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カントー地方のハナダシティには、その名を知らぬ者はいないジムリーダー・カスミの豪邸がある。
だが、家主であるカスミは仕事で遠くの地方へ出張していた。
その不在の間屋敷にいるのは、身の回りの世話をするメイド(何故か若くて美人ばかり)と、カントー・ポケモンリーグを1・2・3フィニッシュしてその名を全国に轟かせたポケモンマスター・レッドと、グリーン、ブルーの三人。
そしてそのブルーの後輩、イエローだった。
なぜこの4人がカスミの家にいるかと言うと、ぶっちゃけた話、集まりやすいからである。
近所に簡単に集まれる広い居場所、となると旧知の仲であるカスミの家になる。
集まりやすいからしょっちゅう居座る。
どうみても寄生です。本当に(ry
仕舞いには、他の地方にいる友人がカントーに来る度にここに集まるようになった。
とうとうカスミはサジを投げ、友人なら断ることなく家に招き入れるようにとメイドに指図した。
だから、今夜も普段と何も変わらないのである。

「第1回!もう未成年者やあらへんで!!チキチキ利き酒大会〜〜!!」
「いぇ〜〜〜い!!」
テンションの高いブルーが意味不明なタイトルコールを叫び、同じく無駄にテンションが高いレッドが「合いの手」をいれた。
「わ、わ〜い……」
「……(うるせぇ)」
テンションばり下がりのまま拍手をする唯一の未成年者イエローと、二人の異様なハイテンションに冷め切っているグリーン。
イエローは一応のフォローとして申し訳ないばかりの「合いの手」を入れるが、グリーンは拍手するのみである。
「いやぁ〜、あの頃はみんな若かったわね〜」
「1○歳なのに、無茶な事してさwポケモンにボッコボコにされる漫画って俺らぐらいだよなw」
「……ガキのくせに世界救えとか、結構無茶ぶりだったよな」
ブルー、レッド、グリーンがそれぞれ若き日を振り返るが、
「あ、あの〜……あんまりメタな事は言わないほうが……」
イエローが一応なフォローを入れるが、途端に、
「キッ!」
と、三人から睨まれる。
「へうっ!?」
三人の「するどいめ」に、イエローは縮み上がった。
「アンタ…アタシらより活躍してるのに何言ってんの!?アタシら3巻しか活躍してないのに、アンタ先輩差し置いて4巻も活躍してんじゃない!」
三人の言いたいことはブルーの一言に尽きていた。
テンション低いグリーンでさえ、同世代に混じってイエローをフルボッコである。
(え、えぇ〜〜)
フルボッコにされたイエローは一人で涙目だったが、ブルーはあっさりと切り替わった。
「ま、そんな『あの時君は若かった』ぁ〜♪な話は置いといて」
ブルーが見えない箱を持ち上げて別の場所へ置いといた。
(ザ・スパイダース!?)
(今の若い子知らんぞ)
「もう今年で成人!嬉し恥ずかし、いや〜ん♪ばか〜ん♪な甘酸っぱい青春を謳歌した子供だったあの日にサヨナラ・ホームラーン!もうワタシ達は大人よー!お酒だって飲めるのよエッヘン!というわけで成人記念!飲酒初体けーん!」
「いえーい!」
「長い。クドい」
グリーンが効きの弱いツッコミを入れる横で、レッドはおもちゃのラッパをパフパフ鳴らしてケラケラ笑っていた。
(もしかして、もう酔ってる…?)
一人だけ冷静……というか、どん引きしているイエローはそう心の中で呟くしかなかった。
「とりあえず、お酒と呼べるものは買っといたわ!」
デン!と置かれる酒各種のビン・缶の山。
その横には、ポテトのスナック菓子をはじめとする、あたりめ、さきいか、柿の種等々の各種「酒の肴」と呼ばれるおつまみ乾き物。
「んじゃ、とりあえず飲んでみよっか!アタシ、日本酒ね!」
「大人になったんだから、ウイスキーだろ!」
「ビールにしとくか」
レッドはウイスキー、グリーンはビール、ブルーは日本酒のビンを、それぞれ取る。
「あ、あの……僕は……?」
「あぁ、アンタは未成年だから駄目よ。そこらへんにジュース買って置いてあるから、勝手に飲みなさい」
まだ未成年なイエローは、寂しそうにオレンジジュースを取った。
「……いいモン。どうせ子供だもん……」
体育座りをしてイジけるイエローを放った三人は、それぞれのビンの蓋を開けた。
「はーい!それじゃあ……かんぱーい!」

