第一章 5[二階から飛び降りる少年]
入学して一か月も経たないうちに、ついに明日からはもう中間テストが始まる。
高校一年生の私は教室内のざわめきと闘っていた。教科書やノートを見ても、周りの雑音のせいで全く頭に入ってこない。
あ~もうっ、うるさいなっ・・・・・・
進学校なのに、一日前から準備するってどういうことなんだか。
「やばいよ、私全然やってないよ」
「私もだよ」
そういう人に限って陰で勉強しているもの。
だが、中には本当に何もやっていない人がいる。そういう人たちはたいてい、諦めているか元からやる気がない人ばかり。こんなところじゃ、身に入らないし、時間の無駄。
静かで誰にも邪魔されずに勉強できる場所へ行った。
どうせ今は自習時間だし、一人くらい抜けたって先生たちは気付いたりはしない。
(・・・はぁ、戻るか)
図書室には同じように勉強するものがいた。席は満席でどこも空いていない。
テスト初日は皆真剣に勉強に取り組む。
二日目、一日目で力を出し切ったせいか、疲れ果てている。
三日目、テスト中にも関わらず空席が・・・
テスト終了の放課後、職員室にいる担任の先生を尋ねにいくと、
『国公立の倍率を知りたい?テスト終わったばかりじゃないか。長谷川、高校始まったばかりなんだから気を抜いてもいいんじゃないか?学校は勉強ばかりじゃないぞ』
と言われ、返されてしまった。
私が勉強に力を入れているのは、私の家が貧乏だからであった。
母親と父親は私がまだ小さい頃、事故で亡くしている。祖母の家に引き取られると、小学生くらいの男の子がいた。私と祖母と男の子の三人で住むことになった。だが私が小学生くらいの頃、祖母は急に体を壊し、寝たきり状態になってしまった。そして中学生の上がる前に祖母は他界してしまった。
そして、今では年の離れた兄の水城と私の二人で今の家に住んでいるというわけである。
直の友達である三人組は喋くっていた。
「終わった後の開放感って半端ないな!」
一番右に座り、足を組みながら、喋っているのは紗希。彼女は気が強く、機嫌が悪くなるとすぐに手を出す性格である。
「駅前のできたパフェ食べに行きませんか?」
友達にも敬語を使い、携帯とにらめっこしているのが未樹。器用にも二つのこと同時にできる特技を持っている。常に携帯を手に持って、メールを打ち続けている。
「私はパス。今日ピアノのレッスンがあるの」
窓に寄りかかり、赤いふちの眼鏡をかけているのが亜季。二人とは違っておしとやかそうにみえるが、一番計算高い人物である。
一番最初に直の話題を出したのは紗希。
「直ってうざくね?付き合いやすいって言えば付き合いやすいんだけど、なんか」
「私はあの子嫌いだわ。誰でも愛想ふりまいてるじゃない」
「やっぱそう思う?私もそう思ってたんだよね!」
亜季の言葉に紗希は共感して、喜んだ。
「彼女の斜め横の席ですけど、いつも授業中何か書いてるの見かけますよ。あれはノートを取っているような感じじゃないですね。勘ですけど」
「どうでもいい情報ね」
「なんか、面白そうだから探ってみないか?もしかしたら呪いのノートかもしれないしさ」
面白そうに笑う紗希を、亜季は引いた目で見る。
「人の悪口を言うなんて無神経なんじゃないかな」
下品な笑い声がする中、ドアの入り口でひょっとこのお面を被った少年がいた。
会話をしていた二人は言葉を失った。未樹だけはずっと携帯の画面を見て、イヤホンから音楽を聴いていた。
「そうそう、紗希さんの家の近所のお兄さんが彼女連れて歩いてたよ。残念だよねー中学生からずっと片想いだったのにね」
「はぁ?!てめ、喧嘩売ってんのか!」
『人の心が読める超人だから』と言って、少年は二階から外へ飛び降りたのだった。
高校一年生の私は教室内のざわめきと闘っていた。教科書やノートを見ても、周りの雑音のせいで全く頭に入ってこない。
あ~もうっ、うるさいなっ・・・・・・
進学校なのに、一日前から準備するってどういうことなんだか。
「やばいよ、私全然やってないよ」
「私もだよ」
そういう人に限って陰で勉強しているもの。
だが、中には本当に何もやっていない人がいる。そういう人たちはたいてい、諦めているか元からやる気がない人ばかり。こんなところじゃ、身に入らないし、時間の無駄。
静かで誰にも邪魔されずに勉強できる場所へ行った。
どうせ今は自習時間だし、一人くらい抜けたって先生たちは気付いたりはしない。
(・・・はぁ、戻るか)
図書室には同じように勉強するものがいた。席は満席でどこも空いていない。
テスト初日は皆真剣に勉強に取り組む。
二日目、一日目で力を出し切ったせいか、疲れ果てている。
三日目、テスト中にも関わらず空席が・・・
テスト終了の放課後、職員室にいる担任の先生を尋ねにいくと、
『国公立の倍率を知りたい?テスト終わったばかりじゃないか。長谷川、高校始まったばかりなんだから気を抜いてもいいんじゃないか?学校は勉強ばかりじゃないぞ』
と言われ、返されてしまった。
私が勉強に力を入れているのは、私の家が貧乏だからであった。
母親と父親は私がまだ小さい頃、事故で亡くしている。祖母の家に引き取られると、小学生くらいの男の子がいた。私と祖母と男の子の三人で住むことになった。だが私が小学生くらいの頃、祖母は急に体を壊し、寝たきり状態になってしまった。そして中学生の上がる前に祖母は他界してしまった。
そして、今では年の離れた兄の水城と私の二人で今の家に住んでいるというわけである。
直の友達である三人組は喋くっていた。
「終わった後の開放感って半端ないな!」
一番右に座り、足を組みながら、喋っているのは紗希。彼女は気が強く、機嫌が悪くなるとすぐに手を出す性格である。
「駅前のできたパフェ食べに行きませんか?」
友達にも敬語を使い、携帯とにらめっこしているのが未樹。器用にも二つのこと同時にできる特技を持っている。常に携帯を手に持って、メールを打ち続けている。
「私はパス。今日ピアノのレッスンがあるの」
窓に寄りかかり、赤いふちの眼鏡をかけているのが亜季。二人とは違っておしとやかそうにみえるが、一番計算高い人物である。
