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第一章 3[ボランティア清掃]

第一章 3[ボランティア清掃]

 四月の初めに、毎年学校の恒例で一年生は「ボランティア清掃」がある。
 今年は日曜日を使って、丸一日がかりで掃除することになっているのだ。
 毎年、場所は変わるが今年は山の上にあり、到着地に辿り着くまでに2時間かかる。
「話しは聞いていると思うけど、毎年行っているボランティア清掃が今週にあるから。無断欠席、遅刻はしないように。じゃあ、授業始まるよ」
 風邪や病気ではない限り、休むことは許されないのだ。
 掃除の話しが出ると生徒たちは苦そうな顔をして、周りとひそひそ話をし始める。 
 その中の一人、私もボランティア清掃には心苦しい思いであった。部屋の片づけでさえ苦手で、足の踏み場がないほど散らかっている。とても他人を上がらせることはできない。
 教科書類や辞書類の置き勉というものは一切しない。その日に持ち帰り、必要があれば学校へもってきている。
 うぅ、掃除かぁ・・・学校行事だからどうすることもできない。

 私は心の中で、いっそう雨でも降って中止になることを祈っていた。
 
 
 帰宅。
「今週の日曜日、ボランティア清掃あるから」
 夕食を作っている水兄にそのことを伝えた。
「一番に似合わない言葉だな。まともに部屋も片付けられないくせに、ボランティアなんて務まるのかよ。ま、せいぜい足手まといにならないこったな」
 完全な嫌味に私は闘争心が芽生えた。
 ムッカつく!ムッカつく!
 いつも偉そうで優しさ欠片もない。無理しないようにとか声掛けられないわけ。

 よっしゃっ!待ってろよ。絶対きれいにさせるんだから。
 汚れてもいい服に着替え、ゴミ袋を用意し、腕をまくって作業にとりかかった。
 まずは食べかすや落ちているゴミを片付け、その辺に脱ぎっぱなししている服をハンガーにかけた。そして、洗濯する服としない服を分けた。
 こ、これはっ・・・とりあえず、廊下に置いておこう。
 数か月経ったペットボトルの中身は茶色に変色していた。
 
 三十分経過。
 床が見え、さらに足の踏み場が出てきた。
「私やればできるじゃないかっ!実はやればできる子なんだな。水兄今に見とれ!ぎゃふんと言わせてやる」
 自分自身に感心しながら、次に雑誌や教科書、漫画、資料の整理にとりかかった。
 
   
 二階部屋からはドンドンと怪獣のような足音がしてくる。
 ここは二階建てのアパートなので、他の部屋にも住民が住んでる。しかも夜遅くに掃除をするのは近所迷惑だ。
 俺は静かにするように注意しに行った。
「おい、掃除すんならもう少し静かにやれよ・・・何だこれは」
 ドアを開けてハムに呼びかけると、モノがたくさん散乱していた。
 廊下にはゴミ袋五袋と山積みの洗濯もの、不気味なペットボトル、段ボールが置かれている。確かにゴミはあるはずなのに、部屋の中は全く綺麗になっていない。
「全然片付いて――――」
 押入れの方へ目を向けると何故この状況になったのかすぐ理解できた。
 ハムは俺がいることに気付かず、黙々と何かを書き続けている。
 ペンのキュッキュッした音がどうも心地悪い。
 ハムが書いたものを拾うと、そこにはティッシュの上にビニールが被られた「てるてる坊主」があった。笑い顔、怒り顔、悲しみ顔とさまざまな種類のてるてる坊主があった。
「おい、何やってるんだ」
 俺はハムの持っている、てるてる坊主を取り上げた。
「見ろ見ろっ!おばさんが私に初めて買ってくれた本なんだ。懐かしいなぁ~」
 嬉しそうに言った。 
 その本は『天気のおじまない』という題名である。靴を投げて、表だと晴れ、裏だと雨、という子ども向けの絵本である。その中にてるてる坊主のことも書いてあり、それを見て作ったに違いない。
 てるてる坊主を何故作ったのかも、何となく見当がつく。
「まず張り切って掃除を始め、事は順調に進んだように見えたが落とし穴があった。本を片付けているうちに、それに目が行って漫画を読んでしまう。話しの続きを読もうと思ったけど、いくら捜しても見つからない。そして、押入れに手をだした。ちょうどその本を見つけて、雨が降る方法を思いつく。それで今てるてる坊主を書いているということだ。俺の推理は間違っているか?」
「すっげーな!ホームズみたいだな」
 今の状況を見て、分からない方がどうかしている。
 まぁ、今日は大目に見てやるか。
 俺は休憩の為に用意してあったケーキと紅茶を、ハムに食べるように言った。勿論、押入れに入っているものを片付けてから。



