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ー 3 ー 困惑のモリビト

隆太は面食らったまま一旦断ってから(「失礼、」)玄関のドアを一旦閉じ、
チェーンを外すと
怪訝な表情のまま、またドアを開けた。

(通訳?グエン?なんでまた、外国人が、俺に?)

外国に知り合いなど居ない。
自慢じゃないが、パスポートすら持っていないのだ。


「彼らは、ベトナムから来ました。あなたに会う為に。」



* * *



15分後、一同は近所のファミレスに居た。
玄関先に彼らを待たせたまま、大急ぎで着替えて出てきたのだ。

わざわざベトナムから何の話か知らないが、初対面の人間を部屋に上げるわけにはいかない。
(目覚まし時計のタイマーも、ちゃんと解除してきた)


ボックス席のテーブルの向かい、壁側に母親(華奢で、柔和な印象だ)、
小学校まえぐらいの娘(クリクリした目でこちらを見つめている)、
通路側に父親(小柄で、温厚そうな男だ)。

そして、隆太の隣には、例の水沢とかいう美人。

なんだかよくわからない展開に戸惑い、気付けば隆太は壁側に座っていた。


(…しまった。容易には出て行けないじゃないか…)


席にひとまず落ち着くや否や、ウエイトレスが水とメニューを運んできた。

珍しいのだろう。店内をキョロキョロと見回していた子供は、今度は子供らしい遠慮のなさで、ウエイトレスを凝視している。

メニューを渡されると、今度はメニューに釘付けだ。

母と娘のちょっとした攻防の末、娘は大きなチョコレートパフェは逃したものの、100%果汁のオレンジジュースの他に、小さなアイスクリームとプリンのデザートを勝ち獲ったようだ。

ウエイトレスが立ち去ると、父親が口を開いた。

「ハジメマシテ、大原さん。私はグエン・バン・カイです。
 こちらは妻のホア。娘のフオンです」

カタコトの日本語で、それぞれを紹介する。

娘は真っすぐにこちらを見つめ、ぺこりとお辞儀をした。
母親は少し緊張気味の笑顔を浮かべ、会釈する。


「どうも。大原です」
言わずもがなだとわかってはいたが、相手が自己紹介しているのに何も言わないというわけにはいくまい。
それぐらいの礼儀はわきまえているのだ。


「ワタシタチは、この娘の身を守る為に、ここへ来ました。モリビトの側に。」




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ー 4 ー 睡眠の重要性


「‥‥モリビト?」


(なんなんだ、一体。身を守る?物騒な話なのか?それが俺と何の関係が…?)

警戒心とクエスチョンマークが頭の中でぐるぐる回っている。
簡単に興味を示したりしないよう、隆太は表情を引き締めた。


そこからは、水沢が話を引き取った。

「実は、彼女は(と、手で娘を指した)ある特殊な力を受け継いでいるんです。」


…ホラ、おいでなすった。やっぱりか。霊感商法みたいなものだろうか。

隆太はぐっと身を引いて、背もたれに背中を付け、腕組みをした。騙されるもんか。

「はぁ…」

わざと、関心が無いことがあからさまな声で相づちを打つ。
こちらから話を振ったりしない。


水沢はその態度に気付いたようだが、そのまま話し続けた。

「その力は、家系や血筋にまったく関係無く現われます。
 ひとりの力が潰えると、別の能力者が産まれます。
 そうやって、世界にいつも1人だけ、しかし延々と続いてきた力なのだそうです。」


「はぁ…」

向かいの席の夫婦はこちらの様子を見ながらも、たまに娘と小声で話したりしている。

「フオンちゃんが産まれて数日後、先代の能力者が訪ねてきたのだそうです。
 そして、フオンちゃんが次の能力者であることを告げられた。
 能力者は、次世代の能力者が産まれると、それがわかるそうなのです。
 そしてその時を境に、本人の能力は徐々に衰退してゆく。」

