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第一章 8[仮想世界と自殺の名所]

 現代の日本は物騒な世の中である。
 情報番組では幼児への虐待、通り魔、自殺、飲酒運転、暴力、いじめが頻繁に報道されている。憎悪や日常への抑圧感を制御することができず、事件の引き金となる。
 その中には感情表現が不器用な人、"辛いこと"を"辛い"と言えない人、自分さえ我慢すればいいと内にこもる人もいる。
 一年前に"エスケイプ"というゲームを知った。ネットと介在して接続するオンラインゲームである。ここでは仮想の自己を作ることができる。現実は男であっても、この世界では女として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。

『伝言あり』
 平日の昼間。
 私は例のゲームを開くとメッセージが届いていた。 
 ゲームの管理者かと思いきや、どうやら一昨日知り合った"うさぎの着ぐるみ"を着た子からのようだ。
『いますかー?』
『忙しいのかな?』
『インしたらメール下さい~』
『暇で暇で死んじゃいそうです』 
 重複したものも含めて二十件を超えるほどの伝言が送られていたのだ。
 私はすぐさま「遅くなってごめん。今インしたよ~」と送ると数秒足らずにで返信が返ってきた。
『返事がないから、嫌われちゃったかと思ったよ> <』
「ああ、昨日はバイトでさ。早く寝たんだよね、ごめんごめん」
 何もやる気も起きずにそのまま寝てしまったのが本当のところだけど。
 それから、彼女が主婦であるということ。夫と喧嘩中で、ネットでストレス発散している。息子が反抗期で言うことを聞かないだのと、お互い愚痴を言い合った。私は学校での人間関係や、今抱えている悩みを話した。
 彼女も学生時代に苛められた経験があるらしく、私たちはすぐに意気投合した。
『ほんっと世の中クソッ!(#`Д´)真面目に生きてるのが馬鹿馬鹿しく思えるよね~』
 本当にそう・・・真面目に生きてる人がつらい思いをしなきゃいけないの。
 子どもの頃は無邪気に信じていたことも、年を重ねるうちに人間の汚い部分が見えてくる。平気で笑いながら話す陰口。そのくせ、相手を前にすると平然と仲良しのふりをする。その中には信頼関係も、優しさなんてものはない。ただ自分に利益になるかどうかしか頭にない。
 この世界は裏切られることを前提を付き合っていかないと生きていけないんだ。 

 私は彼女に誘われ『うさぎ好きな人集まれ☆』というサークルに誘われ加入したのだ。



 変わらない食卓。
 テレビに映るニュース。
 いつもと同じ味の味噌汁。
 炊きたてのおいしいごはん。
 いたって普通の晩ご飯であるが、どうも空気が重い。
 私はそれの何を意味しているのか知っていた。
「学校はどうしたんだよ。ちゃんとバイト行ってんのか」
 年の離れた大学生が言った。
 別に驚くべきことじゃない。いつか言われる覚悟はしていた。休みは続けば、誰でも不審がるだろう。
「学校はいかないし、当分休む。バイトは別のに変えるから」 
「当分っていつまでだよ」 
「分からない」
 どうせ水兄に内容を話したところで、分かってもらえるはずがない。
 ましてや、友達にいじめられてるなんて口が裂けても言えない。この男が同情して「じゃあ休んでいいよ」なんて言うわけがない。馬鹿にすることは性格上から推測できる。
「ごちそうさまでした」
 食べ終わり、自分の部屋に行こうとする私を止めるかのように言った。
「何があったしらねぇが、世の中嫌なことの方が溢れてんだよ。俺だってそんなに言えた性質じゃねぇけど、人生はいいことばっかじゃねぇ。これから山ほどしんどいことが待ち受けてんのに、ここで逃げたらずっと逃げ続けるぞ」
 その言葉に腹正しさを覚え、つい本音をぶちまけた。
「何さ、私の何が分かんの。こっちのことも知らないくせに、適当なこといわないでよ。水兄は他人事のように言えるけど、私はそんなに強くない」
 と言って部屋に鍵をかけ、布団の中に閉じこもった。
 逃げていることなんて分かってるよ。
 そのくらい分かってるっ!
 本当は学校に行って向き合わなきゃいけないのかもしれない。
 逃げ続けたって変わらないことだって知ってるよ。
 でも、それでも前に進めないことだってある・・・
 
 弱くて、情けない自分が大っ嫌いだ!! 



