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10.言葉の無い少女

10-1

 
「ささっ、どうぞそちらへ」

翼と羽月は、今いる小料理店を営む広崎楓(ヒロサキ カエデ)の言われた通りに端のカウンター席へと腰をおろした。
【小料理"楓"】は、カウンター10席とテーブル2ヶ所の小さな店だが、まだできて日が浅いのか桧をベースにした和風の落ち着く内装だった。
所々からほのかに漂う桧の香りが、翼と羽月の鼻をくすぐる。

「今お通しをお出ししますね。美空、手伝って」
楓がそう言うと、美空は無言のまま頷く。
羽月は、それを何も言うことなく、ただどこか不思議そうに見つめていた。
しかし翼は、美空が一切しゃべらない理由を何となく理解していた。


「はい、お待ちどうさまです」
楓がカウンターごしに小鉢に入ったお通しを差し出した。
中にはほんわかと匂いのする肉じゃがが入っている。

「お二人ともお飲みものはいかがいたしますか?」
「あ~、じゃあビールで」
「あ、俺もや」
楓の注文に対する質問に、翼達は淡々と答える。
「ハイ!美空、ビールお出しして」
美空はすぐにビールサーバーのところにトコトコと歩いていった。

「お客さん、こんな狭いところですみませんねぇ」
「あ、いえ」
「あ、私この店やってます広崎といいます」
楓は翼と羽月にそう言いながら頭をペコリと下げた。二人もそれにならう。
「ママさん、あの子は?」
羽月が返すように問い掛けた。

「あぁ、あの子は娘の美空って言います」
「美空ちゃんかぁ、えぇお名前ですねぇ☆」
「フフッ、ありがとうございます」
そうこう話してるうちに、美空がジョッキに注がれたビールを持って二人のもとにやってきた。
「あ、おおきにぃ!」
「どうもありがとう」
羽月と翼がそう言うと、美空はペコリと頭を下げ無言で店の奥に歩いていった。

「……」
翼と羽月はやはり気になってはいるものの、気を取り直して食事に専念することにした。
「じゃあ翼くん、お疲れ様ァ!」
「お疲れ様」
二人はジョッキを交わし、クイッと一口目を口の中に注いだ。

「あー!仕事後に飲む一杯はまた格別やな!」
羽月はため息に近い声を漏らした。

「フフッ、いい飲みっぷり。さすがホストさんね」
楓が笑いながらたしなめると、羽月は照れながら笑顔を見せる。
「お料理、何がよろしいですか?」
「あ、ママさんのオススメで!翼くんは?」
「えっ?……じゃあ僕もオススメでお願いします」
翼と羽月の注文に、楓は「わかりました」とばかりに笑顔を見せた。


「翼くん、ホンマに今日はおめでとう!めっちゃ驚いたわ」
「いいよ、そんな」
羽月の改めての祝いの言葉に、翼は僅かな照れを見せる。
しかし、羽月の心中は実のところ複雑だった。
本心は、翼に愛菜とのことを尋ねたかったが、食事に誘ったのもあり、何より男として惨めになりそうな気持ちがあってか、そのことについては触れないことにしていた。

「それと……一緒にメシつき合うてくれておおきに」
「え?何だよ改まって」
「いやぁ」
羽月は少し照れながらビールを一口飲むと、再び翼に対して口を開いた。

「実は……俺今日でハタチやねん」
「えっ??」
羽月の口調が妙に大人しいせいか、二人の間に3秒ほどの沈黙が流れた。
その間、カウンターごしにグツグツと言う煮物を温める音が際立つ。

「ハタチ?今日?」
「うん。こんなこと翼くんに言うのもなんやけど、俺祝ってほしかったんや」
「祝ってほしかったって……。でも、それが何で俺なんだ?俺がこんなこと言うのもなんだが、君には店に仲よさ気なキャストが他にも何人かいるだろう」
翼がそう言うと、羽月はやや俯きながら答えた。
「確かに店にはおるよ、普通に話して普通に仕事する子なら。でも、違うねん。正直言ってまうけど、俺……店の人達とはプライベートまでは合わへん」
「……」
「翼くんも何となくわかるやん?こんなこと言いたくないんやけど……うちの店、翔悟さんや光星さんにべったりな金魚のフンばっかやん」
羽月は溜めていたものを吐き出すように言った。

