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ー 6 ー グエン夫妻のレストラン


隆太が予知夢(と言っていいだろう)をみていたことによって、この話を受け入れるという確信を持ったのだろうか。
数分の沈黙の後に話を再開した水沢の口調は、先ほどより幾分熱を帯びているようだ。



 * * *

グエン一家の元へ訪れた先代能力者は、修行の方法と心構えを両親に伝えた。
近くのホテルに滞在し、毎日両親のところへ通い修行の手ほどきをし、そして帰ってホテルの部屋へ帰って行った。


「カイさんは先代能力者に、自宅に泊まるよう勧めたのですが、彼は決して泊まらなかったそうです。自分が家にいると、この力のことを夫婦で充分に話し合うこと が出来ないだろうから、と。
 2週間ほど滞在し、『自分が伝えた全てのことを、どのように信じどのように実行するかは、全てあなた達の自由である』と念を押して 帰られたそうです」

水沢は、こう言って話を締めくくった。



…なるほどね。無理強いはしない、か。

水沢の話を聞きながら、隆太はチラチラと窓の外の景色に目をやっていた。

夢の内容を思い出していたせいだが、もちろん窓の外にはネコの顔をした龍など飛んでいない。
そんなことがある筈は無い。そう思ってはいたが、やはり少しホッとした。

その視線を勘違いしたのか、水沢は店内を見渡しながら言った。
「そろそろ、混んできましたね。飲み物もとっくに無くなってしまったし…場所を変えた方がいいかしら。大原さん、お時間は?」


解放されるチャンスだった。
が、こんな中途半端な状態で家に帰っても、気になって仕方ないだろう。

少し迷った末、隆太は大きく息をついて、4人を順繰りに見据えながら言った。

「僕はまだ、この話を信じたわけじゃありません。でも、色々と聞きたいこともあります。時間は大丈夫ですから、最後までお話を伺います」

水沢が通訳し、一家は笑顔でうんうんとうなずいた。


 * * *

店を出た一同は、駅の方へ向かっていた。
(父親は、ここは自分たちが出すと申し出たが、隆太は頑なに自分のぶんの勘定は自分で払うと言い張った)


父親から「よかったら、ワタシタチの家に来てみませんか?」と誘われ、お邪魔することになったのだ。

アジトに連れ込まれるのか、という警戒はあったのだが、父親がいきなり日本語を話したことへの驚きが勝ってしまった。
隆太は何故か、自己紹介以外は話せないのだろうと思い込んでしまっていたのだ。

それでつい、「日本語、お上手なんですね」と口走ってしまったのだった。

「ハイ。モリビトが日本にいるとわかってから、1年ほど勉強しました。少し話せます。でも、むつかしいコトバはわからない」
父親は、照れ笑いしながらカタコトで言った。

(そんなに時間をかけて準備していたのか…)

