目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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 学校で何を学んだか、それによりどれくらいのものを作ることができるのか、二年間の集大成を発表するのだ。

俺の卒業制作におけるチームは赤夏のみ。やる気のない落ちこぼれ二人だ。

この時期まできて、どういう作品を作るかなどはっきり言ってまったく何も考えていない。これは非常にまずい、夏休みから卒業までというと、けっこう時間があるように思えるが映画制作は短くても半年はかかるし、残りの授業や就職活動等を考えるとかなりギリギリだ。

「何かさ、つまんないよね」

「ああ、つまんないよ」

「違う、迅君たちの考え方がさ」

 俺たちの考え方? それは一体どういう意味だ?

「せっかく好きで映画の学校に入ったのにさ、全然楽しそうじゃない……学校の方針がどうとかは知らないけど、迅君だってこういうのがやりたいってのがあって映画学校行ったんじゃないの?」

 俺は髪をかき上げる。

「そうなぁ、撮りたいのはあるよ、うん。例えば銃をバンバン撃ったり、あと宇宙人とか怪獣出てくるやつとかさ。そういう感じの。正直、芸術映画とは対極にあるようなものなんだよ」

「じゃあ、いいじゃんさ。そういうのやれば」

 瑠璃は無垢な顔でそう言う。

「あたし、芸術映画がどうこうとか、迅君たちの行ってる学校がどんなとことかは知らないけどさ、映画ってもっと楽しいものじゃないのかな? 迅君自身がさっき言ってたじゃん。

周りと同じようなの撮って、適当に評価貰って……何か大事なもの忘れてるんじゃないかな? 迅君たちが何をやりたいか、何を表現したいか、それだよ。君たちはクリエーターでしょ?」

 そう言ってビシッと人差し指を立てる。

 何と答えたらいいかわからず、俺と赤夏はお互い目を合わせる。

 瑠璃の言ってること、それは至極もっともだ。俺たちは映画を撮るのが好きで学校に進学したはずだった、だがいつの間にか映画作りを楽しむということを忘れてしまっていた。

「そうだな。どうせ最後だし、思い切り好きなものやって見てもいいかもしれないな……どう思う?」

 俺の言葉に、赤夏はニヒリスティックに目を細めてチラリとこちらを見た。

「やりたい放題やって、めちゃくちゃなもん出して発表会で酷評の嵐、何て言うのははっきり言って最悪だな」

 冷めた口調で言い放つ赤夏。

 ……そうだよな、そう思うのが普通だ。勢いと理想で動く俺と対照的に、こいつはいつも現実主義だ。だからこそこの十年以上の付き合いはバランスがとれていたのかもしれないが……そしてどちらが賢いかというとたぶん、赤夏の方が賢い。

赤夏の協力が得られないとなると、俺は一人で作品を完成させなければならないわけだが……これは不可能に近い。結局、振り出しに戻るという形か。

 溜息をつく俺を横目に、赤夏はコップに注いであったジュースを一口飲む。その後、赤夏の口から出た言葉は少し意外なものだった。

「だから、失敗は許さんぞ。エンターテイメントだろうが、アンチ芸術映画だろうが、やると言ったからにはコンテスト一位狙うからな」

 それに何にしても作品提出しないと卒業できないからな、と少し間を空けて付け足す。

 俺は何か心の中で湧き上がるものを感じた。


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9

 進学してから久しく忘れていた気持ち。向上心とチャレンジ精神だ。少年時代、遊びでビデオを撮っていたときはこの気持ちに溢れていた。出来たものは下手くそな素人作品だが、大好きな映画のワンシーンを再現しようとしたり、どうしたら格好よく撮れるかなど創意工夫して、いつも心は輝いていた。

 やる気の出てきた俺たちを見て瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。

「そうそう、そうでなくっちゃ。高校の頃の情熱を取り戻したね♪ さっきまではこの世の終わりみたいな感じだったよ」

 瑠璃の言葉に俺は苦笑いを浮かべる。自覚はなかったが学校の話をする俺たちはそんなにも沈んだ感じだったのか。

 高校の頃と言われ、ふと心の奥底に沈められていた感情が動き始める。そう、何の為に映画の学校へ行き、何がしたかったのか。ここにきてもう一つの目的を思い出した。

「ああ、やってやろう。いやが応にも学校の連中が認めざるえないような作品作って、ギャフンと言わせてやろうぜ」

「うん、あたしも協力するね♪」

 熱く拳を握る俺、相変わらず少し冷めた赤夏、そんな俺たちを見て笑う瑠璃。

 この日から、俺たちの青春の一歩が始まった。

 