ー「一分後」ー

「うええええええええええええ〜〜〜〜……」
レッドとブルーは悶絶していた。
「ウイスキーって、マジでアルコールだよ!アルコール以外の何物でもねえ!ただの油だよこれ!」
「臭い〜〜!キツい〜〜〜!コレはアレよ!オヤジのアレよ!まんまアレの匂いよ!もしくはアレ!アレそのものよ!」
だが、グリーンだけは淡々と飲み続けていた。
(麦汁だ。麦汁以外の何物でもない)
「うぅ〜、気持ち悪りぃ〜。お酒って、本当にアルコールだよ……」
レッドはしげしげとボトルの裏のラベルを読んだ。
「アルコール分……37%もあんの!?」
レッドはついに頭がフラついてきた。
「日本酒って……なんでお米がこんな味になんのよ〜。腐ってんじゃないの!?」
ブルーもアルコールがすでに頭に来てフラついている。
しかし、グリーンだけは変わらなかった。
(麦汁だ。アルコールの味はするが、生温い麦汁だ)
淡々と飲み、飲み干しては注ぎ、飲み干しては注ぎを繰り返していた。
冷やしていない分、ビールは本来の美味さを損ねてはいたが、だからといってビールの入ったグラスに氷を入れるような野暮な事はしなかった。
そんな事は飲酒初経験のグリーンでもわかっていた。
成人一年生が飲酒初体験でもんどりうってるのを、イエローは苦笑いをしながらちびちびとオレンジジュースを飲む。
「おい、グリーン!なんでそんなに平気なんだよ!」
「アンタもしかして酒強い!?」
「初めて飲むんだから、強いわけないだろ。これはお前らでも平気だろ」
そう言うと、グリーンはビールの口を差し出した。
レッドとブルーはそれぞれなんとか飲み干して空いたグラスにビールを注いでもらうと、恐る恐る口にした。
「あ、そんなに悪くないわね」
「ほんとだ。軽い」
「冷えてないからそんなに美味く無いけどな」
二人の評価は概ね高めだった。
そんなに他の酒よりキツくない。
これはビールが主流になるはずだと理解した瞬間だった。
「わかった。ストレートに飲むもんじゃないのよ!何かで『割る』のよ、何かで!」
「ほう。例えば?」
「コレ!」
と、言ってブルーが差し出したのはクラブソーダ。
いわゆる炭酸水である。
ブルーはグラスに炭酸水を1/4〜1/5程入れると、ウイスキーも同量に注いだ。
「流石に少ないだろー」
「流石に少ないわよねー」
レッドの指摘にブルーは追加で入れた。
ウイスキーを。
なみなみと入れた。
「そっちかよ!」
「はい、どうぞ♪」
ステンレスのマドラーでかき混ぜて、ブルーはレッドに差し出した。
「俺かよ!っていうか、大して割ってねーよ!多いんだよ、ウイスキーがよ!」
「はい♪の〜んでのんでのんで、の〜んでのんでのんで、の〜んでのんでのんで、飲 ん で ♪」
「煽るな!」
涙目になって拒絶するレッド。
「仕方ないわねー。じゃあ、ワタシも飲むわよ」
と言ったブルーが注いだ比率は、レッドの真逆、炭酸水多め。
「ずりいいいいい!」
「これがハイボールの作り方だぞ?ウイスキー:1、ソーダ:3、4な」
「なんでお前詳しいんだよ……」
グリーンの謎の酒知識にレッドはツッコむ気がだんだん失せて来た。
主にアルコール成分のせいだ。

