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オーダー論考

オーダー論考

   オーダー論考
清水らくは


 将棋の団体戦には、独特の味わいがある。その中でも大学将棋の団体戦においては、オーダーの組み方が非常に重要である、という点が特徴的である。
 五人ないしは七人で行われる団体戦では、オーダー順は固定ながら出場選手は対戦ごとに変更できる。つまり
五人制だとして、

1. ABCDEFGHIJ  2. ABCDEFGHIJ 3. ABCDEFGHIJ

 上記のどのように出場させるのも可能である。しかし、多くの場合3.のように飛び飛びで出場させることになる。もし1.や2.のようなメンバーが出ることになるとしたら、よほどの奇策かオーダーの組み方自体に問題があった、ということになるだろう。

 では、オーダーとはどのように決められていくのか。とりあえず、あるチームがベストオーダーを組むまでについて眺めてみよう。以下、スーパーエース(よほどのことがない限り勝ってくれる強豪)をS、エース(ほとんどの場合で勝ちを計算できる)をA、その他のレギュラークラス(エースに一発入ることもあるが、下に取りこぼしもするぐらい)をB、その他(力は足りないが人数の関係上登録されている)をCと表記する。


甲大学の場合


 甲大学将棋部は、長らく人数不足の中一人のSが引っ張ってきた。しかしSが四年生になった年、一年生に二人のAが入部してきた。他にも二人のBがおり、上位に入れる戦力が何とかそろった。しかし部員数は七人で全員出場するしかない。
 オーダーを決めるに当たり、Sは四年生でもありスーパーエースであるという自覚から自ら大将を買って出た。そして新入生のA二人をその下に起き、結局は素直に力順に並べることになった。つまりは【SAABBCC】である。

 大会当日、二人のA加入により、下位校に対しては楽に勝ち、迎えた三回戦。いつも接戦で負けるα大学との対戦、相手校レギュラーの戦力は【AAABBCC】であり、Sがいる分、甲大学が有利かにも思えた。
 しかし、相手校には14人全員オーダー表を埋めるだけの部員がいた。この時点で、実は甲大学は不利に陥っていたのである。実際の対戦は以下のようになった。


甲【SAABBCC
α【CACAABB】



 ここまでα大学は【ACAABBC】というオーダーを組んでいた。しかし甲大学戦では、七将のCをはずし大将にCを入れてきた。このように相手の強豪に下位選手を当ててその対戦を半ば捨てることを「当て馬を当てる」と言う。
 対戦をよく見ると、4567将戦においてα大学の方が有利になっている。また副将戦もいわゆるガチンコ対決であり、期待値は0.5勝である。つまり恐ろしいことに、出場選手の総合力では甲大学が上回っていながら、対戦した時にはすでにα大学が有利になっているのである。
 甲大学が負けるとして、何が敗因だったのか。一つには人数不足が上げられる。七人しかいないため、相手にとっては当てたい相手を確実に当てられてしまうのである。もし甲大学にたった一人でも控え選手がいたとしたらどうか。オーダー表に【CSAABBCC】と書いていたとしよう。そしてα大学戦で大将にCを入れたとする。すると


甲【CSAABBC】
α【CACAABB】



 という対戦になる。これで大36将戦がガチンコになった。副将戦は甲大学が有利であり、ガチンコ対決を全てものにすればチームが勝利できるという意味では、先ほどよりはましな対戦となっている。
 α大学としてもこのようなケースを避けたいと考えれば、大将にCを入れるかどうか迷うことになる。一人人数が加わるだけで、相手にとっては大きなプレッシャーになるのだ。
 甲大学の敗因はもう一つある。オーダーを素直に並べ過ぎたことだ。チーム構成上甲大学が考えなければならないことはいくつかある。チームが勝利するためには最低でも四勝せねばならず、そのためには最低でもBBCCのうち誰かが勝利せねばならない。つまりこの四人が戦力となるような当たり方をせねばチームとしては苦しいのである。できればBはBかC、CはCに当たるような展開を作りたい。またSAAはできるだけ無駄にならない相手と当りたい。特に相手にSがいない場合、自チームのSはAをつぶしておきたい。Aに関しては、Bに当てて確実にとりに行く、という戦略もある。まさに今回のα大学がそのようにしたのである。しかし甲大学は出場選手を変更できないので、いかに相手に戦略を取りにくいオーダーを作るか、が大事である。並びを変えられないのにそのようなことが可能か、という問いに対しては、相手校が戦うのは甲大学だけではない、ということがヒントになる。

 さて、ここで私が甲大学の部長だったらどのようなオーダーを組むか、ということを考えてみたいと思う。相手校との兼ね合いもあるが、とりあえずは以下のようなオーダーから考える。