商店街の近くまで来ると、道のわかるところまで来たのだろう、フオンが両親を引っ張って歩き出した。

「彼らは日本に来て、もう2週間ほどになるんですよ。先代能力者の助力もあって、雑居ビルを購入することが出来たんです。中古ですけど」

「え!!…ずいぶん本腰なんですね…」

「そりゃそうですよ。彼らは、フオンちゃんが産まれたときから準備していたんですから」

隆太は再び焦りはじめた。
これは、軽い気持ちで足を突っ込んだりしちゃ、マズそうだな…



天空橋駅の商店街の外れ近く、脇道を少し入ったところに、そのビルはあった。
中古とは言ってもさほど古びた感じは無く、なかなかに清潔なようだ。

娘と母親は、シャッターの横にある階段へ入り、一緒に階段を上って行った。
父親がシャッターを上げ、中に入れと手招きする。

「ここで、レストランを始めます。ベトナムの…(少し言葉に詰まる)…カテイリョーリ?ホアは、リョーリが上手いですから」

「へえ…」

隆太は小さな部屋を見回した。もともと、飲食店だったようだ。仕切りの奥に厨房が見える。
しかし、まだ部屋の中はがらんどうだ。


また外へ出て、3人は階段を上がった。

2階を通り過ぎ、3階が一家の暮らす部屋だった。

玄関と廊下を通って突き当たりにあるリビングに通されるまでに、まだ片付ききっていないいくつかの部屋の様子を横目で見ることが出来た。


ソファに案内されると、母親がお茶を出してくれた。
とても手際がいい。料理が上手いというのもうなずける。

なんだろう。お茶はうすい黄色で、ほんのり甘い香りがする。

「ハス茶です。私も大好きなの。美肌になりますよ」

水沢が教えてくれた。
ソファに座るときも勝手知ったる様子だったし、何度か来ているのだろう。


まだ家が完全には片付いていないことを父親が詫び、いえいえ、素敵なお住まいですね…などと、儀礼的だが心温まるやりとりの後(隆太はこういう美しい気遣いが嫌いではなかった)、話は本題へ戻った。



「ええと…どこから話しましょうか?先ほど、聞きたいことがあると仰ってたけれど」

「ああ…」

そう言って、隆太は素早く頭の中をまとめた。
ここは双方にとって、ものすごく大事な局面だ。そんな気がして、背中がムズムズする…。

ヨシ!気合い入れろよ、俺…!!



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ー 7 ー 目覚め


 * * *

先代能力者が帰国すると、彼ら家族はすぐに準備を始めた。

修行の日々が始まった。

両親は毎朝の瞑想を日課とし、食べる物にも気を配った。
実際に力を受け継ぐのは娘だったが、修行の仕方は自分たちで教えるのだ。
身につけておかなければならない。

同時に、株や投資などを始め蓄財にも励んだ。
これも、先代能力者がメールや電話で手助けをしてくれた。


そんなある日、娘に与えた幼児用のプラスチック製のコップの中の水が一向に減らないことに、母親が気付いた。

そこで、娘が水を飲むごとにサインペンで水位を記してみた。
だが、しばらくするとその水位が、印の位置よりも増していたのだった。

両親は娘の能力を確信し、仕事を辞めて緑の多い郊外へ移り住んだ。
ほとんど山の中のようなところだったが、修行には適していた。

畑を作り鶏を飼い、自給自足に近い生活を確立すると、それほどお金を使わずに生活することが出来た。

一方で父親は、小さな料理店に勤めながら 店の経営を学んだ。
世界のどこへ行く事になっても、生計を立てられるように。

夫婦が自宅の畑で育てた野菜や卵の評判が良く、父親の勤める店に納入出来る様になると、それはバカにならない収入になった。
(もちろん店側にとっても、利のあることだった。)


そうした生活が続き、娘がもうじき6歳を迎えようかという頃、瞑想の最中に真の覚醒を迎えた。

夫妻はすぐに日本での生活について調べ、言葉を習い、また天空橋という土地の特殊性も学んだ。
移住の手続きには、また先代能力者が親身になって手を貸してくれた。


先代能力者が自分の能力について知ったのは、14歳の時だった。
その能力に怯えていた両親により、能力を受け継いだことを長い間知らされずにいたのだ。
彼は長い間、人知れず 謎の力について悩まなければならなかった。

それを知らされると、彼はアルバイトをしてお金を貯め、18になると自力で前の能力者に会いに行き修行を学んだのだそうだ。

修行開始の遅れのせいなのか、元より彼の資質のせいなのかは不明だが、彼の水の能力はそれほど伸びなかった。
だが、修行の際に得られた知恵や力を役立て、彼はヒーラーとして大きな成功を収め、人々の信頼と尊敬、そして何より膨大な人脈を得ていた。

次の能力者を、自分の二の舞にはしない。
彼はそう心に誓い、グエン一家のために様々な援助をしてくれた。

通訳である水沢も、彼の広い人脈を伝って紹介されたのだった。

 * * *



「それで今に至る、というわけ」

水沢が、芝居っ気たっぷりに両手を上に向けてヒラヒラしてみせた。

「私ももちろん、最初は信じられなかった。色々とね。
 でも、移住のための各種書類やら、彼らが準備した日本についての資料やらを見せられて、彼らが本気で、日本での修行に真剣に取り組んでる事がわかったの」