 翌日の朝。
 いつも通り学校へ行く支度をして、通学かばんを持って、家を出た。
 二時間ほど電車に揺られ、行きついた場所は人通りの多い歓楽街。
 安全なとこだと見えても、裏路地に入ればガラの悪い人ばかり。
 朝っぱらから飲んだくれている人。 
 地面に寝そべる乞食。
 女の子一人が決して足を踏み入れる場所ではない。
 私は待ち合わせの場所へ。
 
 本当にここかな。
 荒廃したビル。狭い路地。誰ひとり人はいない。 
「キミもサークルの人?」
 金髪の頭に、深々と帽子を被った少年が話しかけてきた。
 さっきまでいなかったのに・・・
 見知らぬ少年に恐怖を感じた。
「そんな警戒されると、困っちゃうんだけどな。うさぎぴょんぴょんってね」
 にこやかに笑いながら言った。

 昨晩のこと。
『うさぎサークル』の主催者である茜さんは集まりがあるから来ないかと、誘われたのだ。
 私は心底嬉しくて、すぐに答えを出した。誰かと話しが通じ合えるということが今までなかった。
 彼女と出会えたことで、ほんの少し人を信じてみようかと思えた。
  
 茜さんは女の人じゃないってこと・・・?
「あ、あのどうしてこんな場所なんですか?気味が悪いですし」
「いってなかったけ。ここは自殺の名所なんだよ。自殺志願者が集まってくるよ、よく。楽にしてあげるのが僕たちの仕事――――」 
  
「!」
 い、いたっ!
 強い力で思いっきり腕を引っ張られた。
 
 その人物は私がよく知る人であった。

 

奥付



心に秘めた想い~イキテレバ悩むことだってある~


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著者 : yukiyuna12
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第一章 9[心開く道化者]

  隠れた場所は狭い路地。

 そこは昼間だというのに夜のように暗い。

 その理由は高層建物が多いということ。となり同士の建物が密集しているせいであろう。

 そして足元には割れたガラス、空き瓶、鳥の糞。コンクリート製の壁にはまだ新しい血と付着した鉄の棒が転がっている。それもまだ赤々としている。姿を隠すのに有効なドラム缶がとなりにある。そこからは今までに嗅いだことない異臭が漂う。

 きっとここでは何人もの人が殺されているにちがいない。

 彼は自殺の名所と言った。もしそうであるなら、血のついた鉄の棒などはない。首つり用ロープが一つくらい落ちていてもいいはずだ。

 私は安易にここへ踏み入れてしまったことにひどく後悔していた。となりに座っている彼には感謝をしてもしきれない。もしあのままついてしまっていたら、確実に殺されていたから。

 

 彼は何も言わずに黙っている。

 

 私は静かにノートと鉛筆を取り出した。物音一つ立てないように、注意を払いながら。そして鞄についたLEDライトキーホルダーを頼りに、『ごめんなさい』と本当の気持ちを書いた。ここで物書きをするにはひかりを有する。

 こんな紙に書いたもので許されるとは思っていない。でも、今は謝るしかない…

 それを彼に見せると、

『ケーキバイキングおごり』

 と返ってきた。

 命を助けてもらったというのに、割が合わない。

『他にもっと・・・償えきれない…』

 と書いた。

 だが、彼の返答は『十分』という二文字だけ。

 

 彼らの声が聞こえてきた。

 私はライトを消して、開いていたノートを閉じた。

「もうここにはいないんじゃないっすかね」

「女一人で抜けられるような場所じゃねぇ。まだ遠くに行ってないはずだ。徹底的に探し出せ」

「たかが一匹取り逃したところで、意味あるんすかね~。他あたりましょうよ。俺ら二人で捜すってのが無理なんですよ」

「くそっ、他の奴らは何やってんだ」 

「さぁ、分かりませんね」 

「喋ってねぇで、とっとと捜してこい!」

「えぇ、(さかき)さんも喋ってるじゃないですか」 

  