「俺な、東京出てきたばっかりやし職歴があるわけでもないから、何を偉そうなこと言ってんねんて感じやけど……俺、ああゆう風に群れるの嫌いなんや」
「……」
「だからやで、翼くん人と群れたりこびたりせんし、何より俺の同期やから……だから今日……」
「そうか」
「ごめん、こんなことばかり言うて。ハタチの誕生日まで一人でいたくなかったんやな、きっと」
羽月はそう言うと、クイッとビールを飲み続けた。

「ごめん翼くん、変なことばっかり言うて」
「あ、いや」
いつも元気な羽月と違ってか、翼は彼に対して複雑な思いを浮かべていた。
何より、誕生日"まで"という表現に彼の心の内が見えてならないような気がしていた。

「さ、鯖の味噌煮と揚げ出し豆腐が上がりましたよ。温かいうちに召し上がって下さい」
楓が暗めの雰囲気に割って入るように、カウンターごしに料理を差し出した。
「そやな、せっかくのごはんやし楽しく食べなアカンな!ごめん翼くん、食べよう!」
「あぁ」
「いただきまっす!」
翼と羽月は気を取り直すように、まだ食べてなかったお通しの肉じゃがに箸をつけた。

「……うんまいっ!」
羽月が一口肉じゃがを口にすると、感動の声を大きく発した。

「ママさん、めっちゃうまいでぇ!」
「フフ、ありがとうございます」
翼もそれにならうように肉じゃがを一口食べてみると、すぐに口の動きが止まった。

「おいしい……」
「なっ、そやろ翼くん!」
「あぁ」
翼と羽月は続いて出された料理に手をつけるも、驚きと感嘆を次々と漏らした。

「すごいおいしいです」
「なぁ!あ、ママさんビール二つおかわりお願いしますぅ!」
「はいっ!美空~、生二つおかわりお願い~」

羽月が残りのビールを口にしようとしたとき、翼は手にとったジョッキを彼に向けた。
「えっ、翼くん?どうしたんや?」
「誕生日なんだろ?今日は」
「翼くん……」
「こないだ、俺が酔い潰れたときには君には助けられたしな。まぁ……ハタチおめでとう」
翼がそう言うと、羽月はとても嬉しそうに満面の笑みを見せた。

「ありがとう翼くん!」
その時、美空はすぐにジョッキに注がれた生ビールを持ってやってきた。
そして彼女は、すぐに店の奥にトコトコと歩いていった。

「よしっ、二杯目やな!カンパーイ!」
翼と羽月はもう一度ジョッキを『ゴン』と交わした。


「お二人とも仲がいいんですね?」
楓が微笑みながらカウンターごしの二人に話しかけた。
「あ、いや~」
「翼くんそんな照れんでもえぇやん」
「いや、照れてるわけじゃ」
翼はわざとらしく咳き込むと、改めるように楓に話しかけた。
 

「あの」
「はい?」
「よかったんですか?その……僕たちみたいな感じのがお店入れてもらっちゃって」
翼がかしこまりながらそう言うと、楓は何も気にしてないかのように答えた。

「別にいいじゃないですか。仕事はホストさんでも今は一人の男の方でしょう?」
「水商売……ホストに対して抵抗は無いんですか?女の人だからやっぱりちょっと気になっちゃって」
楓はグラスの中の水を一口飲むと、すぐに答えた。

「ないです、ホストだからって皆がみんな不真面目で悪い人って言うのは違うと思いますよ。翼さんと羽月さん……でしたよね?少なからずお二人は、いい人だと思います」
「ママさん……」
笑顔を揺るがせない楓の言葉に、翼はただただ相槌を打った。

「それに……」
「?」
「私の主人も昔歌舞伎町でホストをしてたんですよ」
「えぇっ!?」
楓の発言に、羽月は驚きの声を上げる。
「声がデカイって」
「あ……ゴメン」
翼が人差し指で耳栓しながら羽月をたしなめる。

「フフ、まぁ私も昔はホステスをやっていてね」
「そうか~ママさん、めっちゃキレイやもん」
「羽月さんはお上手ね。それで、その人と私との間に生まれたのが、この子……美空なんです」
楓は、自分の横で野菜を包丁で切っている美空を見つめながら言った。

