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美菜斗

最近の俺は、再びテンダネスに乗り、宇宙で暴れまわっていた。
日本最大の掲示板サイト2chで、俺が水陸両用機で、バカみたいに宇宙で戦っている事を書かれたのが、1カ月前。
それからやはりと言うか、わざわざ遠征して戦いをいどんでくる奴がいた。
しかし俺は、もうモノトーンで出撃していない。
乗りなれた最近の主力機、テンダネスに乗っている。
来る敵来る敵、倒しまくっていた。
するといつからか、白い稲妻とか、稲妻アライヴとか、言われるようになっていた。
二つ名は、強い者につけられる勲章みたいなものだから、俺は嬉しかったが、同時に照れくさくもあった。
ちなみに、ジークやサイファさんにも二つ名はあるし、ダイユウサク軍には、二つ名持ちが大勢いた。
俺もようやくその仲間になったのだなと思った。
ところで、俺がそう呼ばれるようになった理由にはもちろん強さもあるが、稲妻ってのは、テンダネスにペイントした背中の傷。
雷みたいだとは思ったけれど、まさかこれが二つ名になるとはね。
俺にとっては戒めの為のペイントだったのに。
少し苦笑いした。
俺がテンダネスで出撃するようになったからだろうか。
このところは戦闘も、各軍の動きも活発になってきた気がする。
戦闘時間中は、頻繁に各軍の戦闘結果が表示されているし、静かだった頃が嘘のようだ。
前に見た、あの2chに書いてあった最後のレス。
「賞金見て参戦か?美菜斗よ。もう入る余地ねぇぞw」
これを見た時、何かが起こりそうな予感がした。
俺は美菜斗という名前に見覚えがあったから。
俺はすぐにこの名前を、宇宙の絆Ⅱ内で検索した。
確かにいた。
そしておそらく本人に間違いないと思った。
美菜斗さん。
シミュレーションネットゲームでは、超有名な人。
アクション系ではドリームダストが有名だが、シミュレーションでは美菜斗さんと言われるような人。
でも決して、戦略が凄いとか、戦術に長けているってわけではない。
一言で言うなら、エンターテイナー。
高い能力値を言うなら、カリスマ。
長くネットゲームをやっているそうで人脈も広いし、人柄も良い。
宇宙の絆Ⅱを始める前まで、俺はこの人と、ブラウザ戦国大戦というネットゲームで、半年ばかり一緒に遊んでいた。
たった半年だったが、シミュレーションが得意ではない俺でも、この人の元だと楽しめた。
とにかく味方からの評判は良い。
ただし、美菜斗さんに負ける人は、すっごく面白くない負け方をする。
だから一部、凄く嫌っている人がいるのは、仕方の無いところだろう。
不敗の美菜斗と呼ばれる彼が、美菜斗にだけは手を出すなと言われる彼が、宇宙の絆Ⅱに参戦してきたのだから、きっと何かが起こる気がしていた。
先日までの静けさも相まって、俺はそう確信していたわけだが、いつの間にか忘れるくらい、普通の日々へと変わっていた。
2chで見た時は、もちろんすぐに紫苑さんに連絡を入れた。
紫苑さんは全く知らなかったようで、気をつけておくって話だった。
それ以後、この話が話題に上る事は無かった。

更に数日が過ぎても何事もなく、紫苑軍は絶好調。
元々戦力は、ジーク軍、サイファ軍に続いて3位だったが、下との差はドンドン広がって、サイファ軍とももう差は無い。
ちなみに戦力ってのは、プレイヤの数と、生産性で判断している。
人型の数や、艦船の数は、だいたい生産性で決まると言っていいからね。
2位や3位と言っても、今まではそれ以下ともドングリの背くらべ、五十歩百歩だったが、今では確実に抜け出そうとしていた。
ちなみにダイユウサク軍は相変わらずで、軍の戦力としては、30位前後といったところ。
それでも、トップレベルの軍と差の無いポテンシャルを持っているからね。
一騎当千って言葉があるけれど、ダイユウサク軍のメンバーは本当に、一機が千機の働きをするから。
こう考えると、4軍がやや抜け出しつつある状況だ。
ファーストの時と同様な展開だなと思った。
 一生「結局美菜斗さんでも、此処からじゃ何もできないか。」
俺は独り言をつぶやき、PCの電源を切った。
2chのスレに、「そろそろ美菜斗がくるぞw上位の軍は気をつけろよww」と書かれていた事を知るのは、全てが終わってからだった。

