登場人物について。
タスマニアン姉妹
姉 デビル 性格、厳しさばつぐん。
妹 タスマ 特徴、ピンクのおリボン
ネコ 特技、空手の達人(自称)このお話にこの特技は関係ありません。
いつものようなうららかな春。日の昇り具合も頃合いが良く、それは眠りを呼ぶ。居心地の良いベッドがネコを離さない。あと五分だけを何度も繰り返し、決意してはもう一度眠る。怠惰だった。
「ピンポォ~~~~ン、聞こえますかぁ!」呼びかけも夢の中の悪夢の合図か現実なのか、判断のつかない微睡み。
「ネコさぁん!役所の方から来ました。いないんですか」
まだ寝たいけど眠らせて貰えない。役所が何だよと思ったネコだったが、一番怖いのも役所。というのも先日「庭先に猫がうんちをする」という噂の対策に、町中にペットボトルが並べられ歩いているだけで睨まれ御釣りはごまかされ酔って電柱にぶつかり財布は落としと不幸の連続、すべて役所のさしがね。今だって止めたいあくびが止まらない。
「だれぇ」ダラっとニャラっと声を振り絞れば役所の人はこう言う。
あなた、ネコさんらしいけど今年のお誕生日前後の七時間に免許を更新しなかったでしょ。何ってネコを名乗る免許だよ。この動物が多種多様な動物園おっと失言もといケモノノ村では四年から五年か二年のどれか一度か何回かに、所属する動物についての免許を更新する必要があるわけだよ。え?そんな事知らなかった?もしやあなた…やっぱり、無免許動物。免状も無くネコを名乗るだとか不届きな悪質だ悪質だまさしく悪質だ。これは追加の講習ではどうにもならんよ。もうネコは名乗れないよ、なにか、あ、固有名詞が無いと困る。なにかね君は自分の不始末を行政の不始末だという不穏分子かね、そうじゃない、だったらなにか?はいはいはいはい、わかった、ネコは名乗れない、名乗ることが出来るまで、ちゃんと免許が取れるまでなにかわからないなにか。「ナニカ」と名乗りなさい。これは暫定措置だからね。役所が君をナニ科で登録許可じゃないからね。そういう事でよろしく!
ネコ科のネコはナニカになった。
まったく意味がわからない。生まれつきネコだ。こんな話は聞いたことが無い。だけど誰しも自分の生まれた直後のことは覚えていないもの。自分は自分をネコだと思い込んでいただけなんだろうか。寝起きの頭で考えられるのはそこまでが限界だった。
「ネコさぁん、じゃなくてナニカさん!ナニカさんになったんだって!!」
「免許無くしたらしいねうぷぷぷぷ」
隣の家の双子の姉妹、タスマニアデビルの二人が勝手にドアを開けて入ってきた。
「それがさっぱり判らないんだ。二人はそもそもそういう免許あるって知ってた?」ネコ、もといナニカは尋ねた。
「知らない。文句言われたことないし有るんでしょ」姉のデビルが冷たく言った。「大体、まぁこれはキミ自身の怠慢ってヤツで、あたしが持ってるかどうか何て関係ないでしょ」「お姉ちゃん冷たいなぁ、私たちだって持ってるじゃ無い?恋のA級ライセンスってやつだったらね!」どうやら妹のタスマも心の中ではニヤニヤが止まらないらしい。口元がぴくぴくして涙目で笑いをこらえているのがナニカには判った。
「とにかく、役所に行って復旧なり何なりして貰うことだよ!ハンコと身分証明書もって急いで!!」タスマがナニカにアドバイスをした。「いそいで!今ならまだ間に合う」
「でもさぁ」デビルがチラッとタスマの方を向いて言った。
「ハンコも身分証明書も名前はネコ、だけどやってきたのはナニカじゃぁ、受け付けて貰えないよ?」
しばらく俯いていたタスマは、肩を震わせとうとう笑い出した。「あははは、あはははははははは。ナニカ…失効してネコじゃなくってナニカ。何科でもないからナニカって…あははははは明らかに見た目はネコですがナニカ?あははははは」
笑い声は、ナニカが家を出てから三回角を曲がるまで聞こえ続けた。
「ナニカさん、職業は山猫ねぇ」やる気の無い返事をするのが役所の日常。ケモノノ村でもそれは変わらない。再交付の面倒な手続きの末がこの応対では悲しすぎる。役所の中の判りにくい案内板に右往左往して三回ほど「ここじゃありません」と行き先をたらい回し。ようやく辿り着いた窓口では「申請書に写真がいるから、入り口の自動写真機で撮ってきて」と追い返され、妙に高い撮影代を払って申請書を作れば記入漏れを指摘される。ここまでで何度列に並んだだろう。「職業は行列です」と答えたかった。
