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ー 16 ー チーム・サレンダー 結成パーティー

「水沢さん、いらしてたんですか。お久しぶりです」

隆太が家に着くと、完成したばかりの店の前を水沢有希子がウロチョロしていた。
開店祝いの花をいじってみたり、看板の位置を直してみたりしている。相変わらず、元気な人だ。

「お久しぶりじゃないわよーーう!私、何度か来てたのよ?大原君と会う機会が無かっただけで。」

いつの間にか、大原さんから大原君になっていた。
この分では、リュータと呼びはじめるのも時間の問題かもしれない。


「ね、ね、屋上菜園、大原君の提案なんだって?すごく、いいアイデアじゃない。もう、近所の話題になってるみたいね」

隆太が返事をする間もなく、勝手に盛り上がっている。

有希子が言っているのは、このビルの屋上に菜園を作ったことだった。

日本であまり流通していない野菜は、買うとどうしても割高になってしまう。
ならば自分たちで栽培してしまおう、ということになり、夫妻は有希子と共にレンタルの農場を探していたのだが、近場で適当な畑が見つからなかったのだ。

その話を聞いた隆太が、以前テレビで見た屋上菜園の話を思い出して、カイに話したのだった。

提案した、というより 単なる思いつきで言っただけだったのだが、彼らにはそのアイデアが斬新に感じられたようだ。

すぐさま屋上菜園について調べ上げ、1週間ほどで屋上のスペース半分に菜園を手作りしてしまった。
既に、数種類の野菜が無農薬で育てられている。
虫除けには、ハーブを煮出して冷ました水を使う。

畑に撒く水は、もちろんサレンダーのパワーを注ぎ込んだものだ。

さらに、4人(時には隆太を除く3人)で菜園の四隅に立ってエネルギーの結界をつくり、野菜にエネルギーを注ぎ込むこともあった。
そうすることで、野菜の栄養価が上がり、美味しく、また早く育つのだそうだ。

隆太には効果のほどはわからないが、彼らはベトナムで実証済みなのだ。

自家栽培出来ない野菜は、無農薬野菜を作っている農家から買い取る契約をしてあった。



「早く中に入りましょう。もう何人か集まってるのよ」

そう言って有希子はさっさと行ってしまう。パーティーに若干興奮しているようだ。

隆太も美味しそうな匂いにつられるように店に入った。


「開店、おめでとうございます」

「やあ、リュータ。引っ越しおめでとう!」

隆太が声を掛けると、パーティーのセッティングをしていたカイが走り寄ってきた。

グエンファミリーとはほぼ毎日顔を合わせていたが、せっかくのパーティーなので、改めて挨拶しあう。

プレゼントを渡すと、カイは厨房にいるホアとフオンを呼んだ。

彼らは改めて、「これからもよろしくお願いします」と挨拶しあった。
そして、申し合わせたように、照れながら笑い合った。
有希子は来客の相手をしつつ、そんな彼らの様子を微笑みながら見守る。


チーム・サレンダーの結成だ。

いよいよ、正式にサレンダーの守人としての人生が始まる。


「これ、いま見てもいい?」

フオンが隆太を見上げて言った。

「隆太がいるときは、なるべく日本語で話す」ことを心がけ、フオンの日本語は目覚ましく上達していた。
春から近所の小学校に通うフオンだが、この調子ならそれほど問題は無いことだろう。


「もちろん。開けてみて」

言い終わるか終わらないかのうちに、フオンが包みを破きはじめた。

「わあ…」

箱からペンダントを取り出したフオンは、見とれたまま言葉も無い様子だ。


ホアの手が肩に置かれ、フオンはやっと言葉を取り戻した。

目をキラキラさせながら「リュータ、ありがとう!とてもステキ!」と叫び、鏡の前に走っていってペンダントを首にかけた。

鏡の前でくるくるまわりながら自分の姿を確認して戻ってきたフオンは、今度は両親の前でお披露目している。

「サレンダーのお守りだよ」

隆太はしゃがんでフオンと同じ目線になり、家族にだけ聞こえるくらいの小さな声で言った。
フオンがサレンダーであることは、近所の人達には秘密なのだ。

「これは、モリビトのお守り」

そう言って隆太は、自分の首もとからチョーカーを引っ張り出して見せた。

「シーーー」「シーーー」

隆太とフオンは、人差し指を口の前で立ててクスクス笑った。

カイとホアも、既に包みを開けてプレゼントを見せあい喜んでくれている。


そうするうちにも客は増え、店内は賑わってきていた。
両親は、フオンにプレゼントを部屋に仕舞ってくるよう頼み(「壊さないようにね」)、自分たちは準備に戻った。

有希子は中央に集めたテーブルに甲斐甲斐しく料理を並べ、客の間をまわっては飲み物を振る舞っている。
隆太もそれを手伝うことにした。





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ー 17 ー 隆太の計画

「ひゃ~。それにしても、盛り上がったわね~」

12時を過ぎ、有希子が皿を片付けながら言う。

商店街の人達や隆太のバイト仲間が入れ替わり立ち替わり、パーティーは大盛況だった。
「自家栽培の無農薬野菜を使ったベトナム料理」を出すレストランということで、開店前から周辺の話題になっていたのだ。