一番最初に直の話題を出したのは紗希。
「直ってうざくね?付き合いやすいって言えば付き合いやすいんだけど、なんか」
「私はあの子嫌いだわ。誰でも愛想ふりまいてるじゃない」
「やっぱそう思う?私もそう思ってたんだよね!」
亜季の言葉に紗希は共感して、喜んだ。
「彼女の斜め横の席ですけど、いつも授業中何か書いてるの見かけますよ。あれはノートを取っているような感じじゃないですね。勘ですけど」
「どうでもいい情報ね」
「なんか、面白そうだから探ってみないか?もしかしたら呪いのノートかもしれないしさ」
面白そうに笑う紗希を、亜季は引いた目で見る。
「人の悪口を言うなんて無神経なんじゃないかな」
下品な笑い声がする中、ドアの入り口でひょっとこのお面を被った少年がいた。
会話をしていた二人は言葉を失った。未樹だけはずっと携帯の画面を見て、イヤホンから音楽を聴いていた。
「そうそう、紗希さんの家の近所のお兄さんが彼女連れて歩いてたよ。残念だよねー中学生からずっと片想いだったのにね」
「はぁ?!てめ、喧嘩売ってんのか!」
『人の心が読める超人だから』と言って、少年は二階から外へ飛び降りたのだった。
第一章 6[骨折×いじめ]
次の日。
テストが終了したのか、あの肩の重さはすっかりなくなり、気持ちのいい朝を迎えて学校へ向かった。
学校の門では副校長先生が厳しい顔しながら、仁王立ちで立っている。登校時の生徒たちは彼を見るたび、目線を逸らしたり、会話しながら話している女生徒は急に黙りだした。
その威圧感は恐怖を感じさせていた。
「おい、君たち」
話しかけられる生徒の中には聞こえないふりをして、そのまま通り過ぎて行く人もいる。
「キミ、一年生かね?」
そして次に一人で登校していた私が声をかけられた。
「は、はい」
「彼を見たら、即私に教えてくれないか」
写真を取り出して、私に見せた。そこに写しだされていたのは私もよく知る人物。甘党好きなあの失礼男。『この人知りません』と言って私は、気の緩んだ雰囲気で溢れていた教室へ向かった。
だが、私の想像とは違いどこか教室内はざわめいていた。
「な、何かあったの?」
クラス内の女子に話しを聞いた。
「昨日の放課後、この三階から飛び降りて手足骨折したんだって」
「テスト後だし、自殺でもしようとしたんじゃない?」
「うわっ、ありえる!自殺するならこんなところでしないでほしいよね」
皆他人事のように笑いながら話している。
「それって誰なの?」
私は相手を知った時、授業が終わると同時にすぐに花屋さんへ駆けつけた。
ツンとした匂いはどうもなれない。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
病室前に来ると、中から複数の男性たちの声が聞こえてきた。
「ほんっとお前とろいよな。心配したんだぞ」
「何やってんだよ。中間テスト終わって気が抜けてたんじゃねぇの」
それから気の強そうな小太りの40代の看護師さんが彼らの背中をバシっと叩いた。『騒がしいものはすぐさま病院から出ていきなさい!』と注意している。
なんかすごく楽しそう。
元気そうなのに何故か嬉しくない。
居心地が悪くなり、気分が重くなった。
どこかで彼は私と重なる部分を持っているような気がしていた。でも彼の笑った顔を見た瞬間、はっきりと何かが違っていた。
「入らないの?」
昼休みに一緒に火男くんのお見舞いいかないか布野くんを誘っていた。
「用事思い出したから帰るね。これ渡しておいて」
私は花束をあずけて、顔を合わせないまま帰った。
次の日の日曜日。
紗希たちに誘われ駅前のお店で買い物をしていた。どうしようかと悩んでいたけど、断れずに結局行く羽目になったしまった。
雲行き怪しかったが、傘を持って行かずに街へ出かけた。
「ねぇねぇ、これどーよ?似合う?」
「そうね・・・、こっちの赤色の方が似合うわよ」
彼女らの声のトーンが大きさに店員さんは困り果てていた。新人らしく、小さめな気弱な声で注意をするが、耳までには届かない。あげくのはてに試着室まで占領している。
私は今すぐにでもこの場から消え去りたかった。用事ができたといって言い訳して帰ることも考えたが、なかなか自分の本音を言うことができない。
散々迷惑をかけて結局何も買わないままデパートを出た。
「あの服、モノはいいけど高いんだよな。まけてくれって言っても、あの店員声ちっせいから何言ってんのかわからないしさ」
愚痴をこぼしながら、次に"かげろう"に行くことなった。若い子たちの間で意外にも流行っている古着屋。安くて、かわいいものもあり、特に品ぞろえがいいと評判な店である。
時刻は五時を回り、辺りも暗くなり始める時間帯。
だが、彼女たちのテンションは今朝と変わらず、さらに電車内でも周りに迷惑をかけていた。電車内は休日ということもありまばらであったが、決して一人もいないということはない。
「例のあいつ骨折して怪我したんだってよ」
「ま、自業自得ってところね」
「自分から飛び込みましたからね」
声が大きくなるにつれて、周りの冷たい視線が。彼女たちの横に座るおばあさんが、迷惑そうな顔をしてこちらを見ていた。
「あ、あのさっ、ここ公共の場なんだし、声のボリューム落とさない?」
さすがの私も勇気を振り絞って指摘した。
隣に座る亜季は『何よ、うるさいわね』と何を偉そうにと睨んできた。
私は何も言えなまま口をつぐんでしまった。自分が悪くないと思っていても、ふと相手を目の前にするとどうしても弱くなってしまう。
電車に揺られること三十分。
目的地に到着するとシャッターは閉まり表には「店内改装の為、お休みさせていただきます。リニューアルは六月上旬」と貼り出されていた。
「ここまできてこれかよっ!」
「残念ですね・・・」
や、やばいっ、何か何か言わなきゃ。
「また今度こようよ。六月なんてすぐだしさ」
と言って、場の雰囲気を壊さないようにフォローしたが、運悪く雨が降り出してきた。
なんていうタイミングの悪さ・・・。
「直この始末どうしてくれるの?」
亜季が放った言葉に、私は驚いた。
えっ?!し、始末・・・?
