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砂漠での戦い

地球での戦闘は、後半戦へと突入していた。
と言っても、グリード軍が地球を制覇しそうだとか、そういう意味ではない。
連合期間が、残り1カ月を切ったって事だ。
そして、今日からは、新たな戦闘フィールドになる。
今までは、荒野、街が中心のフィールドだったわけだが、今度攻撃する場所は、砂漠がフィールドの大半だ。
話を聞くところによると、砂漠での戦闘は、ホバータイプの人型が圧倒的に有利なフィールドであるという事だ。
ウイングをつけて、空を飛んで戦おうと思っていたが、一度ホバータイプを試してみる必要がありそうだ。
俺の所持機、SSとテンダネスは、足がスカートタイプではないので、ホバーシステムをつけられない。
俺は久しぶりに、キュベレイに乗る事にした。
宇宙から地球におろし、ホバーシステムをつける。
意外と調整が難しく、今までのようにフェンネルを大量に搭載する事はできそうになかった。
それでも、戦闘開始時間の19時までには、それなりに納得できる状態になった。
いざ、戦闘開始だ。
まずは艦船で敵の拠点へと向かう。
俺はキュベレイ内で待機中だ。
この時間は毎回ワクワクするが、今日は少しドキドキも混じっていた。
しばらくすると、紫陽花さんから通信が入る。
 紫陽花「そろそろ出撃よろしくw」
 アライヴ「ラジャ!」
 チョビ「はーい」
 みゆき「了解w」
紫陽花さんの指示により、いよいよ出撃だ。
今回は、チョビとは共闘しない。
なんせキュベレイだからね。
ちなみにチョビも、人型をホバータイプに改良していた。
元々、素早い動きを旨とする機体でも戦い方でもないし、つけておいてマイナスはほとんどないはずだ。
問題は、お互いホバータイプで戦闘するのも、砂漠が多いフィールドで戦うのも初めてだって事だ。
艦船から発進して、砂漠へと降り立った。
足元がしっかりしていないから、ゆっくり機体が傾く。
放っておくと倒れるので、少し動いて体勢を整えた。
俺もチョビも、今までの戦闘で、多少砂地を経験はしているので、倒れる事は無かった。
しかし、やはりこんなところで戦うとなると、辛い事は確か。
みゆきちゃんも倒れはしなかったが、かなり苦労しているのが見えた。
敵の機影がレーダーに映る。
俺は早速ホバーシステムを起動した。
体が少し地面から浮き、機体が安定した。
ふわふわ浮いているような感覚は、今までにない感じだ。
ホバータイプと言えば、先日おとめさんとテストバトルした時の事を思い出す。
他にもサラさんやサウスさんが、ホバータイプを使うのを見ている。
どういう戦い方ができるかは、イメージとして頭の中には既にあった。
戦闘が始まった。
 一生「思ったより結構きつい。調整が必要だなぁ。」
動きは早く、スムーズに動けるのは良いが、上半身が安定しない。
こんなのでよく戦えるなと、少し感心する。
俺のキュベレイは、下手な踊りを踊っているように、フィールドを移動していた。
それでもなんとか、敵をうまく倒していった。
チョビを見てみると、なんの問題も無かった。
元々不安定な機体で戦い続けていたし、動きまわる戦術でもない。
むしろ回転が楽にできる分、今まで以上に良い戦い方ができているようだ。
チョビには砂漠があっているのだなと思った。
概ね砂漠の敵を撃破したところで、グリードさんの艦船の近くに集まる。
敵本拠地を落とすのは、今日はグリードさんの軍が行う。
同盟軍は、グリード軍に吸収されるような形をとっているので、別に誰が落としても、奪った拠点はグリード軍の拠点になる。
でも、拠点を落とした時の経験値や、陥落ボーナスアイテムなどは、拠点を落とした個別の軍、個別の部隊、個別の人へ入る事になる。
此処までは結構、紫苑軍やサイファ軍が落とす事が多かったので、今日は譲ろうと言うわけだ。
グリード軍と同盟を結び、共同戦線を張っているのは、あくまで地球戦になれる事と、地球用パーツを手に入れる為。
その代償として、拠点を増やす事に協力しているわけだ。
もちろん、今後の良い関係を築く為なのは言うまでもないだろう。
だから、経験値や戦利品は、譲る事も当然の事だった。
ただ、今日は手こずっていた。
グリード軍には、そこそこの人型乗りはいるみたいだが、トップクラスで戦えるパイロットがいない。
一人で状況を打開できるようなパイロットが一人でもいれば、グリード軍はもっと強くなっていただろう。
グリード軍が、今までなかなか拠点を増やせなくて、我々の協力を必要とした理由はそこにあった。
どうやら拠点の中に、強い敵が1機いたようで、手こずっている。
本来、拠点や要塞内で、人型によって迎え撃つ事はしない。
理由は、拠点内でビームやミサイルなど攻撃する事によって、拠点内や要塞内を損傷させてしまうからだ。
ただ偶に、拠点内での戦闘を得意とする人もいるし、もう相手に明け渡す覚悟で、拠点内の戦闘を選択する人もいた。
 グリード「しかたない、俺が行く」
グリードさんが今までに何度か人型で出ているのを、俺は見ている。
そこそこ強い人だとは思うが、俺クラスから見ると、それほどではないし、大将がひとりで行くには危険だ。
万が一にも落とされるような事があれば、グリード軍には後に有力者はなく、軍自体存続は難しいと思われた。
 サイファ「危険です。誰か護衛をつけてください」
 真でれら「俺行こうか~」
 サイファ「いや、真じゃホントに護衛になるw敵の人型を倒せる人がいるだろ。」
サイファ軍の面々は、グリードさんとは仲良しなので、発言も結構気軽にできる。
しかし紫苑軍は、友達の友達みたいなものなので、少し発言しにくかった。
 グリード「いや、大丈夫だろ。敵は一機らしいし、うちの軍のメンバーもいるし。」
確かに数では圧倒的に勝っている。
でも、今まで手こずっていた相手に、グリードさんが行ったところで、状況を変えられるとは思わない。
俺か今日子さんか、後はサラさんか、この中の誰かはつれていって欲しいところだ。
なんだか嫌な予感がする。
此処での行動が、今後を大きく左右する気がする。
もし誰も一緒に行かなければ、きっと・・・
グリードさんの人型「飛影」が、旗艦「大和」より出撃するのが見えた。