パーティーの最後には、グエン夫妻手作りの大きなケーキが登場し、隆太の引っ越しを祝って客に振る舞われ、お開きとなったのだった。


隆太も、ゴミを拾いテーブルを拭きながら笑う。
カイとホアは厨房で洗い物。フオンはとっくに夢の中だ。

「料理も好評だったみたいですしね。
 近所の人達とも もうずいぶん仲良くなってて、朝の瞑想を教わってる人もいるぐらいですから」

グエン一家の人柄のせいなのだろう、あっという間に近所に溶け込んでしまっている。
彼らの周りには、自然と人が集まるのだ。

(だが、自分の功績も少しぐらいはあるんじゃないか、と隆太は自負していた。
 なにしろ、翼を得るために街中の人と顔見知りになり、近所付き合いを欠かさぬようにし、身も心も天空橋の住人たらんと心がけてきたのだから)


「そう。なんか今、ちょっとしたブームなのよね」

「ブーム?瞑想が?」

「ううん。瞑想そのものは、ブームのほんの一部。なんていうか…彼らの思想、ものの捉え方、生きる姿勢…そういうのが、いま増えてきてるの」


そう言われてみれば、実は隆太も同じように感じていた。

サレンダーに出逢ってからというもの、インターネットであちこち見て廻ったのだ。
確かに、そういった思想を教えるサイトやブログ、書籍等がたくさんあって、少なからず驚いたのだった。


隆太は考えた。彼らに話す前に、水沢さんに相談してみようか…


 * * *


後片付けを終えた店の中、4人はテーブルにつきお茶を飲んでいた。

隆太の思いつきについて、話し合っているのだ。
時たま、有希子がベトナム語で言葉を補ってくれるのが、非常にありがたい。


昼間、パワーストーンショップでハンドルネームで呼び合う2人連れを見て、隆太は思いついたのだ。

自分の体験、サレンダーとの出逢いから修行の内容までを、インターネットで発信してみてはどうかと。

だが、それには危険が伴う。
内容によりフオンの素性が知れれば、興味本位で多くの人が訪ねてくるかもしれない。中には、害意を持つものもいるかもしれないのだ。

だから、あくまでも『ブログ小説』として、発表する。
登場人物は名前を変え、全てフィクションという形を取るのだ。


「でも、どうして?何のために、発表するのですか?」

カイの疑問は、当然だった。だが、隆太は期待していた。


サレンダーの瞑想は、素晴らしいものだ。

争いというのは、実はすべて『エネルギーの奪い合い』であり、
無意識のうちに互いのエネルギーを奪い優位に立とうとする行為である。


だが私達は、愛によって宇宙と繋がることができる。
宇宙に満ちている 無限のエネルギーを、自分に取り込むことが出来る。
それにより、人の間の諍い、すなわち『両者の間のエネルギーの奪い合い』をする必要は無くなる、ということ。