前触れ

土曜日の朝、紫苑軍はドタバタしていた。
原因は、紫苑さん宛てに送られてきた、1通のメール。
宇宙の絆Ⅱでは、メールに相当する機能は無かったが、銀河バリューネットの会員として、別の会員にメールを送る事はできる。
以前、ゲームのシステムに組み込む話もあったが、無駄な機能だとして、その話は無くなっていた。
まあそんな話はどうでもいい。
とにかく、問題は送られてきたメールの差出人と、その内容だ。
差出人は美菜斗。
内容は、紫苑軍領域に隣接する曹操軍が、今夜、我々に大攻勢をしかけてくると書かれていた。
狙いは、有人要塞カテーナ。
我が軍領域の後方に位置するこの要塞は、かつての最前線基地であり、後方を守る重要な場所でもある。
普通に今までどおり対応しても、そう簡単に落とされる要塞ではないが、落とされると流石に痛い。
とりあえず曹操軍への対応と、美菜斗さんがこういったメールを送ってきた意図を相談したいが、紫苑さんは「これから会社だから。対応は帰ってから(^0^)」と言い残し去って行った。
土曜日なのに仕事とは、全くついていない。
さて、どうしたものか。
誰かと相談したいが、こんな時間に相談といっても、相談できる人はおそらくいないだろう。
俺はぼんやりとモニターを眺めていた。
それにしても、とうとう美菜斗さんが動いた。
少し嬉しい気持ちもあった。
美菜斗さんと直接話をしてみるか?
いや、俺は戦国大戦の時と名前も違うから、話しかけても分からないだろうし、戦国大戦の時の名前を告げても、覚えてくれているかどうか。
それに通信じゃなく、わざわざIDナンバー宛てにメールを送ってきたわけだから、何か意図があるのかもしれない。
更にどうして、こんな情報を教えてくれたのか。
美菜斗さんの軍はまだまだ小さな軍なのに、現在3位の我が軍に有利な情報を、わざわざ教えてくれるだろうか?
これが、相手がジーク軍だとかなら話は分かる。
強い軍が更に強くなるのを防ぐ為って事だから。
でも、曹操軍が勝った方が、美菜斗軍には有利なはずだ。
だいたいこれは正しい情報なのだろうか。
いや、正しい情報だろう。
美菜斗さんが嘘を言うとは思えない。
美菜斗さんの人徳は知っている。
冷静に考えれば結論は一つ。
曹操軍は今夜、カテーナに大攻勢をかけてくる。
そして現在紫苑軍は、ERROR軍と交戦中だ。
今日も攻める予定だったし、向こうももしかしたら反撃を考えていたかもしれない。
マップ下側はサイファ軍との隣接地帯が多いから安全そうだが、以前戦闘状態だったしゃにゃ軍との隣接は切れてはいない。
曹操軍、ERROR軍との交戦を知ったら、空き巣狙いにしゃにゃ軍が攻めてくる事も十分あり得る。
だがこの中で、一番番厄介なのは、攻撃箇所、軍の規模、領域の場所、全てで曹操軍が際立っている。
ERROR軍も軍全体としては規模が大きいが、領域が二つに割れていて、我々と隣接している方は重要視されていない観がある。
俺の考えは固まった。
美菜斗さんの情報を信じ、今日は曹操軍に対応するべきだと。
紫苑さんが来たら、そう伝えようと思った。