「それで、何を希望なんだっけ?」勿論ネコであること以外に何が希望なものかとナニカは思った。磨りガラスごしの声だけの窓口が余計に冷たさを感じさせる。
「ネコです」
「志望理由は、ネコだから…ナニカさん、これ、ふざけてるの?」
「ふざけてるも何も、僕はネコだから」
ふぅっと溜息を付いてから窓口は言った。「今現在ネコは定員オーバーでね。こんな理由じゃなかなか申請通らないし随分待つことになるよ」
ナニカも溜息を付きそうになったが、我慢して尋ねた。「どのくらい待ちますか?」
「二百五十年くらいかな」
「そんなに僕、生きられないよ」
窓口は慰めのつもりか「まだ若いんだからすぐ諦めずに、待つことだね」と呟き「ネコじゃなくて良いならすぐ申請通る動物あるよ」と、続けた。
ナニカはらんらんと目を輝かせて聞いた。「何だったら僕はなれるんですか?」
「ヘビに、カエルに、オケラ、それからムール貝の枠が開いてるね」
「猫科じゃなくてもいいから、もうちょっとマシな動物は居ないんですか」
「ナニカさん、ヘビやカエルがマシじゃないってのはどういう意味ですかね」窓口はウミガメだった。
「ごめんなさい、あの、ただ余りにも元の生き物とかけ離れているモノで」
嫌みにしか聞こえないほど大きな溜息をウミガメは付き、書類の束を雑にめくった後「そうだよね、あんまり種類は換えたくないよね」と言った後「猫科で枠が開いてる動物、いるな」と小さく呟いた。
「え?何です??」ナニカのヒゲがピクついた。
「ライオンだよ。丁度昨日欠員が出たんだ。これならなれるよ。まぁ大体一週間で交付証が届くから、正確には来週からナニカさんがライオンさんって事だけどね」
一応の警戒をしてナニカは尋ねた。「オールデンライオンタマリンとか、そういうオチじゃないですよね?」
「ナニカさん、本当に性格歪んでるね。そんなのだから失効するんだよ。正真正銘のライオン、百獣の王」
「それにきめた!」
帰り道ナニカは美容院に行き、たてがみを作るためパーマをかけた。ネイルサロンに行って爪を研いだ。準備は万端、これで交付証さえ届けばライオンだ。
「ナニカさん、ライオンへの出世おめでとう!」タスマがお祝いをくれた。血まみれの生肉だった。「かってきたばかかり、新鮮ホヤホヤ湯気もホヤホヤ」タスマが笑顔でナニカ(来週ライオン・元ネコ)を見つめる。首回りから肩にかけての白い毛が何かにうっすら染まって桃色だ。
「ナニカさぁ、せっかくタスマがくれたんだから新鮮なうちに遠慮せず食べなよ」デビルが笑いながらけしかける。そんな何時も通りの嫌がらせもナニカは平気だった。来週からは百獣の王なのだ。ライオンなのだ。御獅子なのだ。
そして交付証も無事に届き、表札もライオンに掛け替え、気分は最高だった。「ネコからナニカになった時はどうしようもない気持ちだったけど、こうしてステップアップ出来たから人生何がどうなるか判らないよね」「駄目な瞬間を未来に繋げる。僕って凄い」
そんな事を考えながらヤスリで牙を磨いているとチャイムがなった。「またまた隣の姉妹かなぁ。先週お祝いはして貰ったけど、もう一度祝ってくれるのかな」
ドアを開けるとトラがいた。
「なぁ、密林の王者を差し置いて百獣の王は無いんじゃないのライオンさん」
「いや、あの」突然の来訪者にライオン(元ネコ)はしどろもどろ。トラをはじめヒョウ、シャチ、ゴリラ、ハイエナ、チーター、サーベルタイガー、マンモス、ツチノコ、ヒバゴン、サスクワッチ等々九十九の獣たちがずらりと列をなす。
「そこで、百獣の王が誰だか、実力計ってみようと思うんだがどうだろう」
猛獣たちの牙も爪も角もライオン(元ネコ)を狙って光っている。誰も笑っていないのに牙がよく見える。マニキュアもペディキュアもしてない筈なのに真っ赤に爪が輝いている。丁度時間はお昼過ぎ。「まだご飯食べてなかったなぁ」と、ライオン(元ネコ)は思った。
後に残るのは真っ赤な水たまり。