グリード軍消滅

敵拠点へと、ただ一機向かう、グリードさんの人型「飛影」の姿が見える。
このまま行っても良いのだろうか?
きっと、今まで自力で落とせた拠点がほとんどなかった事と、今日はグリード軍が落とすと作戦で決まっていたから、無理して出撃しているのではないだろうか。
俺はとりあえず、紫苑さんに相談する為に、全軍チャットではなく、自軍チャットに切り替えて、声をかけた。
 アライヴ「紫苑さん、このまま行かせて良いの?誰か一緒に行った方が良いんじゃ?」
 紫苑「ちょっと考える。待ってて。」
この状況で考える?
紫苑さんの発言に、少し違和感を覚えた。
飛影の姿は、完全に拠点の中に消えていった。
すぐに紫苑さんから、個人通信が入った。
俺は回線を開く。
 紫苑「内緒の話がある(^0^)」
この通信、何か謀略の匂いがした。
 アライヴ「おけw」
 紫苑「実は俺は、此処でグリードがやられる事を期待している。」
やはりそうか。
でもこの言葉には、まだ嘘がありそうだ。
紫苑さんとの付き合いは長い。
これはきっと、この地球での作戦が決まった時から、既に決められていた事だろう。
俺の予想するシナリオはこうだ。
此処でグリードさんがやられる。
そうすると軍は、後継者に継がせるか、消滅かを決定する事になるが、グリードさんの軍には、後を継いでやっていける人物はいない。
となると、消滅やむなしって事で消滅させる事ができる。
本来、通常の状態で解散した場合、解散ペナルティとして、賞金査定にも響くと言われているし、将校以上の者は3ヶ月間、上位軍には入れない。
しかし、消滅だと話は別だ。
やられた大将は、人型、又は旗艦を失う事になるし、経験値も少しばかり減る。
おそらく賞金査定でも、それなりにマイナスになるだろう。
それでもグリードさんなら、大将として此処までトップクラスの軍を率いてきたわけだし、そもそも最初、サイファ軍に入りたいと言っていた。
1週間入る事はできないが、3カ月待つ事を考えれば、やられた方がメリットがあるのではないだろうか。
やられるなら、艦船に乗っている時より、人型に乗っている時の方が、予算的に考えても良い事を考えると、これはますます作戦だと思えてならない。
そして今まで既に40もの拠点を得ている。
グリード軍のメンバーが、自ら軍を立ち上げたり、周りの軍が中立拠点を奪うとしても、いくつかは紫苑軍とサイファ軍で奪う事ができるだろう。
というわけで、だいたいこんな感じになるものだと思っていた。

