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第一章 2[遅刻常習犯]

第一章 2[遅刻常習犯]

 高校に入学して早々、学校に来ては毎朝を怒られている。
 
「いつもいつも君は何度言ったら分かるんじゃっ!毎回遅刻遅刻をして学習能力というものはないのかね」
 七十歳を超える長老は男子生徒に向かって、声を荒立てて吠えた。
 学校から要望されてきた副校長で、学校の中でも偉い地位に属している。髪の毛はみごとなほど寂しく、毛のほとんどは眉毛と髭に持っていかれている。
「大声出すと心臓に悪いですし、血圧上がりますよ。体は大切にしてください」
「誰のせいだとおもっとるんじゃ。わしだって怒りたくて怒ってるわけじゃないわ」
「ですが、前より早く着くようになりましたよ」
「そうかそうか。少しは進歩しとるようじゃな。感心感心。じゃないわっ!時計は何時を指さしとると思っているじゃ」
 今の時計の時刻は十一時四十五分を指している。
 いつもは十二時をすぎてしまっていたが、最近は午前中につけるようになった。
「もう十二時だぞ、十二時!八時半までには学校にきて、席についている。だが、今の君は少し遅れるどころが十二時十二時にきとるじゃぞ」
 俺の方を指をさして言った。
「いえ、十一時半きました」
「どっちも変わらんわっ!はぁ・・・、わしはそんなに長くはないのだから、残りの人生を怒ることに費やしたくはないじゃよ」
 最初の勢いから張り合いはなくなり、次第に疲れが見え始めた。
 
 俺は最初から気になっていたことがあった。
 それは―――――。
「あの、どうして遅刻はいけないんですか?そんなに大切なことじゃないと思うんですよ。さらに言えば、勉強も別に・・・」
「君は社会に入って遅刻が許されると思っているのかね?毎回のように遅刻したら即クビじゃぞ。今ここでやっていることは明日、明後日のことじゃない。もっと遠い未来のためなんじゃ」
「遠い未来のこと・・・」
「ここまで言うのは、君自身の未来のためなんじゃ。相手を叱り、注意することは本当に体力的も精神的にも使う。もし注意されなくなったら、それで終わりと覚えておきなさい。わしの気が変わらないうちに、遅刻をする癖を直しなさい」
 
 話しが終わり、廊下へ出るとちらほら俺の方をみて噂している人がいた。聞こえないように話しているようだが、ひそひそ声の方が案外に耳に入ってくる。 
 だが、中にはなりふり構わず直接言ってくる人もいる。
「心くんが遅刻の一人なんて知らなかった~、ねぇねぇ今度一緒にどっかでかけない?」
「ちょっと抜け駆けしないでよ」
 無視をして通り過ぎようとすると、一人の子が「待ってよ」と腕をつかんできた。その後すぐに後ろから皆川がやってきた。
「あんたたち庶民が相手にされるわけがないじゃない。汚い手で心くんに触らないでくれる?あと、そこ慣れ慣れしく心くんなんて呼ばないで」
「はっ?あんただって相手にされてないじゃない」
 俺は皆川がいるという時点で素早くに逃げた。
 
 屋上に来てみると少し風が吹いていた。
 ちょうどいい気持ちよさだが、花粉症の俺にとっては少しつらい。
 皆川とは幼馴染で小さい頃は後ろについて回っていたが、そのころからいつも逃げていた。学校では出来るだけ会わないように、遅めの登校と早めの下校をしている
 ちゃんと向き合うべきなのだろうけど、考える前に足が逃げる方へ向いている。
 寝そべりながら、流れ行く雲を眺めながら考えにふけっていた。

「いつも午後から学校にきてる人だよね」
 体を起き上がらせ、振り向くと見たことのない男子生徒がしゃがみこみながら話しかけてきた。
「誰ですか?」
「鷹野さんから布野くんのことは聞いてるよ」
 誰なのかを聞いているのに、質問と返答がかみ合っていない。
「えーっとー・・・同学年の人ですか?」 
 質問を変えて再度尋ねた。
「あっ、火男飛鳥です。毎回遅刻してるって聞いたからどんなの人なのかなって思って」
 彼は話し方や表情は穏やかで、少し天然が入っていた。

 ―――――それが俺と飛鳥の最初に出会った始まり。


 四時間目の授業の体育が始まった。
 ふぁぁ・・・ねむっ。
「また遅刻したんだってな。いい加減その癖直せよ」
 同じクラスの竹之内が話しかけてきた。
「今日は早めに家を出たんだけど、何故かお昼過ぎてるんだよね」
「一体何時に出たんだよ?」
「六時」
「早すぎるだろ・・・。空白の六時間はなにやってんだよ。ったく、今月で何回遅刻してんだよ」
 遅刻が多いと言われ先生には毎度ながら怒られている。俺自身はそんなにしてたのかって思う程度だけど。
「おい、見ろよ見ろよ」
 俺の横に座っている友達が女子の方を指をさして言った。
 男子がマット運動をやっている傍らで、女子がバレーボールをしているのだ。マット運動よりも、男子たちの視線は女子に釘つけである。
「マット運動なんてやってられるかっ」
「この変態が」
 呆れた顔で竹之内が言う。
「くっそっ、何で皆川さんがこのクラスじゃねぇんだよ・・・」
 彼はほおづえをつきながら不満を言った。
「あの人のどこがいいわけ」
「清楚で美人でおしとやかで、頭も良い・・・なのにっ、何で布野にはあのかわいさがわっかねぇんだよ」
 彼のように男子からの人気はあるようだ。彼曰く、彼女は『学園のアイドル的存在』と称している。だが、俺はここにいないことに心底、救われている。唯一、学校にいられる救いだ。彼女とは小、中学校と同じ学校で、挙句の果てに高校までも同じになってしまった。これなら、もっとランクの低い学校を受ければよかった・・・と入学して直後に後悔した。
「だったら告白して付き合えばいいじゃないですか」
「そりゃあ、俺だって付き合えるもんなら付き合いたいわっ!俺たちのような虫が相手になってくれるわけがないだろ」
「お前ら、ちゃんと授業しろよ・・・」
 
 
 
 授業を受けている中、体育館倉庫では少女一人うずくまっていた。
 
 手の震えがとまらないっ・・・
 あと少し、あと少しの辛抱。
 もう少しマシなところを見つけなきゃ。
 もっと人がいないところを見つけなきゃ。

 少女は早く夜になることを待ちながら、黒猫を抱き締めた。