18時頃、ようやく紫苑さんがあらわれた。
俺は既に他の人にも意見を話し、概ね同意を得ている。
だから紫苑さんも、そうする事に決定するものだと思っていた。
しかし紫苑さんは、ハッキリと言い放った。
 紫苑「今日もERROR軍領域に進行する!土曜日だし、今日と明日で、こちら側の領域を全部奪うぞ!(^0^)」
どういう事だろうかと思った。
曹操軍は間違いなく攻めてくる。
 アライヴ「いやでも、前面にERROR軍、後背に曹操軍、しゃにゃ軍もどう動くかわからないし、此処は曹操軍に全力であたった方が良くないの?」
 紫苑「曹操軍は別に怖くない。背後つかれてカテーナとか、シオンまで取られるかもしれないけれど、曹操軍なら簡単に取り返せる!(^-^)v」
紫苑さんは、カテーナも、そして最初の本拠地だったコロニーシオンさえも、取られて良いと考えているのか。
確かに、まともに戦ったら、俺達は確実に勝てる相手だけど、取られないに越したことはないのではないだろうか。
そこまでして、今日ERROR軍を攻める意味はあるのだろうか。
せっかく得た情報を無駄にする事もないようなきもするが。
 紫苑「レイズナー、もし曹操軍が攻めてきたら、カテーナ取られても問題ないから、なるべく損害を少なく、敵のダメージは多く、これだけ考えてくれ。」
 レイズナー「取られても良いのかよwだったら衛星兵器爆破してやるかw」
 紫苑「イイネ!まかせた!(^0^)」
マジでそんな事するのだろうか。
 アライヴ「そんな事したら、取り返しても、元に戻すまで時間も金もかかるよ。」
 紫苑「俺達は、既に地球に拠点を持っている。多くのコロニーや有人要塞もあるし、生産性は十分足りている。今更この程度の有人要塞を失っても、全く問題なし!(^0^)」
言われれてみればそうかもしれない。
俺は愛着ある要塞だったから、失う事が嫌だっただけなのだろうか。
 アライヴ「了解!じゃあ地球の人の作戦行動もそのままで?」
 紫苑「もちろん!(^0^)壁はガンダーラの守備、アブサルートはサハラの守備を、サラには地球での攻守全ての作戦指揮を頼む。宇宙はイゼルローンを中心に、てけとーとジークが駐留、レイズナーは後方全ての指揮を、前面は俺と紫陽花と星で。しばらくはこの形で大丈夫。」
此処までついてきた紫苑さんだ。
ファーストの頃からずっとやってきたんだ。
紫苑さんを信じよう。
俺はそう思った。
 アライヴ「美菜斗さんへの対応は?」
 紫苑「無視無視!(^0^)」
紫苑さんらしい。
そう思うと、なんだか安心してきた。
そして、程なくして、時計は19時をさしていた。
この紫苑さんの決定が、全ての人の勝敗を左右するほどの、大きな結果を、いや功績をもたらすとは、この時誰も知る由もなかった。

