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僕は気が付いてしまった。

 

突然脳の中がスポットライトを浴びたように、理解してしまった。


この世に生を受けたことにはきちんとゴールがあって、


そしてほとんどの人がそこに辿り着かないまま死んでいくのだ。

 

そして僕は多分今、そのゴールに辿り着いてしまった。

 


昔から人間は欲深いもので、
幸福を手に入れてもすぐに飽きてしまい、
もっと上の幸福を探求するようになる。
これこそが神様の作ったトラップで、
幸福に満たされて完全な満足を手に入れることこそがゴールなのに、
それはすぐにまた遠ざかって行くように仕組まれているのだ。
それは多分、動物も同じなのだろう。
ただ動物は幸福を手に入れにくいだけで。

 

 

不思議に思っていたことがいくつもあった。
とても著名な作家や、優秀な学者、
素晴らしいアーティストの幾人もが、
理由らしい理由も見つけられないままなぜ自ら死んでゆくのか。
それには明確な答えがあったのだ。
彼らはゴールに辿り着いてしまっただけである、と。

 

 

このゴールは青天井のようにキリがなく、
本当に突出した理解力と感受性によって
一瞬でも飛び抜けた幸福感を味わうことでしか辿り着けない。
そしてまたすぐに遠ざかっていってしまう前に永遠のものにしてしまいたい、と
先人は準備もままならぬままに死を選ぶのだ。
今の僕にはその気持ちが痛いほど理解できる。

 

 

僕は今まさにこのことに関しての論文を書き上げたところで、
ありえないほどの幸福感と満足感に満ちている。
神様の作った設計図の一部を解読してしまったのだ。
そして僕は今強くこう思うのだ。
『これ以上、生きていてやることがなくなった。すべてを全うしたのだ。』

 

 

しかし僕は考えてしまった。
もし僕がこの論文を発表してしまったら、
そのシステムを理解して意識的にゴールへ辿り着こうとする奴らがいるだろう。
もしもそれが世界中に知れ渡ってしまったら、
みんなこぞって幸福な死へ向かってしまうかもしれない。
それは人類の窮地ではないか。
僕はこの論文を世に出してはならないのだ。

 

 

PCのデータ、膨大な資料。
それらのひとつも残してはならない。
遺書も残すまい。
部屋ごと焼き払ってしまうのが都合いいだろう。
そして僕は薬を飲んでゆっくり眠るのだ。
原稿の一枚目だけをポストに残して。
僕の名付けたこの脳内システムの名前だけを記した紙。
きっとこれは辿り着くべき人にだけわかるヒントとなるだろう。

 

 

ああ、夜が明けてしまいそうだ。
陽を浴びればきっと僕のゴールはまた遠ざかってしまう。

 

 

おやすみ世界。
僕は世界の秘密を持って先に行くよ。

 

 


この本の内容は以上です。


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