間もなく、グリードの死と、グリード軍の消滅を告げる告知が出た。
此処まではやはり予想どおりだった。
 紫苑「紫陽花の艦だけ残して、後は中立拠点を奪いに行く。アライヴでも此処の拠点無理そうなら、諦めて撤退してくれ。」
予定どおりと言わんばかりの命令が、当然のように発せられた。
気がつくと、星さんの艦船、スピードスターの姿はない。
既に向かっているようだ。
流石に早い。
小麗さんの艦船、月天も既に行動を開始していた。
星さんの速さは定評があるし、紫苑さんとはリア友だから、こうなる事を聞いていたのだろうし早いのは理解できるが、小麗さんとゴッドブレスのメンバーは流石だと思った。
 アライヴ「チョビ、行くよ!みゆきちゃんは一応、パープルフラワーの守りを!」
 チョビ「はい。」
 みゆき「了解」
俺はチョビをつれて、拠点へと向かった。
サイファ軍と競争になるかもしれないと思ったが、どうやらその様子はないので、既に話はついているようだ。
この素早い決断が、以前からの作戦だった事を確信づけた。
拠点に入っても、攻撃は全く無かった。
どうやら本当に、敵一機に止められていたのか。
拠点内を慎重に進んだ。
司令室まで無事たどり着ければ、拠点は落とす事ができる。
拠点戦ってのは、敵の攻撃をかいくぐり、無事そこまでたどり着く事が主な目的だ。
後はそこで、指定された操作を行うだけ。
拠点の内部構造は、全ての拠点で違う。
それに拠点の防御力によって、司令室までの距離が長くなったり、通路の開閉で迷路のように変わったり、指定操作が複雑化するので、防御力の高い拠点攻略は結構面倒くさい。
でも此処は、事前の諜報活動で、レベルはさほど高くない事は分かっている。
攻撃を受けなければ、5分もしないうちにたどりつけるだろう。
思ったとおり、2分ほどでゴールまでの道のりが見えてきた。
おそらく此処の細い通路をまっすぐ行ったところが司令室だ。
と、そこで思い出した。
此処には一機、強い敵がいた事を。
強力なビーム砲とミサイルが沢山襲ってきた。
狭い通路で、人型が2機、すれ違うのがやっとなくらいだ。
これだけ数を撃たれてはかわせない。
こんな風に守っている拠点だったのか。
今更知っても遅い。
俺はとにかく、致命傷にだけはならないように、被害を最小限にする事だけを考えた。
その時だった。
チョビの人型、ガードナーが俺のキュベレイを押しのけて前にでた。
そして盾の拡散ビーム砲を放った。
助かった。
 チョビ「私が止めるから、すうすんえ」
敵の攻撃を防いだチョビは、慌てているようで、チャットの文字がおかしかった。
でも言いたい事は理解した。
 アライヴ「了解!」
了解って返事は、ダイレクトキーとして設定してあるので、ボタン一つで返事をした。
チラッと、部屋の時計を確認した。
時間は22時45分だった。
PCディスプレイを見た。
ようやく敵機影を確認できた。
名前はアブサルート。
人型名は「拠点の虎」だった。
見ただけで分かる、火力重視の機体だ。
接近さえできれば一気に勝負を決められそうだが、この一本道で接近するのは至難の業だ。
本来なら出直して、強力な盾を持つ人型を2機、つれてきたいところだ。
だが今日を逃すと、再びここを攻める事は、しばらくできそうにない。
多かれ少なかれ、今日手に入れるであろう拠点を元に、地球での足場を固める必要があるからだ。
チョビには悪いが頑張ってもらおう。
接近さえしてくれれば、俺が必ず仕留める。
沢山のビーム砲とミサイルが襲ってくる一本道を、俺達はチョビの盾で受け止めながら、とにかく進んだ。
23時が近づいてくる。
23時は、チョビが寝る時間だ。
これを破る事は許されない。
いつも5分前に落ちるから、今日もきっとそうなるだろう。
ちなみに、戦闘中に落ちた場合は、一番近い友軍基地、又は艦船へと自動的に戻る。
その間攻撃されたら、もちろんダメージを食らう。
回線を切断して、30秒以上たってから完全破壊されても死なないが、機体のダメージは残るし、奪われれば相手の物になる。
意地でも終わらせなければ。
俺は、わずかに距離を残したところで、フェンネルを飛ばした。
そしてガードナーの前に出た。
目の前が爆発に包まれた。