嵐の中へ

19時を回ったところで、俺達紫苑軍の主力部隊、紫陽花部隊、星部隊は、ERROR軍領域への侵攻を開始した。
とすぐに、レイズナーさんから連絡が入る。
 レイズナー「曹操軍、ほぼ全軍が集まってきてるぞ。本当にカテーナは放棄する方向で良いんだろうな?」
 紫苑「オッケーオッケー(^0^)」
やはり曹操軍が攻めてくる情報は、嘘ではなかった。
ピンチな状況なのに、美菜斗さんが嘘を言っていなかった事に少し安心した。
 紫苑「俺達は、全力でERROR軍を蹴散らすぞ!(^0^)」
 アライヴ「了解~」
 スピードスター「♪」
 紫陽花「頑張ってねw」
相変わらずの紫陽花さん他人事発言に、少し笑えた。
紫苑軍としては、今までで一番の攻勢を受けようとしていたわけだが、俺はワクワクしていた。
やはり戦いは、強敵がいる方が面白い。
曹操軍が強敵だとは言わないが、結局俺達紫苑軍の敵は、その他全てなのだから。
前方からERROR軍、そして後方から曹操軍、おそらくこのチャンスは逃さないだろうしゃにゃ軍も含めて、全て同じ敵だと考えたら、それは強敵だ。
 紫陽花「前方に敵影、人型発進お願いします。」
 アライヴ「今日は早いね。もしかしてこっちに攻めてこようとしてた?」
 紫苑「曹操軍がこちらに攻めてくる事を知っていたのは、俺達だけではないって事だな。(^-^)v」
なるほど。
そしていつもよりも戦力が大きい気がする。
ERROR軍と曹操軍が繋がっていても、なんら不思議はない。
 アライヴ「アライヴいきまーっすw」
 紫陽花「w」
なんだかテンションが上がってきた。
戦闘は、いつもよりも調子が良かった。
 アライヴ「5機目!」
 チョビ「3き~」
 みゆき「まだ1機だよぉ~泣」
戦況は良かった。
なんとなくだけど、相手は戸惑っているような感じに見えた。
もしかしたら、紫苑軍は今日攻めてこないとでも思っていたのだろうか。
確かに俺が指揮官だったら、きっと曹操軍防衛に動いていたから、ERROR軍を攻める事もなかったけどね。
流石紫苑さんだ。
きっとERROR軍が攻めてくる事も分かっていたのだろうなと思った。
しばらく優位な戦いを続けていると、イゼルローンのてけとーさんから通信が入った。
 てけとー「なんだかしゃにゃ軍の動きもおかしいぞwこっちの領域のすぐそばに、ほぼ全軍集めてるんじゃね?」
思ったとおり、このチャンスを逃しはしないか。
 紫苑「オッケーオッケー(^0^)てけとーはイゼルローンだけよろw星、真面目に戦わなくて良いから、適当に足止めしてきてw」
 スピードスター「♪」
これで結局、一番恐れていた状況になったって事か。
曹操軍への対応を、もう少ししっかりしていたら、地球からサラ部隊だけでも引き揚げてきていれば、何処も失わずに済んだかもしれない。
でも今の状況だと、曹操軍としゃにゃ軍には負ける。
ERROR軍に今日勝つ意味はあるのだろうかとも考えたが、楽しいから良いかと気持ちを切り替えて敵を倒しまくった。
戦闘開始から1時間が過ぎた頃、しゃにゃ軍の侵攻も始まった。
曹操軍とレイズナーさんは既に交戦中だ。
我々は戦力を分散されて、一見負けているように見えるが、これが作戦どおりというか、紫苑さんの指示だから問題ないのだろう。
それにしてもERROR軍、今日は本気だ。
この戦力は、ほぼ全ての戦力をこちらに向けているとしか思えない。
だがこれはありがたいかもしれない。
この戦いで勝利すれば、ERROR軍は屠ったも同然だ。
紫苑さんの言っていたとおり、今日明日で、ERROR軍に勝利できる。
と言っても、マップ右上ブロックのERROR軍だけど。
それでも戦力のほとんどは削れるわけだ。
あれ?という事は、紫苑さんはこの展開をやはり読んでいた?
紫苑さんは流石だなと思ったり、さっきはもっと良い方法があったのではと思ったり、そしてまた凄いなと思ったり、俺も忙しいな。
まあでも、ただ言える事は、俺は紫苑さんを信じるって決めている事。
これさえ間違えなければ、なからず優勝争いできると確信した。
更に1時間が過ぎた頃、とうとう曹操軍に、要塞を1つ落とされた。
 アライヴ「もう落とされたか・・・」
 紫苑「いや、思ったよりレイズナー頑張ってるなwこの調子なら、カテーナは大丈夫かも(^-^)」
俺は落とされるのが早いと思ったけれど、紫苑さんは思ったより遅かったというのか。
これは、良い感じだと思って良いのだよな?
目の前の戦闘も勝っているし、しゃにゃ軍の侵攻にも星さんが対応している。
チラッと美菜斗の名前が頭をよぎった。
何か嫌な予感がした。
そう思った時、情報告知スペースに、美菜斗の文字を見つけた。
「美菜斗軍が、クマクマ軍を吸収。クマクマ軍は消滅した。」
あ、そうか。
この手があったか。
俺は美菜斗さんの台頭を確信した。

