目次
序章  「日曜日の朝」
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第一章「アル晴レタ、昼下ガリ」
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第二章「精霊と青年」
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第三章「決戦、妖怪都市」
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第四章「夏の想い出」
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第五章「堕天使の囁き」
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第六章「世界ノ終ワリ……」
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最終章「永久に醒めぬ夢」
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……何だ。赤夏、瑠璃、その目は? その狂った者を見るような目は?

「迅君がおかしいぃ……」

「いかん、これは末期症状だ。精神病院に入れなければ……彼は、猫にすがることでしか自己を保つすべを知らずに育ってしまったのです」

「まあ、大変。でも大丈夫、これからはあたしがあなたを癒してあげるから」

 誰が末期症状だ、勝手に精神病患者にするな。こいつらに治療を任せると、癒すと言いつつ不味い飯を無理やり食わせたり、縛って風呂に沈めたり、あげくロボトミー手術で脳味噌削り取られそうだ……。

「ところで、二人とも大阪ではどう? 楽しくやってる?」

「うーん、まあぼちぼちかな」

 どうと言われても、もう二年目だしさほど変わったこともないが。

「映画監督なれそう?」

 その質問に対し、俺は目を伏せる。

「うーん、まあ監督目指してるわけじゃないんだけどね」

「そうなの? わざわざ大阪の学校まで行って」

結構きついこと言うな。いや、普通の質問か……。

そう、俺たちが通っているのは映画の専門学校だ。といっても将来のこととか深く考えて進学したのではない。俺と赤夏は小学校の頃からの付き合いで、いわゆる幼馴染だ。高校は別々だったが、それ以外は現在を含めて同期。だから二人の趣味もだいたい似通っていて、昔から一緒に絵を描いたりごっこ遊びしたりが好きだった。その延長であるとき、親父のビデオカメラでお遊び的なムービーを作るようになり、そこからなんとなく映画の道へ進学。つまり単に面白そうだからというだけの理由での進路決定だ。十年以上の付き合いだが俺たちの行動理念は変わらない、常にその場のノリが全てなのだ。

監督をめざしてるわけではないというより、はっきり言ってしまうと撮影現場は嫌いだったりする。正直しんどい。楽しむ為にやってた頃と殺伐としたプロ志望の連中との現場ではギャップがありすぎる。その辺は赤夏も嫌というほど感じたようだ。

「とりあえず俺は編集マン、赤夏はカメラマンになろうかって考えてるけどね」

「へー、ちゃんと目処立ってんじゃん。やっぱ凄いね」

嘘だ……。現在、就活の段階になって二人して焦っている。俺が編集、赤夏がカメラが得意というのは事実だが、就職のあてはまったく見つかっていない……。

とりあえず今は楽しい夏休み。嫌なことは忘れよう。うん。

 ふと、ポケットの中に震動を感じる。引っぱり出した携帯のディスプレイには小山隆一の文字が。

「もしもし?」

「あ、鵲くん、おはよ」

 小山隆一というのは学校のクラスメイトだ。夏休み前の課題で数人のグループに分かれて二十分程度の映画を撮らされたんだが、その際にうちのグループで監督をしていた。その関係で連絡網として電話番号交換はしていたのだが、一体何の用だろうか?

「こないだ撮ったやつだけどさ、あれもう一度撮り直そうと思って」

 何だ、そんな用事か。面倒臭い。

「ああ、ごめんけど。俺、今実家帰ってるから」

「いつ帰ってくる?」

「うーん、わかんないなぁ。卒業課題の撮影もこっちでやるから」 


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「そっか、まいったなぁ。こっちも人手不足でさ」

 しつこいな。どうも俺はこいつが苦手だ。そもそも映画に対する姿勢や撮る物の好みが俺と違いすぎる、一度、意見違いで険悪なムードになったことがあったし。

「とりあえず、いつ頃こっち戻るかわかったら連絡頂戴」

「うん。じゃあ」

 電話を切る。

まったく、あちらとしてもやる気のない人間に来られても邪魔なだけだろうに。

「学校の友達?」

 瑠璃が尋ねる。赤夏は電話から洩れる声ですぐに誰か気付いたようだった。

「いや、他人以上知り合い未満だ」

「何、その微妙なの」

 そう言って瑠璃は笑う。

「課題の手伝いしてくれっていう催促の電話だ。まったく鬱陶しい」

「ふーん、頼りにされてんじゃん」

「良いように使われてるだけだよ。俺は学校じゃ嫌われもんだ」

クラスメイト共は俺にはろくに近寄りもしないのだから。ある程度、好感を抱いてる人間に対してなら仲良くなりたいと思ってコンタクトをとってくるだろう。それがないということは、皆俺のことをよく思ってはいないということだ。さっきみたいに人を利用しようとするときは例外的だが。ならば俺の方からも彼等に対して払う敬意などない。