「そうそう、直がここに来たいって言うから付いてきたのによ」
いつの間にか悪者扱いにされ、二人組はニヤニヤしながら笑っている。そのころ未樹はずっと打っていた携帯をぱたりとしめ、ピンクのレースのついた雨傘を開きだして、近くのコンビニへ行ってしまった。
勝手に決めたのはあんたらじゃんよ。
心の中は不満があったが、口に出して言う勇気がない。
私だって好きに紗希たちと一緒にいるわけじゃないのにっ・・・
「紗希、例の奴ちくったの直じゃない?だってあの子私らのこと知らないのにおかしいわ。それに最近あなた調子に乗っているんじゃない?さっきだって私たちにうるさいっていったのよ」
亜季が言葉を発した後、紗希は私の胸倉をつかんだ。
「私ら仕方なく仲良くしてやってんのに、何様のつもりだよ」
な、何のこと?
私は何も知らないまま、地面に叩きつけられた。
いくら何を言っても、彼女たちの怒りが治まる様子はなく、言い訳にしか聞こえないと一点張り。
「ったく、こいつには仕方なく付き合ってたけど、今日という今日はうんざりだ」
「雑用係りにでもすればいいじゃないかしら?」
「いい加減、早く帰りましょうよ~。雨強くなってきてますよ」
遠くからコンビニ袋を持った未樹が叫んだ。
私は右手に腫れた頬に泥だらけの服の中、ただ雨に打たれていた。
家に帰ると勿論、水兄にどうしたのか追及された。
だが、私は何も言わないまま部屋にこもった。
この日は学校を休んだ。
その翌日、学校へ行くと紗希たちから呼び出された。
彼女たちはこう言った。
――――お金貸してくれるなら、この間のこと許してやるよと。
テストが終了したのか、あの肩の重さはすっかりなくなり、気持ちのいい朝を迎えて学校へ向かった。
学校の門では副校長先生が厳しい顔しながら、仁王立ちで立っている。登校時の生徒たちは彼を見るたび、目線を逸らしたり、会話しながら話している女生徒は急に黙りだした。
その威圧感は恐怖を感じさせていた。
「おい、君たち」
話しかけられる生徒の中には聞こえないふりをして、そのまま通り過ぎて行く人もいる。
「キミ、一年生かね?」
そして次に一人で登校していた私が声をかけられた。
「は、はい」
「彼を見たら、即私に教えてくれないか」
写真を取り出して、私に見せた。そこに写しだされていたのは私もよく知る人物。甘党好きなあの失礼男。『この人知りません』と言って私は、気の緩んだ雰囲気で溢れていた教室へ向かった。
だが、私の想像とは違いどこか教室内はざわめいていた。
「な、何かあったの?」
クラス内の女子に話しを聞いた。
「昨日の放課後、この三階から飛び降りて手足骨折したんだって」
「テスト後だし、自殺でもしようとしたんじゃない?」
「うわっ、ありえる!自殺するならこんなところでしないでほしいよね」
皆他人事のように笑いながら話している。
「それって誰なの?」
私は相手を知った時、授業が終わると同時にすぐに花屋さんへ駆けつけた。
ツンとした匂いはどうもなれない。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
病室前に来ると、中から複数の男性たちの声が聞こえてきた。
「ほんっとお前とろいよな。心配したんだぞ」
「何やってんだよ。中間テスト終わって気が抜けてたんじゃねぇの」
それから気の強そうな小太りの40代の看護師さんが彼らの背中をバシっと叩いた。『騒がしいものはすぐさま病院から出ていきなさい!』と注意している。
なんかすごく楽しそう。
元気そうなのに何故か嬉しくない。
居心地が悪くなり、気分が重くなった。
どこかで彼は私と重なる部分を持っているような気がしていた。でも彼の笑った顔を見た瞬間、はっきりと何かが違っていた。
「入らないの?」
昼休みに一緒に火男くんのお見舞いいかないか布野くんを誘っていた。
「用事思い出したから帰るね。これ渡しておいて」
私は花束をあずけて、顔を合わせないまま帰った。
次の日の日曜日。
紗希たちに誘われ駅前のお店で買い物をしていた。どうしようかと悩んでいたけど、断れずに結局行く羽目になったしまった。
雲行き怪しかったが、傘を持って行かずに街へ出かけた。
「ねぇねぇ、これどーよ?似合う?」
「そうね・・・、こっちの赤色の方が似合うわよ」
彼女らの声のトーンが大きさに店員さんは困り果てていた。新人らしく、小さめな気弱な声で注意をするが、耳までには届かない。あげくのはてに試着室まで占領している。
私は今すぐにでもこの場から消え去りたかった。用事ができたといって言い訳して帰ることも考えたが、なかなか自分の本音を言うことができない。
散々迷惑をかけて結局何も買わないままデパートを出た。
「あの服、モノはいいけど高いんだよな。まけてくれって言っても、あの店員声ちっせいから何言ってんのかわからないしさ」
愚痴をこぼしながら、次に"かげろう"に行くことなった。若い子たちの間で意外にも流行っている古着屋。安くて、かわいいものもあり、特に品ぞろえがいいと評判な店である。
時刻は五時を回り、辺りも暗くなり始める時間帯。
だが、彼女たちのテンションは今朝と変わらず、さらに電車内でも周りに迷惑をかけていた。電車内は休日ということもありまばらであったが、決して一人もいないということはない。
「例のあいつ骨折して怪我したんだってよ」
「ま、自業自得ってところね」
「自分から飛び込みましたからね」
声が大きくなるにつれて、周りの冷たい視線が。彼女たちの横に座るおばあさんが、迷惑そうな顔をしてこちらを見ていた。
「あ、あのさっ、ここ公共の場なんだし、声のボリューム落とさない?」
さすがの私も勇気を振り絞って指摘した。
隣に座る亜季は『何よ、うるさいわね』と何を偉そうにと睨んできた。
私は何も言えなまま口をつぐんでしまった。自分が悪くないと思っていても、ふと相手を目の前にするとどうしても弱くなってしまう。
電車に揺られること三十分。
目的地に到着するとシャッターは閉まり表には「店内改装の為、お休みさせていただきます。リニューアルは六月上旬」と貼り出されていた。
「ここまできてこれかよっ!」
「残念ですね・・・」
や、やばいっ、何か何か言わなきゃ。
「また今度こようよ。六月なんてすぐだしさ」
と言って、場の雰囲気を壊さないようにフォローしたが、運悪く雨が降り出してきた。
なんていうタイミングの悪さ・・・。
「直この始末どうしてくれるの?」
亜季が放った言葉に、私は驚いた。
えっ?!し、始末・・・?
