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駒とペンギンとおむすび

~俺たちはあの切なくて笑っちゃうほど痛い夏に別れを告げなければならなかった編~

駒とおむすびとペンギン
~俺たちはあの切なくて笑っちゃうほど痛い夏に別れを告げなければならなかった編~


それはとある夜のことでした。
アルバイトで朝刊を配っていた半島はふと気付いたのでした。
「この胸の疼痛はもしや失われた神々の評定によって狂わされた不透明な明日の教示か……?」
彼は体にひどい疲労感を感じていました。
そう、朝刊を配った後では体力が続かず自転車をこぐことが叶わなかったのです。
彼は悩みました。このままでは駒おむペンの記事が書けない、と。
もし自転車をこいでしまえば、今度はアルバイトに支障が出てしまう。
いったいどれだけの日が企画構想に費やされたのでしょう。
苦しんだ挙句、彼の中のもう一つの人格は次のように提案をしたのでした。
「限りなく現実に肉薄する残酷なテーゼを指し示せばモノリスへ至る道はひらかれるのではないだろうか」
自転車がダメなら朝刊用のスクーターで記事を書けばいい、それはかすかな希望を彼に与えました。

しかしそのアイディアを実現させるには多くの障害を乗り越えねばならない、当時の彼にはそのことを推し量るすべはなかったのでした。




ペンギン「バイト先には恥ずかしいから俺を持っていけない? 諦めんなよ……どうして諦めるんだよそこで!! お前のことを応援してくれている人たちのことを考えろよ!!」





僕たちの夏が、いま、始まる…………!






はいっ! というわけでね。おまっとさんでした駒おむペンです!
今回は夏という事で駒娘たちが水着に大変身! この記事の数少ない将棋成分の大部分だ、と編集長に指摘されて若干落ち込んだりもしましたが「うるさい! おむすびは駒のメタファーなんだよ!!!!!」と逆切れしながら記事を書いています。半島です。

それにしてもセンターの銀ちゃん、ノーメガネですねぇ~。
眼鏡っ子は眼鏡とセットでこそ真価を発揮しますが、眼鏡がなくて前が見えない状態もなかなか……。
今回はスペシャル的なノリで若葉さんががんばってくれました!
若葉さんいわく、銀ちゃんは目を、桂ちゃんは髪を、香ちゃんは「胸を」がんばったそうです。……というか待て最後。

それにしても駒娘もいよいよ3人になりました。早いものですねえ。
どの娘さんにも象徴する「おむすび」を僕は毎回考えているんですが、今回は「銀ちゃん」ということで、銀ちゃんのおむすびを作ろうと思うんだぜ。え? 銀な具って何かって? あれですよ、あれ。ふふふ。

今回は意外と知られていない新聞配達のことも話しつつ、仕上げにおむすびを食おうと思います。男の汗は美しい! 仕事の後のおむすびはかぶりつくだけの価値がある! う~んマンダム。

1:20
真っ暗な夜道を抜けて出勤するとそこには深夜にも蛍光灯の明かりがばしばし照らされた事務所があります。新聞配達員の朝は早い。
新聞が配送されるのを見計らって、チラシを組み始めます。もちろん手作業です。
雨の日はビニールをかけ、土曜日には大量のチラシのせいで普段の3倍くらいの重さと厚さと戦う、それが配達員の日常……。

この時、新聞の一枚目に棋士の情報がちらっと載ってたりするんです。
羽生さんと森内名人の勝敗などは、さりげなーくにわかな僕でもチェックしてました。
配ってる途中にある新聞の一面に里見さんの写真が載ってたりすると「おおおおおおこの人がらくはさんの言ってた人か! 出雲のイナズマ!」とテンションあがったりしちゃうんですよね。恐るべき将棋パワー。

2:15




新聞を組むスピードが普段通りなら、この時間帯にバイクに積むことができます。
あまりにも時間がかかりすぎると配り終わるまでに6時を回ってしまい遅配となってしまうんです……。お客さんに「ちょっと新聞着てないんだけど!?」なんてクレームの電話が入ったら大変。なるたけ急いで出発します。



2:30



夜の街は当然のことながら真っ暗です。
だいたい車通りや人通りはほとんどないんですが、たまにいらっしゃいます。
そういう場合はほとんど注意をしていない状態なので事故が起きやすい……命がけです。

ここで大事になるのが、実はポストの形状なんです。

ポストにもいろいろあるんですが、当然のことながら「新聞」を「ポストにあわせて」入れます。
綺麗にたたみながら新聞をいれるのって難しいんだ……。
アメリカ風のポストだったり、ドアに付属されてるポストだったり、集合ポストだったり……ポストの形状に合わせて新聞を投函するセンスが必要になってきます。
土曜日なんか厚さ1.5cmくらいの新聞を三つ折りにするからね。それを200枚近く……。
手首? うん、そうだね! 関節炎だね!


