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プロローグ

篠原琢磨「母さん・・・何時も話していた優理子さんだ・・・」

篠原きよい「まあ~ようこそ~綺麗な方ね~琢磨には勿体ない・・・(笑)」

宇佐見優理子「初めまして・・・」

母きよいは、ソワソワとお茶を入れたりケーキを切り分けたり、甲斐甲斐しく動く。

琢磨「母さん、落ち着いて座って・・・」

優理子「お手伝いしましょうか・・・?」と立ち上がりかけた・・・

きよい「ふふっ、大丈夫・・・終わりましたから・・・」とやっと席に着いた。

 

きよい「優理子さん・・・出身は?」

優理子「はい、新潟です・・・今は都内にアパートを借りています・・・」

琢磨「優理子さんは、ご両親がもう居ないんだ。」

きよい「そう・・・寂しいわね・・・家も母一人子一人・・・」

優理子「慣れました・・・」と寂しそうな笑みを浮かべる。

琢磨「母さん、優理子さんと結婚の約束をしたんだ。」

きよい「まあ~素敵じゃない。」

優理子「お世話になります。」

きよい「いつ?式は・・・」

琢磨「ロスの学会から、帰って来て早いうちに・・・」

きよい「優理子さん、お勤めでしょう?」

優理子「はい、この結婚を機に退職するつもりです。」

きよい「我が家へ嫁いで下さるの?」

琢磨「そうだよ。母さん・・・仲良くやって欲しいな~~」

きよい「勿論ですよ~~お喋り相手が出来るわ。」

優理子「よろしくお願いします・・・お義母様。」

ひとしきり、お喋りをした後、琢磨は明日ロサンジェルスに出発するため準備をする。

優理子も勿論手伝ってくれる。

琢磨「一週間・・・寂しいだろうけど・・・」

優理子「お義母様と、待っています。一週間なんてすぐです(笑)」

琢磨「安心した(笑)」

 

それが、永遠の別れになろうとは、二人とも夢にも思わなかった・・・


琢磨は目覚めた。

夕べの幸せを反芻する・・・

甘い香りが鼻孔をくすぐり、柔らかな温もりが・・・

琢磨は深呼吸しながら『あぁ・・・良い天気だ~~~。よし!頑張るゾ~~~』と心の中で気合いを入れる。

 

アナウンスの声がいやに響く・・・

空港は何処もそんなもの・・・

優理子「あなた・・・気をつけてね。」

琢磨「あぁ・・・行ってくる。母さんのこと・・・頼むよ。」

優理子は琢磨がすべてだ。

飛行機が離陸し見えなくなるまで手を振る。

優理子『あぁ・・・一週間か・・・』と思いながら・・・左手薬指にはめた指輪を慈しむように見つめた。

 