すると、無用なストレスは激減し、心身ともに強く健やかに保つことが出来る。

それをみんなが知れば、世の中はきっと素晴らしいことになる。


もちろんそんな内容の文章は、今やネットの中にゴロゴロしている。
インターネットの普及によって、情報は飛躍的に広がっている。

でも、そういったことに興味がある人しか、読まないのだ。
興味がない人は、ブラウザを閉じてしまうだけだ。

その点、サレンダーは世界に唯ひとり。

「体験談風ブログ小説」という形で面白く発表出来れば、多くの人が読んで、中には新たに瞑想に共感する人もいるのではないか。


「それに…」

頭の中には、夢に出てきた「サラマンダー」という言葉がまだ引っかかっていた。
隆太はまだ迷っていたが、彼らの反応を伺いながら言った。

「似たような力を持った人が、接触してくる可能性もあるんじゃないかな」




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ー 18 ー もうひとつの目的

「ちょっと!なにソレ?!さっきはそんなこと言ってなかったじゃない!」

有希子がまっ先に拒否反応を示した。

鼻息を荒くしつつも わからない言葉があったらしいグエン夫妻に説明してくれたが、夫妻は態度を保留しているようだ。


説明し終わるや否や、有希子は隆太に向き直った。

「で?接触してどうするわけ?超能力チームを作って、世界征服でもしようっていうの?!」

思わず隆太は脱力してしまった。どんだけ飛躍するんだよ…

「…そんなわけないでしょう。この一瞬で、どこまで妄想羽ばたくんですか」


気を取り直して、説明を始める。
隆太は、先代のサレンダーについて聞いたことを思い出したのだった。

彼は、自分の能力について知らされたのが遅かったため、長いこと人知れず悩んでいた。
同じように、特殊な力を持っているがために悩んでいる人がいるのではないか。
もしかしたら瞑想やその過程で教えられる思想により、そういう人を救えるのではないか。

隆太は息を詰めるようにして、反応を待った。


「キケン、は無いのですか?」

沈黙を破ったのは、ホアだ。

「リュータの翼のことも、書くのでしょう?そうすれば、天空橋のことだとわかってしまう」

隆太は頷いた。だが、それについても考えてあった。


元々、天空橋の住人(天空人)は、翼を持つことや空を飛べることを自ら発信しない。

それは、世間から虐げられたり、色眼鏡で見られたり、彼らの能力を悪用しようとしたりする人々に苦しめられた歴史があったからだ。

それに実際問題として、翼が意外に不便だということもある。

洋服の問題だ。

普段、翼は背中にフィットしていて 服を着ていれば外からはその存在がわからない。
鳥が翼をたたんでいる時、美しい流線型であるのと同じことだ。

羽ばたくには、服の背中部分に切り込みを入れ、そこから翼を外に出しておく必要がある。

だが、天空橋から外に出ると翼は消えてしまう。
結果、単に「背中に切り込みのある変な服を着ている人」になってしまうのだ。

夏ならばタンクトップやキャミソールでいれば問題ないのだが、それだけ暑い日となると、上空はさらに暑い。

冬は冬で、コートまで切り裂かねばならないのだから、寒くて仕方ない。

とてもじゃないが、そうそう飛ぶ気にはなれないのだった。


そういった諸々の理由で、天空人達は自らの能力が都市伝説やおとぎ話と化するにまかせた。
むしろ、口を噤むことで、そういった流れを助長させた。

やがて、「聞かれれば答えるけれども、自分からわざわざ言ってまわらない」という姿勢が、暗黙の了解のもとに出来上がったのだという。

さらに最近では、若者の間には「空飛ぶとか、ちょいダサくね?」という風潮がある。

だから、隆太がそれを小説にしても問題は無い筈だ。
実際、天空人を題材にしたファンタジー小説は、既にいくつか存在していた。
(もちろん、現実とはかけ離れた内容だったが)