「そうそう、直がここに来たいって言うから付いてきたのによ」
いつの間にか悪者扱いにされ、二人組はニヤニヤしながら笑っている。そのころ未樹はずっと打っていた携帯をぱたりとしめ、ピンクのレースのついた雨傘を開きだして、近くのコンビニへ行ってしまった。
勝手に決めたのはあんたらじゃんよ。
心の中は不満があったが、口に出して言う勇気がない。
私だって好きに紗希たちと一緒にいるわけじゃないのにっ・・・
「紗希、例の奴ちくったの直じゃない?だってあの子私らのこと知らないのにおかしいわ。それに最近あなた調子に乗っているんじゃない?さっきだって私たちにうるさいっていったのよ」
亜季が言葉を発した後、紗希は私の胸倉をつかんだ。
「私ら仕方なく仲良くしてやってんのに、何様のつもりだよ」
な、何のこと?
私は何も知らないまま、地面に叩きつけられた。
いくら何を言っても、彼女たちの怒りが治まる様子はなく、言い訳にしか聞こえないと一点張り。
「ったく、こいつには仕方なく付き合ってたけど、今日という今日はうんざりだ」
「雑用係りにでもすればいいじゃないかしら?」
「いい加減、早く帰りましょうよ~。雨強くなってきてますよ」
遠くからコンビニ袋を持った未樹が叫んだ。
私は右手に腫れた頬に泥だらけの服の中、ただ雨に打たれていた。
家に帰ると勿論、水兄にどうしたのか追及された。
だが、私は何も言わないまま部屋にこもった。
この日は学校を休んだ。
その翌日、学校へ行くと紗希たちから呼び出された。
彼女たちはこう言った。
――――お金貸してくれるなら、この間のこと許してやるよと。
第一章 7[アルバイト失格?×現実逃避]
私は知らなかった。
数年生きてきた中で、今日は最悪な年だと。
真面目に生きている人は損をするんだろう。
意地悪な、要領のいい人ばかりが得をする世界なのだろうか。
ギシギシとなる音。
床の木は光沢がなくなり、壁は黄ばみ、窓は割られている。
古びた校舎は五十年ほどの年月を経っていた。
現在では格納庫として使われている。
光が射さない、人気のなさはどこか不気味さを醸し出していた。
以前に、上級生の間で幽霊をみたと小耳に挟んだことがある。ここではだいぶ昔、屋上から自殺した人がいるらしい。その幽霊が今でも彷徨っているのではないかと取り沙汰されていた。
まさか、幽霊なんているはずがない。
幽霊を見たことがないし、そもそも心霊現象などという非科学的なものは信じない。
私はそこへ彼女たちに無理やり連れられてきた。手と椅子はロープで縛られ、固定されている。逃げ出そうとも思っても、できない。
「お金貸してくんない?貸してくれたらあの件、チャラにしてやるよ」
彼女たちの要求は仲間に入れて欲しければお金を出せと交換条件であった。換言すれば、お金を渡さなければ、仲間に入れてやらないということである。
ここで現金を渡せば相手の罠にかかるし、彼女たちがお金を返すとは到底思えない。
「お金は貸せない・・・よ」
と私ははっきりと断った。
私の拒否する態度に紗希は恐怖をあおる発言をした。
「ちぇっ、自殺に見せかけてこいつ殺すか」
「それ犯罪よ」
「そのやり方は賢くないですよ~。今は指紋鑑定でバレちゃいますよ」
こ、殺す?!!
私が一体何をしたって言うの?
し・・・死にたくない・・・
「紗希、あと先考えずに行動するの改めた方がいいわよ」
「もっと頭を使わなきゃですよ」
未樹は頭を指しながら言った。
「あんたらと違って頭を使うのは嫌いなんだよ。何でこいつのために頭使わなきゃならないんだよ」
「そうね・・・それも一理あるわ」
「えぇ、納得しちゃうんですかっ」
何が何でも彼女たちの言うとおりしてはいけない。だが、ここから逃げる為の手段もない。私一人で、相手は三人どう考えても不利である。抵抗すれば、何をされるかわからない。
そこで私が考えた手段は―――――和解。
「ごめん。いろいろ迷惑かけてごめん・・・、ごめん」
苦い思いで言った。
この場を逃れるためには謝るしかないのだ。
本当は言いたいことが山ほどある。
何で責められなきゃいけないのか。
私が何をしたって言うの。
そんなに気に食わないなら、無視すればいいじゃん。
うざい、うざいっ
心の中は不満の塊で溢れていた。
「もうおっせぇーんだよ」
「私たちの奴隷になってくれたら許してあげてもいいけど?」
「私、もう教室戻りますね。あ、これ拾ったので渡しておきますね」
紙きれを亜季に預けて行ってしまった。
未樹が行ってしまったところでこの最悪な状況には変わりがない。
あぁ、こんなことなら武道でも習っておくべきだったかな。
「もう一発殴っておくか。気が治まらねぇ」
殴る態勢をして私を睨んでいる。
「その必要はないわ」
「策でもあんのかよ」
紙きれを見た瞬間、亜季の口元が余裕の笑いを見せた。
な、なにっ・・・何なの。
数分後、財布から五千円を抜き取って去って行った。
あれさえなければ・・・
どっちにしても最悪な方向は免れなかったけど、こんな結果に終わるのは自分自身のせいだからである。あれは、私が授業中に書いた愚痴のようなもの。それを運悪く、未樹が拾い彼女らの手に渡ってしまったのだ。
もし私たちの言うことが聞けなければ、学校中にチラシとしてばら撒くと脅した。恐怖のあまり何も言えなくなり、ただ彼女たちの指示に従うことしかできなかった。
目から涙がこぼれ、嗚咽(おえつ)する声がもれる。
こんなことなら言いたいことをいって、殴られた方がマシだ。どうして私だけこんな目に遭わなきゃいけないの。神様は頑張っている人に手を差し伸べるというけど、そんなの嘘だ。
私はこんな友達がほしかったんじゃない。
一緒に笑える、本音を言えて、自然体でいられる、信頼し合える友達が欲しかっただけなのに。
病院に行った時の彼の顔を思いだした。自然体に話せている彼の姿は眩しくて。笑顔で接しられる彼の表情が、羨ましかった。私にはないものを持っているような気がしたんだ。でも、病院きて分かった。私と彼は正反対の位置にいるってことが。
その日の夜。