水沢の言葉に反応し、父親がキャビネットから書類や資料を持ち出して来た。
様々なファイルや本、全員のパスポートまで、山の様に揃っている。

隆太は、念のためあらためてみた。
が、パスポートはともかく、書類に関してはサッパリだった。
英語は少しだけ読めたが、公的な書類などは理解出来ない。
ましてや、ベトナム語となるとお手上げだ。

諦めの視線を水沢に送る。

「私が見た時には、彼らの弁護士が同席していたの。だから、書類については解説してもらえた。日本の生活についての資料は‥‥かなりよく調べてあると思うわ」

「なるほど」
それについては水沢を信じるしか無さそうだ。


隆太は、両親の目を交互に見ながら切り出した。
緊張の為か、両手はキッチリ揃えた膝の上だ。

「これまでの流れは大体わかりました。つぎは、その『力』について伺いたいんです。それと、『モリビト』の役割について」



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ー 8 ー 生きた水

能力の話になって、自室で遊んでいたフオンが呼ばれ、目の前に座った。
先ほどのファミレスの時の再現のように。

「フオンは、とても小さいときから、水を増やすことが出来ました」

そう話しはじめたのは、母親だ。こちらも日本語が上手い。

「でも、言葉を憶えると、出来なくなった。でも、シュギョウでまた出来るようになった」

母親に愛情を込めて背中を撫でられ、娘は嬉しげに母親を見上げた。


なるほど。言葉を覚えたら「水をちょうだい」と言いさえすればいいのだから、力など必要なかっただろう。
しかし成長と共に、力の重要性や素晴らしさを理解しはじめ、修行によって再び力を取り戻した、と。


「‥‥‥」

「で?それから?」

「え?何が?」水沢がキョトンとする。


「何が、って‥‥それだけ?水がちょっと増えるって、それだけ?!」

「…それだけ、ってどういう意味?スゴいことじゃないですか!これは魔法よ?!アナタに同じ事が出来るの?」

まるで自分が侮辱されたかの様に、水沢が語気を荒らげる。


「い、イヤ…出来ないけど……その…なんつーか……地味じゃね?」

うぅ、ヤバい…!!失言に焦りすぎて、更に最悪な言葉を選んでしまった。
フォローしなければ!

「あの…さ、別にバカにしてるわけじゃないんです。でも、なんだ…えーと、何の役に立つのかな、ってさ…」

マズい…焦れば焦るほど、事態が悪化していく…


怒りのためだろうか。水沢は目を見開いて言葉を失っている。

隆太は引き攣った笑顔のまま肩をすくめ、目だけを動かして彼らの様子を窺うことしか出来なかった。



「・・・・プフッ!」

堪えきれず、水沢が吹き出した。そしてついに、腹を抱えて笑いはじめた。

「あはははは!!そう、たしかにそうなのよね。実は、実はね、私もちょっと思ってたのよ。ちょっとだけね」

目尻の涙を拭きながら、水沢は白状した。


グエンファミリーはオロオロしている。
無理もない。目の前の2人が突然言い合いを始めたと思ったら、一転して笑い転げているのだから。

水沢が笑い混じりで通訳した。

(うわ、バカ。訳すなよ!!)