【CASABBC】


 普通どのようにオーダーを考えていくのかは知らないが、私の場合だいたいこれが基本形となる。まずは大将から考える。各大学、当て馬については常に考えるものであり、一番上にはCを入れていることが多い。最初からCを出し、重要なところで引っ込めてガチンコを仕掛けるという逆の戦略を仕掛ける場合もある。しかし、上に二枚Cを並べるということはしにくい。下の方でオーダー調節がしにくくなるうえに、二枚とも出す事態はなかなか生じないからである。また大将にBを置くのも少し勇気がいる。というのも、Bを外してCを入れるという戦略は、総合力が落ちるのでリスキーな選択になるからである。大将でBを出すということは、相手校のSやAにやられ続ける代わり、固定の当て馬相手を確実に拾っていくという戦略になる。
 そんなわけで大将のCは、「相手のSやAを空振りさせる」「Bなら頑張れば勝つこともあるかもしれない」「C同士ならガチンコになり御の字」という理由で、人数不足のチームでは損がないのである。
 またASAと並べたのにも理由がある。相手校として見れば、Sに誰を当てるかが課題となる。できればBは当てたくない。Sがいるチームならば、ガチンコを仕掛けるかどうかも考えるだろう。α大学のような場合、C(当て馬)を当てたい。ここで重要なのは、SをAで挟んだ場合、当て馬を使うと、もともとSと当る予定だった人は確実にAと当るということである。実は先ほどもα大学は3将にCを入れていた。Sに当て馬を当てられるオーダーだったのだが、同様に当たった場合どうなるだろうか。


甲【CASABBC】
α【CACAABB】


 甲大学はSをすかされたものの、大246将がガチンコになった。3将がほぼ勝ちであることを考えれば、かなりましになったと言えるだろう。しかしα大学がこれを避けようとすると、「相手のCにAが当たる」もしくは「相手のSにAが当たる」事態はほぼ避けられない。上の方に控えメンバーを固めると、相手校も人数豊富な場合下の方で狙い撃ちされてしまう。相手が甲大学だけでない以上、オーダーは基本的には人数豊富な相手を考慮して組むものなのである。
 オーダーを少し変えただけで、相手校の悩みがかなり増えたことがお分かりいただけただろうか。


乙大学の場合


 メンバーを考える際には、棋力以外にも重要な要素がある。例えば乙大学では、C1とC2のどちらかが出場することになり、二人をどのような配置にして、どのようなパターンで出すかを考えなければならない。
 C1は時折上に一発入れるがコロッと負けることもある三年生である。一つの考え方として、彼を当て馬大将に置くとする。すると相手校にとって、過去のことから名前を知られている可能性が高い。Bを当てても確実に勝てるとは限らないとか、C同士だと不利になるのではないかと相手に考えさせるだけでも意味がある。
 C2は一年生で、大会前の部内リーグなどでCクラスの中で一番いい成績を収めた。棋力で言えば一番期待ができるので、七将などでずっと出すのも手である。また、確実に相手も当て馬を出すだろうときに大将で出すという作戦もある。しかし一年生にその役目を任すかどうかは悩むところである。たとえば初戦相手校の人数が足りず不戦勝になるような場合、C2の名前をあえて出しておき、「強い新人が入ったかもしれない」と思わせておくのも得になる。C1を下に書いた場合には、ここであえてC1を不戦勝にさせ、C2を次からオーダーに入れるという作戦もある。C1よりも期待できる棋力だと相手は思うかもしれないし、最初のうちに新人に場馴れさせるためあえてC1を下げたと思われるかもしれない。どちらにしろ、少ない手駒で出来るだけ相手に悩んでもらった方が乙大学にとっては得なのである。

 さて、乙大学にはもう一つ悩みどころがある。それはA1の性格である。彼は棋力はあるのだが、プレッシャーに弱い。そこで彼をどの位置に置くのかも重要になってくる。プレッシャーに弱いからと言って5将や6将で出してしまうのはもったいないし、何より相手校もそこにAクラスを当ててきたときに余計にプレッシャーを感じてしまう。一番考えられるのは大将である。なぜならそこは隣が一人しかいないので、戦況がわかりにくいのだ。副将はできるだけ安定した成績を残すA2、もしくは序盤が非常にうまいB1を考える。A1にとって比較的周囲を見回す余裕がある時間に隣が形勢を損ねることが一番悪い状況と言える。「自分が勝たねば」という思いを強くしてしまうからである。
 とはいえ大将は他の作戦との兼ね合いも考えなければならない位置である。よって、次の候補は副将となる。できるだけSやAを隣に配置し、下位の苦しい様子を気にさせないことに気を遣う。もしくは明らかに当て馬であるCならば、負けて当たり前なので気にすることも少ないだろう。また私のこれまでの経験上、3将や4将が意外と勝負将棋になることが多い。枚数が揃っていないチームにとって、SやAを置いても当て馬を当てられにくく、そのうえ無駄が生じにくい位置が3、4将なのである。よってA1をここに置くと常に大事な対局が続くことになる。大将・副将は相手が外してくれる位置であり、プレッシャーのかからない対局が生まれやすいのである。

 これ以外にも、戦型なども考慮することがある。対振り飛車が得意な人に的を絞らせないために、居飛車党・振り飛車党を交互に配置するというのも大きな意味のある作戦である。また「棋力よりも強そうに見える」ということすら作戦によっては役に立つ。見た目も大事なのである。
 もしオーダー学と言うものがあるならば、今回書けたことはそのほんの一部でしかない。現役学生などはもっとずっと先を見ていることだろう。何にしろ団体戦というのは対局者だけで決まるのではない、オーダーをどうするかによって大きく結果が異なるのだということを実感していただければ幸いである。