 

~~~◇~~~

 

ロスでの会議が始まった。

物理学者である琢磨、世界各国から関係学者が集まっている。

テーマは「船の遭難事故多発対策」である。

事故にあったすべての船が嵐の中・・・空間に出来た亀裂のようなものの中に消えていったという目撃情報があり・・・磁気嵐に関係しているのではという仮説がクローズアップされたのだ・・・。

北極や南極ではオーロラが連日、大規模な姿を現しているとの報告も寄せられていて、それが広がりを見せているという。

磁気嵐と遭難事故の因果関係が話し合われた。

 

「オーロラの発生と磁気嵐の因果関係はよく言われる・・・それと船の遭難とは関係ないように思うが・・・」

「空間に亀裂が出来るとは?どういうことなのでしょう・・・」

「時間論オーソリティーの篠原教授は、どう思われているのですか?船が異次元に消えたのではと噂されていますが・・・」

琢磨「そもそも、異次元とは・・・存在するという確証がないものです。調査のしようがありません。」

「しかし、こう・・・頻繁に発生すると・・・対策を立てるために、この会合は開かれたのだから・・・」

琢磨「そうですね~~、まず磁気嵐とは・・・太陽面の活動によって放出される帯電粒子が地球に影響し、デリンジャー現象が起きる。それによりオーロラが発生するとされます。しかし何故、磁気嵐と空間の亀裂、イコール異次元なのですか?また、異次元と時間は直接関係がありませんが・・・」

「えっ?異次元は時間の流れと密接に関係していると・・・」

琢磨「関係はしてますが・・・異次元が存在するということ自体不明なのですよ・・・私の研究する時間論はあくまでも、ここ3次元とされるこの次元内のことです。」

「そうですか・・・」

琢磨「各船に注意して貰うほか対策はないのではないですか?この会議に呼ばれたことを不思議に思っているのです・・・」

「国連が招致したのです・・・仮説でもいい、何か報告しないと・・・」

琢磨「仮説なら・・・異次元ではなく、どの時間に飛ばされたかですね・・・もっと想像するなら空間の亀裂は『時空間ポケット』とでもいうものです。実際見たわけではないので信憑性に乏しいですが・・・」

 

 


ロスでの会議は、結論や対策が出ないまま終幕した。

一週間の予定が二日で終わり、琢磨は帰国の途についた。

 

ロス発成田行きのジャンボ機は日付変更線を通過しようとしていた・・・

琢磨は、その辺りで眠りに落ちた。

どの位経った頃だろう、まどろんですぐかも知れない。

いきなりガクンという機体の震動に目を覚ます・・・

静かだが緊迫した機内のアナウンスが流れ、シートベルト着用のサインが出る。

次第に機体が揺れ始めた・・・ダッチロール状態になったようである。

 

『皆様、暫く揺れます・・・シートベルトを着用して、ご辛抱下さい・・・』

 

同じ時、操縦室では機長達が操縦桿と格闘していた。

前方に突如、嵐のような渦巻きが発生し、その中心にポッカリと暗黒の闇が口を開けているのである。

合わせて、その闇に吸い込まれるように引き付けられている。

避けようと努力はしてみたものの、操縦桿が効かない・・・

 

琢磨は、窓から外を見てみる。

機体は今しも嵐の中に吸い込まれようとしていた。

琢磨『ま・まさか!時空間ポケット?・・・こんな上空に?』

琢磨の脳裏に、優理子と母きよいの姿が走馬燈のように去来した。

琢磨『優理子~~~っ』と心の中で叫び、激しいダッチロールのため気を失った・・・

 

~~~◇~~~

 

『皆様、大丈夫ですか?この便は嵐の中を無事に抜けました。』と言うアナウンスで琢磨は気付く。

何もなかったような、静かな飛行に戻っていた。

琢磨は、夢でも見たのかと錯覚するほど・・・

窓の外も朝日が差し込んできている。

しかし、琢磨の心には異変を感じていた。 『何かが違う・・・』

 

成田に着いたのに着陸せず、上空を旋回している・・・

それは何を意味するのか?

機長は、管制塔との連絡で違和感を感じた数少ない一人かも知れない。

やっと、着陸許可が出た。

ハッチが開けられ、外を望むと武装した警察官に取り囲まれていた。

乗客達は数台のバスに押し込められ、空港内の一室に監禁されてしまった。

 

 


琢磨達と一緒に乗り合わせた乗客は、異変を感じ憶測を話し始めた。

「どうも・・・ハイジャックがあったようだ」

「違う空港に下りたらしい・・・」と・・・

琢磨は、別な原因を考えていた。

琢磨「今日は、何年何月何日だか、教えてくれないか?」と警備に当たっている警察官に尋ねた。

尋ねられた警察官は『何でそんなことを聞くんだ?・・・変な奴!』と言う表情を作った。

 

警察官「2060年4月○日だ。」

それを聞いた乗客達は耳を疑う表情だ。

「馬鹿な~」「そんなはずはない」と騒ぎ始めた。

琢磨一人だけ、その事実を受け入れ考え込んだ。

琢磨『50年先に飛んでしまったか~~もう・・母さんは・・居ない・・・優理子は70を越える老人?』と思い立ち愕然とした。

 

暫くすると、成田空港の保安部長が警備員と共にやってきた。

保安部長「乗客の皆様、大変ご不便をおかけして、申し訳ございません。今暫く当空港の特別室にご滞在下さい。」と静かな口調だが有無を言わせないと言った感情が含まれている。