「美空ちゃんもかわいいもんなぁ。親御さんが両方ともお水やってたんやし、美男美女の血筋を見事に受け継いだんやな!一度その旦那さんにも会うてみたいわぁ」
羽月がそう言うと、楓はふと表情の明るさを俄かに沈める。

「あれっ?どないしたんやろ?」
「バカ」
脳天気に首を傾げる羽月に、翼が頭を押さえながら言った。
「えっ?俺何かアカンこと言うたかな……?」
すると、楓は今までと変わらないそのままの口調で話し始めた。

「主人は……美空の父親は、あの子がまだ小学校4年生だった頃に亡くなったんですよ。もう10年前くらいのことでしょうか」
楓のその言葉に、羽月は顔を少しずつ真っ青にしていった。

「あ……す、すんまへん!俺そうとは知らへんかったとはいえ」
羽月は頭をペコペコと下げながら謝った。すると楓はクスッと笑ってみせる。
「いいんですよ羽月さん。もう昔のことですし」
「せやけど……」
「いえ。私には今、この子がいますから」
そう言うと、楓は横にいる美空を見つめた。
するとその美空が、楓に向かってある手ぶりをしてみせる。

「……」
楓は美空のその手ぶりを見て、何かを理解したようだった。
「……うん、わかったわ。じゃあそれもお願い」
楓にそう言われると、美空は作っている料理に次々と手を加えていた。
そして、彼女は食材を取りに店の奥へと消えていった。
その光景を、翼と羽月も興味深く見ていた。
その視線を感じたのか、楓は二人に対して口を開いた。


「お二人とも、もう気付いてらっしゃっいますよね?あの子……美空は見ての通り声を出して言葉が話せないんです」
「声が?」
翼がそう言うと、楓はコクッと頷いた。
「美空ちゃん、声が出えへんのって、生れつきなんですか?」
羽月が尋ねると、楓は先を続けるように話し始めた。

「いいえ。元々は話せないどころか、人一倍ハキハキ声を出すくらい元気だったんですよ。でも、先程も話したことですが、主人が亡くなった10年前を境に、声を失ってしまったんです」
「10年前……もしかして?」
翼がそう言うと、楓はただ頷き先を続けた。


「当時肝臓を病んでいた主人が、当時10歳の美空を連れて歩道を歩いていた時のことでした」
楓の瞳に僅かに涙が浮かぶ。

10-2

 
「歩いていた二人のところに、居眠り運転をしていた乗用車が突然猛スピードで近づいて……」
「……」
「そばにいた美空は、まだ比較的軽い怪我で済んだんですが……。娘を庇った主人は……」
その後は言葉にならなかった。
楓は忌ま忌ましい記憶に苛まれるように、着物の裾をギュッと握った。
翼と羽月は、言葉もなく、ただ聞くことしかできなかった。
しかし、沈黙が流れることなく楓は再び口を開いた。

「主人が亡くなり、私はとにかく美空を育てることに専念しました。しかし、事故から間もなく……あの子は声を失いました」
「もしかして彼女……事故の後遺症で?」
翼が尋ねると、楓はただ俯いた。

「はっきりとはわからないんですが、恐らく父親を無くしたショックかと思います。怪我の後遺症にしては喉に損傷は無いし、何よりあの子は父親にとても懐いていましたから……。何にしても、あの10年前の事故があの子から声を奪ってしまったんです」
「そんなことがあったんや……」
話し終えて涙を一粒零す楓に、羽月が相槌を打った。

「大変だったんですね」
翼もまた相槌を打った。
すると楓はハッとしたように、瞳に浮かべた涙を拭った。


「す、すみません。初めて会う……しかも食事されてるお客様にこんな話をしてしまいまして」
楓は焦りながら、翼と羽月に対して頭を下げた。
「いやそんな、気にしないで下さい」
「そうやてママさん、誰かて一つや二つ悲しい経験とかあるんやしぃ」
二人がそう言うと、楓はニッコリしながら「ありがとうございます」と返した。

