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◇All story making & written by Kai.A
◇Illusted by DOGURAMAGURO

Intoroduction

-登場人物紹介-


翼(24)
…本編の主人公。一見冷淡な性格で人付き合いが苦手だが、基本的に素直。ある事情で、自分自身を証明するためにホストへの道を歩み始める。元会社員。

羽月(19)
…もう一人の主人公。明るく元気で、誰とでも仲良くなれる。186センチの高い身長と金髪・京都訛りが特徴。ある人物との再開を目的で上京を決意。

愛菜(25)
…美と品性を兼ね備えたカリスマキャバクラ嬢。天馬とは独立前からの付き合いで、【Club Pegasus】の常連。翼とある人物の面影を重ねている。

天馬(27)
…カリスマ性溢れる【Club Pegasus】代表取締役社長。厳しいが従業員思いで、翼や羽月の成長を見守る。

翔悟(22)
…【Club Pegasus】のNo.1ホスト。容姿端麗で、何でも自分が一番でないと気が済まない性格。

光星(25)
…【Club Pegasus】No.2ホスト。黒い長髪が特徴。非常に攻撃的で傲慢な性格。後輩や新人に高圧的。

由宇(20)
…【Club Pegasus】No.3ホスト。明るい短髪が特徴。冷静で非常にドライな性格。

佐伯(28)
…【Club Pegasus】の店長。翼たち新人ホストを厳しく指導する。

美空(19)

…母親とともに小料理屋で働く心優しい少女。とあることが原因で声が出ない。


梨麻(22)
…【Club Pegasus】の新規の客。服装は派手だが、性格はおとなしめ。風俗で働く。

 


 

「ちくしょぉおおっ!!」


日本の首都東京-
その街の中のとある部屋で叫びたたずむのは、一人の青年だった。
『彼』の右手には缶ビールが握られ、周りは酒の瓶やつまみのゴミばかりが溢れる。

カーテンで光を遮られ密封された部屋の中は、どんよりした暗闇と酒の臭いでむせ返っている。


「どうせ俺みたいなクズなんか……もう……」
『彼』はそうつぶやきながら、歯ぎしりをしていた。
その時、『彼』のケータイが音を鳴らす。
すると、『彼』はそれを手に取りギョロリと睨み付けると、部屋の壁に強くたたき付けた。


「ハァ……ハァ……うるさいうるさいうるさい!!もう俺に関わるな!!」
『彼』は息を切らしながら大声でそう叫ぶと、再びぺたんと座り込んだ。


「金もない……仕事もダメ……あげく……。もう生きてるのも疲れた……」



その時だった。
部屋のドアの郵便受けに、「ストン」と音をたて何かが落ちてきた。
「ん……?」
『彼』は重い腰を上げ、冊子らしきそれを手に取る。

「フリーの求人誌か……。いまさら俺に何を……」
『彼』はそう言いながら、その冊子をペラペラとめくった。
すると、とあるページにピタリと目を留める。

「ホスト、クラブ…」
『彼』はその続きに目を注いだ。

「新規オープンからまだ3ヶ月……ホスト募集中……。ホストってキャバクラとは逆に男が女を接客するアレだよな」
さらに続きを読み進める。
「月収100万も夢じゃない……頑張った分だけあなたを評価します……」



"あなたを評価します"
それが『彼』の心を激しく揺さぶった。
「これだ……!」

『彼』はニヤリとわずかな笑みを零した。
"ホストクラブ"と言う存在……その言葉が闇にうずくまる彼の心を動かそうとしていた。





場所は変わって京都-

「じゃあ行ってくるわな!」
金髪でひょろりと背の高い一人の19歳の男が、そう言いながら片手にバッグをかついだ。


「ホンマに行くんかいな、東京……」
「あぁ!東京で一発掴んでくるで!」
その《彼》は、心配そうに自分を見つめる老人に元気に言い放った。

「じゃあなじいちゃん……身体に気ィつけるんやで」
「あぁ、お前もなぁ」
「あぁ、ビッグになったるわ!それと……必ず見つけてくるで」
《彼》はそう言いながら、老人に背中を向け歩いていった。
老人は心配そうに、そんな《彼》の遠くなる姿を見つめていた。



東京へと向かう新幹線の中、《彼》はとある一枚の写真を見ていた。
それに写るのは、小さい男の子とさらに背の高い女の子の二人が笑っている姿。
《彼》は黙りながらも真剣な表情でそれを見つめ続ける。