と内心焦ったが、彼ら3人も大笑いしている。

なんだよ、思ってたなら初めから言えよ。ビビったじゃねーか…そう思いつつ、隆太も安心してヘラヘラと笑ってしまった。


「たしかに、役には立たないね。でも、スゴいこと」

「うん。そうですね。スゴいことだ」

隆太は素直に父親に同意した。本心だった。


「それに、水が美味しくなりますよ」

そう言って、父親は2つのグラスに水道から水を汲んで持って来た。


「同じ水です。飲んでみてください」

隆太は言われるまま、一口ずつ飲み比べた。同じ水だ。

「どちらかを美味しくしますよ。選んで下さい」

隆太は片方のグラスを指差した。「ん〜、じゃあ、こっち」

父親が目配せすると、娘は頷いてグラスを見つめた。


取り立てて何かしたようには見えなかった。

さっきまでと同じく、リラックスして座っていただけのようだったが、両手でそっとそのグラスを押して、隆太に近づけた。

「飲んでみて」


隆太は驚いた。さっきとは、まるで味が違っている。
口当たりがまろやかになり、ほのかな甘みさえ感じるようだ。

もう片方のグラスの水を飲んでみた。

不味い。さっきは平気だったのに、一度美味しい水を飲んでしまった後では、こちらは飲み下すことさえ困難なほどだ。


「なるほど」

隆太は、口直しにもう一度、美味しい水を飲んだ。
こんなに美味い水を使って育てた野菜が、美味くないはずが無いだろう。

「自家製野菜の評判が良くなるわけですね。レストランも繁盛しそうだ」

両親はニッコリと頷いた。


「ずいぶん、飲み込みが早いのねぇ」
水沢が感心したように呟く。

「話の飲み込み」という意味だとはわかっていたが、つい嬉しくなって調子に乗った。


「水だけに?」


…見事に流された。水だけに。



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ー 9 ー 翼とモリビト


さて。

渾身のジョークをスルーされた痛手から 見事に立ち直ってみせた隆太は、
自分にとって最大の質問を投げかけた。

モリビトの役割についてだ。


「モリビトは、サレンダーを守ります」

父親の簡潔すぎる説明に、水沢が補足した。

この受け継がれて来た能力とその能力者は、サレンダーと呼ばれている。
だが、先ほども言ったように、名前は重要ではない。
次のサレンダーがどの国に産まれるのかは、その時になるまで わからないのだから。

父親は感謝を込めて水沢に頷き、続けた。

「サレンダーは、力の使い方を間違わないために、心を強く美しく保ちます。
 でもそれは、簡単ではない。特に、小さな子供には」

「いろんな悪い力が邪魔をします。だから、親だけでは守れない。モリビトに助けてもらいます」


「ちょ、ちょ、(ちょっと待ってくださいよーーーー!!)」

隆太は思わず空中に両手を突き出し、交互に話す両親を押しとどめた。

「俺、何も出来ませんけど!!!特別な力なんか無いし、ケンカなんかしたことないし、お手本になれるような優等生でもないですから!!マジ、無理!!」


「大丈夫。聞いて」

水沢がいつの間にかタメグチになっている。が、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

「誰もアナタが魔法を使えるなんて思ってない。モリビトは、ただ一緒に修行をして一緒に成長して行けばいいだけなの。
 別に悪魔と戦ったりするわけじゃないのよ。…たぶん」


「修行って、何だよ。滝に打たれたりすんの?俺、そんなのヤダよ?
 それに第一…たぶん、って何だよ!たぶんって!悪魔とか悪霊とか出てくる可能性があるってこと?」

「ちょっと!ちょっと待って。わかった。ごめん、私の言い方が悪かった。」


今度は水沢が手のひらを隆太に向けて、押しとどめる番だった。

「悪魔云々を持ち出したのは、ただ、そんなおどろおどろしいことじゃ無いってことを言いたかっただけなの。持ち出してしまってから、そういう可能性については一度も聞いたことが無かったのを思い出したのよ。
 だから、咄嗟に『たぶん』なんて言っちゃったの」

隆太の反応を窺い、言葉を継ぐ。

「それからね、修行についてだけど、静かに瞑想をするだけ。道具もお経も、もちろん滝もナシ。
 私も一緒にやらせてもらったけど、なかなか素敵だったわよ。清々しい気分になれた。」


隆太はひとまず落ち着いたが、まだ納得はしていなかった。

そんな様子を察してか、水沢は父親に質問している。

娘は、母親と両手を合わせあって遊んでいる。
おそらく、隆太と水沢が先ほど両手で押しとどめようとした仕草の、真似のつもりなのだろう。


「悪魔のことは聞いたことが無いんですって。ただ、え~と…邪念?
 他の人間の悪心が魂を汚そうとすることがあって、そういうときにモリビトの存在が助けになるの」

「だから俺は、何も出来ないって…」

水沢が遮って言った。

「きっと、こういうことなんじゃないかな?同じ目的を持って一緒に成長していく、家族以外の、しかも信頼出来る誰か。
 その存在自体が、サレンダーの力というか…助けになるんじゃないのかな」