散らかっている部屋の中、私はパソコンの画面を凝視していた。
好物なさきいかをくわえて、お行儀悪そうにしている。更にパソコン以外の電気は消されている為、非常に目が悪くなりやすい環境。そんなことにも目もくれず、キーボードを打っている。
私なんか生きている意味ない。
ネットの世界なら楽なのに、どうしてこう現実は上手くいかないんだろう。
いっそうのことネットが本当の世界だったらいいのになぁ。
あ、誰か入室してきた。
[現実逃避さん二人目 茜さんが入室しました]
このゲームの製作者は自由すぎるくらい自由すぎる。
『また儲かっちゃいましたー、人が増えるたびに儲かるんですよね』と反感を食らうようなことを平気で言う。それでも人が絶えないのは、現実世界より居心地かいいか行くあてがないかである。
入室してきたのは、うさぎの着ぐるみのかわいらしいアバターである。
うわぁぁ、かわいいな~
『こんばんは、初めまして^^』
入室時と同時に、軽く挨拶をした。
『お初です~、茜です。よろしくね』
名前や見た目の姿からどうやら女性のよう。
いや、待って。女のふりをしている男の可能性だってある。アイテムがかわいらしくても、アバターが女であっても、ネットの世界はいくらでも偽造することはできる。
『キミ、男?』
ぴょんぴょん動きながら質問してきた。
『そうですよ~^^』
そう私のアバターは男。
ネットはいい人ばかりじゃない。出会い目的や中には変態に分類される人もいる。顔が見えない分、危険要素が多くある。だから、あえて男にしたのだ。
『てっきり女かと思った!^^←真似してみた』
『どうしてですか?^^』
『え~何となくかなぁ?』
どうせ別に深く関わるわけでもない。電源を切れば、そこで関係なんて終わり。たとえ仲良くなったとしても、長くは続かない。いつまで続く関係なんてない。
現実だってうまくいかないのに、ネットの世界なら尚更うまくいくはずがない。
こんな寂しい考え方しかできない。
私はきっと淋しいんだ・・・
人間は一人になっても、誰かを求めてしまうもの。
自分らしくいられる場所がほしい。自然体で付き合える友達がほしい。
いつの間にか部屋の中には光が射し込んでいた。
「あぁ、もう朝か」
退屈や嫌なことは時間が長く感じるのに、好きなことは時間を忘れて流れていく。
「ハム起きろー、飯だ!」
隣の部屋から聞こえてくる言葉を無視して、私は布団にもぐりこんだ。
昼間の三時に起きてから、私はバイトに出かけた。
「今日は随分と早いね~、気合い入ってるじゃないか。あとはよろしくね」
だが、バイトだけは休むわけには行かなかった。代わりに入ったので、穴を空けることができない。店長というものは表には出ず、ほとんど事務処理をしている。
パートのおばさんからは仕事をしていないと思われているのだが。
「ちょっとあんた、店長はいるかい?」
商品の陳列をしていると、六十代くらいのおばあさんが機嫌が悪そうに話しかけてきた。
私は言われた通り、彼を呼んだ。
「どうかされましたか?」
いつもの営業スマイルは絶やさず、にこやかに笑っている。
だが、客の方は険しい顔をして、持っていたお弁当を指して言った。
「この弁当、賞味期限切れてるじゃないか。私らに切れてるもん食わせるのか。これだから若いもんは使えないんだ」
「申し訳ございません。今すぐ取り変えますんで」
私も一緒に頭を下げて謝った。
バイト終了後、店長に呼ばれてた。
「長谷川さんにしては珍しく、ミスが目立つね。いくつかバーコードに引っかかってる商品もあったし、何かあったのかい?」
「申し訳ありません・・・以後、気をつけます」
昨日の今日ということもあり、調子が優れていなかった。しかし、そんなの言い訳にすぎない。完全に私自身の不注意だ。
「そういうの困るんだよね。うちはお客様を相手にしてる商売だから、無理して倒れたらこっちが迷惑するんだよね。要するにさ、足手まといになるんだよね」
えっ・・・
彼の言ったことに何も言うことができなかった。
それは本当にその通りだから。
でも今の自分にはどの言葉も悲観的にしか捉えることしかできなかった。
私の代わりなんて幾らでもいる。具合が悪ければ、他の人に交代することもできる。友達も関係が崩れてしまったら、他の代わりの人を見つけていけばいい。
私一人いなくなったらところで、何かが変わるわけでもないし、支障をきたすわけじゃない。
この日から、引きこもりをするようになった。
数年生きてきた中で、今日は最悪な年だと。
真面目に生きている人は損をするんだろう。
意地悪な、要領のいい人ばかりが得をする世界なのだろうか。
ギシギシとなる音。
床の木は光沢がなくなり、壁は黄ばみ、窓は割られている。
古びた校舎は五十年ほどの年月を経っていた。
現在では格納庫として使われている。
光が射さない、人気のなさはどこか不気味さを醸し出していた。
以前に、上級生の間で幽霊をみたと小耳に挟んだことがある。ここではだいぶ昔、屋上から自殺した人がいるらしい。その幽霊が今でも彷徨っているのではないかと取り沙汰されていた。
まさか、幽霊なんているはずがない。
幽霊を見たことがないし、そもそも心霊現象などという非科学的なものは信じない。
私はそこへ彼女たちに無理やり連れられてきた。手と椅子はロープで縛られ、固定されている。逃げ出そうとも思っても、できない。
「お金貸してくんない?貸してくれたらあの件、チャラにしてやるよ」
彼女たちの要求は仲間に入れて欲しければお金を出せと交換条件であった。換言すれば、お金を渡さなければ、仲間に入れてやらないということである。
ここで現金を渡せば相手の罠にかかるし、彼女たちがお金を返すとは到底思えない。
「お金は貸せない・・・よ」
と私ははっきりと断った。
私の拒否する態度に紗希は恐怖をあおる発言をした。
「ちぇっ、自殺に見せかけてこいつ殺すか」
「それ犯罪よ」
「そのやり方は賢くないですよ~。今は指紋鑑定でバレちゃいますよ」
こ、殺す?!!
私が一体何をしたって言うの?