説明を終えても、3人はまだ難しい顔で思案している。

「ま、上手く書ければの話ですけどね。発表しても、誰も見に来ないかもしれない」

隆太が場の空気を変えるように明るく言うと、3人もフッと息を漏らした。


「瞑想の方法を広めることには賛成です。でも…サレンダーや守人について書くことは、フオンの意見も聞いてみなければ」

「そうです。もし興味を持った人がここにやって来たら、フオンの修行の邪魔になるかもしれない。それに、別の力を持った人がいれば、フオンのことを良く思わないかも」


夫妻の心配はもっともだった。

やはり、フオンを交えてもう一度検討したほうが良さそうだ。

隆太は、さっきから黙り込んでいる有希子にも意見を聞きたかった。

「水沢さんは、どう思います?」

「ん~…柏原 麗華!!…それか、曾根崎 さくら!!」

「…え?」

グエン夫妻と隆太は顔を見合わせた。

「名前よ。偽名を使うんでしょ?」

 ……


数秒の沈黙の後、皆一斉に笑い出してしまった。

「なによ~。憧れの名前なんだもん。いいじゃない!」と、ふくれている有希子以外は。



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ー 19 ー 「翼の守人」始動


翌朝の瞑想は中止となった。前日夜更かししすぎてしまったためだ。

「おはよう、リュータ」

朝食に招かれていた隆太が部屋に入って行くと、フオンがピョンピョン飛び跳ねるようにやって来た。

「見て。これ、着けてるよ」

昨日あげたペンダントを、嬉しそうに掲げてみせる。

「こっちに来て」と、隆太の手を掴み、リビングへ引っ張っていく。

「ホラ。こうすると、もっとキレイ」

フオンは、ペンダントを頭上にかざし陽に透かして眺めている。

そこへ、朝食を載せたトレーを持った有希子が入ってきた。昨夜はここに泊まったのだ。

「おはよう。大原くん。フオンったら、さっき私にも見せてくれたのよ。すっかりお気に入りね」

そう言いながらトレーをテーブルに置くと、自分のバッグから携帯電話を取り出し、なにやらゴソゴソしている。

やがて手の中に何か隠したままこちらへやって来た。

じゃ~ん! とフオンの前で開いた手のひらには、半透明なピンク色の 小さな石のチャームがあった。
携帯電話のストラップから外してきたのだろう。

「これ、モルガナイトっていうの。そのペンダント、スッキリしてて素敵だけど、やっぱりピンクが入ってたほうがカワイくない?女の子だもん」

「着けてもいい?」

フオンが隆太を見上げて嬉しそうに聞く。

「もちろん。良かったね」隆太は笑顔で頷いた。

「美人になるお守りよ~」

女子ふたり、キャッキャとふざけながらチャームを紐に通している。


あんなに小さくても、しっかり女の子なんだなぁ…

隆太が感心していると、カイとホアも、それぞれ料理の皿を手に入ってきた。

「朝からずいぶん賑やかだね。リュータ、おはよう」

「おはようございます」


和気あいあいとした朝食の後、いよいよブログの件についての会議が始まった。

難しい話なので、と隆太に断りを入れ、カイはベトナム語でフオンに説明した。

しばらくベトナム語での話し合いが持たれた後、フオンは日本語に戻って言った。

「リュータのお話、いいと思う。出来たら、フオンも読みたい」

この家族は、フオンを子供扱いしない。一人前の家族の一員として、その意見を尊重する。
難しいことも、簡単な言葉に置き換えてしっかり説明し、自分で判断させるのだ。

「もし、面白がってフオンを見に来る人がいたら?」

カイの問いに、少し考えて答える。

「しらんぷりする」

「もし、別の力を持った人がフオンに意地悪したら?」

「意地悪する人ともケンカしちゃ駄目って、ママが言ったよ。どうして意地悪するの?って聞くの。意地悪しないでね、って言うの」

その答えに、ホアが目を細める。

「それに、力のことを怖いと思ってる人には、怖くないよって教えてあげればいい」



こうして、隆太のブログ開設が決定した。

協議の末に決まったタイトルは、「翼の守人」。
http://tsubasanomoribito.blog111.fc2.com/


記事をアップする前に、有希子にベトナム語に翻訳してもらい、グエン夫妻に目を通してもらうことにした。

リュータの好きに書いてくれていい、と言ってくれたのだが、隆太自身に少し不安があったのだ。慎重になるに越したことは無い。


「それにしても、リュータは色んなことを思いつきますねぇ」

ホアが、感心半分、呆れ半分の表情で笑った。
隆太も、ソファに座りフオンと遊んでいる有希子へと目配せし、ニヤリと笑う。

「水沢さんにはかないませんよ。なんたって、世界征服だもの」


隆太が自分の部屋に戻る時、有希子は再びブツブツと悩んでいた。

「迷うわぁ。緑川さゆり……真行寺あかね、っていうのもいいわねぇ…」




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ー 20 ー 繋がる


開店&引っ越しパーティーから、数日後。


その朝の瞑想で、隆太は初めて宇宙と繋がった。

太古から続くすべての物質とすべての時間が結びついて、現在があることを体感した。

意識は一瞬にして地球を越えて宇宙まで飛び、また同時に、時間を一瞬で遡り宇宙創造を追体験した(ような気がした)。

まるで、世界と自分の間にあった薄く透明な膜が消え失せ、視界が明るく開けたかのようだった。

目に入るもの全てが、キラキラと美しく輝いている。
だがそれは、眼をくらます眩しい光ではなく、優しく包み込むようなあたたかい光だ。