ー「さらに一分後」ー

「うえええええええ……大して割れてねぇ……」
「あははは♪アンタ弱いわねーw」
「お前もだろ」
レッドがよくない酔い方、いわゆるバッドトリップをしている中、ブルーはケラケラと笑いながら酔っている。
グリーンは飲み始めてからまったく態度が変わらない。
飲む前は、未知の体験を前に子供みたいにワクワクしてテンションが上がっていたレッドだったが、酔いと共にダダ下がりしていた。
酒は思ったより美味く無い。
初めて知った、「大人の苦い味」だった。
だが、酒というものはマイペースな人間に味方するという事もわかった。
レッドを煽ったブルーは気持ち良さそうに酔っているし、周りに流されず自分のペースを維持し続けてながら飲んでいるグリーンは平然そのものだった。
頭痛と平衡感覚を失ったレッドは床に這いつくばって、仰向けに倒れた。
酔っぱらうというのは、気持ち良いものだと思っていたが、案外気持ちが悪い。
自分の意識や感覚が自分のものではないような、まるで夢の中の自分のような、なぜか自分で自分を不思議なぐらい客観視しているような、そんな感覚だ。
だからそのせいか、冷たい水を入れたグラスを持って来たイエローが天使に見えた。
「だ、大丈夫ですかレッドさん!?」
慌ててレッドの傍まで水の入ったグラスを持ってくるが、レッドは身体を起こすこともできなかった。
「無理しないでください」
酩酊状態のレッドを楽にしようと、イエローは屈み込んで正座した膝の上にレッドの頭を乗せた。
無意識に。
(うわ……。柔らかくて気持ち良い……)
甘い匂いと柔らかい感触に、夢心地だった。
酒が入っている分、余計に気持ちよく感じる。
「はい、お水です。飲んで下さい……」
イエローがそっと差し出すグラスをレッドは受け取ろうとするが、意識が朦朧とし、手に力が入らず受け取ることができない。
「……飲ませて」
イエローはグラスをレッドの口に近づけ、あごに手を添えて水がこぼれないように飲ませようとした。
「……口で」
その一言は、レッド自身冗談で言ってるのか、本気で言ってるのかわからなかった。
下手したら筆者もわかって書いているのかもわからない。
「口で?……クチで……。口で!?」
レッドの言葉の意味を理解したイエローは、ショックのあまり鼻から血を勢い良く吹き出した。
「いいいいいいい良いんデスカ!?本気デスカ!?本気で僕やりますヨ!?っていうか、僕からお願いしても良いデスカ!?」
興奮し、狼狽したイエローはひとりで盛り上がっている。
レッドはもう返事をする気力もない。
意識はすっかり夢の中だ。
返事がない事を「YES」と受け取ったイエローはグラスの水を勢いよく口の中に含むと、膝の上のレッドの顔へ向いた。
その瞬間、イエローは時間が止まったと思った。
酩酊しているレッドは、顔を赤くし、汗をかいて、気だるしそうだった。
しかし、何故だろう?いや、答えはわかっているのだが、敢えて言うまい。
美しく、艶やかに見え、見ほれてしまった。
そしてうっかり口の中の水を飲み込んだ。
(しまったーー!)
ずるい。卑怯だと思った。
だが、普段とはまったく違うレッドに戸惑うのも無理は無い。
しかし、レッドはもう水はいらないみたいだった。
「う〜、熱い〜……」
意識を朦朧とさせているレッドは、熱がっているのか、シャツを脱ごうとしていた。
再びイエローが悶絶したのは言うまでもない。
「だだだ、大丈夫デスヨ、レッドさん!僕が脱がせてあげマスからね〜」
変態イエローは鼻血を出しながら、震える手でシャツを捲ろうとした。
その時、指がレッドのお腹に触れた。
イエローは頭の中で教会の鐘の音が聞こえてしまった。

「さっきからこの人、本能のまま動いてますよ?大丈夫なんですか、パルテナ様」
「えぇ。人間は本能のまま生きる生き物ですから」
「……いいのかな?」

どこぞの天界で、どこぞの女神と天使が会話をしていたような気がしていたが、別にそんな事はなかったぜ!とイエローは思うことにした。
ブルーのいい加減な遊びに最初は呆れていたが、今は感謝しよう。
こんな機会、滅多にない!
「れ、レッドさん、服が汗でベトベトですヨ!?お風呂入りましょう、お風呂!シャワー、シャワー……」
ぐったりと動かなくなったレッドを身体の小さいイエローは引きずるように浴槽へ連れ込んだ。
顔を赤く熱くし、鼻血を吹き出しながら、興奮しているイエローはレッドと一緒に洗面所に入るとバタンと扉を閉めた。

その一部始終を、ブルーはケラケラ笑いながら見ていた。
「あははははははは♪あー、もう可笑しい。イエローが真っ黒になってた。名前変えたほうがいいんじゃない?」
そう言って笑うブルーも酔いで身体に力が入らない。
実はさっきからブルーの身体は、グリーンが肩に手を回して支えているのだが、本人は気付かない。
グリーンはブルーを抱きかかえて支えながら、グラスにビールを注ぎ足していく。
「……ちょっとー!なんでアンタは酔わないのよ!?アンタの酔っぱらってだらしないところ見て笑いたかったのにー!」
「酔ってるよ。一応」
「ぜーんぜん変わってないじゃーん!」
注ぎ足したビールを口に運ぶグリーンの腕の中で、ブルーは暴れて非難した。
「よせ。危ないだろ」
「なによー!」
この時、ブルーは初めて自分がグリーンの腕の中にいることがわかった。
そして次の瞬間には視界は閉ざされていた。
口の中でビールの味がした。
視界が明るくなり、ブルーの口からグリーンの口が離れた。
「酔ってないと、こんな事しない」
惚けていたブルーに、グリーンは酔っているせいか赤い顔で、極めてクールそうに言った。
「……何よ、ムカつくー!」
ブルーはグリーンの頭と顔を両手で掴むと、無理矢理唇を重ねた。
身体にのしかかられたグリーンは押し倒され、手に持っていたグラスも倒れてビールは床に溢れた。