「迅君たちの学校って授業で映画とか観れるんでしょ? いいなぁ」

 いいなぁ……か。まあ瑠璃のような内情を知らない人間がそう思うのも無理はないか。俺たちだって入学前はそう思ってたわけだし。

「それがあんま楽しくもないんだなぁ、これが」

「何で?」

「えっと、こないだ観たやつは何だったっけ?」

「『DOG・STAR・MAN』だよ……」

 赤夏が憂鬱そうな顔で答える。そう、そんな名前のタイトルだった。正直、ほとんど覚えていないし、二度と観たいとは思わないが……。

「聞いたことないなぁ、どんな映画?」

「『MAN』つまり人間を視点の中心に据え、自らより小さいものとしての対象に『DOG』つまりは犬、大きいものの対象として『STAR』、星を設定し、明滅やイメージの連鎖、及び見るものの思考と視覚、むしろ五感の分裂を拡大・縮小させながら、その3つの次元を軽々と越境する。マクロもミクロも過去も未来も現在も全て等価であるように扱われ、だからこそ強者-弱者の理論や進歩史観、搾取、暴力、貧困、専制や民主、あるいはエコ、などなど、あらゆる問題を越えて、ある。だがそれは神の視点ではない。ブラッケージは『MAN』であり、愛犬と愛する自然との関わりの中で、己の足元を見つめた傑作……らしい」

 というのはテスト対策のために配られた解説プリントの一説を暗記したものだが。

「あ、あの……もうちょっとわかりやすく言ってくれると嬉しいかな……かな」

「ようは意味不明な映画ってこと」

 身も蓋もない言い方で赤夏がスッパリと言い切る。

「その前に観たのは『アンダルシアの犬』だったよな、あれは多少マシだったけど」

「俺、あれ全然ダメ。冒頭からグロいし。鵲、やっぱおかしいぞお前」


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7

 『アンダルシアの犬』は椅子に座った女性の目玉が剃刀で切られるシーンから始まるショッキングな作品。ちなみに有名な「記憶の固執」の(あの時計がチーズみたいに溶けてる絵)の作者である、サルバドール・ダリが脚本をしている。似たタイトルのアニメがあるので間違えないように注意すべし……といっても普通のレンタルビデオ屋には置いていないが。

「『アンダルシアの夏』ならあたし観たよ? グロかったっけ?」

「いや、それ違う映画だから」

 さっそく勘違いしている人間が一人……。

「まあ要するにイメージ映像とかアート映画ばっかり見せられるわけよ」

「よくわかんないや」

 イメージ映像というのは、直接的描写やストーリーではなく、なんの脈絡もないように見える風景や物などの映像を繋げ、意味を持たせて何かを表現するもの。大体の場合、一般人にはその何かがわからず、意味不明にしか見えない場合がほとんど。

アート映画というのは、エンターテイメント性よりも芸術性を追求した映画。難解で理解し難い内容か、あるいは映像は前衛的で美しいが内容はほとんどないものかが多い。

「あとは身体障害者のドキュメンタリーとか、差別問題云々とか……何ていうの? 辛気臭いっていうか、真面目ぶったっていうか……とにかく、瑠璃が思ってるみたいな今時のハリウッド映画とか観るわけじゃないんだよ」