 そして当日は、雲一つない快晴で、てるてる坊主の効果は無念にも空しく終わった。
 今日は特別暑く、風もない最悪な天気。こんなに遠いなんて本当に・・・暑い上に片道二時間ほどかかるというダブルが重なっている。目的地に到着するまでに体力が奪われてしまう。
 こんなことから風邪を引いたほうが良かった。
 

 班ごとに分かれて清掃活動を行った。
 同じ班の女子たちは茂みに隠れて怠けていた。
「もう、嫌だ。くそ暑いし、疲れるし。ああもうっ、喉渇いた~」 
「休まなきゃやってらんないよ。この辺隠れてれば、ばれないから大丈夫っしょ」
「こっそり水持ってきたんだけど、飲む?」
 私たちの班は他と違って、サボっていても気付かれない少し離れたところになる。先生たちの目も行きとどかないのか、一度も来ない。
 
 運び係りは男子が行い、私の班は男子がいないので代わりに私が運ぶ係りをすることになった。草などの雑草取りなら軽いけど、雑誌や本棚、自転車、テレビ、椅子、机などの重たいものが多い。家庭内のゴミが、この山に捨てられていくのだ。つまり何者かが捨てなければ、大変な思いをして掃除をすることはない。
 ったく、何で私たちが片付けなきゃいけないの。捨てたもんは自分で片付けろってんだ。
「直、こっちもお願いね」

 はぁ、重たいな・・・
 今までの中で一番重い、大きめのテレビ運んでいた。目の前の視界がテレビに遮られ、足元がよく見えない。石や障害物につまづかないように、慎重に歩いた。
 あ、あれ・・・?
 当然荷物が軽くなったのだ。
「重たいでしょ。こっち持って」 
 何も言う隙間がないまま、私の手には軽い袋が握られていた。
「その代わり、こっちの袋お願いね」
 黒髪の耳のくらいまである眼鏡をかけた少年は去って行った。
 一体、あの人誰だったんだろう?
 お礼を言う前に彼は行ってしまった。

 ある班ではもう終わり、片付けの準備や帰る支度をしている人たちがいた。
 私たちの班はまだ運び終えていないものが多くある。女子たちがサボっているのも要因だが、もう一つはここには男子がいないということに問題がある。各班に男女に組み合わさっているのに。

「別の班もう終わったってまじ?」 
「じゃあ、私らも終わり終わり。さっさと行こっ」
 まだ清掃が終わっていないのにも関わらず、帰って行った。
「まだ残っているのに・・・よし!」
 数分をほど座りこんで休んだ後、自分に喝を入れた。
 
 うわぁぁぁ、あ、あぶないっ・・・
 小型の長方形の本棚を運んでいる最中転びそうになった。
 本当持ちにくいなぁ。 
 学生がやるようなゴミ拾いじゃない。ペットボトルや紙くず、空き缶などの小物のゴミに加えて大きなゴミがある。
 弱音なんて吐いていられない。とにかく今はやるしか為す術はない。

「無断欠席と遅刻は罰があるんじゃなかったっけ?」
「明日居残りで清掃」
「遅刻して古賀先生に怒られたりしない?」
「一日一回は怒られているけど、先生の話すの好きだったりする。為になること多いから」
 さっき会った眼鏡をかけた少年が男子生徒と話しているのを見かけた。
 お礼言わなきゃっ・・・。でも、どうも知らない人に声をかけるのはどうも勇気がいる。
 少年は私ががおどおどしていることに気付き、こっちに近づいてきた。
「さ、さっきはありがとうございます」 
 私はお辞儀をして言った。
「何のこと?」
 不思議そうな顔した。
「テレビ運んで頂いたことです。では、失礼します」
 再度お辞儀をして、走って自分の持ち場に戻った。

「手伝うよ。一人よりも数人の方が楽しいし、体力も二つに半減するから」
 先ほどの少年が声をかけてきた。
 私は一人友達がいないかわいそうな人、同情されているような気持ちになってきつい言葉を言った。
「これくらい一人で出来ますから。はっきり言って迷惑です」 
 
 だが、少年は私の言葉に眼中がないのか、聞いていないのか黙々と作業をこなしている。
「ねえ、この袋もう持ってていい?」
「だっから、手伝わなくて結構です。私一人できますからっ!」
 彼の持っている袋を取り上げて言った。
 
「う~ん・・・じゃあ、さっきの借りでどう?だから俺にも手伝わせてよ」
 つまりさっき私のゴミ袋を勝手にすり替えたから、それでお相子にしてほしいと言うのだ。私は助けて貰った側なのに・・・全然お相子じゃないし。
 心の中でそう思っていたが、あえて口には出さなかった。相手の好意は素直に受け取るべきだと思ったから。
「手伝ってくれてありがとう」
 その後『片付けるの下手、見ていられなかったんだよね』と毒舌を吐かれた。
 悪意はないんだろうけど、初対面に対して失礼すぎる。
 
 彼の名は――――――火男飛鳥といった。