3:30
オートロックマンションでかなりの部数をさばけました。
さてさて、いよいよここからが時間との闘いです。時間指定のお客さんのお宅へ先に新聞を入れなければなりません。4:00、4:30などのDead Lineが指定されていて、それを過ぎるとまずいのです。
お客さんの中には早朝にお出かけになる方もいるので、電車の中や会社で気持ちよくお読みになれるように急ぐ、急ぐ、急ぐ!!





4:30

そろそろ夜が明けてきました……。
頭がもうろうとしてくるのもこの時間です。








なんか……もう適当でいい気がしてきちゃいます。
なんで俺、こんなことでがんばってるんだろうって……。 




ペンギン「……一番になるって言ったよな?」



え?

ペンギン「日本一なるっつったよな! ぬるま湯なんかつかってんじゃねぇよお前!!」

で、でも……

ペンギン「諦めんなよ!!! どうして諦めるんだそこで! 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だぜっっっったいに駄目!」



ペ、ペンギンさん!!!
オレ……間違ってたよ!!!!!!


……という妄想が脳内で再生されるくらいこの時間帯はきついです。
車もライトを消してしまう人が増えてくるので、下手すると接近に気付かない!
これは新聞配達に限らず、すべての車両が危ない時間帯です。


中継地点に置いてもらっていた新聞を補充して……さあ! 後半戦の始まりです!
意識がもうろうとしていると新聞を入れ間違えたりだとか、入れるべきお宅を飛ばしてしまったりしてしまいます。焦らずゆっくり着実に入れなければなりません。


 

5:30

空を見上げれば小憎らしいほどの日本晴れ。
ようやく最後の一軒に新聞を配り終えるころには世界はもう朝です。
肩も腰も目も足もみーーーんなお疲れモード。一気に脱力します。
配るのが早い人は4時半くらいに終わるそうなんですが、正確さを重視するとどうしても時間がかかってしまいますね。今日も気持ち良く配ることができました!


さて、仕事も終わったことですし朝ごはんを作りたいと思います。
もちろん朝ごはんは「おむすび」です。


銀っぽいおむすびをいろいろ考えてみたんですが、ここはやはり「銀シャケ」ではないかな!! とね!
ぼかぁ思うわけなんですよ! うんうん!
え、安直? 言ってやるなよ。

 

スーパーで買った甘塩シャケ(塩麹漬)をアルミホイルに包んでフライパンで焼きます。
もちろんグリルで焼いたほうがおいしいのですが、手間を省きたいときはこちらの方法がお勧めです。キノコや野菜をしきつめて、みりんで溶いた味噌をくわえてちゃんちゃん焼き風にしてもGood!

 

……ちょっとバターを入れ過ぎてしまった感がありますが火は通ったようです。
配達で疲労困憊していて思考能力が「もうやめてペンギンのライフはゼロよ!」な状態になっております。もうこのまんまゴール(実食)してもいいよね? いやいや駄目駄目。

 

次にラップを敷いて、その上に白ゴマを散らします。
鮭には海苔かとも思ったんですが、バターと塩麹の甘さが嫌味になるかなと思って白ゴマをチョイス。
ふんわりざっくり握ります。
これで銀ちゃんおむすび「幼馴染の男の子に何かにつけて口うるさく小言を言ってくるツンデレ委員長風」は完成です! いや、キャラ造形の打ち合わせで担当の若葉さんと盛り上がってしまって、いまでもどうして委員長なのかは謎です。攻守ともにそつなくこなすから~というイメージだけでなぜこうなった。前にご飯粒がついてるのはご愛敬。


いや、いい加減お腹がすきすぎてやばいです……。
一口ほおばると、ゴマの香りが口の中一杯にひろがります。
噛めば噛むほどゴマの香りが鼻をくすぐって、シャケのインパクトが舌に……。
やはりシャケおむすびは定番ですね!
銀のおむすびはこれで決定です!

銀についてのコラムですが今回は別枠を用意しました。
今回のネタは立原道造という昔の詩人です。
ちょっぴり真面目風?に書いてみました。よければあわせてご覧ください!









