐34
6‐35
6‐36
6‐37
6‐38
6‐39
最終章「永久に醒めぬ夢」
7‐1
7‐2
7‐3
7‐4
奥付
奥付

閉じる


<<最初から読む

20 / 325ページ

試し読みできます

19

『人間は生活を営む中で、奇妙なこと、不気味なこと、不思議な現象に遭遇することがある。それは、音だったり、臭いだったり、ときとしてあるはずのない者の姿形だったり……。

 自然現象、病気、天災……人々はそれらを魑魅魍魎や妖怪変化、呪い、崇りとし恐れた。古き時代においてそうしたものは至極、身近な存在だったのである。

 しかし、時は流れ人間も生活も変わる。それに伴い、怪奇な存在は少しずつ忘れ去られていった。目に見えない存在よりもより大きな現実が常に人々に圧し掛かっているから。江戸、幕末、明治、大正、戦中戦後、高度経済成長……科学全盛のこの時代、最早、怪異は人々の心から消え去り、現代においてその存在を意識する者はほとんどいない。

 だが、いくら時代が変わっても、人間が変わっても、変わらずそこにあるものはある。昔と同じように、風は吹き、雨は降り、木々は生い茂る。病は蔓延し、生と死は繰り返される。そしてまた、そこに宿る複雑怪奇な者たちも、形を変えながらも昔と変わらず根付いているのである』

 

T県S市『妖怪碑』より引用


試し読みできます

20

 鬱蒼と重った森の中、ギラギラと照らす太陽。蝉の鳴き声に混じり、かすかな土を踏みしめる音と、荒い息遣いが聞こえる。

 それは一人の少女だった。時折、背後を振り返りながら森を走り抜けていく。

 真夏の気温と直射日光が容赦なく彼女の体力を削ぎ落とす。何度となく朦朧とする意識。風にゆれるポニーテール、その下のうなじが汗に光る。ベタベタと張り付く衣服が足をもつれさせ余計に力を消耗させる。

 だが休むことは許されない、少しでも足を止めるとその先には絶望がぽっかり口を開けて待っている。

 少女を追う者、それが何なのか? なぜ追いかけてくるのか? 

 理由はまったくわからない。だがそれは確実にそこに存在し、どこまでも自分を追いかけてくる。ただそれだけが彼女にとって事実だ。そしてその者に遭遇した瞬間に平穏な日常は崩れ去ったことも……。

 人のそれを凌駕した速さで飛ぶように迫る追跡者。憐れな仔兎を少しずつ、しかし確実に追い詰めていく。

「……あっ!」

 草に覆われた地面から、ひょっこり飛び出している木の根っこ。何の変哲もないそれを、疲労しきった彼女の足は避けることができなかった。

 勢いよく転倒した少女、その顔に苦  痛の色が広がる。だがそれはすぐに恐怖へ変わった。それは彼女の一瞬の隙を逃さなかった。木々の間を抜け、疾風のごとく一気に距離をつめる。

 起き上がらなければ、逃げなければ……頭では自覚していても体は動かない。それは疲労による限界か、それとも肉体が本能的に最期を悟り抵抗を放棄したのか……。

 目の前には迫る異形の追跡者。中空を舞う白い存在……人間ではない、確実に……そう、それはまさに妖怪だった。

 森の中に、その場の終わりを告げる声が響き渡る……。

「カット! オーケー」

 

 場に張り詰めていた緊張の糸が切れた。周囲の空気は緩み、その場の全員が笑顔に変わる。

「良いねぇさっきの。よっ、名女優」

「ありがとうー♪」

 さすが、瑠璃の演技力はすでに確認済みだったが、カメラが回るとさらに一回りも二回りも良い演技をしてくれる。これは嬉しい誤算だ。こちらの要望もよく聞いてくれるし、彼女がメインヒロインをしてくれるというのは予想以上に大きな収穫だった。

 この森は『市民の森』とよばれ、市内の一部を区切った自然公園のようなところ。とはいっても遊具などは何も無いが。それでも子供たちが遊ぶには充分だし、俺たちのロケにももってこいのスポット。ちなみに赤夏の家から徒歩五分の場所にある。

 そう、あれから一週間。シナリオと絵コンテが完成し俺たちはついに撮影に入ったのだ。

 

 居間を俺の根城として占拠し、座卓に置いたノートパソコンは二十四時間起動。山のように詰まれた本、床に散らばった紙束。そして新たな印刷物を吐き出すプリンター。そんな中で寝ずに作業し続け、わずか五日でシナリオを決定稿まで書き上げた。そして残りの二日間で絵コンテも完成させるという奇跡の作業をやってのけたのだ、この俺は。

