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コンピュータ将棋における強さとスペックの関係

コンピュータ将棋における強さとスペックの関係

コンピュータ将棋における強さとスペックの関係

ikkn


 はい、やってきましたコンピュータ将棋の話をする音声研究者です、こんにちは。
 今回何について語ろうかと悩んだのですが、編集長のらくはさんに相談してみたところ「強さとスペックの関係」という素敵なお題をいただきました。コンピュータって速ければ速いほど強くなるの? 本当に強くなるの? どれくらい強くなるの? ということですね。

 まず、今のコンピュータ将棋の強さというのは二つに分解することができます。一つは「局面評価の正確さ」で、もう一つは「読みの深さ」です。局面評価というのは局面をぱっと見てどっちがどれくらい優勢なのかを判断するという技術です。これは、コンピュータのスペックにはほとんど関係ありません。そんなにメモリも食いませんし、CPUの速さも必要としません。コンピュータのスペックが関係してくるのは読みの深さです。演算速度が速ければ速いほど読みが深いです。
 というわけで、読みの深さと演算速度について語ることになります。
 第一回電脳戦でボンクラーズが一秒間に何局面読めるかというのが話題になりましたが、これが読みの深さと直結することになります。ボンクラーズは一秒間に1800万局面読めるということでしたが、これがおよそ何手に相当するかというと、だいたい15手前後です。意外と読めていません。これはあくまで1秒間の話ですが、10秒間では何手読めるでしょうか。答えは17手前後です。では、100秒では? 19手くらいです。2分弱で19手です。やはり意外と読めません。局面の複雑さによっても読める深さが変わってくるのですが、とりあえずそれくらいが基準になります。局面によっては10手になったり30手になったりします。
 2分19手でなんであんなに強かったのかというと、人間と違って読み抜けがほぼないからです。読み抜けがないというのは言い換えれば、人間が読まない筋まで読むということでもあります。これがコンピュータ将棋の強さです。

 ところで、ボンクラーズは米長先生のご家庭にもミニチュア版が設置されたということが知られています。こちらは演算速度が約10分の1だそうです。演算速度がそれだけの場合、1秒で何手読めるのでしょうか。答えは、約13手です。10秒で15手です。なんとなく、4手とか5手とかしか読めそうにないと勘違いしそうになりますが、ご家庭のコンピュータでもそれくらい読めます。
 難しいことは置いておいて、ものすごく簡単にいうと、演算速度が10倍(あるいは10分の1倍)になっても2手しか読みの深さは変わらないのです。また、思考時間が10倍(あるいは10分の1倍)になっても2手しか変わらないのです。
 実際、米長先生はボンクラーズ戦後、「自宅のパソコンと強さは大差ないように感じた」とおっしゃっていた記憶があります。これはコンピュータ将棋開発者からすれば、そりゃそうだろうなあという感じで、たかが2手の違いでそんなに強さが変わるはずがないのです。

 で、ようやく今回の話の核心に入ります。「なぜ、コンピュータ将棋選手権には高いスペックのコンピュータが登場するのか」です。
 ここまでの話では、15手と13手が変わらないんだから、強さが変わるはずがないという話でした。でも、これは人間vsコンピュータの場合です。
 そう。
 コンピュータvsコンピュータの場合には事情が変わるのです。

 コンピュータ同士の対戦では、1手深く読めるだけで強さが相当変わってくるといわれています。15手と13手では強さがまるで違います。人間の感覚では同じに思えるこの深さですが、コンピュータにはこれが命取りになります。
 これがなぜなのかということを説明するのは結構難しいのですが、例えばこういうことです。13手読んだ段階では圧倒的に駒が不足しているかのように見えたけれども、15手読んでみたらなんと相手の玉が詰んでいた、なんてことがコンピュータ将棋ではよくあります。これは極端な例ですが、ちょっとした駒得が13手では見えなかったけれど15手では見えるなんてことはしょっちゅうです。
 だから、コンピュータ将棋選手権には高いスペックのコンピュータが登場します。

 つまり、人間vsコンピュータと、コンピュータvsコンピュータとでは同じ将棋でありながら競っているところが全く違うのです。

 将棋の強さっていったい何なんでしょうね。

 らくはさんがおそらく適当に出したであろう「強さとスペックの関係」というテーマは、そんな哲学的なところまで踏み込んでしまう話でした。
 結論として、らくはさん最強。