わずかな道を抜けて

俺は爆発の中へと飛び込んだ。
もう、すぐ目の前に、敵が存在した。
俺はビーム砲を一発撃ってから、ビームソードを出した。
キュベレイは良い。
一瞬の瞬発力では、どんな機体にも負けないスピードだ。
行けると思った。
全てが俺の思いどおりに動いた。
しかし、ただひとつ思いどおりには動いていなかった。
俺がビーム砲を撃てば、敵はかわすだろうと予想していた。
だが、そのまま受けていたのだ。
このままではヤバイ。
俺のビーム砲の攻撃で、機体がいくらか損傷していた拠点の虎だが、その力が失われているようには見えなかった。
駄目だ、やられる。
俺は、相当なダメージを覚悟した。
もしかしたら負けるかもと頭をよぎった。
それでも俺は、そのまま突進するしかなかった。。
ビーム砲の発射の兆候である光が、拠点の虎の機体に見えた。
間に合わないか。
その時だった。
俺の後ろから、チョビのビーム砲が、拠点の虎の足を撃ち抜いていた。
バランスを崩した拠点の虎のビーム砲は、キュベレイのすぐ上に抜けていった。
直後、キュベレイのビームソードが、拠点の虎を斬り裂いていた。
決着はついた。
チョビと二人でつかんだ、ギリギリの勝利だった。