彼女は言葉を切ると、静かに俯き 水をひとくち飲んだ。
そして、隆太に向き直って続けた。

「この力は、そうやって代々続いてきました。
 そして‥‥あなたが彼女のモリビトなんです。」


「…へ?」

急な展開にあっけにとられた。話が見えない。
脳みそがグラリと嫌な揺れ方をして、自分の周りの世界が僅かに歪んだ気がした。

思わず、意味も無くキョロキョロしてしまう。

いきなりなんなんだよ。俺を巻き込むなよ!イヤ、ここまでノコノコついて来ておいて、巻き込むな、というのもおかしな言い草だけど!
(隆太には、パニック状態になっているときでも心のどこかに冷静な部分があって、自分にツッコミを入れてしまうという癖があった)


そこに、ウエイトレスが飲み物を運んできた。

うん、ここは現実だ。…そうだ。気をつけろ!おかしな話に引きずり込まれるな!


飲み物が配られている間、隆太はなんとか落ち着こうと努力した。
さり気なく、相手を観察する。

自分の前に飲み物が置かれると、母親はウエイトレスに笑顔で会釈した。

娘は目をキラキラさせて、プリンの皿に見入っている。

父親がウエイトレスに「アリガトウ」と言うと、娘も急いで「アリガトー」と言った。小さな声で。

ウエイトレスが行ってしまうと、娘が母親を見上げ、何か言う。

母親が優しくうなずくと、娘は小さなスプーンにアイスを山盛りにすくい取り、頬張った。
うんうんと頷きながら、口の端にアイスを付けたまま満面の笑みを浮かべる。
テーブルの下では、足をブンブン振っているのだろう。小さな身体が揺れている。

微笑ましい光景だ…


そんな家族の様子を見て、隣の水沢が何か声をかけた。
娘は水沢に向かって、満足げに何度も頷く。
水沢はクスクス笑っている。両親も微笑んで我が子を見守っている。

微笑ましい光景だ…



「さ、続けましょうか。」
突然、水沢が話を戻す。
思わず微睡んでしまいそうな和やかな空気が、一気に取り払われた。

「これまでの所は、理解していただけました?」
疑問系で話す時は、こころもち小首を傾げるのが彼女の癖のようだ。


「ハ、ハァ…なんとなく…でも…」

「理解はしたけど、信じてはいない?」

「…そういうことです」

「でしょうね。私も初めは同じでしたもの」
彼女は、ふふ…と笑いながらそう言った。


そんなこと言ったって、騙されないぞ。
一旦相手に共感してみせるのは、奴らの常套手段に違いない‥‥

「とりあえず、最後まで話させて下さい。信じるかどうか、受け入れて下さるかは、完全に大原さんにお任せします。
 彼らは、何も無理強いはしません。それは、彼らが私に通訳を依頼する際、特に念を押されています。」


「…わかりました。聞きましょう」

隆太は半ば開き直って、そう言った。
どうせ、壁際に座っていて抜け出せないんだ。


彼女は再び話し出した。

隆太は話を聞きながら、思った。


こんなことなら、もっとちゃんと眠っておくべきだった…



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ー 5 ー サレンダー

フオンが産まれてから数日後の日曜日、カナダから来たという初老の男性が、グエン夫妻の元を訪ねてきた。
彼は自分が能力者であること、そして、産まれたばかりの彼女がその力を受け継いでいることを告げたのだった。

そして、彼女が真に覚醒したそのときに、「守護者」の居場所がわかるということ。
それは力を受け継ぐものの守護者であり、精神的なパートナーであること。

彼らが自分達の能力をどのように使うか、また、能力を受け入れ伸ばして行くかどうかは、まったくの自由であるということ。


さらに、男性は言った。

この力は、歴史上 表立って使われてはいない。
それは、その力を吹聴した能力者が少なかったせいだろう。

書物などが残っているわけでもなく、力の継承が行われる度に口伝えで聞かされてきたことしか、わからない。
これはおそらく、次の継承者がどの国に現われるのかが分らないことが関係しているためだと思われる。