駒とおむすびとペンギン
特別編~ぼくと駒~

    またある夜に   立原道造

     私らはたたずむであらう 霧のなかに
     霧は山の沖にながれ 月のおもを
     投箭(とうせん)のやうにかすめ 私らをつつむであらう
     灰の帷(とばり)のやうに

     私らは別れるであらう 知ることもなしに
     知られることもなく あの出会つた
     雲のやうに 私らは忘れるであらう
     水脈のやうに

     その道は銀の道 私らは行くであらう
     ひとりはなれ……(ひとりはひとりを
     夕ぐれになぜ待つことをおぼえたか)

     私らは二たび逢はぬであらう 昔おもふ
     月のかがみはあのよるをうつしてゐると

     私らはただそれをくりかへすであらう




 小学生の時からぼくには将棋が難しすぎた。
果てしない戦術、相手の手を読む姿勢、絡まってしまうほどあるセオリー、そんな諸々のアイテムがぼくにはどうしても楽しめなかったのだ。

けれど駒は好きだった。



 ぼくが将棋の駒に初めて触れたのは小学生の時だった。
まだ当時4年生だった姉が学校で将棋を覚えてきたことがきっかけだった。
親父が気まぐれに買ってきてくれた将棋セットを使って、何度かか姉弟で遊んだことを覚えている。
「これは香車っていうんだぜ? そしてこれが飛車」
姉は駒の並べ方から、崩し将棋、と金将棋などのルールを教えてくれた。
昔から負けず嫌いな人だったから、弟より優位に立って何かを教えたかったのかもしれない。
弟というものはいつの時代も姉のうっぷんを晴らすために存在している。
「角はそんな動きしないよー。それ反則! ぶぶー反則負け!」
駒の動き方の把握すらおぼつかない、ぼくはそんな愚弟だった。
それでも何度かは姉の軍を脅かしたこともあったらしい。
ふとした時に姉は王をひっくりかえした。
「王様はね、ワープできるんだよ。ほら」
「げっ! そんなこともできんのー? えー」
ワープ機能を有した王は、ぼくの軍を蹂躙しつくした。

やっぱり王様ってすごいんだ、2年生だったぼくは不思議と感動していた。



将棋での知恵比べや、勝ち負けうんぬんよりも駒を動かすことが単純に楽しかったのだろう。

ぼくのスーパーウルトラ香車はしばしば一手で相手の軍を2枚ぬきしていた。



 高校生になると将棋部の友達ができた。
そいつの棋力は素人に毛の生えた程度のもので、ずぶの素人のぼくが出鱈目にさしても4回に1回は勝つことができた。
二人で昼休みになると弁当をあけて将棋盤を向かい合って挟んだ。
どうやら将棋にも必殺技のようなものがあるらしいと知ったのも高校生になってからだった。
「んー、まずは棒銀じゃない? 金を前にだして蟹にすんのも結構いいぞ?」
初心者が未開人にラテン語を教えるような感覚だったのだろう、友人の教えは投げやりだった。
真っ先に名前だけ覚えてまねたのが棒銀だったが、棒銀の実直さはしばしば相手に防がれた。
ぼくは棒銀以外は使おうと思わなかったし、棒銀すらまともに覚えちゃあいなかった。
桂馬で援護射撃をしたり、意味もなく矢倉を組んだり、百円玉を賭けて負けたりもした。
それでもやっぱり駒は美しかった。
香車のまっすぐな生き方も、桂馬の切り込み方も好きだった。
将棋がほとんど出来ないぼくたちは、駒をうごかして遊んでいたのだ。

駒の動きが対話だった。



 しかし人はそれぞれの道を歩むものだ。
姉とぼくは将棋を指さなくなったし、将棋部の友人の現在をぼくは一切知らない。
ぼくはいま深夜に新聞配達のバイトをしている。

新聞を配りながら、駒と銀について考えていたら立原の詩が忽然とよみがえった。



    その道は銀の道 私らは行くであらう
    ひとりはなれ……(ひとりはひとりを

    夕ぐれになぜ待つことをおぼえたか)



夜には人をどこかへ迷わせてしまう異界への裂け目がある。

その巨大なクレバスに遭遇するために人は夜を歩くのだ。



夏というものは全くもって節操がない。
深夜だというのに無作法に泣きわめくヒグラシも、白色光に照らされたアスファルトも、呼吸さえしていない空白の道路も、みんなみんな甘ったるい。
どうして、ひとりはひとりを夕暮れに待つことをおぼえたか。
決まっている。淋しいからだ。

こんな事を思い出すのもどうしようもなくみじめで、生皮を剥がすように淋しいからだ。



淋しい思いをしながら駒のことを考えているうちにまた、ぼくはぼく自身の「銀の道」を意識しなければならないことを覚悟する。
それは祝福された道ではないが、夜が明けるための道でもある。

銀色は淋しい色なのだ。






次回予告




  他人との接点を最小限にとどめ生きてきた駒少女・角。
  繰り返される戦争の中、少女はついに武器を手に取ることを決意する。
  「……大丈夫……私が……切り開くから……!」
  冷たい鉄の鎌が相手の首へ振り下ろされる時、混沌を極める対局の時間は加速していく……。

  次回「角ちゃん心の向こうに」 次回もさーびすさーびすぅー!


文章 半島

イラスト 若葉