無事拠点を攻略した後、チョビはゆっくり話す間もなく、奪ったばかりの拠点に人型を格納して、ネットから落ちた。
俺は紫陽花さんに連絡を入れてから、拠点の司令室で拠点の設定をいじった。
普段あまり拠点の設定はいじらないので、俺にはよくわからず、結局紫陽花さんにほとんどをやってもらった。
俺がやったのは、拠点の防衛システムの起動と、損傷個所の復旧作業依頼だけだった。
紫陽花さんが一通り設定を済ませ、落ち着いたところで、拠点の虎の機体に乗っていたアブサルートさんと話をした。
二人がかりでようやく倒せた相手、地の利と戦略上の優位性を持っていたとはいえ、俺がこれだけ苦しめられた相手はそうはいない。
是非仲間になって欲しいと思った。
 紫陽花「アブサルートさん強いですね。うちのエースが此処まで苦しめられるなんて。」
 アブサルート「機体が良くて、此処の拠点が守りやすかっただけですよ。」
確かにそれはそうだが、普通の人ならよけたくなるビームをかわすそぶりも見せず、攻撃を選んだ選択は、やはり強さを感じる。
少なくともこういった形の拠点なら、もう少し拠点レベルが高ければ、一日二日で落とさせやしないだろう。
拠点レベルが低くて良かったと、改めて思った。
 紫陽花「で、うちの軍にきませんか?」
これが本題だ。
とらえられたプレイヤは、必ずと言っていいほど、こういった話を持ちかけられる。
味方にするか、逃がすか、選択肢は2つしかないからだ。
大将の場合は味方にするコマンドは無く、処刑か逃がすかになる。
ただ、吸収可能の軍の大将の場合は、吸収というコマンドも使えるみたいだが、ほとんどの大将は戦場で倒れる事になるので、俺はそのコマンドを見た事は無かった。
さて、今回の場合は、味方にするか、逃がすかである。
そして即時逃がしたりすると、再び戦いを挑んでくる人もいる。
味方にする事を選んで拒否された場合も、即時自軍に戻る事になるので、同じ危険がある。
だからまずは話をして、味方になる意思を確認し、味方にならないなら、戦闘時間が終了してから自動的に解放という事になるのが普通だった。
 アブサルート「サイファ軍だったらと思っていたんだけどね。どうしようかな。」
どうやら仲間になる事を少しは考えているようだ。
嫌な人は、普通だと即断る。
条件次第って事だろう。
おそらく階級を要求しているのだけれど、紫苑軍の階級の上位に余裕はない。
さて、紫陽花さんはどうするのだろうか。
 紫陽花「そうですか。残念です。では、サイファさんに、アブサルートさんのお気持ちだけお伝えしておきますね。」
紫陽花さんの発言は、予想外のものだった。
これだけ強い人だ。
なんとか説得するものだと思っていた。
それに本人も、条件次第だと言っているようなもの。
何かひと押しがあれば・・・
そう思ったが、結局なんの問題もなかった
言われてみて納得した。。
 アブサルート「いやだなぁ。仲間になりますよ。これだけでかい軍に捕らえられたチャンス逃すのも惜しいし。」
別の軍に入るには、何らかの方法でフリーになるか、裏切るか、捕らえられた時に誘いを了承するか。
この中で一番査定リスクの少ないのが、今回のような場合だ。
まず、裏切りに関しては、取り返し不可能なマイナス査定となる事は、運営も話している。
次に軍を抜ける行為も、退役、死亡、どちらをとってもマイナスは大きい。
で、今回のようにとらえられた場合だが、敗戦によるマイナスは既にあるが、他と比べると査定マイナスは少ない。
他の拠点にある自分の艦船や人型を失うというマイナスもあるが、今回の場合それは考えないくてよさそうだ。
アブサルートさんの艦船も人型も、全てこの拠点にあったから。
なるほど、そういう事か。
元々アブサルートさんは、此処が落とされるような事があったら、落とした軍に入るつもりだったんだ。
さっき拠点の設定をしている時に、紫陽花さんはアブサルートさんの艦船と人型があるのを見て、それを悟ったのだろう。
 紫陽花「あら、そうですか。ありがとうござます。よろしくお願いしますねw」
こうしてアブサルートさんは、我が軍の一員となった。