 

次の日、赤夏と瑠璃は再び俺の部屋に集合した。本来、我が家を映画制作に会議室変わりにするのは気が進まないが、瑠璃のところは色々厳しいらしく家に上げてもらったことないし、自室すらない赤夏の家は論外。ファミレスとか喫茶店だと金がかかる上にあまり長時間いられない。

平日は両親共に夕方まで仕事に出ているので、それまでの間はなら特に問題はないだろう。それに俺の家だと他にもメリットがある。

「見て見て『双頭の殺人鬼』だって。こんな映画あるんだぁ」

 『怪獣(秘)大百科』を片手にはしゃぐ瑠璃。指差しているページには、頭が二つある怪人の写真が載っている。

他にも巻頭カラーで『原子怪獣ドラゴドン』『死のオオカマキリ』『それは地獄からやってきた』『百万の眼を持つ刺客』etc…映画ファンでも見たことも聞いたこともないような映画のポスター写真が大量に紹介されていた。タイトルを見ればわかる通り、あからさまにB級、下手したらZ級の可能性もある映画ばかりだ。

 最初は奇異なものを見る目で見ていたが、読みふけるうちにマニアック映画の虜になってしまったらしい。

B級映画好きにとってはタイトルとポスターを眺めているだけでワクワクしてくる。いや、こういうのはむしろ本編を見て失望するパターンが多いかもしれない……いずれにしても普通のレンタル屋にはまず置いてないようなタイトルなので、観る機会はなかなかないだろうが。

 普通の女の子は触れることがないだろう未知の世界に興奮する瑠璃とは対照的に、赤夏は黙々と『SF映画大全』を読み耽っている。こちらはメジャーからマイナーまで古今東西のSF映画を紹介する濃い内容の本だ。隣には数冊の本を積んであり、タイトルはそれぞれ『スーパーヒロイン大全』『ガメラ大全』『アニメヒロイン大全』……そう、俺の家にはこの手のマニアックな映画の本が大量にあるので、映画制作に必要な資料に事欠かないのだ。

「さてさて、そろそろ皆の意見を聞かせてもらいたいのだが」

 本を読んでいた二人が顔を上げる。

「意見っつってもな」

「いや、だからとりあえずどういう方向性でいくかだ。漠然と好きなことやるっても話が進まんから、まず何をやりたいかだな。俺は見ての通り、こういう趣味だからSFや特撮、怪奇映画を作ってみたいのだが」

「いいんじゃない、面白そうだし。これに載ってるようなやつ作ろうよ!」

 いや、その本に載ってるようなのってのは駄目だろ、ヒットしなかった一般では誰も知らないであろうマイナーな映画集めた本だし……。


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10

「あたしヒロインやってあげる♪ 憧れの銀幕デビューだぁ」

 演劇部出身の可愛い娘がヒロインをやってくれるというなら、それだけで作品の質はグンと上がる。これは非常にありがたい申し出だ。

 だが、先日は見落としていた大事なことがこの役者の問題だ。映画には当然役者が必要だ、大作を撮るならそれなりの人数が必要になってくる。

俺も演劇部だったので出演もできるが、赤夏も出すとしてもキャストたったの三人……これは大きな問題だ。

 この人数でできるシナリオとなると、かなり限られてくる。

「でね、でね♪ あたし恋愛ものやってみたいなー」

 恋愛モノか……正直、苦手なジャンルなんだが。恋愛を描いた物語が嫌いなわけではないのだが、俺はこの年でろくすっぽ恋愛をしたことがない。だから“恋”というものを描くというのができるかどうか……いや、未知のジャンルに挑戦するというのも悪くないかもしれない。

 商業映画では恋愛を描いたものが売れるから、たとえ不自然だったりストーリー上必要なくても恋愛を入れさせられるってシナリオの講師も言ってたな、そういえば。客受けの面でも恋愛要素を入れるのはプラスだろう。