そして何より、この力の使い道さえよくわからない。

だが、連綿と続いてきたこの力を途絶えさせるのは忍びない。
私には大したことは出来ないが、修行によって、また、
この娘の資質によっては、その能力を大きく伸ばすことが出来るかもしれない。


両親は、当然信じなかった。

だが、その初老の男性は、彼らの目の前で能力を使って見せたのだった。

宙で組み合わせた空の両手に、なみなみと水が溜まってゆく様を。


両親は目を疑った。
だが、トリックなどは何処にも無いようだった。

男性は、手のひらに溜めた水を静かに地面に流してから、言った。

「ごらんのとおり。この能力とは、水を操る力です。」




「ちょっと待ってください」

隆太は思わず遮った。
大きなハンマーで頭を殴られ、冷たい手で心臓を掴まれたような気がした。頭がグラグラする。
隆太は思わずテーブルに肘をつき、目を閉じて俯いた。


「大丈夫ですか?」

水沢が心配そうに言った。こちらを覗き込んでいるようだ。
向かいの家族もこちらを心配そうに見ている気配がする。

だが、隆太は顔を上げることが出来なかった。
恐ろしい予感がしていた。イヤ、それは予感ではなかった。

俺は、このあとどうなるのか、知っている…



大きく息をついて頷くのが精一杯だった。

こちらを気遣い、彼女は声を落として言った。

「フオンちゃんの力を見ていただきたいんです」


駄目だ。やめてくれ‥
こんなわけのわからないこと、俺は関わりたくないんだ。帰してくれ…

そう言いたかったが、声が出て来なかった。話し方を忘れてしまったかのようだ…

かわりに、ノロノロと視線をあげた。


水沢に促され、娘は隣の父親を見上げた。
父親が励ますように頷くと、娘は目の前のグラスをじっと見つめた…



じわじわと、徐々にグラスの中の水が増えていった。


しばらくして、水が溢れそうになった時、父親が止めさせた。



隆太は虚ろな目でグラスを眺め続けていた。


4人が自分の反応を待っているのは承知していたが、何も返せなかった。

誰とも目を合わせないまま、テーブルに両肘を置き、手で顔を覆った。


痺れを切らしたのか、水沢が口を開いた。

「…名前はそれほど重要ではありませんが、この力は」


「サレンダー」

ため息と共にボソリと呟いた言葉に、4人が息を飲んだのがわかった。


「…どうして、その名前を?!」
水沢が、動揺した声を上げる。


「…夢でみたんです。つい、さっき」

隆太は諦めたように顔を上げ、背もたれにドサッと寄りかかった。
だが、目線は伏せたまま、溢れかえりそうなグラスの周辺を漂っている。

「夢の中で、小さな女の子がグラスを見つめていて…その……フオンちゃんだったかどうかは憶えてないけど」

水沢が通訳する。

「それで、頭の中に言葉が響いたんだ。『サレンダー』って。」


両親は興奮した様子で何か囁きあっている。

ベトナムの言葉など全く知らない隆太だったが、娘が満足気に言った言葉はなんとなくわかった。


「ほらね♪」



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ー 6 ー グエン夫妻のレストラン


隆太が予知夢(と言っていいだろう)をみていたことによって、この話を受け入れるという確信を持ったのだろうか。
数分の沈黙の後に話を再開した水沢の口調は、先ほどより幾分熱を帯びているようだ。



 * * *

グエン一家の元へ訪れた先代能力者は、修行の方法と心構えを両親に伝えた。
近くのホテルに滞在し、毎日両親のところへ通い修行の手ほどきをし、そして帰ってホテルの部屋へ帰って行った。


「カイさんは先代能力者に、自宅に泊まるよう勧めたのですが、彼は決して泊まらなかったそうです。自分が家にいると、この力のことを夫婦で充分に話し合うこと が出来ないだろうから、と。
 2週間ほど滞在し、『自分が伝えた全てのことを、どのように信じどのように実行するかは、全てあなた達の自由である』と念を押して 帰られたそうです」