浴室にいるレッドとイエローも、似た様な事になっていた。
壁のシャワーから、暖かくも冷たくもない温い水が、雨のように降り注いでいる。
その雨の中を、上半身を脱いだレッドが、イエローを膝の上に対面になるように乗せ、抱きしめてキスをしていた。
どうしてこうなったのか、説明するのは野暮だろう。
どこぞの女神の言う「本能のまま」行動した結果がコレだよ!としか言いようがない。
唇を奪われたイエローの口の中は、甘い味と、ウイスキーのアルコールの味がした。
「……酔ってるんですよね……?」
「……酔ってる」
「……ズルいです」
「……男はズルいんだよ」
卑怯だと、イエローは思った。
レッドの手が、太ももからスパッツの裾へ、シャツの下から中へ入っていく感触を感じながら。
レッドの唇が、自分の唇を奪いながら。
卑怯だと思った。
シャワーが降り注ぎ、びしょ濡れになりながら、「酔った勢い」という言葉はズルいと思った。

レッドが洗面台の前に立ったのは、翌朝の5時だった。
頭痛の酷い頭と熱い顔を冷やすため、洗面所の蛇口の水を頭から被るが、まだ収まらない。
水を二、三回口に入れて、うがいして吐き出すが、それでもだめだった。
いわゆる「二日酔い」というやつを初めて体験していた。
痛い頭を押さえて、レッドはベッドに戻って腰を下ろした。
ベッドには寝息をたてているイエローが眠っている。
レッドはイエローの頭を優しく撫でると、向かい側のベッドに二人並んで寝ているグリーンとブルーが見える。
あの夜は、酔いが冷めて来たレッドがイエローを抱きかかえて洗面所を出ると、グリーンとブルーがイチャコラしていた。
それを尻目に、イエローをベッドに運んで、自分もベッドに入った。
野暮なので、色んな細かいところを端折った。
頭痛で目が覚めると、ズブ濡れになっていたシャツとズボンが綺麗に折り畳まれていた。
きっと、屋敷のメイドが気を利かせて洗濯して乾かしてくれたのだろう。
嬉しいような恥ずかしいような。
洗面所の水を頭から被ってびしょ濡れな髪をタオルで雑に拭くと、素肌の上からシャツを着た。
頭痛の酷い頭をなんとか持ち上げながら、レッドは屋敷の階段を降りていった。
途中で朝の準備をしているメイドがレッドを見つけて挨拶してきた。
「おはようございます」
「おはよーございます。あ、コレ……ありがとうございます」
レッドはそう言って自分のシャツをひっぱった。
「いいえ。……昨日は楽しそうでしたね」
メイドはそう言って微笑ましくわらっていた。
レッドは恥ずかしくて頬を掻くしかなかった。
「そういえば……もう10年ぐらい前になりますね。覚えてますか?あの時の約束」
あの時の約束……そう言われてレッドは思い出した。
初めてカスミの家に来て、浮かれて何人もいるメイドにデートしようと言った時の事だ。
「あの時の約束……私はまだ覚えてます」
メイドはそう言ってレッドに微笑んだ。
レッドも、今目の前にいるメイドが、あの時約束したメイドの一人だった事を思い出した。
あの時は若く、子供だった自分。
だが、今はもうすっかり大人になった。
いや、まだまだ大人になったばかりの1年生だ。
「まだあの時の約束、有効?」
「はい」
「じゃあ、いつか。……また今度」
そう言って、レッドは屋敷を出た。
小鳥がさえずり、青白い空がだんだん明るくなっていた。
朝日が眩しい。
が、心地いい。
こんな朝も悪くない、そう思った。

コンビニでいくつか買い物をすると、部屋に戻った。
買い物袋からミネラルウォーターを出すと、それを昨夜の空いたグラスに注いで、アスピリンの錠剤を入れて溶かした。
アスピリンが泡をたてて溶けると、一気に飲み干す。
息を吐き出すと、気のせいか少しマシになった気がする。
買い物袋から、一応イエローを含めた3人分のアスピリンを取り出してテーブルに置くと、冷えたコーラのペットボトルを取り出した。
「まだ、しばらくはこれだな」
部屋のソファに腰を降ろすと、蓋を開けたコーラを飲む。
冷えたコーラの久々の喉越し。
やはり飲み慣れたものがいい。
まだまだ、大人になったばかりだ。
ギムレットには早すぎる。

END

この本の内容は以上です。


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