 だがこの奇跡は俺一人で成し得たわけではない。アイディアを出してくれ、行き詰ったときはいつでも相談にのってくれた赤夏と瑠璃、そして最大の協力者は妹の友希英だ。


試し読みできます

21

 最初、俺は作業するに当たって同じく居間を作業スペースにしていた友希英に猛反発を食らってしまった。

「もう、お兄ちゃん邪魔、いい加減にして!」

「そこをなんとか頼むよ……」

「私が漫画描けないでしょ!」

 たしかに俺がほぼ一面に資料だ機材だを広げてた座卓は、友希英が漫画を描くようなスペースは残されていない。

「お兄ちゃんは友希英たんのことも大事だけど、監督としての責任があるんだ。わかってくれ!」

「私だって次の新人賞に出すやつ描かなきゃいけないんだって!」

 友希英、兄ではなく映画制作者としての自分を選んだ俺を許してくれ……だが信じてもらいたい、俺の君に対する愛情は本物だと。

 だが、この一週間の作業は熾烈を極めた。アドレナリン全開で寝るのも惜しみ作業を続ける。何せ、この一ヶ月程度の夏休みの間に全て撮影を終わらせなければならないのだ。ゆっくりはしていられない。

 キーボードを叩く手が震える、画面がぼやけてくる、頭は冴えてるのに身体がついてこない……五日間、睡眠も食事もすべて不規則でついに限界が来たのだろう。最後の台詞を打ち終えると同時に、俺の意識は途絶えた。

 目が覚めたとき、俺はソファーベッドの上だった。昨日寝込んだあと、無意識にここまで歩いてきたのだろうか? ふと、座卓の方に目をやると友希英が漫画を描いている。俺の作業スペースは撤去して!

「おいおい……」

 俺が起きたことに気付いた友希英は軽くこちらに視線を向けると、無言でソファーの下を指差した。

 そこには二冊の紙束が。一冊は俺が昨日書き上げたシナリオ。綺麗に印刷されて、端がクリップで留めてある。もう一冊は……。

「これって……」

 俺は衝撃を受けた。もう一冊は絵コンテ用紙だったのだ。昨日の段階では絵コンテはまったく手付かずだったのに、これにはびっしりと記入してある。パラパラと数枚めくると、俺の書いたシナリオを元にかなり高いレベルの画力・構図で、しかもラストまですべて描きあげてあるのだ。

「気に入らないところあったら適当に直しといて」

 友希英がこれを……? 時計を見ると午後四時、今日の朝方から十二時間も寝ていたのか、俺は。その間に友希英が映画一本分の絵コンテを描き上げてくれた、俺の為に……。

 何か胸の奥からこみ上げて来るものを感じる。思えばこの娘が俺に対して何かをしてくれたのは、何年ぶりだろうか。昔は仲が良かったのにいつからだろうか、友希英は俺のことを邪険に扱うようになってしまった……でも、心の奥から嫌っていたわけではなかったのだ。

「友希英たん、ありがとう!」

 俺はソファーから飛び出し、後ろから友希英を抱き締める。

「離れろ!」

「みぎゃっ!」

 瞬間的に俺の手を掴んだ友希英が一気に手首を捻あげる。彼女は小学校の頃から六年間、少林寺拳法の道場に通い黒帯まで取得している。文化系に見えて、案外に武闘派なのだ。

「痛い、痛い……折れる!」

 俺の必死の叫びで、ようやく手を離してくれた。痛かった、ほんとに痛かった……。関節技は一度完璧に極まると抜け出るのが容易ではない。その上、梃子の原理を使っているので女性の力でも激痛を与えることが可能である。だからこそ護身術としてなりたっているわけだが。


試し読みできます

22

「べつにお兄ちゃんの為にやったんじゃないから。いつまでもそこにいられても邪魔だし」

 はいはい、そうですね……ま、いずれにしても友希英が手を貸してくれたことに違いはないし良しとするか。兄妹なので感性が似ているのか、クリエーター同士シナリオでもっとも良い場面をチョイスすると形が限られてくるのかわからないが、友希英の描いたコンテは俺のイメージにかなり近いものだった。後は実際の撮影条件に合わせて弱冠の修正を加えるのみ。

 そんなこんなで、今回の作品は物凄く自信がある。友希英たんに報いるためにも負けられない。いや、負けるはずがない。練りに練ったシナリオ、描き込んだコンテ、優秀な人材、恵まれた撮影場所、今度こそいける。敗因など存在しない。

「フフフ、これならアカデミー賞確実だな」

「ほんと!?」

「当然。俺はアカデミー賞大賞、瑠璃は主演女優賞。二人で日本映画界のトップに立つんだよ」

「やったー、あたしも映画史に名を刻むのね♪」

 瑠璃の場合、このアホみたいなノリがどこまで本気かよくわからんな。ま、楽しくて良いけど。

「どうでもいいがこれは下ろしていいのか?」

 馬鹿話をしてる後ろから、呆れと文句半々の声が。

 しまった、外原茂樹(そとはらしげき)のことをすっかり忘れてた。

 彼は演劇関係の先輩で、さすがにスタッフが二人じゃ人数が足りないから助っ人としてきてもらった。ちょっと苛立ち気味に釣竿をプラプラさせ、頭のバンダナをいじっている。

 どうでもいいことだが外原はいつもバンダナ、もしくは帽子を着用して頭部を晒さない。俺の予想ではハゲてるんじゃないかと思う、実際ハゲって言うと怒るし……って誰でも怒るか。ま、こんなハゲでも大事なスタッフだけど。