水沢は、こう言って話を締めくくった。



…なるほどね。無理強いはしない、か。

水沢の話を聞きながら、隆太はチラチラと窓の外の景色に目をやっていた。

夢の内容を思い出していたせいだが、もちろん窓の外にはネコの顔をした龍など飛んでいない。
そんなことがある筈は無い。そう思ってはいたが、やはり少しホッとした。

その視線を勘違いしたのか、水沢は店内を見渡しながら言った。
「そろそろ、混んできましたね。飲み物もとっくに無くなってしまったし…場所を変えた方がいいかしら。大原さん、お時間は?」


解放されるチャンスだった。
が、こんな中途半端な状態で家に帰っても、気になって仕方ないだろう。

少し迷った末、隆太は大きく息をついて、4人を順繰りに見据えながら言った。

「僕はまだ、この話を信じたわけじゃありません。でも、色々と聞きたいこともあります。時間は大丈夫ですから、最後までお話を伺います」

水沢が通訳し、一家は笑顔でうんうんとうなずいた。


 * * *

店を出た一同は、駅の方へ向かっていた。
(父親は、ここは自分たちが出すと申し出たが、隆太は頑なに自分のぶんの勘定は自分で払うと言い張った)


父親から「よかったら、ワタシタチの家に来てみませんか?」と誘われ、お邪魔することになったのだ。

アジトに連れ込まれるのか、という警戒はあったのだが、父親がいきなり日本語を話したことへの驚きが勝ってしまった。
隆太は何故か、自己紹介以外は話せないのだろうと思い込んでしまっていたのだ。

それでつい、「日本語、お上手なんですね」と口走ってしまったのだった。

「ハイ。モリビトが日本にいるとわかってから、1年ほど勉強しました。少し話せます。でも、むつかしいコトバはわからない」
父親は、照れ笑いしながらカタコトで言った。

(そんなに時間をかけて準備していたのか…)

商店街の近くまで来ると、道のわかるところまで来たのだろう、フオンが両親を引っ張って歩き出した。

「彼らは日本に来て、もう2週間ほどになるんですよ。先代能力者の助力もあって、雑居ビルを購入することが出来たんです。中古ですけど」

「え!!…ずいぶん本腰なんですね…」

「そりゃそうですよ。彼らは、フオンちゃんが産まれたときから準備していたんですから」

隆太は再び焦りはじめた。
これは、軽い気持ちで足を突っ込んだりしちゃ、マズそうだな…



天空橋駅の商店街の外れ近く、脇道を少し入ったところに、そのビルはあった。
中古とは言ってもさほど古びた感じは無く、なかなかに清潔なようだ。

娘と母親は、シャッターの横にある階段へ入り、一緒に階段を上って行った。
父親がシャッターを上げ、中に入れと手招きする。

「ここで、レストランを始めます。ベトナムの…(少し言葉に詰まる)…カテイリョーリ?ホアは、リョーリが上手いですから」

「へえ…」

隆太は小さな部屋を見回した。もともと、飲食店だったようだ。仕切りの奥に厨房が見える。
しかし、まだ部屋の中はがらんどうだ。


また外へ出て、3人は階段を上がった。

2階を通り過ぎ、3階が一家の暮らす部屋だった。

玄関と廊下を通って突き当たりにあるリビングに通されるまでに、まだ片付ききっていないいくつかの部屋の様子を横目で見ることが出来た。


ソファに案内されると、母親がお茶を出してくれた。
とても手際がいい。料理が上手いというのもうなずける。

なんだろう。お茶はうすい黄色で、ほんのり甘い香りがする。

「ハス茶です。私も大好きなの。美肌になりますよ」

水沢が教えてくれた。
ソファに座るときも勝手知ったる様子だったし、何度か来ているのだろう。


まだ家が完全には片付いていないことを父親が詫び、いえいえ、素敵なお住まいですね…などと、儀礼的だが心温まるやりとりの後(隆太はこういう美しい気遣いが嫌いではなかった)、話は本題へ戻った。



「ええと…どこから話しましょうか?先ほど、聞きたいことがあると仰ってたけれど」

「ああ…」

そう言って、隆太は素早く頭の中をまとめた。
ここは双方にとって、ものすごく大事な局面だ。そんな気がして、背中がムズムズする…。

ヨシ!気合い入れろよ、俺…!!



