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-Prologue of lost wing-

 

「ちくしょぉおおっ!!」


日本の首都東京-
その街の中のとある部屋で叫びたたずむのは、一人の青年だった。
『彼』の右手には缶ビールが握られ、周りは酒の瓶やつまみのゴミばかりが溢れる。

カーテンで光を遮られ密封された部屋の中は、どんよりした暗闇と酒の臭いでむせ返っている。


「どうせ俺みたいなクズなんか……もう……」
『彼』はそうつぶやきながら、歯ぎしりをしていた。
その時、『彼』のケータイが音を鳴らす。
すると、『彼』はそれを手に取りギョロリと睨み付けると、部屋の壁に強くたたき付けた。


「ハァ……ハァ……うるさいうるさいうるさい!!もう俺に関わるな!!」
『彼』は息を切らしながら大声でそう叫ぶと、再びぺたんと座り込んだ。


「金もない……仕事もダメ……あげく……。もう生きてるのも疲れた……」



その時だった。
部屋のドアの郵便受けに、「ストン」と音をたて何かが落ちてきた。
「ん……?」
『彼』は重い腰を上げ、冊子らしきそれを手に取る。

「フリーの求人誌か……。いまさら俺に何を……」
『彼』はそう言いながら、その冊子をペラペラとめくった。
すると、とあるページにピタリと目を留める。

「ホスト、クラブ…」
『彼』はその続きに目を注いだ。

「新規オープンからまだ3ヶ月……ホスト募集中……。ホストってキャバクラとは逆に男が女を接客するアレだよな」
さらに続きを読み進める。
「月収100万も夢じゃない……頑張った分だけあなたを評価します……」



"あなたを評価します"
それが『彼』の心を激しく揺さぶった。
「これだ……!」

『彼』はニヤリとわずかな笑みを零した。
"ホストクラブ"と言う存在……その言葉が闇にうずくまる彼の心を動かそうとしていた。





場所は変わって京都-

「じゃあ行ってくるわな!」
金髪でひょろりと背の高い一人の19歳の男が、そう言いながら片手にバッグをかついだ。


「ホンマに行くんかいな、東京……」
「あぁ!東京で一発掴んでくるで!」
その《彼》は、心配そうに自分を見つめる老人に元気に言い放った。

「じゃあなじいちゃん……身体に気ィつけるんやで」
「あぁ、お前もなぁ」
「あぁ、ビッグになったるわ!それと……必ず見つけてくるで」
《彼》はそう言いながら、老人に背中を向け歩いていった。
老人は心配そうに、そんな《彼》の遠くなる姿を見つめていた。



東京へと向かう新幹線の中、《彼》はとある一枚の写真を見ていた。
それに写るのは、小さい男の子とさらに背の高い女の子の二人が笑っている姿。
《彼》は黙りながらも真剣な表情でそれを見つめ続ける。



『やっと、やっと迎えに行ける……逢えるかもしれないんだ』



《彼》は、どこか寂しそうに心の中でそう呟く。
そして写真をバッグにしまい込み、車窓に視線を向けた。

「まずは東京で成り上がらんとな!」
何かの決意をし、《彼》は東京との距離を経つ時間とともに縮めていった。


◇「俺は、これで……」
◆「俺は、東京で……」


『絶対成り上がってやる』



それぞれの思いを抱き、二人の男が一つの決意を胸にしていく。

それが東京・新宿歌舞伎町のとあるホストクラブを舞台に運命を紡いでいくなど、この時彼らは知るよしもなかった。