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第一章 10[一緒にいたい]

第一章 10[ともだち]

  勇気を出して教室の扉を開けた。
 教室内の視線が一点に向けられる。周囲と目を合わせないように視線を下に落として、席に着いた。
 ざわざわと笑い声が聞こえてくる。
「その傷どうしたのよ?」
「ずいぶん休んでたけど、何かあった?」
 中には興味本位で話しかけてくる人もいる。心配そうな素振りをしながらも、心の中では笑っているに決まっている。
 いつもは転んだんだよねって嘘をつくが、今回は何も言わずに無視をした。
 話したところで笑いの対象にしかならない。
「授業中だぞ。雑談するものは宿題倍にするからな」
 先生が注意をすると、一気に静かになった。
 
「今日はここまで。気をつけて帰れよ」 
 授業が終了すると、教科書を鞄につめて階段を下りた。
 一刻も早くこの場から離れたい。
 彼女たちと顔を合わせたくなかった。
 だが、下駄箱で履き替えようとしていると、前後から挟み撃ちされてしまった。
「本当、馬鹿よね。要領が悪いというか。ま、私には関係ないけど」
「逃げられるとでも思ってんのか」
「もう帰りましょうよ」
 未樹に限っては飽きている様子。
「いちいちつっかかってくるのやめてくれない。嫌なら関わってこなきゃいいじゃない」
 はぁ、めんどくさっ…… 
 こんな人たち、相手にするだけ時間の無駄。反抗する気持ちも薄れていた。ただもう関わりたくない。
「はぁ?!調子に乗ってんじゃねぇよ!」
 紗希はもっていた鞄を投げ捨て、私の胸倉をつかんだ。
「これは…これは…、全然怖くないね」
「怖いんじゃなくて?」
「ああ言う人に限って暴力でしか表現できないんだよ。飛鳥、もっと怖いものは世の中に溢れてるから」
 入院中のはずの火男くんは車椅子に乗っている。世間知らずのお坊ちゃんは世の中について語っている。全く説得力がない。 
「紗希後ろよ」
「あぁ?何あんたら?」 
 つかんでいた胸倉を離して彼らの方へ向いた。
「覚えてない?」
 火男くんはひょっとこのお面を取り出して、彼女たちに見せた。
「あん時の奴かっ…!」
「病んでるのは私たちの脳みそって言ってた人ですね」
「未樹、意外と人の話し聞いているのね」
 知り合いだったんだ。
 知らなかった。
 世間って案外狭いものだ。
 
「長谷川さんと話したいんだけど、いいかな?」
 私の名前を口にされた時、
 ドキっとした。
「ぶはっははは。聞いたか、亜季?こんな奴に話し相手いるわけがないでしょ」
「いようがいまいが、私には関係ないわ」 
 こういう冷血女は自分にしか興味がない。
  
 布野くんは前に来て、 
 ひらひらと三枚の紙を揺らしながら、彼女たちに見せるようにして言った。
「ここにライブチケットがあります。どのライブでもみることが可能」
 見え見えの嘘を―――こんなものに引っかかるものは―――、いた。
「これまじだぜ、まじ!!!」
 紗希は目を見張るようにしてチケットを見ている。
 その様子は興奮しているのか、目が輝いている 。
「しかも今なら無料」
「ただかよ?!」
 彼女たちはこの後、足が痺れるような場所へ踏み入れることとなる。



第一章 10[ともだち 2]

「足どうして怪我したの?」
 飛鳥は期末テスト後に教室から飛び降りたのだ。その時に足を骨折してしまったのである。骨折だけで済んだのが大いにある救いでもあった。
 火男くん曰く、足を滑らせた猫を助けようとしたところ、怪我してしまったらしい。その赤い首輪のつけた黒猫はどこかに逃げていってしまった。走れる元気があるなら、きっと大丈夫かなと火男くんは安堵していた。
「火男くんでもドジることあるんだね。ちゃんと後先考えないとよくないよ」
「もっと運動神経がよかったらいいんだけどね。まぁ、気が付く体が動いているというか…」 
 私は意外だと思った。
 運動神経抜群で、サッカーなどの部活動に入っているイメージがあった。昼休みや放課後、友だちとグランドで遊んでいるような。
「無茶しすぎるんだよ、飛鳥は。そこがいいところでもあるんだけどね」
 布野くんは車椅子に乗っている彼を押している。
  
「ずっと気になっていたんだけど、学校へ何しに来たの?」
 現在学校を離れて、信号が赤になっているのを待っている。
 彼女たちが去った後、火男くんたちは校舎内に入ることはなかった。
 一体何のためにここへきたのか気になっていた。
「ああ、それならもう用事は済んだよ。なっ、心?」
「うん」
 それから彼らと分かれて、私はバイト先へと行った。
 偶然良く店長さんがいて『もう大丈夫です。またここでバイトさせてください』と言った。すると、『新しいシフト作っておいたよ。またよろしくお願いします』と言って笑ってくれていた。
 
 その頃、飛鳥と心は―――。
「抜け出したの怒られるかな」
「俺でも行かない選択はしなかったよ。怒られたってたかが知れてるよ」
「そうだね。行かなかった方が後悔してたよ、きっと」
 その後、勝手に抜け出したことがバレてお叱りを受けることとなる。



学校を欠席して、紗希と未樹はライブ会場を捜していた。
「ったく、こんなとこにあんのかよっ…」
「結局亜季は来なかったですね~」
 本当は三人でいく予定が亜季だけ待ち合わせ場所へ来なかったのだ。
「ここ何もないですよ~」
「地図にはここだって書いてあっから、間違いないんだけどな」
 捜しまわること数十分。
 大きな建物はあってもビルやショッピングモールばかり。ライブをするだけの広い建物は見当たらない。
 イライラしてきた紗希は道を尋ねることにした。
 言っておくが、紗希は初対面の相手でも慣れ慣れしく話す。つまり、敬語を使うという礼儀をわきまえてないのだ。
「ここ捜しているんだけど知らないか?」
 声をかけたのは着物を羽織るお坊さん。空いているのか空いていないのかわからない細い目をして神社の前で立っていた。
「それなら、こちらですよ」
「えっと、私らはお寺に用はないんだけど・・・」
「さぁ、中へどうぞ。予約は承っております」
「はぁ?!予約なんてしてねぇぞ!」
「ふわぁぁ、素敵なお寺ですね~」
 いつも話しながら携帯を使う未樹は、彼女の手には携帯がない。
 そしてお坊さんの隣に並んで歩いている。
「ライブ会場捜してんだよ!なんで寺なんかに来なくちゃならないんだよ。って何で未樹は楽しそうなんだよっ!」
「いいじゃないですか、こっちの方いいですよ」
「頼武なら私の名前でございます。これでも私、バンドを組んでまして、今でも趣味で歌を歌うんです。一人で練習をしても誰も聞いてくれず、悲しくて…。思いきって頼武コンサートを始めたのです。さぁ、まずは精神統一から座禅を始めましょう」
 彼女たちの一日はお坊さんによる頼武コンサートで終わった。

 学校では―――。
「あの二人、直以上に馬鹿ね。あんな手に騙されるなんてどうかしてるわ」
 亜季はちゃんと学校へ来ていた。


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