美菜斗の狙い

美菜斗軍にクマクマ軍が吸収されたのを皮切りに、次々と弱小軍が美菜斗軍へと吸収されていった。
吸収や合併には制限がある。
クライアント側で発表するランキングで、50位以内の軍同士では、合併も吸収もできない。
更に、吸収される側の軍に所属する者は、査定ポイントが大きくマイナスされる。
それは、その後優勝しても、たいして賞金は貰えないほどの、大きなマイナスだ。
優勝しそうな軍に吸収されようとする者を防ぐ為の処置だが、当然吸収される事を良しとしない人が多くなるペナルティだった。
だから、俺の頭の中には、合併や吸収という戦略は端から無かった。
しかし、冷静に考えれば、美菜斗さんらしい戦略だと思う。
ブラウザ戦国大戦の時も、同じような手を使って、一気に勝負を決めていたのだから。
それを知る者なら、この話を持ち掛けられれば、優勝できると思うだろう。
そして優勝すれば、査定で大きくマイナスがあったとしても、多少は賞金を手にできるかもしれないし、なんと言っても優勝だ。
ゲームだから勝ってなんぼだ。
賞金ばかり意識していたが、やはり勝たないとゲームは面白くない。
 紫苑「うはwドンドン美菜斗軍がでかくなっていくよ(^0^)」
紫苑さんの言葉に、全体マップを開いてみたら、秒単位で領域が塗り替えられていくのが分かった。
もう凄いとしか言いようがない。
これだけ多くの人を巻き込んだ作戦は、ジークでも無理だろう。
ふとジーク軍の勢力図が気になった。
マップ左下ブロックをみると、ジーク軍領域を、着実に美菜斗軍が取り囲んでいくのが分かる。
そう、美菜斗軍へと塗り替わるのは、もっぱら左下ブロックが多かった。
 アライヴ「美菜斗さんの狙いは、もしかしてジーク?」
なんとなく思った事を書いただけだったが、それは的を射た発言だったようだ。
 紫苑「おお!間違いない。ナイスアライヴ。これはできるだけ早くERROR軍を殲滅しないと。よろしく!(^0^)」
どうやら紫苑さんは、ERROR軍との決着を早めなければならない何かに気がついたのだろう。
 アライヴ「了解w」
俺はマップを閉じて、ERROR軍との戦闘に集中した。

23時を過ぎ、チョビがネットから落ちた後も、激しい戦闘は続いていた。
チョビがいなくなると、俺達の戦力はガタ落ちだ。
それでも俺達優位は変わらないが、今までより敵機を墜とすペースが落ちる事は必至だった。
 紫苑「曹操軍完全無視でも良かったな。(^0^)」
それは、レイズナーさんや光合成さんも、こちらに回せば良かったと言う事か。
俺は今のままで良い感じだと思うのだけどな。
しかし、ERROR軍を早く倒さないといけない何かがあるのだろう。
 紫苑「ん~どしよ」
紫苑さんは悩んでいるようだった。
すると直後吉報が入る。
 スピードスター「しゃにゃ軍撤退していく♪サイファが動いたかな?♪」
星さんから入った通信は、今あった懸念を払拭するものだった。
 紫苑「サイファ来たかwよし!星、こっちに戻ってきてくれ!」
 スピードスター「♪」
星さんがこっちに戻ってくる。
これで再びペースが上がりそうだ。
なんだかわからないけど、とにかく良かった。
そしてこうしてる間も、美菜斗軍は吸収を繰り返し、どんどん大きくなっていた。