「ああ、ごめんごめん。その辺に降ろしといていいよ」

 俺が許可すると竿の先に釣られた、白い布を地面に下ろす。よほどしんどかったのか、竿から手を離すなり、ペットボトルを取り上げて水を一気に飲み干した。

 ボロクソに言って、偉そうにあごで使ってるけど一応、先輩だから高校での学年は二つ上だったりする。まあ、高校卒業すれば学校での先輩後輩なんて関係ないし、俺たちの間柄はこのように年齢上下といった枠を越えた関係になっている。俺が頼めば助っ人としてくれるありがたい存在だ。顔が広いから、人間が必要になったらさっと集めてきてくれるし。

「よし、今日の予定分は思ったより早く終わったな」

「……てか、ほんとにあれでオーケーだったのか?」

 赤夏が不服そうに言った。駄目出しされたと思った瑠璃は顔を曇らせる。

「あたし、なんか駄目だった!?」

「いや、妖怪の方が」

「何! 俺の特撮アクション妖怪バトル映画にケチをつけるのか!」

「んなこと言ってねぇよ、これだこれ」

 外原が置いた釣竿と白い布を指差す赤夏。

「俺が夜鍋して作った一反木綿にケチをつけるのか!」

「何が一反木綿だ! ただの布じゃねぇか、もっとマシなもん作ってこいよ」

 そう、これは昨日の晩いらないシーツを引っ張り出してきて、工作本片手に寝ずに作った俺の努力の結晶だ。それをただの布だと……!?

「ただの布じゃねぇよ、目が付いてるじゃねぇか」


試し読みできます

23

 ほら、よく見ろ。ちゃんとおどろおどろしい青い眼球が……。

「マジックで描いただけだろ、無い方がマシだこんなの」

「これ、一反木綿だったんだ……」

 瑠璃、あなた今、さり気に呟いたね。俺は聞き逃さないぞ。まったく……。

「どいつもこいつも、俺の力作を」

「とにかくこれを見ろ、見てからものを言え」

 カメラを差し出す赤夏。上等だよ、俺の力作の一反木綿の勇姿を見てやろうじゃないか。さあ皆も見てくれ、そして判断してくれ、正しいのは俺の一反木綿か、それとも赤夏か。再生ボタン、オン!

 ……………………。

 液晶ディスプレイに一反木綿が映し出された瞬間、その場の全員が言葉をなくした……。鉛色の沈黙の中、蝉の鳴き声だけが遠くに聞こえる。

「ただの布だな……」

「ただの布だろ」

 ……これは酷い、どう見ても糸で吊った布です。本当にありがとうございました。

「で、でも一反木綿に見えないことも……」

 瑠璃がフォローを入れてくれるが、すぐに外原がそれを打ち消す。

「いや、どう見てもシーツの切れ端にしか見えんぞ、これ……」

 何だよ、何なんだよ。俺か、俺が悪いのか? シーツで一反木綿作ったら誰が作ったって同じようなできだろ。そもそも一反木綿ってのは布が宙を舞ってる妖怪なんだ。これでいいんだ! だいたい思ってることあれば撮る前に言えよ、お前ら。

「ま、まあ……編集でなんとかなる。きっと、たぶん」

「いや、編集でなんとかなるのかこれ」

 赤夏の突っ込みはとりあえず無視しておく。

「とりあえずまあ、うん。フォトショップとプレミアでなんとかいじってみる。色合いとか、特殊効果とかでなんとかなる……と思う」

 編集のことは何も知らない瑠璃が話しについていけず、怪訝な顔をした。

「そのフォトなんたらとかプレミアムって何?」

「フォトショップってのは写真をいじるソフト。色合いを変えたり、合成したり」

「あれだ、アイコラ作るソフトだよな」

 外原の馬鹿が俺の解説を遮る。また誤解されそうなことを……いや、実際そういう使い方をする人間も多いが……。

「そこ、間違った情報を与えない。でだ、プレミアは動画編集が専門でカメラで撮ったやつの必要な部分だけ切り取って、繋げて一つの作品に……」

「AVの抜きどころだけまとめるのに便利なソフトだよな」

 再び外原の下品な割り込みが。瑠璃が顔を赤らめて「そうなんだ」と呟いてる……この馬鹿が。

「いい加減にしないとぶち殺すぞ、このハゲめが!」

「誰がハゲだ!」

「ハゲにハゲっつって何が悪い? 上段回し蹴りでバンダナ飛ばすぞハゲチャビンのハゲ人間!」

「もうやめてっ!」



読者登録

谷山龍さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について