『やっと、やっと迎えに行ける……逢えるかもしれないんだ』



《彼》は、どこか寂しそうに心の中でそう呟く。
そして写真をバッグにしまい込み、車窓に視線を向けた。

「まずは東京で成り上がらんとな!」
何かの決意をし、《彼》は東京との距離を経つ時間とともに縮めていった。


◇「俺は、これで……」
◆「俺は、東京で……」


『絶対成り上がってやる』



それぞれの思いを抱き、二人の男が一つの決意を胸にしていく。

それが東京・新宿歌舞伎町のとあるホストクラブを舞台に運命を紡いでいくなど、この時彼らは知るよしもなかった。


1-1

 
200X年・1月-


『彼』は見慣れぬ街である、新宿・歌舞伎町に降り立っていた。
夕方に差し掛かるその喧騒の中、黙々と歩いていく。

「歌舞伎町……。初めて来たけど、こんなに賑やかなんだな……」
『彼』はポツリとそうつぶやきながら、求人誌の地図を片手にとあるビルへと足を進める。


「確かこのへんだな」
『彼』の前には様々な店の看板が並んだビルが姿を現す。
キャバクラやショットバーなどが各フロアにある中、ビル4Fその目的地はあった。

「ここだな」
エレベーターの矢印ボタンを押し、数秒でその扉は開いていく。
すると『彼』の後ろから誰かが走って来ていた。


「ちょっと待っとってぇ~!」
「ん?」
『彼』の背後には、185センチを軽く超すかのような、スラリとした男がバタバタ走ってくる。
エレベーター前で膝に手をつきながら止まると、ゼェゼェ息を切らしながら『彼』の顔を見上げた。
「一緒に……エレベーター……乗してください……」
「あ、あぁ……」
『彼』は走って疲れ果てたかのようなその《彼》をエレベーターの中に入れると、すぐに4Fのボタンを押した。


「ハァ……ハァ……いやぁ、すんません待ってもらって。えっと……あ、お兄さんも4Fなんですかぁ?」
「…まぁ」
息を切らしても元気な口調の《彼》に、『彼』は頷きながら答える。
すると《彼》は目をパッと開いて再び口を開いた。

「じゃあお兄さんも、今日【Pegasus】の面接なんですねっ!ホンマよかったわ~、こっち来んの初めてやし一人じゃ心細いからなぁ!」
「あんたも?」
「えぇ!そうなんですよぉ~!」
《彼》は陽気に『彼』に言った。

しかし、『彼』は何も反応せず、黙ってエレベーターの階数表示を見つめていた。
そんな中、エレベーターも4Fへと止まり扉をゆっくりと開く。
二人がエレベーターから出ると、絵に書いたような美しい白に彩られたドアが姿を現した。

ドアノブはまるで天馬の翼のような形に作られ、そこだけでも異空間に来たかのような雰囲気を漂わせている。
そして、【Club Pegasus】という名前がオシャレな筆記体で堂々と掲げられといた。


「すっごいなぁ~!これが歌舞伎町のホストクラブかぁ!」
背がひょろりと高い《彼》がまるで珍しいものを見たかのようにはしゃぐ中、『彼』はそれを横目にすると一人黙ってドアノブに手を回した。

「あっ、待って下さい~」
《彼》は『彼』の後を追うかのように、店の中に入っていった。



10分後-。

内勤スタッフに面接席へと案内されていた『彼』は、店の方で用意されていた履歴書に項目を書き埋めていた。
そんな中、綺麗なまでに白を基調に内装されたさらなる異空間にキョロキョロせずにはいられないようで、『彼』自身慣れない世界に緊張を表情に出さずを得なかった。


そこに、高級ブランドスーツに身を包み、ヘアーメイクされた茶色い髪をなびかせた端正なルックスの男が『彼』の前にやってきた。

「どうも、お待たせしました」
男はそう言って、【代表取締役社長・神代天馬(カミシロ テンマ)】と記されている名刺をスッと『彼』の前に差し出した。


「ここの責任者の天馬です、よろしく」
「よろしく、お願いします」
天馬からの挨拶に、『彼』は答えるようにペコリと頭を下げる。
すると天馬は早速とでも言うように、書かれた『彼』の履歴書に目を通した。目をキョロキョロと上下左右に動かし、20秒ほどでそれをテーブルの上にパタリと置いた。
そして、『彼』を真っすぐに見つめ口を開いた。