 帽子を被った少年。にこやかに笑う姿。

 茜と今の彼は別人である。最初のうちは男だと疑ったこともあった。だが、打ち解け合った頃には彼を女だと信じ込んでしまっていた。乱暴な言葉なんて一切ない。優しい言葉をかけてくれ、話しを聞いてくれた。

 そんな彼女が人殺しをする人間だったとは――――予想だにしなかった。

 

 声が聞こえているということは彼らは近くにいる。 

 そう思うと、手が震えてきた。

 あの人たちに捕まってしまえば、関係のない布野くんも殺されることになる。私の身勝手な行動で、彼の命を落とすようなことはあってはならない。絶対。

 私がここへ来なければ彼を危険な目に遭わせることなんてなかったのだから。

 ぎゅっと強く拳を握りしめた。

 

 彼らの気配がいなくなると私は動き始めた。この時を待っていた。動けるとしたら、今しかない。

「様子見てくる」

と言うと、布野くんは「動く方がもっと危険。ここに来る前にもう連絡はしてあるから」

 ポケットから携帯を取り出した。

 

 そして、暫くするとスキンヘッドの男性がきた。右腕には刺青の掘られ、服の背中側には"中村組"とある。見るからにこの辺の街で見かけるような顔ではない。私は彼の顔を見た瞬間、すぐに布野くんの後ろへ隠れた。

「お怪我はございませんか」

「ありがとう。助かったよ。手間をかけたね」

「いえ、我々の仕事ですから」

 どうやら彼らは知り合いのようだ。

「心様こっちです。足元にはお気を付け下さい」 

 それから業務用と書かれたトラックに乗り、逃げ出すことができた。

 



第一章 9[心開く道化者 2]

住宅街の一角に、一際目立つ屋敷がある。

外部は塀で囲まれ、入口には背丈の二倍以上の大きな門がある。

布野家の中へ入るととても一般庶民では考えられない光景が飛び込んできた。子どもが遊ぶ大きさのすべり台、じゃんぐるジム、ブランコ、砂場。一軒家三個分の畑。そして『誰でもご自由にどうぞ(温泉)』と書かれた建物がある。そこからは人が出入りしている。

 屋敷の前にくると、スーツを着た男性がお辞儀をして、こう言った。

「ようこそ、いらっしゃいました。執事の中村と申します。以後お見知りおきを」

 執事というのは年相応の人のイメージがあったが、彼は若そうに見える。

「ご迷惑をかけてしまってすみません!!

 私は深々と頭を下げた。

「ご無事で何よりでございます。私はむしろ嬉しく感じております。立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」

 彼は笑顔で屋敷に案内した。

 

屋敷の中は螺旋状(らせんじょう)の階段に、模様柄の赤い絨毯(じゅうたん)、高級そうな(つぼ)。どれも高価そうなばかり。ガラス性の透明のテーブルは指紋一つなく、綺麗に輝いている。

 布野くんは私の働くコンビニでお弁当を買いにきたこと。学校帰りの歩いて帰る姿。喫茶店を利用。彼の行動と性格から、とてもお金持ちには見えない。彼がここに住んでいるとは信じられない。

テーブルの上には中村さんが持ってきた紅茶と洋菓子が置いてある。

「座ったら?」

と言うと、布野くんは一番上にあるいちごをフォークでさし、一口で口に入れた。

「私帰るから。今日はありがとう」

「長谷川さんが出ていくなら、俺が出て行く」

 二口目に生クリームとスポンジケーキの半分を食べた。

「何を言ってるの。ここ布野くんの家でしょう?何で布野くんが出て行くの」

「行く当てもないのに、どこに行くつもり?」

 三口目にはお皿の上にケーキはなくなっていた」。

「勝手に決めつけないでくれる?私がどこに行こうが布野くんには関係ない」

 

 