「赤夏は?」

「そうだなぁ、俺はファンタジー好きだからモンスターとか出したいな。あとアクションも入れたら良いんじゃね?」

ふむ。特撮怪奇モノ、恋愛、モンスター、アクション……一応、一つの作品に全部盛り込むのは可能な範囲だな。

「じゃあモンスターと戦う特撮怪奇モノで、登場人物たちの恋模様も描く、ということでいいかな?」

「異議無し」

二人が声を揃えて返事をする。

「じゃ具体的ストーリーを考えていこう。ファンタジーとかモンスターっても、そんな大層な特殊メイクとかできないから、けっこう限られてくるんだよな」

「とりあえず舞台は現代、そこにモンスターが現れて、そいつと戦う」

「その過程で、ヒロインと主人公が熱い恋に落ちる♪」

「ベタベタだな……」

 まあベタってのは=王道ということでもある。王道っていうのは優れているから王道としての地位を確立しているわけだから問題ないか。シナリオ講師も「物語のパターンはいくつかの通りしかない。ストーリーのある作品は全て、そのいずれかに収まっている。そこに時代背景や、作者の個性、客のニーズなどを加えることで違う物語になっている」って講義で言ってたし。

「問題はそのベタなのを、どうベタに見えないよう俺たちの個性を盛り込むかだよな」

「うーん、よくわかんないけど、とりあえず難しいこと考えずに思ったネタを出し合って、そこからいいやつ選んで繋げたらいいんじゃないかな?」

「よし、そうしよう」

 A4用紙一枚と、使い込んでボロボロの鉄性シャープペンシルを手に取り、三人の中央に置く。その上にペンをスッと走らせ一本の縦線を引いた。この線の一番上が物語の冒頭、下がラストだ。物語がどう進んでいくかをここに順番に書き込んでいく。

「じゃあ、どういう展開にするか、何でもいいから言っていってくれ」

「はい!」

 瑠璃が手を挙げる。

「やっぱり最後はハッピーエンドがいいな」

 それに対して赤夏が反論した。

「いや、怪奇系だとそれはどうかな。怪物は倒して一段落、でも実は生きていて主人公たちに襲い掛かるっていうどんでん返しの方が良いんじゃないか」

B級映画の定番だな。

「でもあんまり後味悪いのにはしたくないなぁ」


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「二人の意見は両方とも一理ある。なら、主人公陣はハッピーエンド。だが怪物は生きていて、違うところで復活してまた新たな犠牲者がって形でどうだね?」

「あ、それなら良いよ」

 主人公だけハッピーなら良いってのも何か自己中な気もするが、まあ所詮物語の中の話だからな。

先ほど引いた線の一番下に「主人公たちハッピーエンド。だが怪物は生きていた」と書き込み、ペンを口に咥える。さて、ラストが決まったところで、ここに向かってどういう風に物語を進めていくかだ。それを埋めていかなければならない。

「やっぱりどんなモンスターが出てくるか最初に決めた方が良いんじゃない?」

「そうだな、それによって物語の展開も変わってくるし」

「モンスターといえばドラゴンだ!」

 赤夏が割って入ってくる。て、ドラゴンっておい。

「できるか!」

「何だ、できないのか? じゃあ恐竜」

「俺たちの予算と技術を考えてからものを言え!」

 モンスター……そう、特殊メイクもCGも使わずにこれを表現するとなると、かなり至難だな。赤夏の言うような怪獣のような物はまず不可能だ。となると人の姿そのままの幽霊みたいなのでいくか、ドラキュラとかオペラ座の怪人みたいに人型のモンスターでいくか。

「そうだ、レクターとかジェイソンとかみたいな殺人鬼はどうだ?」

 俺は本棚から『シリアル・キラー』という異常犯罪者の事件概要とプロファイリングをまとめた本を手に取る。

「実際の事件でもあまりに異常な事件を起こす人間はモンスターみたいに言われるじゃん? ミルウォーキーの怪物とか、現代の吸血鬼とか、有名どころだと切り裂きジャックとか。そういう異常犯罪者系で。人間って設定にすれば衣装だけでそんな特殊メイクとかいらないし。そこら辺の家襲って、住民皆殺しに……」

「却下」

 俺の言葉は赤夏の一言に打ち消された。そう、反論というより打ち消すという方がはまる強い言い方で。

「あ、あたしもそういうのはちょっといまいちかな……」

 瑠璃も乗り気でない、というより完璧に嫌なようだ。二人の視線がなんか痛い……少しネタがチープだったか。

「そうだな……となると、なんかこう、難しいな」

 何か場の空気が重いぞ……まさかこんな段階で躓くとは誰も思ってなかったからな。モンスターが出来ないことにはストーリーが作れない。だができるモンスターがない、うむむ……。