 学校の授業で見せられたのは、おおよそ一般の人間が『映画』と聞いて思い浮かべるようなものとは違う代物ばかりだった。

 特にB級の特撮やらSF、アクション等が大好きな俺たちとっては正直耐え難く、赤夏にいたっては映画鑑賞の授業中はほとんど寝てしまっていた。

「はぁ……映画の学校っていうと他に何の授業するの? 映画撮ったりとか?」

「ああ、毎回課題を出されてそれに沿って作品を撮らされるんだがな。さっきの電話もまあそれ関連なんだが……これがまた面倒くさいんだよな」

 俺の言葉に瑠璃は不思議そうな顔をする。

「ん? 映画作りたくて学校行ったんでしょ? それに自分の好きな映画撮れるなんて楽しそうじゃん」

「映画作るのは楽しい、そんな風に考えていた時期が俺たちにもありました」

 某漫画キャラを真似た俺の台詞に、赤夏もうんうんと頷く。瑠璃だけはわけがわからないという風に首を傾げている。

「ほんとに好き勝手に映画撮っていいなら楽しいんだけどね」

「駄目なの?」

「結局、さっき言ったみたいな芸術映画がもてはやされる校風だから、嫌でもそういうの撮らないといけないんだよ」

 撮りたくもないイメージ映像を撮る為にカメラを覗いていると、一体自分は何をやってるんだろうというひどく空しい気分になる……。

課題発表のときはクラスメイトが撮った映画を鑑賞して意見し合うのだが、意味のわからない断片映像の作品を何本も、数時間に渡って観せられ「ここのカメラワークが斬新な映像表現で……」といった批評をさせられるのは地獄以外の何物でもない、地獄の黙示録だ。

「そりゃ、ああいう映画って何て言うの、普通とは違う表現とかあるし技術力も高いし単純に凄いとは思うよ。撮ってる人は頭良いんだろうなとも思うけど、映画ってもっと違うと思うんだよなぁ……もっと単純にドンパチしたり、笑えたり、そういうもんじゃないんかなって。少なくとも俺が小さい頃から好きだった映画はそんなんばっかだったよ。学校入ってから、何かつまんないんだよなぁ。最後に卒業制作しなきゃいけないけど、どうしたものか……考えるだけで憂鬱だよ」

 卒業制作、試験のなどろくにない専門学校において卒業前に唯一クリアしなければならない関門。

各自で企画を考え、それに合わせてチームを組み、卒業までに映画を一本取り上げて提出する。そして、生徒全員の作品をホールで上映し、教員と一般の客を交えて審査し、優秀作を選ぶのだ。


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8

 学校で何を学んだか、それによりどれくらいのものを作ることができるのか、二年間の集大成を発表するのだ。

俺の卒業制作におけるチームは赤夏のみ。やる気のない落ちこぼれ二人だ。

この時期まできて、どういう作品を作るかなどはっきり言ってまったく何も考えていない。これは非常にまずい、夏休みから卒業までというと、けっこう時間があるように思えるが映画制作は短くても半年はかかるし、残りの授業や就職活動等を考えるとかなりギリギリだ。

「何かさ、つまんないよね」

「ああ、つまんないよ」

「違う、迅君たちの考え方がさ」

 俺たちの考え方? それは一体どういう意味だ?

「せっかく好きで映画の学校に入ったのにさ、全然楽しそうじゃない……学校の方針がどうとかは知らないけど、迅君だってこういうのがやりたいってのがあって映画学校行ったんじゃないの?」

 俺は髪をかき上げる。

「そうなぁ、撮りたいのはあるよ、うん。例えば銃をバンバン撃ったり、あと宇宙人とか怪獣出てくるやつとかさ。そういう感じの。正直、芸術映画とは対極にあるようなものなんだよ」

「じゃあ、いいじゃんさ。そういうのやれば」

 瑠璃は無垢な顔でそう言う。

「あたし、芸術映画がどうこうとか、迅君たちの行ってる学校がどんなとことかは知らないけどさ、映画ってもっと楽しいものじゃないのかな? 迅君自身がさっき言ってたじゃん。

周りと同じようなの撮って、適当に評価貰って……何か大事なもの忘れてるんじゃないかな? 迅君たちが何をやりたいか、何を表現したいか、それだよ。君たちはクリエーターでしょ?」

 そう言ってビシッと人差し指を立てる。

 何と答えたらいいかわからず、俺と赤夏はお互い目を合わせる。

 瑠璃の言ってること、それは至極もっともだ。俺たちは映画を撮るのが好きで学校に進学したはずだった、だがいつの間にか映画作りを楽しむということを忘れてしまっていた。

「そうだな。どうせ最後だし、思い切り好きなものやって見てもいいかもしれないな……どう思う?」

 俺の言葉に、赤夏はニヒリスティックに目を細めてチラリとこちらを見た。

「やりたい放題やって、めちゃくちゃなもん出して発表会で酷評の嵐、何て言うのははっきり言って最悪だな」

 冷めた口調で言い放つ赤夏。

 ……そうだよな、そう思うのが普通だ。勢いと理想で動く俺と対照的に、こいつはいつも現実主義だ。だからこそこの十年以上の付き合いはバランスがとれていたのかもしれないが……そしてどちらが賢いかというとたぶん、赤夏の方が賢い。