し・・・死にたくない・・・
「紗希、あと先考えずに行動するの改めた方がいいわよ」
「もっと頭を使わなきゃですよ」
未樹は頭を指しながら言った。
「あんたらと違って頭を使うのは嫌いなんだよ。何でこいつのために頭使わなきゃならないんだよ」
「そうね・・・それも一理あるわ」
「えぇ、納得しちゃうんですかっ」
何が何でも彼女たちの言うとおりしてはいけない。だが、ここから逃げる為の手段もない。私一人で、相手は三人どう考えても不利である。抵抗すれば、何をされるかわからない。
そこで私が考えた手段は―――――和解。
「ごめん。いろいろ迷惑かけてごめん・・・、ごめん」
苦い思いで言った。
この場を逃れるためには謝るしかないのだ。
本当は言いたいことが山ほどある。
何で責められなきゃいけないのか。
私が何をしたって言うの。
そんなに気に食わないなら、無視すればいいじゃん。
うざい、うざいっ
心の中は不満の塊で溢れていた。
「もうおっせぇーんだよ」
「私たちの奴隷になってくれたら許してあげてもいいけど?」
「私、もう教室戻りますね。あ、これ拾ったので渡しておきますね」
紙きれを亜季に預けて行ってしまった。
未樹が行ってしまったところでこの最悪な状況には変わりがない。
あぁ、こんなことなら武道でも習っておくべきだったかな。
「もう一発殴っておくか。気が治まらねぇ」
殴る態勢をして私を睨んでいる。
「その必要はないわ」
「策でもあんのかよ」
紙きれを見た瞬間、亜季の口元が余裕の笑いを見せた。
な、なにっ・・・何なの。
数分後、財布から五千円を抜き取って去って行った。
あれさえなければ・・・
どっちにしても最悪な方向は免れなかったけど、こんな結果に終わるのは自分自身のせいだからである。あれは、私が授業中に書いた愚痴のようなもの。それを運悪く、未樹が拾い彼女らの手に渡ってしまったのだ。
もし私たちの言うことが聞けなければ、学校中にチラシとしてばら撒くと脅した。恐怖のあまり何も言えなくなり、ただ彼女たちの指示に従うことしかできなかった。
目から涙がこぼれ、嗚咽(おえつ)する声がもれる。
こんなことなら言いたいことをいって、殴られた方がマシだ。どうして私だけこんな目に遭わなきゃいけないの。神様は頑張っている人に手を差し伸べるというけど、そんなの嘘だ。
私はこんな友達がほしかったんじゃない。
一緒に笑える、本音を言えて、自然体でいられる、信頼し合える友達が欲しかっただけなのに。
病院に行った時の彼の顔を思いだした。自然体に話せている彼の姿は眩しくて。笑顔で接しられる彼の表情が、羨ましかった。私にはないものを持っているような気がしたんだ。でも、病院きて分かった。私と彼は正反対の位置にいるってことが。
その日の夜。
散らかっている部屋の中、私はパソコンの画面を凝視していた。
好物なさきいかをくわえて、お行儀悪そうにしている。更にパソコン以外の電気は消されている為、非常に目が悪くなりやすい環境。そんなことにも目もくれず、キーボードを打っている。
私なんか生きている意味ない。
ネットの世界なら楽なのに、どうしてこう現実は上手くいかないんだろう。
いっそうのことネットが本当の世界だったらいいのになぁ。
あ、誰か入室してきた。
[現実逃避さん二人目 茜さんが入室しました]
このゲームの製作者は自由すぎるくらい自由すぎる。
『また儲かっちゃいましたー、人が増えるたびに儲かるんですよね』と反感を食らうようなことを平気で言う。それでも人が絶えないのは、現実世界より居心地かいいか行くあてがないかである。
入室してきたのは、うさぎの着ぐるみのかわいらしいアバターである。
うわぁぁ、かわいいな~
『こんばんは、初めまして^^』
入室時と同時に、軽く挨拶をした。
『お初です~、茜です。よろしくね』
名前や見た目の姿からどうやら女性のよう。
いや、待って。女のふりをしている男の可能性だってある。アイテムがかわいらしくても、アバターが女であっても、ネットの世界はいくらでも偽造することはできる。
『キミ、男?』
ぴょんぴょん動きながら質問してきた。
『そうですよ~^^』
そう私のアバターは男。
ネットはいい人ばかりじゃない。出会い目的や中には変態に分類される人もいる。顔が見えない分、危険要素が多くある。だから、あえて男にしたのだ。
『てっきり女かと思った!^^←真似してみた』
『どうしてですか?^^』
『え~何となくかなぁ?』
どうせ別に深く関わるわけでもない。電源を切れば、そこで関係なんて終わり。たとえ仲良くなったとしても、長くは続かない。いつまで続く関係なんてない。
現実だってうまくいかないのに、ネットの世界なら尚更うまくいくはずがない。
こんな寂しい考え方しかできない。
私はきっと淋しいんだ・・・
人間は一人になっても、誰かを求めてしまうもの。
自分らしくいられる場所がほしい。自然体で付き合える友達がほしい。
いつの間にか部屋の中には光が射し込んでいた。
「あぁ、もう朝か」
退屈や嫌なことは時間が長く感じるのに、好きなことは時間を忘れて流れていく。
「ハム起きろー、飯だ!」
隣の部屋から聞こえてくる言葉を無視して、私は布団にもぐりこんだ。
昼間の三時に起きてから、私はバイトに出かけた。
「今日は随分と早いね~、気合い入ってるじゃないか。あとはよろしくね」
だが、バイトだけは休むわけには行かなかった。代わりに入ったので、穴を空けることができない。店長というものは表には出ず、ほとんど事務処理をしている。
パートのおばさんからは仕事をしていないと思われているのだが。
「ちょっとあんた、店長はいるかい?」
商品の陳列をしていると、六十代くらいのおばあさんが機嫌が悪そうに話しかけてきた。
私は言われた通り、彼を呼んだ。
「どうかされましたか?」
いつもの営業スマイルは絶やさず、にこやかに笑っている。
だが、客の方は険しい顔をして、持っていたお弁当を指して言った。
「この弁当、賞味期限切れてるじゃないか。私らに切れてるもん食わせるのか。これだから若いもんは使えないんだ」
「申し訳ございません。今すぐ取り変えますんで」
私も一緒に頭を下げて謝った。
バイト終了後、店長に呼ばれてた。