乗客「仕事が待っているんだ、早く解放して欲しい!」という言葉を皮切りにあちこちで苦言が飛び出した。

保安部長「まぁ・・・皆さん、静かにして下さい。私も早く皆さんを解放してあげたい・・・しかし今、機長から事情を聞いているところです。」

乗客「ハイジャックでもあったのか?」

保安部長は、首を左右に振る。

乗客「さっき、警備の人間が2060年と言っていたが・・・どういうことだ?」

保安部長「仕方がない・・・その通りですよ。皆様こそ何処からいらしたのですか?」

琢磨が徐に立ち上がり・・・「2010年の過去からです。」

保安部長「ほう~・・・機長もそう言っていました・・・あなたは?」

琢磨「篠原琢磨です。」

保安部長「あ~~あの物理学者の・・・」

琢磨「ご存じですか?」

保安部長「はい、機長が磁気嵐に遭い、タイムスリップしたと言うもので・・・当時のことを調べてみたのです。そうしたら・・・篠原琢磨という日本を代表する時間論を発表した物理学者が居たと・・・ロスから帰国する際、飛行機と共に行方不明になったと・・・当時の新聞に載っていました。」

 

 


同じ機に乗り合わせた乗客達は、ザワザワと落ち着かなくなる。

乗客「すると・・・どういうこと?」

保安部長「ここは・・・ご専門の篠原教授に・・・」と言い、一歩下がる。

琢磨「皆さん・・・我々は、飛行機もろとも時空間ポケットに吸い込まれ・・・50年先の未来に飛ばされてしまったのです。」

乗客「そんな・・・馬鹿な~~責任をとれ~~!!」

それを聞いた他の乗客も同調する。

琢磨「誰にです???旅客機の機長にですか?・・・これは事故なのです。いいですか?」と窓の外を指差す。

琢磨「他の旅客機を見て下さい・・・形が少し違うでしょう?それと・・・空の青さが濃くなっている・・・そう感じませんか?」

その空の色は、自分たちの居た時代の空色より・・・濃い青色の空で綺麗と感じたのだ。

時代の流れに反比例するように・・・

 

保安部長「その疑問は、私が答えましょう。」

保安部長「20世紀の後半から21世紀始め・・・温暖化現象で異状気象が騒がれていました。温室ガスが地球の空を汚していたのです。国連が温室ガス排出規制に乗り出し、やっと最近、綺麗な空になり始めました。都会も緑化で昔と全然違うと思います。」

そうなのである。 2000年を境に環境破壊に国連が重い腰を上げて、排出ガス規制が始まったのである。

後進国の反発や、先進国でも経済効果の絡みで反対があった。

しかし各地で起きる、異状気象・・・爆弾低気圧などの言葉も現れ、各地に膨大な被害が出たのである。

 

そのようなことは、乗客達は薄々知ってはいたが、問題は今の置かれている現状だ。

琢磨「皆さん・・・どうします?今まで築いてきた人生が霧散してしまったのです。帰ろうと思っても・・・時空間ポケットは・・・異状気象によるものと考えられ、ここでは発生しづらい環境になっていると思われます。・・・これからここで生きていくことを考えなくては・・・」

それを聞いた乗客達はオロオロし始めた。

保安部長「そうなんです・・・こうなりましては・・・皆さんのことを考えなくてはなりません・・・当空港の側に当社のホテルがあります、そこを一時提供いたしましょう・・・また希望があれば仕事の斡旋相談にものります。ただこれだけは言っておきます。環境や技術の発展がありますので・・・一からの勉強となります。では、私はこれで・・・後は係員に相談して下さい。」

 

保安部長は琢磨のところに来て「篠原教授は、どうされますか?」

琢磨「・・・取りあえずは・・・家が残って居るか確認したい・・・」

保安部長「う~~む・・・難しいですね・・・確か、独身でいらっしゃったと記録に残っていますが・・・」

琢磨「はい・・・婚約者がいましたが・・・行方不明になったのだから・・・誰か別の人と・・・」

保安部長「・・・あまり期待しないほうが・・・」

琢磨「判っています・・・」

 



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