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ー 7 ー 目覚め


 * * *

先代能力者が帰国すると、彼ら家族はすぐに準備を始めた。

修行の日々が始まった。

両親は毎朝の瞑想を日課とし、食べる物にも気を配った。
実際に力を受け継ぐのは娘だったが、修行の仕方は自分たちで教えるのだ。
身につけておかなければならない。

同時に、株や投資などを始め蓄財にも励んだ。
これも、先代能力者がメールや電話で手助けをしてくれた。


そんなある日、娘に与えた幼児用のプラスチック製のコップの中の水が一向に減らないことに、母親が気付いた。

そこで、娘が水を飲むごとにサインペンで水位を記してみた。
だが、しばらくするとその水位が、印の位置よりも増していたのだった。

両親は娘の能力を確信し、仕事を辞めて緑の多い郊外へ移り住んだ。
ほとんど山の中のようなところだったが、修行には適していた。

畑を作り鶏を飼い、自給自足に近い生活を確立すると、それほどお金を使わずに生活することが出来た。

一方で父親は、小さな料理店に勤めながら 店の経営を学んだ。
世界のどこへ行く事になっても、生計を立てられるように。

夫婦が自宅の畑で育てた野菜や卵の評判が良く、父親の勤める店に納入出来る様になると、それはバカにならない収入になった。
(もちろん店側にとっても、利のあることだった。)


そうした生活が続き、娘がもうじき6歳を迎えようかという頃、瞑想の最中に真の覚醒を迎えた。

夫妻はすぐに日本での生活について調べ、言葉を習い、また天空橋という土地の特殊性も学んだ。
移住の手続きには、また先代能力者が親身になって手を貸してくれた。


先代能力者が自分の能力について知ったのは、14歳の時だった。
その能力に怯えていた両親により、能力を受け継いだことを長い間知らされずにいたのだ。
彼は長い間、人知れず 謎の力について悩まなければならなかった。

それを知らされると、彼はアルバイトをしてお金を貯め、18になると自力で前の能力者に会いに行き修行を学んだのだそうだ。

修行開始の遅れのせいなのか、元より彼の資質のせいなのかは不明だが、彼の水の能力はそれほど伸びなかった。
だが、修行の際に得られた知恵や力を役立て、彼はヒーラーとして大きな成功を収め、人々の信頼と尊敬、そして何より膨大な人脈を得ていた。

次の能力者を、自分の二の舞にはしない。
彼はそう心に誓い、グエン一家のために様々な援助をしてくれた。

通訳である水沢も、彼の広い人脈を伝って紹介されたのだった。

 * * *



「それで今に至る、というわけ」

水沢が、芝居っ気たっぷりに両手を上に向けてヒラヒラしてみせた。

「私ももちろん、最初は信じられなかった。色々とね。
 でも、移住のための各種書類やら、彼らが準備した日本についての資料やらを見せられて、彼らが本気で、日本での修行に真剣に取り組んでる事がわかったの」

水沢の言葉に反応し、父親がキャビネットから書類や資料を持ち出して来た。
様々なファイルや本、全員のパスポートまで、山の様に揃っている。

隆太は、念のためあらためてみた。
が、パスポートはともかく、書類に関してはサッパリだった。
英語は少しだけ読めたが、公的な書類などは理解出来ない。
ましてや、ベトナム語となるとお手上げだ。

諦めの視線を水沢に送る。

「私が見た時には、彼らの弁護士が同席していたの。だから、書類については解説してもらえた。日本の生活についての資料は‥‥かなりよく調べてあると思うわ」

「なるほど」
それについては水沢を信じるしか無さそうだ。


隆太は、両親の目を交互に見ながら切り出した。
緊張の為か、両手はキッチリ揃えた膝の上だ。

「これまでの流れは大体わかりました。つぎは、その『力』について伺いたいんです。それと、『モリビト』の役割について」




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