「長谷川さんにしては珍しく、ミスが目立つね。いくつかバーコードに引っかかってる商品もあったし、何かあったのかい?」
「申し訳ありません・・・以後、気をつけます」
昨日の今日ということもあり、調子が優れていなかった。しかし、そんなの言い訳にすぎない。完全に私自身の不注意だ。
「そういうの困るんだよね。うちはお客様を相手にしてる商売だから、無理して倒れたらこっちが迷惑するんだよね。要するにさ、足手まといになるんだよね」
えっ・・・
彼の言ったことに何も言うことができなかった。
それは本当にその通りだから。
でも今の自分にはどの言葉も悲観的にしか捉えることしかできなかった。
私の代わりなんて幾らでもいる。具合が悪ければ、他の人に交代することもできる。友達も関係が崩れてしまったら、他の代わりの人を見つけていけばいい。
私一人いなくなったらところで、何かが変わるわけでもないし、支障をきたすわけじゃない。
この日から、引きこもりをするようになった。
第一章 8[仮想世界と自殺の名所]
現代の日本は物騒な世の中である。
情報番組では幼児への虐待、通り魔、自殺、飲酒運転、暴力、いじめが頻繁に報道されている。憎悪や日常への抑圧感を制御することができず、事件の引き金となる。
その中には感情表現が不器用な人、"辛いこと"を"辛い"と言えない人、自分さえ我慢すればいいと内にこもる人もいる。
一年前に"エスケイプ"というゲームを知った。ネットと介在して接続するオンラインゲームである。ここでは仮想の自己を作ることができる。現実は男であっても、この世界では女として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。
『伝言あり』
平日の昼間。
私は例のゲームを開くとメッセージが届いていた。
ゲームの管理者かと思いきや、どうやら一昨日知り合った"うさぎの着ぐるみ"を着た子からのようだ。
『いますかー?』
『忙しいのかな?』
『インしたらメール下さい~』
『暇で暇で死んじゃいそうです』
重複したものも含めて二十件を超えるほどの伝言が送られていたのだ。
私はすぐさま「遅くなってごめん。今インしたよ~」と送ると数秒足らずにで返信が返ってきた。
『返事がないから、嫌われちゃったかと思ったよ> <』
「ああ、昨日はバイトでさ。早く寝たんだよね、ごめんごめん」
何もやる気も起きずにそのまま寝てしまったのが本当のところだけど。
それから、彼女が主婦であるということ。夫と喧嘩中で、ネットでストレス発散している。息子が反抗期で言うことを聞かないだのと、お互い愚痴を言い合った。私は学校での人間関係や、今抱えている悩みを話した。
彼女も学生時代に苛められた経験があるらしく、私たちはすぐに意気投合した。
『ほんっと世の中クソッ!(#`Д´)真面目に生きてるのが馬鹿馬鹿しく思えるよね~』
本当にそう・・・真面目に生きてる人がつらい思いをしなきゃいけないの。
子どもの頃は無邪気に信じていたことも、年を重ねるうちに人間の汚い部分が見えてくる。平気で笑いながら話す陰口。そのくせ、相手を前にすると平然と仲良しのふりをする。その中には信頼関係も、優しさなんてものはない。ただ自分に利益になるかどうかしか頭にない。
この世界は裏切られることを前提を付き合っていかないと生きていけないんだ。
私は彼女に誘われ『うさぎ好きな人集まれ☆』というサークルに誘われ加入したのだ。
変わらない食卓。
テレビに映るニュース。
いつもと同じ味の味噌汁。
炊きたてのおいしいごはん。
いたって普通の晩ご飯であるが、どうも空気が重い。
私はそれの何を意味しているのか知っていた。
「学校はどうしたんだよ。ちゃんとバイト行ってんのか」
年の離れた大学生が言った。
別に驚くべきことじゃない。いつか言われる覚悟はしていた。休みは続けば、誰でも不審がるだろう。
「学校はいかないし、当分休む。バイトは別のに変えるから」
「当分っていつまでだよ」
「分からない」
どうせ水兄に内容を話したところで、分かってもらえるはずがない。
ましてや、友達にいじめられてるなんて口が裂けても言えない。この男が同情して「じゃあ休んでいいよ」なんて言うわけがない。馬鹿にすることは性格上から推測できる。
「ごちそうさまでした」
食べ終わり、自分の部屋に行こうとする私を止めるかのように言った。
「何があったしらねぇが、世の中嫌なことの方が溢れてんだよ。俺だってそんなに言えた性質じゃねぇけど、人生はいいことばっかじゃねぇ。これから山ほどしんどいことが待ち受けてんのに、ここで逃げたらずっと逃げ続けるぞ」
その言葉に腹正しさを覚え、つい本音をぶちまけた。
「何さ、私の何が分かんの。こっちのことも知らないくせに、適当なこといわないでよ。水兄は他人事のように言えるけど、私はそんなに強くない」
と言って部屋に鍵をかけ、布団の中に閉じこもった。
逃げていることなんて分かってるよ。
そのくらい分かってるっ!
本当は学校に行って向き合わなきゃいけないのかもしれない。
逃げ続けたって変わらないことだって知ってるよ。
でも、それでも前に進めないことだってある・・・
弱くて、情けない自分が大っ嫌いだ!!
翌日の朝。
いつも通り学校へ行く支度をして、通学かばんを持って、家を出た。
二時間ほど電車に揺られ、行きついた場所は人通りの多い歓楽街。
安全なとこだと見えても、裏路地に入ればガラの悪い人ばかり。
朝っぱらから飲んだくれている人。
地面に寝そべる乞食。
女の子一人が決して足を踏み入れる場所ではない。
私は待ち合わせの場所へ。
本当にここかな。
荒廃したビル。狭い路地。誰ひとり人はいない。
「キミもサークルの人?」
金髪の頭に、深々と帽子を被った少年が話しかけてきた。
さっきまでいなかったのに・・・
見知らぬ少年に恐怖を感じた。
「そんな警戒されると、困っちゃうんだけどな。うさぎぴょんぴょんってね」
にこやかに笑いながら言った。
昨晩のこと。
『うさぎサークル』の主催者である茜さんは集まりがあるから来ないかと、誘われたのだ。
私は心底嬉しくて、すぐに答えを出した。誰かと話しが通じ合えるということが今までなかった。
彼女と出会えたことで、ほんの少し人を信じてみようかと思えた。
茜さんは女の人じゃないってこと・・・?