私は布野家を出た後、このまま家に帰る気もせず、当てもなく歩いていた。

日が落ち始める頃の夕暮れは眩しい。歩く道路の先には、陰が映っている。私の長い髪と、手に持つ鞄がくっきりと。そして私の他にもう一人の陰がある。

「だからっ……、何で着いてくるの!」

 振り向いて叫んだ。

「家こっちだから」

「あんたの家は十分前に過ぎたでしょうが!」

「俺がどこへ行こうが、長谷川さんには関係ないと思うけど」

板チョコを手に持って食べている。

「勝手にすれば!」

 歩くこと数時間、辺りはもうすっかり暗い。徐々にすれ違う人が少なくなっていき、ついには誰ひとり周りにはいない。例外を除いては。

足が痛くなってきた私は。公園にあるベンチに座った。

こいつがいなければ、こんなに歩くことにはならなかったのにっ…

「お腹減った…」 

 となりにいる布野くんは、夜空の星を見ながら言った。

「後悔してるくらいなら、ついてこなきゃよかったじゃない」

「誰も後悔してるとは言ってないけど。どれも選んでもこっちを選んでたよ」 

 ドキッ。

もしかして、心配してくれているの……?

「あ、ありが―――」

「長谷川さんに死なれたら、行けなくなるから」

 行けなくなる……って?彼の言っていることが理解できない。私はいつ死ぬことを言ったのだろうか。そもそも死ぬつもりなんて毛頭ない。

 そもそも彼が何故付いてきたのかが分からない。

「布野くんは一体何をしにここへきたの?」

「何って。ケーキバイキング。行くって約束忘れたの?もう忘れたんだ。人間ってあっさり裏切るものなんだね」

 後半は棒読み気味に言った。

「今何時だと思ってるの?夜だよ、夜。ケーキ屋が空いてる時間帯だと思う?空いてるのはコンビニくらいね。大体バイキングなんて一人でも行けるでしょ―――ってちょっと」

「一人でケーキ食べたってつまんないよ。誰かと一緒に食べた方のがおいしいから。コンビニのデザートで我慢するから」

 引っ張られながら、コンビニの中へ入っていた。










第一章 9[心開く道化者 3]

 しかし、何も買わずにコンビニを出た。

デザートコーナーにあるのはプリンしか残ってなかったのだ。それ以外はすべて売れ切れ。

「明日また買いにきたら?今日だけ品薄状態だったんだよ」

 そう、たまたま今日は運が悪かっただけのこと。明日にでもなれば、きっと並んでいるから。

「長谷川さんって親の手伝いする人?」

「えっ、あ、出来ることなら、するかな。何で?」

 彼は唐突に話しを変えることが多い。話しの展開についていけないことがある。

「別に。家どこ?送っていくよ」

何を考えているのかわからない。

表情に出ない分、余計に考えが読めない。

楽しい時は笑い、悲しい時は泣いて、人間には喜怒哀楽がある。犬ですら尻尾を振って喜んだ顔をする。それにも関わらず、笑った顔を見たことがない。好物なケーキを食べている時でさえ、無表情。

だが実際こう言う人に限って、何も考えていなかったりするものだ。

 

 

 ふと足が止まった。

 水兄と顔を合わせるのが気まずい。今日は無断で学校を休んでしまった。きっとこのことはもう彼の耳に入っているはず。絶対に何をしていたのか聞かれるに違いない。まさか、知らない人に会って殺されかけたなんて言えない。

 重い足どりで歩くと、玄関の前には水兄がいた。

「ただいま」

 視線をそらして言った。

「こんな時間まで、何をやってたんだ。今朝学校から電話があって、お前のこと聞かれたぞ。学校に行ったんじゃないのか?」

「……」

私は何も言うことが出来ず、黙ってしまった。

学校へ行く途中で具合が悪くなったなんて嘘もつけない。今の状況で友達と遊んでいたと言えるが、何も知らない布野くんのことを、つっこまれたら答えられる自信がない。

「彼氏とデートしていたなら、そう素直に言えよな」

「なっ……違う。断じて違う!」

「遊ぶのはいいが、ちゃんと学校は行けよ。あと無断欠席はするなよ」

「……水兄には関係ない。私が何をしようが関係ないだろ!

水兄はいつもそう。勝手に話しを進めて、ちっとも聞いてくれない。私だって子どもじゃない。水兄に言われなくたってそんなこと分かってるよ!勉強だってしてる。家ではしてないけど、見えないとこでちゃんとしてるよ。勝手にどうとか決めつけないでよ!」

 頭にきて自分の気持ちを抑えきれなくなった。

「前にも言ったはずだ。こんなとこで(つまづ)ていっていおう勝手

そう言って、家に戻って行った。







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