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未来屋

未来屋

女子が噂していた店の前までやってきた。

 店といっても看板らしい看板はない。
入り口らしき思われるドアは古い木製で、ドアノブはたくさんの人が来ているのかあるいは年月のせいなのかかなり変色しボロボロのように見える。
ドアの周りにはどこまでが建物の壁でどこが窓なのかも見分けがつかないほど、びっしりとつたが生えていた。
ドアには「見料 1万円」とだけ張り紙があって、端はのりが取れているためか、風が吹くたびにぱたぱたと動いていた。

女子の噂によるとほとんどの女子は結婚のことを占ってもらう、と聞いた。
いろいろ聞くことができるのだが1分野につき1回だけ。
結婚なら1度占ったら次は別のことを占ってもらうらしい。
そして未来のことだから当たるかどうかはその時になってみないとわからない・・・と。

ごくっ・・・

バイトもしていない高校生の僕にとって
1万円はかなり勇気のいる金額だ。
お年玉をもらった時にほしいものがなく、いつかと思っていた貯金の中から出してきたお金だ。

これでいいんだよな?多分・・・

勇気を出してドアを開けた。


1
最終更新日 : 2012-04-27 18:22:20

未来屋 続き

ギ・・・ギギギ・・・ィィィ・・・
かなり音がしてドアを開けて中に入ってみた。

受付のようなカウンター。
左にはソファとテーブル。観葉植物。

・・・何だ。普通じゃないか。
もっとおどろおどろしい場所だと思っていたけど。
中は照明があるせいか意外と明るかった。

「ニャァん・・・」
「わっ?!」
猫の鳴き声にびっくりしてしまった。
足元で猫は頭をこすりつけている。

「驚かせてごめんなさいね。ルナはお客様が大好きなの」

見上げると、黒髪のロングヘアの女性が立っていた。
24、5歳くらいの細身の女性だった。
「占いに来たんでしょう?」
そう言って笑顔を見せた。
「そこにあるソファへどうぞ。少し待っていて」
言われるままに腰を下ろした。
猫がついてきて、ソファに座ると猫も膝の上に乗ってきた。
猫の頭をなでたり、喉をさすってあげると気持ちよくなってきたのか喉を鳴らし始めた。
「かわいいなぁ・・・」
しばらくするとさっきの女性が何かを持ってやってきた。
「お待たせしました」
カチャ、と置かれたティーカップには見たこともない飲み物が入っている。
それとチョコレートのようなお菓子。
「どうぞ♪」
「・・・あのうこれは何て言う飲み物なんですか?」
「これはねハーブティ。香りが良くて体にもいいの。
リラックスできるんですよ」
良い花の香りがする。一口二口・・・。
緊張で喉が乾いていたせいか、一気に飲み干してしまった。
「ご、ごちそうさま」
「どういたしまして。
ここに来るのは初めてですよね?」
「はい」
「お名前とか年齢とか言う必要はないんです。
ただ、ルールがあって、占って欲しいものはひとつの部屋につき1つだけ。それ以上はできません。」
そう言って紙を渡された。
円を12に分け、ひとつひとつ◯◯の部屋と書いてある。
「あなたが占って欲しいのはどれ?」
「こ・・・この仕事の部屋をお願いします。」
「わかりました。今探して来ますので、少々お待ちくださいね」
そう言うとカウンターの奥へ女性が消えていった。
しばらくすると女性は戻ってきた。
「おじいさんはいますか?」
「おじいさん・・・?今は亡くなっていますが」
「わかりました。もう少し待ってて・・・」
女性はもう一度戻ってきた。
「利き手はどっち?」
「左手です」
「ありがとうございます。もう少しで見つかると思います」
カウンターの前でしばし待った。
変な質問をするんだな。名前は聞かないのに・・・
「ありましたよ~」
奥から少し小さな声で聞こえてきた。

しばらくすると黒いゴーグルのようなものを持って女性は現れた。
「お待たせして申し訳ありません。そこのソファにもう一度座ってもらっていいですか?」
ハーブティーを飲んだテーブルのところへ戻り、ソファへ座った。
「これをかけてみてください」
持っていた黒いゴーグルのようなものを女性は差し出した。
「・・・これは?」
「これをかけると占いの結果が見えてくるんです。」
・・・占いってそういうものなのか?
半分怪しいと思いながらもその黒いゴーグルのようなものをかけた。