24時をまわり、戦闘時間が終わって、全てを確認したら、元々グリード軍の拠点だった場所は、32個がサイファ軍、6個が紫苑軍、2個がその他の軍に取られる形となっていた。
サイファ軍はどうしてこれだけの拠点を得る事ができたのだろうかと不思議に思ったが、後で聞いた話によると、やはり作戦だったらしい。
内容はこうだ。
全ては関係者が個別に内密に行った事。
先日、人気アイドルしゃこたんが来た時に、グリード軍内での、サイファ軍の人気は一気に高まった。
サイファ軍に行きたいと思う人が増えたが、吸収合併できる条件はクリアできないし、退役や裏切りなどは考えられない。
グリードさんは元々サイファ軍に入りたいと思っていたし、これだけ拠点を増やしても、グリード軍だけで維持するのは難しいと思われていた。
なんとかグリード軍を、サイファ軍と一緒にできないか。
考えて一番デメリットの少ないやり方が、大将がやられて、軍を消滅させる方法だった。
解散は、そう簡単に解散されて、強い軍に人が集まっては、運営側にとってよろしくないので、デメリットが大きく設定されてある。
壊滅は、戦いに負けたと言う事で、これもまたデメリットが大きい。
しかし消滅は、軍としてよりも大将が負けたという色が濃く、よって中立化した拠点の司令官は、すぐに軍を立ち上げる事ができた。
グリード軍の各司令官は、グリードが敗れるとすぐに、多数の軍を立ち上げた。
その軍は、一時的にグリード軍の残党軍のような扱いになり、友好関係なども引き継がれる。
簡単に言えば、小さなグリード軍が沢山いっぺんにできたような感じだ。
本来これは、無能な大将の被害を受けないようにとの処置で、残党軍どうしは、合併吸収もリスク無しで行う事が可能だった。
ただ、此処に抜け道があった。
残党軍は、別の軍へ吸収される事も可能だった。
ただし、条件やデメリットは、普通の吸収合併と同様だが。
簡単に今回の事を説明するならば、グリード軍も、サイファ軍も、大きな軍になりすぎて、吸収合併が不可能だった。
そこで、グリード軍を多数に分けて小さくし、サイファ軍に吸収可能な条件を整えたというわけだ。
紫苑軍は、そのおこぼれに与ったというわけ。
1週間後、サイファ軍に、グリードさんが登用された。

遷都と作戦S

思わぬ形で地上に7つの拠点を得た我々紫苑軍だったが、その防衛は容易では無かった。
地上戦になれているグリード軍と、プレイヤ数が圧倒的に多いサイファ軍と一緒だったから、今まで上手くやれていた事を思い知らされた。
パイロットの質は高い紫苑軍だが、複数個所の物量作戦を仕掛けられては、守るのが精いっぱいだった。
拠点のレベルや守りも安定しておらず、もうしばらくの我慢が必要だった。
そこで紫苑さんはある決断を下した。
 紫苑「地球の方が重要だ。宇宙は最悪捨てる覚悟で。ガンダーラに遷都する。」
思わぬ発言だった。
ガンダーラは、地球で所持している拠点の一つだった。
安定している宇宙を捨てて、混戦の中の拠点を本拠地に?
でも確かに、そうする方が良いかもしれないとも思う。
地球の拠点は何処も生産性が高いし、ガンダーラは中でも最高クラスだ。
それに、早い段階で地球に安定した基盤を築く事は必要だった。
コロコロコロニーから、宇宙専用の艦船と人型以外、全てを移動してくる。
宇宙は、全てレイズナーさんに任せた。
壁さんとてけとーさんも、地球へと降りてきてもらった。

