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「梨麻さん?」
「翼さん、あらためてこないだはホントにごめんなさいっ」
梨麻は、翼にそう言いながら突然頭を下げる。

「梨麻さん、そんな」
翼は一瞬戸惑ったが、すぐに彼女の口が開くのを察してか、そのまま黙って続きに耳を傾けることにした。

「こないだ、果穂ちゃんと光星さんのこと止められたはずなのに……私、あの時ホストクラブ初めてってのもあって、果穂ちゃんに頼んで、しかもおごりで連れて来てもらってたから何も言えなくて……」
「梨麻さん……」
「うぅん。……まぁ、結局私最後にキレちゃってお金置いて出てったんだけど……。自業自得だけど、あれから果穂ちゃんとも気まずくなっちゃってさ」
「そうだったんですか……。何かすいません、俺のせいで二人が気まずくなっちゃって」
翼がそう言うと、梨麻は首を横に振って続けた。

「いいの、元々お店の中だけでの上っ面の付き合いだったんだし。ホストクラブ連れて来てくれたのは感謝してるけど、ウマが合ってたわけじゃなかったし」
「お店?」
「うん、言ってなかったっけ?私と果穂ちゃん同じヘルス店で働いてるの」



『ヘルス……確か風俗か』



翼は梨麻の素性の一旦を聞いて、彼女の派手で露出の多い外見に自然と納得した。

「まぁこないだのお詫びってのもあるんだけどさ」
梨麻はグラスの中のビールを勢いよく飲み干すと、すぐに続けた。
「初めてこないだ会ったときから気にはなっていたんだよ、翼さんのこと」
そう言うと、梨麻は顔を少し赤らめながら視線を翼からそらした。
「梨麻さん」
「だから……あぁもうはずかしいなぁ!」
「ありがとうございます、来てくれて」
翼とはずかしそうな梨麻は、一旦視線を合わせると噴き出すように笑った。

「梨麻さん、飲みましょう!」
「うん飲もう!」
翼は梨麻が飲み干した空のグラスに、ビールを満たんになるまで注いだ。
それに返すように梨麻も翼のグラスにビールを注ぐ。
二人は、何かを祝い合うように笑顔で再びグラスを交わした。


「って言うか、びっくりしたぁ!翼さん、こないだ会った時とは別人みたいに変わってるからさぁ」
「あぁ、これね」
「何かあったの?太いお客さんでもついた?」
「あ、いや……。・あのナリはさすがにないだろうって思ってね、ちょっと社長からアドバイスもらって」
「ふーん、そうなんだ~。でも翼さん、似合ってるよ!」
「ありがとう」
翼と梨麻は、友達同士のような…時にはまるで恋人同士のような楽しそうな雰囲気をその場に醸し出していた。
そこには、あの時大失態をした記憶など消し飛んでしまうほど微塵も感じられない。
しかし、その光景を遠くから見ていた光星をはじめとする何名かのホストにとっては決して面白いものではなかった。

「翼のヤロウ……!」
光星は楽しげに梨麻に接客をしている翼を凄まじく恐ろしい目付きで見ていた。
「あのヤロウ、俺の客になるはずだった女を横取りしやがってよぉ!」
「光星」
一人翼を睨む彼に、翔悟が話し掛けた。

「翔悟さん」
「何をそんなに翼ごときを意識してるんだ。たかが風俗嬢一人が客としてついたくらいだろう」
「でも、あの女は……!」
「お前の客の連れだったんだろう?そのまま自分の新しい指名客にしようとしたのが、あいつに妨害された……ってとこか」
「そうっすよ。爆弾まがいのことまでをして指名をつかんだなんて、俺は認めねぇ!」
光星は、翼への視線をそらすことがないまま翔悟に言葉を返した。
すると、翔悟は再び諭すように彼に口を開いた。

「なら放っとけ。愛菜のこともそうだが、たまたまラッキーが重なっただけだ。あれ以上翼に客は増えない。俺達がわざわざ気にすることでもないだろう」
「……そうですかね」
「そうだ、客はお前の方が数多くいるんだ。お前、少し翼を意識しすぎだ」
翔悟に諭され、光星は少しずつだが冷静さを取り戻していったようだった。

「そうっすよね翔悟さん、あんな奴にそこまで-」


しかしその時だった。

「いらっしゃいませぇ!!」
また新たな女性客を迎える掛け声が店内に響く。それが気になったのか、翔悟と光星もそれに目を向ける。

「見たことないな、新規かフリーの客か?」
「いや、曖昧な記憶っすけど、昨日も店に来てたような気が……」
翔悟と光星の視線の先には、二十代半ばほどのOL風の二人組の女性客がエントランスにて待ち遠しそうに立っていた。
すかさず彼女らに佐伯が話し掛けると、二人はそのまま彼にテーブルへと案内されていった。