「24歳で、前は会社員の営業……大学も出てんだね」
「はい」
「何でホストやろうと思ったの?」
「えっ」
「きっかけだよ。なんかあるだろう?」
「……」
単刀直入な天馬からの質問に、『彼』は一瞬言葉を止め斜め下を見つめる。

「特にはないのか?」
「……ねを」
「ん?」
「お金を……稼ぎたいです。自分自身だけの力で一から稼ぎたいです。そして……」
「そして…?」
『彼』は顔を上げ天馬の目に真っすぐ視線を送りながら次の言葉を言った。
「自分自身を評価してほしいです」
「……」
数秒ほどの沈黙の後、腕を組んだ天馬がすぐに言葉を発した。

「なるほど。稼ぎたいはともかく、そんな動機を言った奴は初めてだな」
すると天馬はジャケットからペンを取り出し、あらためて『彼』に問い掛けた。
「名前は?」
「名前……?……合格なんですか?」
「仕事をやる気はあるんだよな?」
「はい」
『彼』はキョトンとしながらも、合格であることは少しずつ感じ始めていた。
間を置かず天馬は続けた。

「この履歴書に書いてある本名でやるのもいいが、源治名決めてるのか?」
「えっと……」
「じゃあ本名か?ならこの…」
「あのっ!」
自分の本名を言おうとした天馬に、『彼』はストップをかけるように口を開いた。


「何だ?」
「本名じゃなくて……源氏名で、【翼(ツバサ)】って名前で行きたいです」
『彼』は今日の会話で1番熱を込めたように天馬に言った。
すると、天馬はすぐに答える。


「翼か……うちの店にはまだいないな。それでいいなら好きにしろ」
「はいっ」
「じゃあ写真を一枚とらせてもらうぞ」


その後ポラロイドカメラで写真を一枚取り、面接は終わりを迎えた。
「翼」
「え、はい」
呼ばれ慣れない『彼』……翼に天馬が声をかける。


「早速明日から君はうちのホストだ。夕方4時に店に遅刻せずに来ること。わかったな?」
「はい、明日からよろしくお願いします。失礼します」
翼は天馬に一礼すると、店を出ていった。
そんな彼の背中を、天馬は複雑な表情で見つめる。


「社長、どうかしましたか?」
「ん?あぁ、いや」
内勤スタッフ佐伯の声に反応するも、天馬は翼のことを思い返していた。


「なんか暗そうな男ですねぇ。容姿はまぁまぁだと思いますが……」
佐伯は皮肉を込めたように言った。

「そうだな。まぁああゆうタイプは……」
「社長?」
「いや、なんでもない。面接もう一人いるんだよな」
「えぇ。背が高くてやたら元気な子ですね。では、そちらもお願いします」
佐伯の言葉に頷くと、天馬はそのまま《彼》の待つ面接席へと向かっていった。






その後【Pegasus】を出た翼は、じわじわと両手の拳をにぎりしめながら歌舞伎町の路上を歩いていた。



『やった……まさか俺がホストになれるなんて…』



明日から【Pegasus】のホスト『翼』としてのスタートをきることになった彼の口は笑っていた。
しかし、彼の瞳は決して笑っておらず、一筋の光も失ったかのように漆黒の闇に包まれたままだった。

「これでいい、これでいいんだ……!俺はここで絶対成り上がってやる!」

翼はボソリとそうつぶやきながら、ネオンが灯り始めた歌舞伎町の中に身を沈めるように消えていった。





一方その後を追うように、高い身長をヒョロリと見せながら、《彼》も【Pegasus】を後にしていた。

「よっしゃあ!明日から俺もついにホストやぁ!」

グッとガッツポーズをする《彼》は、ウキウキしながら灯るネオンの中を歩いていく。
「それにしても天馬社長ホンマカッコえぇなぁ。俺もあんなピシッとした男に成り上がりたいわ!燃えてきた~!」

その時、軽く鼻唄を鳴らす《彼》の向かいから、背が高めのホステス風の美女が歩いてくる。
《彼》もハッとしたように彼女の華やかな存在に気付いた。
彼女も《彼》に気付いたらしく、クスッと笑いながら《彼》の前を通り過ぎていった。

「うわぁ……メッチャ綺麗な人や……。東京にはあんなオシャレで綺麗な人おるんやなぁ」
《彼》は口をパックリあけながら、無意識のうちに彼女の姿をその場で追っていた。


「あ、アカン。これからホストやる男がこんなんじゃアカンな!よし、今日は帰って明日の準備や!」
《彼》はすれ違った彼女への雑念を振り切るようにその場を後にした。
その彼女が【Pegasus】に向かっているとは夢にも思わず-