0時を過ぎた頃、美菜斗軍の拡大は、ようやく終わりを迎えていた。
発表されている同盟ランキングでは、既にジーク軍を遥かに追い越して、1位になっていた。
そして、どうやらジーク軍へ大攻勢をかけるべく動き出したと、情報が入ってきていた。
情報発信者は、サイファさん。
サイファさんも、美菜斗さん同様、多くの人達と良い関係を築く事で勝利をものにするプレイヤだ。
だから今日この事態を、事前に知っていたのかもしれない。
ちなみに、サイファさんのところにも、美菜斗さんからID宛てにメールが届いていたそうだ。
我々に届いたメールと同じような内容で。
実際侵攻してきたようだが、サイファ軍は攻撃してこないと信じて無視したらしい。
するとすぐに撤退を開始したようだ。
撤退の完了を見届けた後、空家になったしゃにゃ軍を攻めてたという話。
しゃにゃ軍が撤退した理由は、やはりサイファ軍の侵攻だったわけだ。
美菜斗さんは今、ジーク軍を攻める。
その際、紫苑軍とサイファ軍を介入させない為に、こういった小細工をしたとすれば、我々は、この戦いに参戦する事こそが、美菜斗さんの計算を狂わせる最大の行為。
だから紫苑さんは、できるだけ早く、ERROR軍と決着をつけたいのだろう。
マップ右上ブロックにあるERROR軍の領域を全て取れば、先ほど美菜斗軍領域になったばかりの場所と隣接できる。
簡単に言えば、ジーク軍を攻める美菜斗軍の背後をつけるって事だ。
美菜斗軍は、ERROR軍を壁にして、しばらく凌ごうとでも思っていたのだろう。
だからもしかしたら、曹操軍をあおって戦闘へとかきたてたのかもしれない。
それでも実際、曹操軍、ERROR軍、しゃにゃ軍が全て全力で攻めてきたら、俺達が負ける事だって可能性としてあっただろうし、そのあおりは良い助言であったとも言えるのか。
サイファ軍も、きっと同様の事態だったのだろうか。
ただ、美菜斗さんに計算違いがあったとすれば、サイファさんもまた人気の高いプレイヤであった事と、紫苑さんを侮っていた事。
それでも、美菜斗さんの大きな優位は揺るがないわけだけどね。
せめて少しでもダメージを与える為に、俺はこの戦局に関係ないERROR軍との戦闘を続けた。
マップ上では、先ほどまであわただしく塗り変わっていた勢力図が、完全に沈黙していた。

絆決戦

時計の針は、朝の6時をさしていた。
流石にぶっ続けで戦闘を続けるのは辛い。
だが、此処で眠るわけにはいかない。
要塞を落として、艦船に戻って移動している間が唯一の休憩タイム。
わずかな時間に食事をして、風呂にも入ったが、寝る事は不可能だった。
寝たら数時間は起きられそうになかったから。
敵も同じだろうと思う事で、なんとか気力を振り絞ってコントローラーを操作していた。
みゆきちゃんは今日予定があるとかで、1時を回ったあたりで早々にネットから落ちていた。
最前線で残っている主力は、紫苑さんのパープルアイズに、じぇにぃとハルヒくんと美夏さん。
紫陽花さんのパープルフラワーに俺。
スピードスターに暗黒天国さんだけだった。
こういった、朝まで戦闘ってのは何度か経験しているが、準備もせず一睡もしないのは初めてかもしれない。
実際やってみると、かなりグダグダになる事がわかった。
曹操軍の侵攻も勢いを無くし、2つ目の要塞を落とされたところで、動きは止まっている。
動きがあるのは、俺達がいる戦場と、しゃにゃ軍の領域が、徐々にサイファ軍へと変わっていくだけだった。
それにしてもおかしいのは、ジーク軍と美菜斗軍との戦闘だ。
サイファさんからの情報だと、確かに今も戦闘は続いているとの事だ。
だけど、未だに1つも拠点の持ち主が変わる事が無かった。
それはすなわち、お互い要塞を占領する事を考えていないって事だろう。
美菜斗さんのやり方を考えれば、おそらくジーク狙いだと確信できる。
そしてジークがもしやられれば、ジークの性格を考えると、軍を消滅する事も考えられる。
それで決着がついてしまう。
この戦いは、美菜斗さんがジークを倒せるか倒せないかで勝敗がきまりそうだ。
いや、この状況をつくっただけで、既に美菜斗さんがこの週末の勝利者である事は、誰の目にもあきらかである。
だからせめて、完全勝利だけは、なんとしても阻止しなければならなかった。
結果ジークを助ける事になったとしても、それは必要な事だと思った。