樹も土も、虫も鳥も、みな幸せそうに見えた。

イヤ、彼らはきっと幸せなのだ。自身が気付いているかどうかはともかく。

身体が軽くなり、はばたかなくてもどこまでも飛んで行けそうな気がする。

肌に触れる空気さえも濃厚に密着し、宇宙との一体感を感じる。

身体の奥から力が漲り、精神はどこまでも澄み渡っている。


素晴らしい感覚だった。

隆太は、呆然としながら興奮する、といった複雑な精神状態になっていた。

背中の翼の付け根がムズムズする。今すぐはばたきたがっているようだ。

グエンファミリーが笑顔で拍手してくれている。

彼らもまた、一段と幸福に輝いて見える…



その感覚は、数十秒で終わってしまった。


だが、隆太は知った。

世界は、本当に、本当に、美しいものだということを。



フワフワした気分のまま、隆太は部屋に戻った。

朝食に誘われたが、胸が一杯で食べられそうになかったので、礼を言って断った。

彼らは気を悪くするでもなく、微笑んで隆太を見送った。
彼らにも、この感覚に憶えがあるのだろう。


だが、いつまでもフワフワしてはいられない。
あの感覚の余韻に浸っていたかったが、残念ながら今日は仕事だ。

隆太は先月から、深夜勤務を止めて早朝勤務に変わっていた。
瞑想にも都合がいいし、体調が良くなった気がする。


グラスに冷蔵庫から出した水を注ぎ(サレンダーの美味しい水)、瞑想中に切っていた携帯電話の電源を入れた。

日課になっている、出勤前のブログチェック。
ブログを書くのにはPCを使うが、チェックだけなら携帯電話で充分だ。

例のブログは、隆太がアップした記事を有希子がベトナム語に訳してアップ、さらにそれをカイが英語に訳してアップ、という壮大なことになっていた。

同じ内容のブログが、3つの言語で存在しているのだ。
おかげで、アクセスも徐々に伸びてきている。


携帯電話が起動するのを待つ間、水を飲みながら簡単な朝食を準備する。

隆太は最近、食事に時間をかけるようになった。

よく咀嚼し、食べ物の味をしっかり味わい、栄養を意識しながら食べると、栄養の吸収が良くなる。カイにそう教わったからだが、それ以上に、食べ物に対する感謝の気持ちが生まれたからだった。

連綿と繋がってきた命を断ち切っていただいているのだ、という自覚。


(さすがに、何も食べずに出勤ってわけにもいかないよな…バナナとシリアルだけでも食べるか…)

ようやく携帯電話が起動した。

 「メッセージが届いています」

シリアルをボウルに移しながらブログの管理ページを開いた隆太の手が、止まった。

先ほどまでの高揚感がギュッと縮まり、心臓に突き刺さったようだ。

隆太は部屋を飛び出し、階段を駆け上がった。


血相を変えてドアの隙間に身体をねじ込んできた隆太に ホアが驚くのも構わず、隆太は叫ぶようにして言った。

「これ!見て下さい!」

携帯の画面をかざす。

隆太の声を聞いてカイとフオンも出てきた。

狭い玄関で、4人が折り重なるように小さな画面を覗き込む。


「サラマンダーと名乗る人から、メッセージが来たんです」

画面を見せたところで 彼らが日本語をあまり読めないことを今更ながら思い出し、隆太は読み上げた。



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タイトル:はじめまして。サラマンダーと申します。
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ブログを拝見しました。

とても興味深い小説ですが、もしかして、これは本当のことなのでしょうか。

何故そう思うかというと、信じてもらえないかもしれませんが、私にも特殊能力があるからです。
名前からもおわかりいただけるかと思いますが、発火能力(パイロキネシス)です。

私は今まで、このことを人に言ったことがありません。
相手の反応が怖かったし、自分自身もこの力を恐れているからです。

でも、このブログを見て、希望が湧きました。
サレンダーの真似をして、瞑想をやりはじめました。

私も、心の平安が欲しい。自分に怯えずに生きていきたい。



そして、もしかしたら。
もしかしたら、私にも、守人がいるのでしょうか。



突然こんなメッセージをお送りしてしまい、申し訳ありませんでした。
もし、この小説が本当にフィクションなら、どうかこのメッセージのことは忘れて下さい。

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「…よりによって、初めて宇宙と繋がった日にこんなことになるなんて…」

隆太は混乱していた。
自分で始めた事とはいえ、今はまだ、感情も理性も 現実に追いつけない。


「偶然ではありませんよ」

ホアが当たり前のように言った。

「リュータは、こうなることを願っていたでしょう?フオンも、怖がっている人を助けたいと言った。カイも、ユキコも、私も賛成した」

「そう。みんな、同じ気持ちだった。同じ目的を持っていた。
 同じ気持ちを強く持った人が集まると、それは実現しやすくなります。
 ブログのことだけじゃなく、修行も同じ気持ちです。
 
 だから、リュータのレベルがひとつ進んだとき、これが起こった」


「みんな、つながってるの」

隆太は順繰りに、3人の顔を惚けたように見つめていた。


つながってる……そうだ…



「宇宙…」

思わず 言葉がこぼれ出た。


「そういうこと」

フオンがニッコリ笑った。




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