1-2


PM 5:00-Club Pegasus



「いらっしゃいませっ!」
店の中のホスト全員の声が大きくその空間に元気に響き渡る。
「いらっしゃいませ、愛菜(マナ)様」
内勤の佐伯が、愛菜と呼ばれる一人のホステス風の美女を迎える。
彼女もニコッと微笑みながら口を開いた。


「お久しぶり佐伯さん。がんばってる?」
「えぇおかげさまで!ささ、どうぞこちらへ」
佐伯の案内に促されるまま、愛菜は店内の席へとついていった。
ピンクゴールドのドレスに身を包んだ愛菜は、モデルとも間違われかねないような美しいまでのオーラを放っていた。
そんな彼女に、店中のホスト達が一斉に視線を送る。


「天馬!」
愛菜は嬉しそうな表情で、自らの席にやってきた天馬に声をかける。
「愛菜、久しぶり」
天馬も昔からの旧友にでも会うかのように愛菜に言葉をかけた。

「新店、順調みたいね」
「おかげさまで」
天馬と愛菜は、お互いの視線を合わせながらクスッと笑い合う。
そんな中、天馬は彼女がキープしてあるだろうボトルのブランデーをグラスに注ぎながら口を開いた。


「どう、うちのホストで担当になりそうなの見つかった?」
「ん~~~……」
天馬の質問に、愛菜は右手を顎に当てながら考え込む。
「いい子はたくさんいるんだけどね……」
「けど?」
「今の在籍している子には正直ピンと来ないんだよね……」
「相変わらずハッキリ言うよな」
天馬も愛菜も、そう言いながらブランデーが入った水割りのグラスを静かに交わす。
そして、先に天馬が先に言葉を放った。


「なぁ愛菜……この二人どう思う?」
「えっ?」
天馬はそう言って、二枚の写真を愛菜の前にかざす。愛菜も不思議そうに、その二枚を見つめた。
「この子達は……?」
「あぁ、さっき面接に来た二人さ。こっちは24でこっちの背が高い金髪のは19って言ってた」
「ふーん」
愛菜は二人のポラロイド写真を交互に見つめながら、タバコをフッと取り出す。
そこに天馬がさりげなく火を点した。
愛菜は軽くフッと煙を吹くと一枚の写真に目を注ぐ。
そこには翼が写っていた。
「……」
火を点したタバコを一旦灰皿に置いた愛菜は、あらためて天馬に問いかける。
「ねぇ……」
「どうした?」
「この24って人、今日面接きたの?」
「あぁ。何か暗そうなんだがな」
「ふぅーん……」
愛菜はじっと翼の写真を見つめる。



『似てる……あの子の瞳に』


愛菜は心の中でそう呟く。

「愛菜……?」
天馬の声に愛菜はハッとする。


「どうした?」
「うぅん、ちょっと昔の知り合いに似てたかなって思っただけ。それと天馬、こっちの子……」
「あぁ、逆にこっちは明るくてワイワイするようなタイプだな」
「さっきそこの道ですれ違ったのよ。はしゃいでたから、思わず笑っちゃったけど。この子名前は?」
「こいつは羽月(ハヅキ)。愛菜、こいつ気に入ったのか?」
「さぁねっ」
愛菜は天馬に言葉を返しながら再び煙草を口にくわえた。

「さぁね、か。さすが愛菜さんの目は厳しいことで」
天馬も軽く笑いながら言った。


「天馬はどう思ってるの、その二人のこと」
愛菜が聞き返す。
「さぁな。羽月に関してはまだホストっぽい雰囲気はあるが…」
天馬は愛菜にそう答えながら、翼の写真にちらっと目をやる。
「この翼に関してはハッキリ言って未知数-」
「未知数?どうゆうこと?」
「本人は全く夜にそぐわない雰囲気だけどな、なんか気になっちまって……コイツのこと」
「どうして?」


「さぁな。まぁ強いて言えば変わった原石…ってとこか。磨き方次第で宝石にもただの石ころにもなるって感じのな」
「まるでギャンブルね。まぁ水商売なんてそんなものだけど」
天馬と愛菜は、フフッと笑いながらグラスの中の酒を飲んでいく。


