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第一章 4[甘党一人 勉強二人]

第一章 4[甘党一人 勉強二人]

 ボランティア清掃も終わり、落ち着いたと思えた頃のことであった。
 私の通う高校は無駄に行事が多く、もう第一回目の定期テストが始める。
 ここは進学校で一番に勉強に力を入れている。遅刻は許されなければ、授業中の勉強以外の会話や携帯の使用は固く禁じられている。
 服装や髪の毛の色に関しては自由。ピアスや茶髪、スカートの丈を短くしようが、勉学さえしっかりしていればいい。この学校にとって勉強が大事なのである。
 そして、定期テストで一つでも赤点を取ったものは、強制的に夏休みは朝から晩までみっちり補習を受けなければならなくなる。

 私はついこの前知り合った火男くんと喫茶店に来ていた。
『今日の放課後空いてるかな?定期テストも近いことだし勉強していかない?』
『うん、いいよ』
 といったぐあいに誘われたのだ。
 
 そして今私は目の前にいる布野心という少年を紹介されている。
「え~っと、彼は布野心。俺も最近知り合ったばかりだから分からないけど、個性的な人かな」
 私は彼を見たことがある。
 あの時、火男くんの隣で会話をしていた男子生徒である。そう、髪は茶髪で肩につくか、つかないくらいで、髪を後ろで縛りまとめている。小柄であんまり背が高くない。火男くんと会話をしていた時、それが最初に目が付いたのを覚えている。
「火男くんとはほんとついこの前知り合ったばかりで、長谷川直なんですがっ・・・」 
 ちょっとっ!
 話しかけているのに、布野くんは全く聞く耳を持っていない。普通サイズよりも量の多いストロベリーパフェを顔色一つ変えずに、口に入れている。
「遅刻ばっかりして、古賀先生に毎回怒られている人聞いたことない?俺は小耳に挟んでいたんだけどね」
 入学してまだ一か月も満たないうちに、有名人になっているとは。毎回のように注目を浴びるようなことをしていれば、嫌でも目立つ。だが、私は知らなかった。
 それよりも古賀先生を相手に平然にいられるとは只者ではない。中学の時からいろんな意味ですごい先生がいると聞いたことがあったのだ。
「ケーキ一つ」
 パフェを食べ終わった後、次はモンブランケーキを頼んだ。
 えええっ、ま、まだ食べるの?!!
「甘いもの好きなんですか…?」
「生きていけない。もしなかったら、俺はここに生きてない」
 私はこの言葉でようやく火男くんの言う個性的というものを理解した。そして、火男くんが優しいということも。
 変、変な人、変わってる、変人に尽きる。

「遅刻してて、勉強とかどうしているんですか?」
 授業の内容だって分からなくなってしまうし、毎回誰かのノートを写させてもらわなければならなくなる。
「授業なんてまともに聞いたことがない。つまんないし」
 はい・・・?
「テストとかどうするんですか?」 
「興味のあることはする、興味のないことはしない。それだけ」
 何この人・・・。
 世間知らずのお坊ちゃんですか。
「・・・、社会はそんなに甘くないと思うんですけど」
「社会って一体誰が決めたの。それって世間の人たちが都合よく作ったものじゃないの。それに長谷川さんは社会に出たことがないのに、どうして甘くないとか分かるの」
 なんて生意気のガキなのっ
 今日は初対面ということもあって、気持ちを抑えた。

「こんなとこで、何やってんだ」
 水兄は注文の品をテーブルの上に置いた。
 ここで働いていたことを忘れていた私は
「人違いです」
 と言ってタオルで顔を隠した。
 何も触れずに『真面目に勉強しろよ学生』とだけ言って仕事場に戻って行った。
(自分だって学生じゃんか)
 それから甘党はスペシャルデーとショートケーキの計四つを平らげた。
 よくそんなに食べて太らないのが不思議で仕方ない。
 彼の第一印象は―――――――変。

 変わり者の人とは別れて、私と火男くんは暗い夜道を歩きながら布野くんについて教えてもらった。
 
 外見とクールな印象から女子に人気が高く、よく声をかけられるらしい。しかし内面と関わった後の彼女たちは『一緒にいてもつまらない』『想像と違った』『あんな性格じゃなければな~』というガッカリした意見が多いらしい。
 私は見た感じと態度や食生活から、一つもいい印象は見当たらない。
 
「あんまり言葉に出さないし、何考えているのか分かんないけど。直感だけど、結構いい人だと思うよ」
 と火男くんは言っていた。
 
 気が付くと、私は自分の家の近くに来ていた。
 話していると時間が経つのが早いように感じる。
「じゃあ、私この辺だからまた」
「気をつけてね」
 と言って、自転車に乗り通った道の方へ走って行った。