「撮るなら、大阪じゃなくてS市だろ? 鵲の家は色々都合が良いし、瑠璃ちゃん出るわけだから。田舎を舞台にして、そこに現れる精霊とかにしたらどうだろ。トトロみたいな」

「トトロって……」

 そりゃ赤夏はファンタジーが好きと言っていたが、さすがにそれは……ほのぼのして全然怪奇でも恐怖でもないじゃないか。

 何気なしに天井を見上げ、それから視線を動かし部屋にぐるっと見渡す。何か、いいネタはないものかと……。

ふと、俺の視線があるところで止まった。本棚に立ててある大量の資料本の一冊に。

「いや……案外いけるかもな」

 俺はおもむろに立ち上がり、その本を引っ張り出す。二人はそんな俺を何事かという目で見上げた。


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12

 手に取った本は『妖怪画廊』。このS市出身の有名漫画家が描いた妖怪画集である。

「田舎に潜む妖怪たちが、現代に蘇って人々を襲う……なんてどうよ?」

 そう、何故気付かなかったんだ。S市を舞台にした話ならこれほどうってつけの題材はないはずだ。S市は妖怪の街として徹底的に観光客にアピールしている。駅の妖怪看板だけでなく、妖怪のバス、妖怪の駅、妖怪のジュース、妖怪のトイレ……最近は巨大な妖怪の石像を作ったとか。もう狂っている。この市は成分構成、妖怪百パーセントでできているらしい。

 ページをパラパラとめくると、そこにはおどろおどろしい、それでいてどこか魅力的な妖怪たちの絵が解説付きで沢山掲載されている。キャラクターとして申し分ない、デザインや習性といった必要な資料もここにある。

「でも、できるの? 妖怪なんて……」

「三年くらい前だったかな、高校生だった頃、妖怪コンテストってあっただろ?」

 妖怪コンテストとはS市主催で行われたイベントで妖怪のコスプレをしたり、オブジェを作ったりしてその出来を競い合うというものだ。俺たちは参加しなかったが、優勝賞金が出るってことで参加者はけっこういたらしい。

「あれ、新聞で写真だけ見たんだけど、上位作品はなかなかの出来だったぜ」

 俺は妖怪画廊の一ページを開き、瑠璃に見せる。

「これは『一反木綿』、布が宙を舞い、首に巻き付いて絞め殺すって妖怪だ」

「怖っ……」

「怖いだろ? でもこいつはただの布なんだよ。布が飛んで巻き付いてくる。妖怪ってのは、こういう日常品が化け物になって襲ってくるとかいうのも、けっこういるんだ。九十九神ってやつ。そういうのをチョイスして登場させれば、特殊メイクとか着ぐるみのことは考える必要がなくなるわけだ」

 閉ざされた小さな田舎町に夜な夜な現れる九十九神たち。主人公は勇敢にもそいつらに戦いを挑み、途中少女と恋に落ちる。最後には妖怪たちを倒してハッピーエンド、だが惨劇は終わらない……。

思いついたことを紙の上に書き殴っていく。

「どうよ?」

「いいじゃん、和製妖怪ホラー映画ってうちの学校じゃあんまりないし」

 よし、基本プロットはできた。あとは細かいところを作りこんでいかないとな。妖怪モノっていったらコミカルなのが多いから、俺たちは観てる人間が失禁するぐらい怖い怪奇映画を撮ってやるぜ。

「そういえば……」

 赤夏がおもむろに口を開く。

「何だ?」

「トトロの後半でメイがいなくなるシーンあったよな?」

「ああ、それがどうした」

「で、池で靴が見つかって、サツキが確認したらそれはメイの靴じゃないって一安心したわけだ」

「あ!?」

 瑠璃が何かに気付いたらしく、驚きの声を上げる。

「何だ? 靴がどうしたってんだ?」

 若干の含み笑いをした後に、赤夏は嬉しそうに告げる。

「メイのじゃないなら、あの靴、誰のだったんだろうな?」

 俺は背筋に冷たいものを感じた……そうか、なるほど。メイではない誰かの靴が池に浮かんでいる、つまり他の誰かがあの池には沈んでいる……そしてその可能性には目もくれず、ただひたすらにメイを探し続ける村人たち。 



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