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第一章 1[ハムと呼ばれる直]

第一章 1[ハムと呼ばれる直]

「いらっしゃいませ」 
 私はコンビニでアルバイトをしている。
 今日はからあげ5%割引き、激安期間限定お弁当セールの実施中とのことから、コンビニ内は混雑していた。さらにちょうどこの時間帯は学生たちの帰り道であり、今日はいつも以上に忙しい。
  
「直ちゃん、助かったよ。急にシフト変えて貰っちゃって悪いね。ここの店長、全然頼りにならないじゃない?直ちゃんの方がずっと店長にふさわしいわ。なんであんな人が店長になったのか不思議で仕方ないわね」
 店長さんが滅多にお店にくることない。何故か人が少ない時に限っていて、忙しい時にはいない。そのせいかパートのおばさんやバイトたちから評判が悪い。中にはいてもいなくても変わらないから、こない方がいいと思う人もいる。
「そ、そうですね。ではお疲れ様です」
「気をつけて帰ってね」 
「ありがとうございます」 
 
 どこへ言っても裏で文句を言う人は必ずいる。
 きっと私も他の人の周りでは悪口言われているのかな。友達の前ではいい子のふりをしてても、実際に心の中では何考えているかわからない。女子は噂話が好きで『あいつ嫌いだの』『うざいだの』聞かされることは少なくない。自分が嫌われないようにして、一人にならないように必死になっている。
 私もその一人。
 嫌われないようにいい子のふりを演じる。
 生きることは仮面を被るようなもの。
 反抗するものは省かれ、協調性のないものは追い出される。 
 だから、周りの目をうかがって生きるしかない。
 
 ふと空を眺めるといつもより大きく見える満月が輝いていた。
「うわぁぁ、きれいだな」 
 疲れている時に、綺麗ものや温かいものに触れると癒されてる。でも、少し寂しい気持ちになる。月の光が眩しすぎて―――。
 
 家に着くと水兄が帰りを待っていた。
 彼は一緒に住んでいる家族のようなものである。私が小さい頃に移り住んだのがこの家で、その時にいたのが水兄なのだ。まだその時は私小学生低学年で、水兄は中学生に入り立てだった。意地悪なお兄ちゃんだったけど、同時に優しくもあった。
「遅かったな。飯は食ったか」
「ただいま。食った食った」
 疲れ果てた私に食べる気力はない。
 答えることすら面倒なので、適当に言った。
「なんだ、食ってないのか。飯は出来てるぞ」
 嘘は一瞬にして見破られてしまう。
 
 
「箸が止まってんぞ」
 もう・・・入らん。
 お腹がいっぱいになると箸が止まる。胃の中に食べ物が入って行かず、飲み込めなくなるのだ。その姿から水兄からハムと言われている。ハムスターのように口が膨らみ、いつまでも口をもごもごとしているとのこと。
 行儀が悪いと怒られるけど、癖なんだからしょうがない。
 よっぽど煙草を吸う方が体にも悪いし、周りに迷惑だと思うけど。
 
「さっさと食い終わらんと、今日の皿洗いはハムにやってもらうからな」
 テレビに映るサッカ―試合を見ながらぼそっと呟いた。
 今日は遅くに帰ってきて疲れているというのにお皿洗いなんて冗談じゃない!
 その言葉を聞いてすぐさま、流し込むように数分足らずで食べ終えた。そして立ち上がると「食い終わった!」と手をテーブルに叩きつけて叫んだ。

「それとハムスターのように太ってない!」
 一言言って、そして私は逃げるようにしてお風呂に入った。



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