タスマニアン姉妹
姉 デビル 性格、厳しさばつぐん。
妹 タスマ 特徴、ピンクのおリボン
ネコ 特技、空手の達人(自称)このお話にこの特技は関係ありません。
いつものようなうららかな春。日の昇り具合も頃合いが良く、それは眠りを呼ぶ。居心地の良いベッドがネコを離さない。あと五分だけを何度も繰り返し、決意してはもう一度眠る。怠惰だった。
「ピンポォ~~~~ン、聞こえますかぁ!」呼びかけも夢の中の悪夢の合図か現実なのか、判断のつかない微睡み。
「ネコさぁん!役所の方から来ました。いないんですか」
まだ寝たいけど眠らせて貰えない。役所が何だよと思ったネコだったが、一番怖いのも役所。というのも先日「庭先に猫がうんちをする」という噂の対策に、町中にペットボトルが並べられ歩いているだけで睨まれ御釣りはごまかされ酔って電柱にぶつかり財布は落としと不幸の連続、すべて役所のさしがね。今だって止めたいあくびが止まらない。
「だれぇ」ダラっとニャラっと声を振り絞れば役所の人はこう言う。
あなた、ネコさんらしいけど今年のお誕生日前後の七時間に免許を更新しなかったでしょ。何ってネコを名乗る免許だよ。この動物が多種多様な動物園おっと失言もといケモノノ村では四年から五年か二年のどれか一度か何回かに、所属する動物についての免許を更新する必要があるわけだよ。え?そんな事知らなかった?もしやあなた…やっぱり、無免許動物。免状も無くネコを名乗るだとか不届きな悪質だ悪質だまさしく悪質だ。これは追加の講習ではどうにもならんよ。もうネコは名乗れないよ、なにか、あ、固有名詞が無いと困る。なにかね君は自分の不始末を行政の不始末だという不穏分子かね、そうじゃない、だったらなにか?はいはいはいはい、わかった、ネコは名乗れない、名乗ることが出来るまで、ちゃんと免許が取れるまでなにかわからないなにか。「ナニカ」と名乗りなさい。これは暫定措置だからね。役所が君をナニ科で登録許可じゃないからね。そういう事でよろしく!
ネコ科のネコはナニカになった。
まったく意味がわからない。生まれつきネコだ。こんな話は聞いたことが無い。だけど誰しも自分の生まれた直後のことは覚えていないもの。自分は自分をネコだと思い込んでいただけなんだろうか。寝起きの頭で考えられるのはそこまでが限界だった。
「ネコさぁん、じゃなくてナニカさん!ナニカさんになったんだって!!」
「免許無くしたらしいねうぷぷぷぷ」
隣の家の双子の姉妹、タスマニアデビルの二人が勝手にドアを開けて入ってきた。
「それがさっぱり判らないんだ。二人はそもそもそういう免許あるって知ってた?」ネコ、もといナニカは尋ねた。
「知らない。文句言われたことないし有るんでしょ」姉のデビルが冷たく言った。「大体、まぁこれはキミ自身の怠慢ってヤツで、あたしが持ってるかどうか何て関係ないでしょ」「お姉ちゃん冷たいなぁ、私たちだって持ってるじゃ無い?恋のA級ライセンスってやつだったらね!」どうやら妹のタスマも心の中ではニヤニヤが止まらないらしい。口元がぴくぴくして涙目で笑いをこらえているのがナニカには判った。
「とにかく、役所に行って復旧なり何なりして貰うことだよ!ハンコと身分証明書もって急いで!!」タスマがナニカにアドバイスをした。「いそいで!今ならまだ間に合う」
「でもさぁ」デビルがチラッとタスマの方を向いて言った。
「ハンコも身分証明書も名前はネコ、だけどやってきたのはナニカじゃぁ、受け付けて貰えないよ?」
しばらく俯いていたタスマは、肩を震わせとうとう笑い出した。「あははは、あはははははははは。ナニカ…失効してネコじゃなくってナニカ。何科でもないからナニカって…あははははは明らかに見た目はネコですがナニカ?あははははは」
笑い声は、ナニカが家を出てから三回角を曲がるまで聞こえ続けた。
「ナニカさん、職業は山猫ねぇ」やる気の無い返事をするのが役所の日常。ケモノノ村でもそれは変わらない。再交付の面倒な手続きの末がこの応対では悲しすぎる。役所の中の判りにくい案内板に右往左往して三回ほど「ここじゃありません」と行き先をたらい回し。ようやく辿り着いた窓口では「申請書に写真がいるから、入り口の自動写真機で撮ってきて」と追い返され、妙に高い撮影代を払って申請書を作れば記入漏れを指摘される。ここまでで何度列に並んだだろう。「職業は行列です」と答えたかった。