「でも…でも、そんなの俺じゃなくたって……イヤむしろ、俺よりマシなヤツが」


「あなたなのよ」

水沢は押し込むように言い切った。

「なれるものなら、私がモリビトになりたいわよ。でも、彼女は覚醒した時、ハッキリと言ったそうよ。

  『天空橋に住む、小さな翼を持った おとこのひと』


 …翼、あるんでしょ?」



シャツの下の翼の羽根が、逆立った気がした。



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ー 10 ー 天空橋の人気者

「翼を持ってるのなんて、この辺では俺だけじゃ…」

俺だけじゃない、と言おうして またもや遮られる。

「『おとこのひと』と呼ばれる年齢で翼が小さいのは、天空人に憧れて越して来て、ついこの間 翼を獲得したばかりの、アナタだけ。」

「どうして、それを…」

「不動産やの大おじいちゃんに聞いたの」



・・・・あの、クソジジィ。

心の中でだけとはいえ、隆太は長老のことを初めてクソジジィ呼ばわりした。


「少し、苦労したわよ。初め、私はこの辺の人たちにあなたのことを聞いて回ったの。
それがマズかったのね。警戒されちゃった。無理もないわよね。

 でもそのうちに、不動産やの大おじいちゃんに紹介してもらって、彼にだけはサレンダーのことを話したの。
 彼は、フオンちゃんのパフォーマンスも見ずに信じてくれた。顔を見れば悪い人間じゃないことはわかる、って。さすがよね」


…さすがじゃなくて、悪かったな。

口には出さなかったが、ふてくされ気味に隆太は思った。


「大原さんの部屋は、フオンちゃんがすぐにわかったから…」

「え?それは、どういう…」

「彼女は、あなたの居場所は行けばわかる、って言ってたの。
 そして実際、すぐにわかった。初めての場所なのに、なんの迷いも無く…」

そう言って、水沢は両手を二丁のピストルのようにして隆太を指した。


隆太は、気味悪くなって思わず身を引いた。

どこまで知られているんだろう…心の奥までも見透かされているのだろうか。


「彼女がわかるのは、あなたの部屋だけ。顔も名前もわからなかった。だからご近所に、あなたの事を聞いて回ったのよ」

隆太の様子を見て、安心させるように、だが少し残念そうな口調でそう言った。


「それにしてもあなた、ずいぶんご近所さんから愛されてるのね。みんなあなたを守ろうとしているように感じたけど」

「ハイ。あなた、ニンキモノですね」

水沢と父親にそう言われ、隆太は顔がほころんでしまうのを止められなかった。

そりゃそうさ。俺の地域活動をナメんなよ?…しかし、そうか…守ってくれたのかぁ…やっぱり みんないい人達だなぁ…俺、天空人になれて、ほんとに良かったなぁ…

ニヤニヤを誤摩化そうと、顔を擦りながら「いやぁ、そんな…」などとゴニョゴニョ呟く。


さっき感じた不気味な戦慄の名残は、どこかへ消えてしまったようだ。
ちょっと褒められただけで、我ながら単純だと思う…


「この街に住む、嬉しいです。みなさんと仲良くなりたい」

いつのまにか絵本を持ってきて読んでいる我が娘に、父親は優しい目を向けた。

「フオンも、学校でトモダチが出来ると思います」


「え?!学校?…そういうの、あるんですか?」


「ええ…学校、あります」
キョトンとして、父親が答える。


「知らなかった…この近くに、そんな、魔法学校みたいな…」


隆太がそう言った途端、水沢が吹き出した。
そして爆笑しながら通訳している。ハリー・ポッターとかなんとか…

「な、なんだよ…アンタがさっき魔法とか言うから…つい…」

自分の勘違いに気付いた隆太は、しどろもどろになりながら言い訳する。
顔がえらく熱い。


「フオンも、ハリー・ポッターのお話は大好きです。でも、彼女が通うのは普通の小学校」

隆太を除く全員がひとしきり笑った後、母親が言った。

「ついでに言うと、魔法の杖も呪文もナシ。残念ながら」
柏木はそう言って、まだニヤニヤしている。


…くそう……

開き直った隆太は、おどけて指をクルクル回しながら、ハリー・ポッターに出てくる有名な呪文を娘に向けて重々しく放った。

娘はキャッキャと笑いながら、呪文を避けるフリをした。




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