「まぁ、それに一応俺らホストやし!お話聞くくらい何でもないでぇ」
「あら、そうしたらお金払わなきゃいけないのかしらっ」
羽月の言葉に、楓は意地悪口調ながらも笑いながら返した。
「んもう、そんなんどーでもえぇからぁ!」
羽月もニカッと笑いながら言った。
そばにいる翼も、僅かにフッと笑みを零す。

「まぁ、さっきもやってたんですけど、それ以来私達は手話……さっきやっていた手ぶりを覚えて、普段それで会話をしてるんです」
「シュワ?シュワって何や??」
何のことかさっぱりわからないのか、羽月は楓に質問を投げかけた。

「手話は、手で話すと書いて"シュワ"って言うんです。耳が聞こえなかったり、美空のように声が出せなかったりする人には不可欠なものなんですよ」
「ほぇ~」
楓の説明を聞いた羽月が気の抜けたような声を漏らした。
しかしその時だった。

「美空さんは、それで奥の方に調味料を取りに行ったんですよね」
翼が唐突にそう言うと、楓はポカンとしながら彼のことを見た。
「翼さん、何で美空が向こうに行ったことの理由を……??」
自分しかわからないことのはず…そう思った楓は不思議そうに翼に問い掛けた。
しかし、彼が答える前に彼女はそれを察したように、ハッと目を見開いた。

「まさか翼さん、手話がわかるんですか?」
「え、えぇまぁ」
翼がそう答えると、楓と彼のとなりにいる羽月がとても意外そうに驚いた。

「翼くん、どうして手話がわかるんや!?」
羽月が鼻息を荒げながら翼に尋ねる。
「いや……昔大学にいるときに、サークルでちょっと福祉系のボランティアをやってたことがあって、そこでたまたまちょっと覚えたんだ。そんなにわかるってわけじゃないけど」
「福祉のボランティアを」
「えぇ。そんなに変でしたか……?」
「いいえ、性格の良いホストさんだとは思ってたんですけど、まさか手話を理解されてるなんてホントに意外だったもので」
楓は感心そうに翼に言った。

「ホンマや。翼くんすごいんやなぁ!」
翼の隣にいる羽月も、感心の言葉を彼にかけた。
「いや……そんな」
翼は、ほのかに顔を赤らめた。
「あれ、翼くん顔赤いで」
「仕事でもだけどちょっと飲んだからかな」
そう言いながらも、翼は照れを隠すかのようにジョッキのビールを口に移していった。

「フフッ、でもうれしいわ」
「えっ?」
「翼さんが手話をわかるって聞いてちょっと意外と言うかうれしくてね」
「ママさん」
「翼さんがもしよかったらでいいんですけど、もしまたお店にいらしたときには美空の話し相手だけでもなってあげて下さいますか?あの子、今までそのことで辛かったと思うんです……」
楓がそう頼むように言うと、翼は「えぇ」と返しながら首を縦に振った。
「ありがとうございます」
楓は改まるように翼に頭を下げる。

「何か今日は翼くんばっかしカッコえぇな」
羽月が少し膨れたように横で呟いた。

「あのなぁ……」
「あぁ、わかっとるよ。美空ちゃんのことに関しては別やけど……何や、ホストとしても差をつけられたような気持ちになってな」
「何だよそれ、それでも君の方がお客さんの数はいるだろう。俺はやっと一人掴んだだけだ」
「せやけど、愛菜さんみたいなすごいお客さんてわけじゃない」
羽月はどこか寂しそうにそう呟いた。
翼は、話しているうちに彼のそんな表情が垣間見れることに対し、珍しいとさえ思い始めた。

「わざわざ俺が言うことでもないが、今日は君の誕生日じゃなかったのか?そんな日くらい仕事のことは忘れたらどうだ」
「うん……そうやな。ゴメン翼くん、お料理温かいうちに食べよっ。うん、ママさんのサバミソめっちゃおいしいわぁ!」
羽月はその場に生まれた雰囲気を半ば無理矢理ごまかすように言った。
しかし、翼は不意に彼が見せたその寂しそうな表情が、どこか気になっていた。

 
 

約2時間後-。

「そろそろ行こうか」
翼がそう言うと、羽月もうんと頷いた。
「そうやな、ママさんお会計ぃ!」
「ハイ、ありがとうございます」
会計を済ませると、翼と羽月はコートを羽織り始める。

