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第一章 5[二階から飛び降りる少年]

第一章 5[二階から飛び降りる少年]

 入学して一か月も経たないうちに、ついに明日からはもう中間テストが始まる。
 高校一年生の私は教室内のざわめきと闘っていた。教科書やノートを見ても、周りの雑音のせいで全く頭に入ってこない。
 あ~もうっ、うるさいなっ・・・・・・
 進学校なのに、一日前から準備するってどういうことなんだか。
「やばいよ、私全然やってないよ」 
「私もだよ」
 そういう人に限って陰で勉強しているもの。
 だが、中には本当に何もやっていない人がいる。そういう人たちはたいてい、諦めているか元からやる気がない人ばかり。こんなところじゃ、身に入らないし、時間の無駄。
 静かで誰にも邪魔されずに勉強できる場所へ行った。
 どうせ今は自習時間だし、一人くらい抜けたって先生たちは気付いたりはしない。
(・・・はぁ、戻るか)
 図書室には同じように勉強するものがいた。席は満席でどこも空いていない。

 テスト初日は皆真剣に勉強に取り組む。
 二日目、一日目で力を出し切ったせいか、疲れ果てている。
 三日目、テスト中にも関わらず空席が・・・
 
 テスト終了の放課後、職員室にいる担任の先生を尋ねにいくと、
『国公立の倍率を知りたい?テスト終わったばかりじゃないか。長谷川、高校始まったばかりなんだから気を抜いてもいいんじゃないか?学校は勉強ばかりじゃないぞ』
 と言われ、返されてしまった。
 私が勉強に力を入れているのは、私の家が貧乏だからであった。
 母親と父親は私がまだ小さい頃、事故で亡くしている。祖母の家に引き取られると、小学生くらいの男の子がいた。私と祖母と男の子の三人で住むことになった。だが私が小学生くらいの頃、祖母は急に体を壊し、寝たきり状態になってしまった。そして中学生の上がる前に祖母は他界してしまった。
 そして、今では年の離れた兄の水城と私の二人で今の家に住んでいるというわけである。
 
 直の友達である三人組は喋くっていた。
「終わった後の開放感って半端ないな!」
 一番右に座り、足を組みながら、喋っているのは紗希。彼女は気が強く、機嫌が悪くなるとすぐに手を出す性格である。
「駅前のできたパフェ食べに行きませんか?」
 友達にも敬語を使い、携帯とにらめっこしているのが未樹。器用にも二つのこと同時にできる特技を持っている。常に携帯を手に持って、メールを打ち続けている。
「私はパス。今日ピアノのレッスンがあるの」
 窓に寄りかかり、赤いふちの眼鏡をかけているのが亜季。二人とは違っておしとやかそうにみえるが、一番計算高い人物である。
 
 一番最初に直の話題を出したのは紗希。
「直ってうざくね?付き合いやすいって言えば付き合いやすいんだけど、なんか」
「私はあの子嫌いだわ。誰でも愛想ふりまいてるじゃない」
「やっぱそう思う?私もそう思ってたんだよね!」
 亜季の言葉に紗希は共感して、喜んだ。
「彼女の斜め横の席ですけど、いつも授業中何か書いてるの見かけますよ。あれはノートを取っているような感じじゃないですね。勘ですけど」
「どうでもいい情報ね」
「なんか、面白そうだから探ってみないか?もしかしたら呪いのノートかもしれないしさ」
 面白そうに笑う紗希を、亜季は引いた目で見る。
「人の悪口を言うなんて無神経なんじゃないかな」
 下品な笑い声がする中、ドアの入り口でひょっとこのお面を被った少年がいた。
 会話をしていた二人は言葉を失った。未樹だけはずっと携帯の画面を見て、イヤホンから音楽を聴いていた。
「そうそう、紗希さんの家の近所のお兄さんが彼女連れて歩いてたよ。残念だよねー中学生からずっと片想いだったのにね」
「はぁ?!てめ、喧嘩売ってんのか!」
『人の心が読める超人だから』と言って、少年は二階から外へ飛び降りたのだった。