「それで、何を希望なんだっけ?」勿論ネコであること以外に何が希望なものかとナニカは思った。磨りガラスごしの声だけの窓口が余計に冷たさを感じさせる。
「ネコです」
「志望理由は、ネコだから…ナニカさん、これ、ふざけてるの?」
「ふざけてるも何も、僕はネコだから」
ふぅっと溜息を付いてから窓口は言った。「今現在ネコは定員オーバーでね。こんな理由じゃなかなか申請通らないし随分待つことになるよ」
ナニカも溜息を付きそうになったが、我慢して尋ねた。「どのくらい待ちますか?」
「二百五十年くらいかな」
「そんなに僕、生きられないよ」
窓口は慰めのつもりか「まだ若いんだからすぐ諦めずに、待つことだね」と呟き「ネコじゃなくて良いならすぐ申請通る動物あるよ」と、続けた。
ナニカはらんらんと目を輝かせて聞いた。「何だったら僕はなれるんですか?」
「ヘビに、カエルに、オケラ、それからムール貝の枠が開いてるね」
「猫科じゃなくてもいいから、もうちょっとマシな動物は居ないんですか」
「ナニカさん、ヘビやカエルがマシじゃないってのはどういう意味ですかね」窓口はウミガメだった。
「ごめんなさい、あの、ただ余りにも元の生き物とかけ離れているモノで」
嫌みにしか聞こえないほど大きな溜息をウミガメは付き、書類の束を雑にめくった後「そうだよね、あんまり種類は換えたくないよね」と言った後「猫科で枠が開いてる動物、いるな」と小さく呟いた。
「え?何です??」ナニカのヒゲがピクついた。
「ライオンだよ。丁度昨日欠員が出たんだ。これならなれるよ。まぁ大体一週間で交付証が届くから、正確には来週からナニカさんがライオンさんって事だけどね」
一応の警戒をしてナニカは尋ねた。「オールデンライオンタマリンとか、そういうオチじゃないですよね?」
「ナニカさん、本当に性格歪んでるね。そんなのだから失効するんだよ。正真正銘のライオン、百獣の王」
「それにきめた!」
帰り道ナニカは美容院に行き、たてがみを作るためパーマをかけた。ネイルサロンに行って爪を研いだ。準備は万端、これで交付証さえ届けばライオンだ。
「ナニカさん、ライオンへの出世おめでとう!」タスマがお祝いをくれた。血まみれの生肉だった。「かってきたばかかり、新鮮ホヤホヤ湯気もホヤホヤ」タスマが笑顔でナニカ(来週ライオン・元ネコ)を見つめる。首回りから肩にかけての白い毛が何かにうっすら染まって桃色だ。
「ナニカさぁ、せっかくタスマがくれたんだから新鮮なうちに遠慮せず食べなよ」デビルが笑いながらけしかける。そんな何時も通りの嫌がらせもナニカは平気だった。来週からは百獣の王なのだ。ライオンなのだ。御獅子なのだ。
そして交付証も無事に届き、表札もライオンに掛け替え、気分は最高だった。「ネコからナニカになった時はどうしようもない気持ちだったけど、こうしてステップアップ出来たから人生何がどうなるか判らないよね」「駄目な瞬間を未来に繋げる。僕って凄い」
そんな事を考えながらヤスリで牙を磨いているとチャイムがなった。「またまた隣の姉妹かなぁ。先週お祝いはして貰ったけど、もう一度祝ってくれるのかな」
ドアを開けるとトラがいた。
「なぁ、密林の王者を差し置いて百獣の王は無いんじゃないのライオンさん」
「いや、あの」突然の来訪者にライオン(元ネコ)はしどろもどろ。トラをはじめヒョウ、シャチ、ゴリラ、ハイエナ、チーター、サーベルタイガー、マンモス、ツチノコ、ヒバゴン、サスクワッチ等々九十九の獣たちがずらりと列をなす。
「そこで、百獣の王が誰だか、実力計ってみようと思うんだがどうだろう」
猛獣たちの牙も爪も角もライオン(元ネコ)を狙って光っている。誰も笑っていないのに牙がよく見える。マニキュアもペディキュアもしてない筈なのに真っ赤に爪が輝いている。丁度時間はお昼過ぎ。「まだご飯食べてなかったなぁ」と、ライオン(元ネコ)は思った。
後に残るのは真っ赤な水たまり。
この本の内容は以上です。

折羽 ル子