「今夜も寒そうやな」
「今日はどうもありがとうございました。お気をつけて帰ってくださいね!」
「すいません、遅くまで」
翼と羽月が外に出て行こうとすると、そこに美空がスタスタとやってきた。
すると、翼に向かい手話をしてみせた。

『ドウモ、アリガトウゴザイマシタ』

翼はそれを理解したのか、軽くニコリとして美空に話し掛ける。
「こちらこそごちそうさま。あのお通しの肉じゃが、美空ちゃんが作ったんだってね?とても美味しかったよ」
『マタ、食事ニ来テクレマスカ?』
美空がそう言うと、翼は無言で頷いた。
彼女はそれを見て、嬉しそうに笑顔を見せた。

「じゃあ、また来ます」
「ごちそうさまでしたぁ、ママさん美空ちゃんまた来ますぅ!」
そう言って、翼と羽月の二人は"楓"後にした。

「いい方が来てくれたわね」
楓がそう言うと、美空は笑顔でコクッと頷く。
翼達の背中が見えなくなるまで、美空は寒い中ただずっとそこから彼らを見送っていた。





「美味しかったなぁ」
「あぁ」
翼と羽月は、そう言いながら帰りの道を歩いていた。
「翼くん、ホンマに今日はおおきに」
「何だよ改まって。もういいってそれは」
「俺……こんな風に誕生日誰かと一緒に過ごしたの、久しぶりやったから…」
羽月は、ふと寂しそうにそう呟いた。

「久しぶりって……他に友達だっているだろう?」
「友達はおってもな、さっきも言うたけど今までそうゆう境遇やなかったから」
「……」
羽月にそう言われ、翼はただ黙るしかなかった。



『こいつ……』
翼は心の中でそう呟いた。









それは約1時間前-

まだ二人が"楓"にいるときのことだった。

「翼くんは何でホストになったんや?」
羽月は唐突に翼に尋ねた。
「どうしたんだよ、いきなり…」
「いや、みんなホストってそれぞれ野望持ってなるもんやろうなってな。今日愛菜さんの指名とった翼くん見て、死に物狂いって言うんかな……。翼くんには何かしらあるって思うたわ」
「……」
「あっ、別に答えたくなければえぇで」
「俺は……」
翼は少し俯きながら黙ると、口を開いた。


「俺は自分を認めてもらうため、かな」
「自分を認めてもらうため?」
「あぁ。君もあの時の俺の失態でもう何となくわかってるかもしれないが、俺はすごい不器用だからな。あの時に限らず今まで数多くの失敗をしてきた……。いや失敗ばかりだった」
「翼くんにもそんなことがあったんや?」
「まぁあんまり詳しいことは言えないけど、ホストって世界は自分の本当の力を証明してくれるし、何より自分を変えてくれるような気がしてね」
翼はどこかはにかむように言った。
そして、話を返すように羽月に尋ねる。

「君はどうしてホストになったんだ?」
「あっ、俺?」
「あぁ、君はわざわざ京都の方から来たんだろ?だから-」
その時、翼の言葉は止まった。
そう言いかけながら彼が見たその時の羽月の表情が、それまでの明るいイメージからは想像もできないほど恐ろしく強張っていたからだった。
それを見た翼は、身体の奥からゾクッとするような感覚を覚えた。

「……どうした?もし言いたくなかったら-」
「翼くん」
「えっ?」
「翼くんは家族おる?」
「何だよ急に」
「俺はおらんねん」
「……一体何がどうしたんだ?」
酔いもあるのか、突然態度が一変したような羽月に翼は戸惑った。
しかし、羽月は続けた。

「俺……元々は東京に住んでたんや。10年前、家族がバラバラになるまでは……!」
「……!?」
「いや違うな、バラバラにされたんや……」
羽月の瞳に僅かに涙が浮かんだ。

「家族が、バラバラって……」
翼がそう言うと、羽月は食いしばった歯を見せながら怒りを込めながら言った。


「すべてあいつに、あの男に狂わされたんや……。アサカワカンパニーって会社の浅川って男に……!」
「!?」
羽月の突然の言葉に、翼は驚かずにはいられなかった。





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