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第一章 6[骨折×いじめ]

第一章 6[骨折×いじめ]

 次の日。
 テストが終了したのか、あの肩の重さはすっかりなくなり、気持ちのいい朝を迎えて学校へ向かった。
 
 学校の門では副校長先生が厳しい顔しながら、仁王立ちで立っている。登校時の生徒たちは彼を見るたび、目線を逸らしたり、会話しながら話している女生徒は急に黙りだした。
 その威圧感は恐怖を感じさせていた。
「おい、君たち」
 話しかけられる生徒の中には聞こえないふりをして、そのまま通り過ぎて行く人もいる。
「キミ、一年生かね?」
 そして次に一人で登校していた私が声をかけられた。
「は、はい」
「彼を見たら、即私に教えてくれないか」
 写真を取り出して、私に見せた。そこに写しだされていたのは私もよく知る人物。甘党好きなあの失礼男。『この人知りません』と言って私は、気の緩んだ雰囲気で溢れていた教室へ向かった。

 だが、私の想像とは違いどこか教室内はざわめいていた。
「な、何かあったの?」
 クラス内の女子に話しを聞いた。
「昨日の放課後、この三階から飛び降りて手足骨折したんだって」
「テスト後だし、自殺でもしようとしたんじゃない?」
「うわっ、ありえる!自殺するならこんなところでしないでほしいよね」
 皆他人事のように笑いながら話している。
「それって誰なの?」
 私は相手を知った時、授業が終わると同時にすぐに花屋さんへ駆けつけた。

 ツンとした匂いはどうもなれない。
 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
 
 病室前に来ると、中から複数の男性たちの声が聞こえてきた。
「ほんっとお前とろいよな。心配したんだぞ」
「何やってんだよ。中間テスト終わって気が抜けてたんじゃねぇの」
 それから気の強そうな小太りの40代の看護師さんが彼らの背中をバシっと叩いた。『騒がしいものはすぐさま病院から出ていきなさい!』と注意している。
 なんかすごく楽しそう。
 元気そうなのに何故か嬉しくない。
 居心地が悪くなり、気分が重くなった。
 どこかで彼は私と重なる部分を持っているような気がしていた。でも彼の笑った顔を見た瞬間、はっきりと何かが違っていた。
「入らないの?」
 昼休みに一緒に火男くんのお見舞いいかないか布野くんを誘っていた。
「用事思い出したから帰るね。これ渡しておいて」
 私は花束をあずけて、顔を合わせないまま帰った。

 次の日の日曜日。
 紗希たちに誘われ駅前のお店で買い物をしていた。どうしようかと悩んでいたけど、断れずに結局行く羽目になったしまった。
 雲行き怪しかったが、傘を持って行かずに街へ出かけた。
「ねぇねぇ、これどーよ?似合う?」
「そうね・・・、こっちの赤色の方が似合うわよ」
 彼女らの声のトーンが大きさに店員さんは困り果てていた。新人らしく、小さめな気弱な声で注意をするが、耳までには届かない。あげくのはてに試着室まで占領している。
 私は今すぐにでもこの場から消え去りたかった。用事ができたといって言い訳して帰ることも考えたが、なかなか自分の本音を言うことができない。
 散々迷惑をかけて結局何も買わないままデパートを出た。
「あの服、モノはいいけど高いんだよな。まけてくれって言っても、あの店員声ちっせいから何言ってんのかわからないしさ」
 愚痴をこぼしながら、次に"かげろう"に行くことなった。若い子たちの間で意外にも流行っている古着屋。安くて、かわいいものもあり、特に品ぞろえがいいと評判な店である。
 
 時刻は五時を回り、辺りも暗くなり始める時間帯。
 だが、彼女たちのテンションは今朝と変わらず、さらに電車内でも周りに迷惑をかけていた。電車内は休日ということもありまばらであったが、決して一人もいないということはない。
「例のあいつ骨折して怪我したんだってよ」
「ま、自業自得ってところね」
「自分から飛び込みましたからね」
 声が大きくなるにつれて、周りの冷たい視線が。彼女たちの横に座るおばあさんが、迷惑そうな顔をしてこちらを見ていた。
「あ、あのさっ、ここ公共の場なんだし、声のボリューム落とさない?」
 さすがの私も勇気を振り絞って指摘した。
 隣に座る亜季は『何よ、うるさいわね』と何を偉そうにと睨んできた。
 私は何も言えなまま口をつぐんでしまった。自分が悪くないと思っていても、ふと相手を目の前にするとどうしても弱くなってしまう。

 電車に揺られること三十分。
 目的地に到着するとシャッターは閉まり表には「店内改装の為、お休みさせていただきます。リニューアルは六月上旬」と貼り出されていた。
「ここまできてこれかよっ!」 
「残念ですね・・・」
 や、やばいっ、何か何か言わなきゃ。
「また今度こようよ。六月なんてすぐだしさ」 
 と言って、場の雰囲気を壊さないようにフォローしたが、運悪く雨が降り出してきた。
 なんていうタイミングの悪さ・・・。

「直この始末どうしてくれるの?」
 亜季が放った言葉に、私は驚いた。
 えっ?!し、始末・・・?
「そうそう、直がここに来たいって言うから付いてきたのによ」
 いつの間にか悪者扱いにされ、二人組はニヤニヤしながら笑っている。そのころ未樹はずっと打っていた携帯をぱたりとしめ、ピンクのレースのついた雨傘を開きだして、近くのコンビニへ行ってしまった。
 勝手に決めたのはあんたらじゃんよ。
 心の中は不満があったが、口に出して言う勇気がない。
 私だって好きに紗希たちと一緒にいるわけじゃないのにっ・・・
「紗希、例の奴ちくったの直じゃない?だってあの子私らのこと知らないのにおかしいわ。それに最近あなた調子に乗っているんじゃない?さっきだって私たちにうるさいっていったのよ」
 亜季が言葉を発した後、紗希は私の胸倉をつかんだ。
「私ら仕方なく仲良くしてやってんのに、何様のつもりだよ」
 な、何のこと?
 私は何も知らないまま、地面に叩きつけられた。 
 いくら何を言っても、彼女たちの怒りが治まる様子はなく、言い訳にしか聞こえないと一点張り。
「ったく、こいつには仕方なく付き合ってたけど、今日という今日はうんざりだ」
「雑用係りにでもすればいいじゃないかしら?」
「いい加減、早く帰りましょうよ~。雨強くなってきてますよ」
 遠くからコンビニ袋を持った未樹が叫んだ。
 
 私は右手に腫れた頬に泥だらけの服の中、ただ雨に打たれていた。


 家に帰ると勿論、水兄にどうしたのか追及された。
 だが、私は何も言わないまま部屋にこもった。
 
 この日は学校を休んだ。

 その翌日、学校へ行くと紗希たちから呼び出された。
 彼女たちはこう言った。
 ――――お金貸してくれるなら、この間のこと許してやるよと。