8時になろうかという時間、チョビがあらわれた。
少しの間だけならやれるというので、俺は一旦チョビと代わって寝る事にした。
紫苑さんと紫陽花さんは、指揮をどちらかに任せて交代で寝ているようだ。
星さんは、寝なくても大丈夫って事でフル活動。
それに付き合って、暗黒天国さんも頑張っていた。
そして11時を過ぎた頃、ようやくERROR軍の最後の要塞を落とす事に成功した。
ちなみに俺が寝ている間だった。
すぐにチョビと交代して、一旦イゼルローンに戻る。
これからが本番。
美菜斗軍との戦闘の前に、補給と休息の時間がとられた。
補給は本来、あまり必要がない。
土曜日から日曜日の戦闘をフルに戦えば、艦船でも流石に燃料は尽きるが、ずっと戦い続けるなんて事はまずあり得ないから。
時々ミサイル兵器と言うか、物理兵器が底をうつ事もあるが、そもそもミサイル兵器の利点はそれほど多くはなく、無ければ無いでそれほど困らない。
物理兵器の利点は、追尾ミサイルや、弾幕に必要なくらいで、スピードも遅く目視で十分回避できるので、デメリットの方が多い。
後は、バリア対策くらいか。
実はこのゲームにはバリアというシステムがある。
艦船でピンポイントバリアを使うのが一般的だが、艦船、人型共に、全方位バリアが存在する。
ただ、全方位バリアをはると、ビーム兵器が使えなくなるし、自分の意思で動くことも不可能になる。
コストもバカみたいに高いし、使う人はごくわずかだった。
とはいえ、バリアを使った戦術を得意とする人もいるし、バリアを張られるとビーム兵器の多くがほぼ無力化されるので、保険程度の物理兵器を搭載する人が多かった。
 紫苑「一応この後の戦いは遠征もあり得る。アライヴはこっちに乗って、紫陽花にはパープルリリーで、後方支援と補給艦的役割を果たしてもらう。」
紫陽花さんの第二の艦船パープルリリーは、とにかく火力重視の鈍重な艦船である。
あらゆる兵器を大量に搭載しているが、もちろんこんなただ兵器を搭載しただけの艦では、まともな戦いはできない。
では何故こんな艦船を造ったのかと言えば、補給の為である。
この宇宙の絆Ⅱでは、補給艦は存在しない。
だけど、別の艦船の物資を移してくる事は可能だ。
そこで補給艦的役割の艦船を、こんな形で造っているというわけ。
 アライヴ「遠征になるの?美菜斗さんなら、守りも考えていると思うけど。」
俺は一応の疑問に対して、答えを求めた。
これから攻撃をしかけるのは、美菜斗軍の要塞であり、領域である。
その要塞や領域は、昨日から続く戦闘タイム内に手に入れたものだ。
となると、もともとその要塞を管理していた軍のプレイヤの、艦船や人型が残されたままである可能性が高い。
美菜斗さんはこういったところにも配慮する人だから、みすみすそれを渡してしまうかもしれない作戦はとらないだろう。
ならば守りも考えているはずで、我々が侵攻して行ったら、そこでの戦いになる可能性が高い。
たとえ守りがいなくても、要塞を落として行くには時間もかかるし、遠征をする可能性は限りなく0なような気がした。
 紫苑「おそらく守りは無い。曹操軍がこちらに攻めてくる事を伝えてきたのは、守りができないから、他に気をそらせる為でしょ。(^-^)v」
なるほど、確かに紫苑さんの言うとおりだ。
対策はしていた。
おそらくこういった方法で、多くの軍に対して、今回の対ジーク戦に介入してこないように、なんらかの手をうっていたに違いない。
俺の勘だけど、その対策にのらなかったのが、紫苑軍とサイファ軍だったってわけだ。
今回の作戦は、宇宙の絆Ⅱでは非常識な戦略だが、美菜斗さんはシミュレーションゲームの王道的戦略を、素直に持ちこんだに過ぎない。
でもこれだけやられてしまっている。
なんとなく、宇宙の絆Ⅱの古くからのプレイヤがバカにされている感じだ。
宇宙の絆Ⅱのゲーマーと、美菜斗さんの対決のような気もした。
 紫苑「よし、そろそろ時間だ。勝つぞ!(^0^)」
12時ちょうど、紫苑さんの命令を受けて、俺達は出発した。

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