「あ、あのどうしてこんな場所なんですか?気味が悪いですし」
「いってなかったけ。ここは自殺の名所なんだよ。自殺志願者が集まってくるよ、よく。楽にしてあげるのが僕たちの仕事――――」
「!」
い、いたっ!
強い力で思いっきり腕を引っ張られた。
その人物は私がよく知る人であった。
情報番組では幼児への虐待、通り魔、自殺、飲酒運転、暴力、いじめが頻繁に報道されている。憎悪や日常への抑圧感を制御することができず、事件の引き金となる。
その中には感情表現が不器用な人、"辛いこと"を"辛い"と言えない人、自分さえ我慢すればいいと内にこもる人もいる。
一年前に"エスケイプ"というゲームを知った。ネットと介在して接続するオンラインゲームである。ここでは仮想の自己を作ることができる。現実は男であっても、この世界では女として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。として生きることも可能である。フィル―ド上で仲間になり、一緒に戦うことができたりするのだ。
『伝言あり』
平日の昼間。
私は例のゲームを開くとメッセージが届いていた。
ゲームの管理者かと思いきや、どうやら一昨日知り合った"うさぎの着ぐるみ"を着た子からのようだ。
『いますかー?』
『忙しいのかな?』
『インしたらメール下さい~』
『暇で暇で死んじゃいそうです』
重複したものも含めて二十件を超えるほどの伝言が送られていたのだ。
私はすぐさま「遅くなってごめん。今インしたよ~」と送ると数秒足らずにで返信が返ってきた。
『返事がないから、嫌われちゃったかと思ったよ> <』
「ああ、昨日はバイトでさ。早く寝たんだよね、ごめんごめん」
何もやる気も起きずにそのまま寝てしまったのが本当のところだけど。
それから、彼女が主婦であるということ。夫と喧嘩中で、ネットでストレス発散している。息子が反抗期で言うことを聞かないだのと、お互い愚痴を言い合った。私は学校での人間関係や、今抱えている悩みを話した。
彼女も学生時代に苛められた経験があるらしく、私たちはすぐに意気投合した。
『ほんっと世の中クソッ!(#`Д´)真面目に生きてるのが馬鹿馬鹿しく思えるよね~』
本当にそう・・・真面目に生きてる人がつらい思いをしなきゃいけないの。
子どもの頃は無邪気に信じていたことも、年を重ねるうちに人間の汚い部分が見えてくる。平気で笑いながら話す陰口。そのくせ、相手を前にすると平然と仲良しのふりをする。その中には信頼関係も、優しさなんてものはない。ただ自分に利益になるかどうかしか頭にない。
この世界は裏切られることを前提を付き合っていかないと生きていけないんだ。
私は彼女に誘われ『うさぎ好きな人集まれ☆』というサークルに誘われ加入したのだ。
変わらない食卓。
テレビに映るニュース。
いつもと同じ味の味噌汁。
炊きたてのおいしいごはん。
いたって普通の晩ご飯であるが、どうも空気が重い。
私はそれの何を意味しているのか知っていた。
「学校はどうしたんだよ。ちゃんとバイト行ってんのか」
年の離れた大学生が言った。
別に驚くべきことじゃない。いつか言われる覚悟はしていた。休みは続けば、誰でも不審がるだろう。
「学校はいかないし、当分休む。バイトは別のに変えるから」
「当分っていつまでだよ」
「分からない」
どうせ水兄に内容を話したところで、分かってもらえるはずがない。
ましてや、友達にいじめられてるなんて口が裂けても言えない。この男が同情して「じゃあ休んでいいよ」なんて言うわけがない。馬鹿にすることは性格上から推測できる。
「ごちそうさまでした」
食べ終わり、自分の部屋に行こうとする私を止めるかのように言った。
「何があったしらねぇが、世の中嫌なことの方が溢れてんだよ。俺だってそんなに言えた性質じゃねぇけど、人生はいいことばっかじゃねぇ。これから山ほどしんどいことが待ち受けてんのに、ここで逃げたらずっと逃げ続けるぞ」
その言葉に腹正しさを覚え、つい本音をぶちまけた。
「何さ、私の何が分かんの。こっちのことも知らないくせに、適当なこといわないでよ。水兄は他人事のように言えるけど、私はそんなに強くない」
と言って部屋に鍵をかけ、布団の中に閉じこもった。
逃げていることなんて分かってるよ。
そのくらい分かってるっ!
本当は学校に行って向き合わなきゃいけないのかもしれない。
逃げ続けたって変わらないことだって知ってるよ。
でも、それでも前に進めないことだってある・・・
弱くて、情けない自分が大っ嫌いだ!!
翌日の朝。
いつも通り学校へ行く支度をして、通学かばんを持って、家を出た。
二時間ほど電車に揺られ、行きついた場所は人通りの多い歓楽街。
安全なとこだと見えても、裏路地に入ればガラの悪い人ばかり。
朝っぱらから飲んだくれている人。
地面に寝そべる乞食。
女の子一人が決して足を踏み入れる場所ではない。
私は待ち合わせの場所へ。
本当にここかな。
荒廃したビル。狭い路地。誰ひとり人はいない。
「キミもサークルの人?」
金髪の頭に、深々と帽子を被った少年が話しかけてきた。
さっきまでいなかったのに・・・
見知らぬ少年に恐怖を感じた。
「そんな警戒されると、困っちゃうんだけどな。うさぎぴょんぴょんってね」
にこやかに笑いながら言った。
昨晩のこと。
『うさぎサークル』の主催者である茜さんは集まりがあるから来ないかと、誘われたのだ。
私は心底嬉しくて、すぐに答えを出した。誰かと話しが通じ合えるということが今までなかった。
彼女と出会えたことで、ほんの少し人を信じてみようかと思えた。
茜さんは女の人じゃないってこと・・・?
「あ、あのどうしてこんな場所なんですか?気味が悪いですし」
「いってなかったけ。ここは自殺の名所なんだよ。自殺志願者が集まってくるよ、よく。楽にしてあげるのが僕たちの仕事――――」
「!」
い、いたっ!
強い力で思いっきり腕を引っ張られた。
その人物は私がよく知る人であった。
奥付
心に秘めた想い~イキテレバ悩むことだってある~
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著者 : yukiyuna12
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