「明日からこの二人も出勤するんだ。どうだ?愛菜の卓ににつけて二人を見て欲しいんだけど」
「明日ね……いいわよ、天馬の頼みだもの」

「そっか!ありがとうな」
「フフッ、そんなに改まらないで」
天馬の礼の言葉に、愛菜は謙遜しながらも微妙な照れを見せる。


「このお店は天馬にとってやっと築き上げた大切なものでしょ?だったら私は当然現役のときと同じように応援するわ」
「あぁ、昔からホント愛菜には感謝してる」
二人は再びグラスをカチンと交わす。
その光景を、離れたところから店のホスト数人が見ていた。



「なぁ、あのめっちゃキレカワな人は誰なんだ?」
「知らないのか?あの人は歌舞伎町のカリスマキャバ嬢の愛菜さんだよ。社長が独立する前からのお客さんなんだぜ」
「にしてもモデルみたいに超キレイだよな愛菜さんって。あんな人から指名欲しいなぁ……」
「あんな人をお客にした天馬社長もすごいよな」

ホスト達の話題は、現役を退いた天馬に継ぐ新しい担当ホストを探している愛菜のことで持ち切りだった。
美貌も品性も知名度も……そして金も全てを備えている愛菜は、指名を欲しがるホスト達にとって注目の的であり憧れでもあった。


しかし、これほどまでに素敵な女性が何故ホストに……?と言う疑問が走るのもまた事実だった。
かつて担当ホストだった天馬に対しても求愛している様子も無く、一体何故にホストクラブに通っているのか。
それは天馬と愛菜にしかわからない、【Pegasus】に在籍するホスト達にとっての一つの謎になっていた。

「じゃあ天馬、私そろそろ行くね」
「あぁ、今日もありがとう!……愛菜」
「うんっ?」
「無理……するなよ。それと悪いな、今は俺が忙しくて力になりきれなくて」
「天馬…。何言ってんのよ!私は十分に天馬に支えてもらったわ。それに、新しいホストさんにも支えてもらいますからねーだ☆」

愛菜は舌をベーと出しながら笑顔で天馬を見つめた。天馬もフッと笑みを零す。

「ありがとうございましたぁ!!」
愛菜の帰りを見送るように、ホスト全員が声を上げる。

「じゃあね!」
そう言って愛菜は、【Pegasus】の白いまでの店内をどこか惜しむように後にした。
「翼…か。まさかあんな瞳をした人間にまた会うなんて…」
愛菜はそうつぶやきながら、歌舞伎町のネオンの中へと姿を消していった。






その頃翼は帰路につき、すでに自宅の前にいた。
ポストにささっている一枚の封筒を取り出すと、彼はそれを右手でグシャッと握り潰した。

「こんなもん一々送ってくんじゃねぇよ」
翼は部屋に入ると、右手の中にあるその封筒を睨みつけ、ポイッと棄てた。
するとベッドへと向かい、そこにドサリと横たわる。

「俺は明日から生まれ変わるんだ……!もう俺は昔の俺じゃないんだ!」
翼は笑いながら、何度となくその言葉を繰り返した。
まるで過去の自分との決別をするかのように-。


翼は一本の煙草に火を着けた。
そこから舞い上がる煙は、彼が生まれ変わる狼煙のように、ゆらゆらと空をさまよっていった。





一方-

面接を終え帰宅した羽月は、明日からの仕事に備えスーツや靴などの準備をしていた。


「はぁ~憧れの歌舞伎町ホストにいよいよ俺もなるんやなぁ!緊張するけどめっちゃ楽しみやぁ~!」
羽月は鼻歌を鳴らしながらご機嫌で準備を進める。
すると、彼のケータイが着信音を鳴らした。


「おっ、じいちゃんかな」
羽月は嬉しそうにケータイを手に取った。

「もしもし?あ、じいちゃん!……あぁ、何とかやっとるよ。大丈夫やて!……うん、心配せんといて。ホンマありがとう……うん……うん……それじゃあな」
羽月はケータイでの会話を簡単に終えると、スッと机の椅子に腰をおろした。
机の上には、写真立てにおさまる一枚の写真があった。
上京の際、手に取って見ていた幼い二人が写っていたものである。

羽月はそれを神妙な表情で見つめた。


「待っててな、俺が必ず逢いに行くから……!」
羽月は力強くそう囁いた。




翼と羽月-
それぞれが自分の想いや決意を胸に、ホストへの道へと歩み始めようとしていた。
こうしてここに、二人の新しいホストが歌舞伎町【Club Pegasus】を舞台に産声をあげていくのだった。





                                              第2章へ


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