赤夏の協力が得られないとなると、俺は一人で作品を完成させなければならないわけだが……これは不可能に近い。結局、振り出しに戻るという形か。

 溜息をつく俺を横目に、赤夏はコップに注いであったジュースを一口飲む。その後、赤夏の口から出た言葉は少し意外なものだった。

「だから、失敗は許さんぞ。エンターテイメントだろうが、アンチ芸術映画だろうが、やると言ったからにはコンテスト一位狙うからな」

 それに何にしても作品提出しないと卒業できないからな、と少し間を空けて付け足す。

 俺は何か心の中で湧き上がるものを感じた。


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 進学してから久しく忘れていた気持ち。向上心とチャレンジ精神だ。少年時代、遊びでビデオを撮っていたときはこの気持ちに溢れていた。出来たものは下手くそな素人作品だが、大好きな映画のワンシーンを再現しようとしたり、どうしたら格好よく撮れるかなど創意工夫して、いつも心は輝いていた。

 やる気の出てきた俺たちを見て瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。

「そうそう、そうでなくっちゃ。高校の頃の情熱を取り戻したね♪ さっきまではこの世の終わりみたいな感じだったよ」

 瑠璃の言葉に俺は苦笑いを浮かべる。自覚はなかったが学校の話をする俺たちはそんなにも沈んだ感じだったのか。

 高校の頃と言われ、ふと心の奥底に沈められていた感情が動き始める。そう、何の為に映画の学校へ行き、何がしたかったのか。ここにきてもう一つの目的を思い出した。

「ああ、やってやろう。いやが応にも学校の連中が認めざるえないような作品作って、ギャフンと言わせてやろうぜ」

「うん、あたしも協力するね♪」

 熱く拳を握る俺、相変わらず少し冷めた赤夏、そんな俺たちを見て笑う瑠璃。

 この日から、俺たちの青春の一歩が始まった。

 

 

次の日、赤夏と瑠璃は再び俺の部屋に集合した。本来、我が家を映画制作に会議室変わりにするのは気が進まないが、瑠璃のところは色々厳しいらしく家に上げてもらったことないし、自室すらない赤夏の家は論外。ファミレスとか喫茶店だと金がかかる上にあまり長時間いられない。

平日は両親共に夕方まで仕事に出ているので、それまでの間はなら特に問題はないだろう。それに俺の家だと他にもメリットがある。

「見て見て『双頭の殺人鬼』だって。こんな映画あるんだぁ」

 『怪獣(秘)大百科』を片手にはしゃぐ瑠璃。指差しているページには、頭が二つある怪人の写真が載っている。

他にも巻頭カラーで『原子怪獣ドラゴドン』『死のオオカマキリ』『それは地獄からやってきた』『百万の眼を持つ刺客』etc…映画ファンでも見たことも聞いたこともないような映画のポスター写真が大量に紹介されていた。タイトルを見ればわかる通り、あからさまにB級、下手したらZ級の可能性もある映画ばかりだ。

 最初は奇異なものを見る目で見ていたが、読みふけるうちにマニアック映画の虜になってしまったらしい。

B級映画好きにとってはタイトルとポスターを眺めているだけでワクワクしてくる。いや、こういうのはむしろ本編を見て失望するパターンが多いかもしれない……いずれにしても普通のレンタル屋にはまず置いてないようなタイトルなので、観る機会はなかなかないだろうが。

 普通の女の子は触れることがないだろう未知の世界に興奮する瑠璃とは対照的に、赤夏は黙々と『SF映画大全』を読み耽っている。こちらはメジャーからマイナーまで古今東西のSF映画を紹介する濃い内容の本だ。隣には数冊の本を積んであり、タイトルはそれぞれ『スーパーヒロイン大全』『ガメラ大全』『アニメヒロイン大全』……そう、俺の家にはこの手のマニアックな映画の本が大量にあるので、映画制作に必要な資料に事欠かないのだ。

「さてさて、そろそろ皆の意見を聞かせてもらいたいのだが」

 本を読んでいた二人が顔を上げる。

「意見っつってもな」

「いや、だからとりあえずどういう方向性でいくかだ。漠然と好きなことやるっても話が進まんから、まず何をやりたいかだな。俺は見ての通り、こういう趣味だからSFや特撮、怪奇映画を作ってみたいのだが」

「いいんじゃない、面白そうだし。これに載ってるようなやつ作ろうよ!」

 いや、その本に載ってるようなのってのは駄目だろ、ヒットしなかった一般では誰も知らないであろうマイナーな映画集めた本だし……。



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