2
最終更新日 : 2012-04-27 18:19:31

未来屋 続き2

しばらくすると映像が3D映画のように見えてきた。


机の並ぶ拾いフロア。
僕はその一角でパソコンに向かい仕事をしている。
課長と思しき人に自分の名前を呼ばれる。
「鈴木君、何度言ったらわかるのかね?
ここ違うよ、ここが。
先日も同じ間違いをしているだろう?
いい加減にしたまえ」
「は、はい」
「隣の佐藤君が気づいてなかったらまた同じミスをしていたんだ」
周りからは女性の笑い声が聞こえてくる。
恥ずかしい・・・
課長の説教は数分に渡り、フロアの端まで届くかと思うような大声で続いた。
席に戻ると佐藤が話しかけてきた。
コイツとは同期だった。
だが最近は佐藤の方が仕事ができるので、どうしても比較されてしまう。
「大変だったな」
「まぁ・・・」
「困ったことがあれば何でも言えよ。」
そう軽く言うけど・・・相談なんかしていたらますますみじめじゃないか。
そう思うと悔しさがこみ上げてきた。

就業時間が近づくと佐藤に必ず女性が近づいてくる。
アフター5の誘いをしてくるのだ。
「鈴木君も一緒にどう?」
いいな、と思っている三木さんだが佐藤がいちゃかなわない。
「残った仕事を家でやるから帰るよ」
そう言って先に会社を出た。
仕事ができない上に恋愛も・・・
嫌だな、こんな自分。
とぼとぼと一人の帰り道。
会社では怒られるし、モテないし。
ずっとこうやって年をとるのだろうか・・・
食事、風呂。テレビはつまらない。
早々に布団に入ることにした。
明日はせめてミスをしないように仕事をしよう。
布団に潜り込んで泥のように眠った。


3
最終更新日 : 2012-04-27 18:20:43

未来屋 続き3

・・・朝?
いや・・・ここは家だ。
自分の家、自分の部屋。
ベッドで寝てしまったのだろうか。
さっきのは・・・夢?
確かに僕は占いのお店に入って
お茶を飲んでゴーグルをかけて・・・
「ご飯よー?冷めちゃうわよ。いるんでしょ?」
母親の声がする。
もう夕食の時間だったのか。

あれから財布を確かめてみると1万円だけがなくなっていて、食べそこねたチョコレートのお菓子がポケットに入っていた。
僕は確かにあのお店で占いをしてもらっていたんだ。
そしてあの夢は僕のこのままの状態の未来だったのだろうか。
このままでは冴えない会社員で生きていく。
それは・・・

「どうしたの?食欲ないんじゃない?」
母親が心配そうな顔をして僕を見ている。
「ううん・・・何でもないよ」
「そう?」
「母さん・・・僕」
「なぁに?」
「今日から勉強する」
「どうしたの?自分から言い出して」
「勉強したいんだ。塾行きたい」
「えっ?!」
「本気だよ。がんばりたいんだ」
「そ・・・そうなの?塾探さないとね。」

母さんは驚いていたが、僕は本気だった。
部屋に戻ると俄然勉強した。
宿題だけじゃない。予習も復習も。
やればできるじゃないか。
自分で自分を励ましていた。

あれから・・・僕は変わった、のかもしれない。
同窓会で会った同級生からは羨望の眼差しで見つめられることが多くなった。
「◯?会社にいるの?すごいじゃない!」
「彼女いるんじゃないの?」
「今はいないよ・・・」
「今度メールして。待ってる」
待ってると言われた女子は昔僕をからかっていた子だった。

でも、今はこれでいい。
あの占いは僕だったのだろうか。
あの占いを見たおかげで僕は変わることができたのかもしれない。
未来を知らなかったらあの通りになっていただろう。

今もそこに占いのお店はあるのだろうか?
僕の未来を変えてくれたお店は。

未来屋 voi.1 終わり

4
最終更新日 : 2012-04-27 18:21:46

奥付



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著者 : 宮里砂智子
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最終更新日 : 2012-04-27 18:16:37

この本の内容は以上です。


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