「佐伯さんがあの卓に連れてった二人、誰か指名っぽいっすね、翔悟さん」
「そうだな」
翔悟と光星は、その二人の女性客のことが気になりながらも、自分の指名客のいるテーブルへと戻ることにした。



一方-
梨麻の相手をしている翼のところに、佐伯が歩み寄ってきた。
そして、翼の肩をポンと叩く。
「?」
「翼、別の御指名だ」
佐伯は何かを理解しかねている翼に耳打ちする。
「!?」
翼はパチクリと大きく目を開ける。
「お客様すみません。翼の方少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
佐伯は、翼の隣でほんのり頬を赤らめている梨麻に申し訳なさげに言った。

「あっ、翼くん別のお客さん?」
「うん。ゴメン、すぐに戻ってくるね」
「いいよぉ、ヘルプの子も来るだろうし気にしないで!でも、なるべく早く帰ってきてね」
翼はすまなそうに梨麻にウインクすると、テーブルを離れ佐伯の後についていった。

「翼、あの二名のところな」
「わかりました」
翼は佐伯に指示された通りのテーブルへとすぐに向かった。


「いらっしゃいませ!御指名ありがとうございます、翼です」
翼はそう言いながら、二人のOL風の女性客へとペコリと頭を下げる。
「あ~翼くんだぁ!座って座って!」
女性客の一人が、翼を自分達の間へと誘う。
「失礼します」
翼はスッと二人の間へと入った。
すると、女性客は二人ともニコニコしながら互いの間にいる翼を見つめる。

「あの、どうかしましたか?」
翼は妙なまでにニコニコと笑う二人に対し、不思議な感覚を覚える。
すると、もう一人の女性客が答えた。

「あなたでしょ、彗星のごとく現れて昨日のラスト歌った新人って!」
「す、彗星のごとく?」
「実は私達昨日もお店に来てたんだけど、いつも歌う人って決まってるから、もうビックリしちゃった!翼って誰!?みたいな」
「そう!それでその謎の人物翼くんに一目会いたくて、私達二人でまた来ちゃったの!」
二人は半ば興奮したように言った。

「そうだったんですか。でも、ありがとうございます」
翼は改まるように、二人に頭を下げた。

「へぇ、けっこう礼儀正しいんだね!それにけっこうカッコイイし」
「ねー!何か気に入ったよ!翼くん、三人で何か飲もう!」
「はいっ!じゃあ、今夜は楽しみましょうね!」
翼は出したこともないようなテンション高い声を上げた。


「……」
遠くからそれを見ていた他のスタッフは皆驚いていた。
羽月も、光星も、由宇も、そして翔悟も……昨日の愛菜の指名を含め二日間で突然四人の指名を手に入れた翼の躍進は、誰もが受け入れざるを得ない現実として彼らの脳裏に焼き付いていた。

あの時まで仕事もできず失態ばかりだった翼が、ここまでの新規指名を取るなど誰も予想できずにいたことだった。
唯一、天馬を除いては。

「社長、翼のやつ徐々に売れ初めてますね……」
佐伯は脱帽したように呟いた。
「だろう?あいつは目立たない原石から磨かれつつある宝石になりつつあるんだ」
天馬はニヤリとしながら佐伯に返した。

「ホント、ビックリですね」
「由宇」
天馬の後ろから由宇が話しかけた。
「社長はわかっていたんでしょ?彼に……翼くんに他のホストには無い何かがあるのを」
「由宇、お前はどう思ってる?あいつのこと」
「今のところは何とも。でも、彼ならやり方次第で化けちゃうかもしれないですね」
「そうか」
笑いながら接客をする翼を、それぞれが様々な思いを抱きながら見つめた。
そして羽月も。



『翼くんがんばっとるなぁ…俺もがんばらんと!姉ちゃんに会うためにも…!』



様々な思いが交錯する中、その日は噂を聞き付けた女性客がさらに一名、翼の指名客となった。



"彗星のごとく現れたホスト・翼"の名前は、口コミ効果で少しずつ自然と一人歩きを始め、【Club Pegasus】はさらなる盛況を見せ始めていた。



そして、二ヶ月の時が流れた。





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lost wing~傷ついた愛の羽根~(Ⅱ)

つづき⇒⇒http://p.booklog.jp/book/51983

 


奥付



lost wing~傷ついた愛の羽根~(Ⅰ)

 
続き(Ⅱ)はコチラ⇒⇒http://p.booklog.jp/book/51983
 

著者 : Kai
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