紫苑さんの決断は正解だった。
宇宙は比較的安定しており、時々攻めてくる敵もあったが、レイズナーさんで十分守れた。
それとも光合成さんの活躍か。
とにかくなんの問題もない日々が続いた。
地球上はと言うと、壁さんに本拠地ガンダーラを固めてもらい、すぐに安定した守りになった。
地球上にある7つの拠点は、本当の意味で、紫苑軍の拠点として機能し始めた。
しかし、後数日で新たな作戦行動を起こそうかという時に、宇宙に敵が攻めてきた。
と言っても、本来我々が負けるような相手ではない。
ただし、レイズナーさんの部隊だけでは、守りきれないかもしれない戦力だった。
下手をすると、一気に拠点を飲みこまれるかもしれない。
それくらいの相手だった。
 紫苑「せめて今日だけ守れれば、明日には宇宙に何人か戻せるな。」
 スピードスター「俺、即行戻る?♪」
 紫苑「いや、今から行っても時間も無いし、敵領域をいくつも行くのは危険。元々捨てる覚悟だったし。」
俺は戦闘中で手が離せなかったので、二人のチャットをただ見ていた。
しかし、今まで守りぬいていた要塞やコロニーを取れるのもしゃくだなぁと思った。
 一生「ま、仕方なし。」
俺は目の前の戦闘に集中しようとした。
でも、チャットはまだ終わっていなかった。
 紫苑「でも、みすみす負けるつもりもないけどね。作戦S発動!(笑)」
紫苑さんの悪知恵キター!と、少し顔がにやけた。
この発言が気になって、今日は少し集中力を欠いた戦闘となった。
そして結局、1つの拠点も落とされる事なく、24時をむかえた。

後から聞いた話だが、作戦Sとは、前に我が軍に入った、「ジーク」を使った作戦だった。
巨大勢力を率いる大将ジークの情報を徹底的に集めて、色々とそっくりにしていた。
会員ナンバーはそれぞれに違うし、所属軍も階級も違う。
でも、まず戦闘時に表示されるのは、プレイヤ名と機体名である。
情報画面を開かれれば、すぐに偽物だとばれるが、自分たちもそうだけど、一瞬の戦闘時に情報画面を開く人は少なかった。
それが有名人ならなおさらだ。
情報を調べなくても知っているのだから。
我が軍のジークが、バルバロッサという名の艦船に乗ってあらわれると、戦場は一瞬止まったようになったらしい。
そこから人型が出撃し、敵を攻撃し始めると、敵は混乱したようだ。
「紫苑軍とジーク軍は繋がっていたのか?」「ジークを倒せば英雄だぞ!」「ヤバイんじゃないか?逃げた方が良いんじゃ?」
色々な事を言っていたであろう敵の姿が想像できる。
でもきっと、すぐに偽物だとばれたはずだ。
ただ、その一瞬の混乱のチャンスを、光合成さんが見逃さなかった。
背後から敵の主要機を狙い撃った。
運が良かったのか、それとも光合成さんの実力か、とにかく状況を打開するには十分だった。
後は、光合成さん、レイズナーさん、ジークさんで混乱する敵を討った。
隠していた、一度しか使えない作戦は、見事に成功した。

水中戦

次の日、我が紫陽花部隊は、宇宙へ戻る事を命じられた。
しかし俺は、地球でやり残した事があったので、これを拒否した。
地球でやり残した事。
それは、まだ水中戦を経験していなかった事だ。
先日の戦闘で手に入れていた、水陸両用の機体を、少し俺仕様に改造していて、是非試してもみたかった。
紫苑さんは俺の希望を聞くと、快く地球に残る事を了承してくれた。
代わりにサラさんが、紫陽花さんのパープルフラワーに乗って、宇宙へと飛び立った。

19時になった。
今日は俺の気持ちを酌んで、南の島にある拠点へ遠征する事を、紫苑さんは許可してくれた。
これは負けられない。
ただ、紫苑さんは「駄目ならすぐに戻ってきても良いよ。」とも言ってくれていた。
なんとなく、意地でも攻略したいと思った。
まず一つ、敵の領域を通って行く事になる。
俺の機体は、今日初めて乗る「モノトーン」だ。
名前は、白と黒のツートンカラーでペイントされた機体だから、そう名付けた。
モノトーンを乗せた小麗の艦船月天が、高速で敵領域を突っ切る。
敵は拠点の周りに集まって、守りを固めていた。
これはすんなり通らせてもらえそうだ。
それにしても驚いたのは、乗ってる艦船のスピードと操舵だ。
この領域のマップの、もっとも航行しにくい山岳地帯を、山をぬうように高速で突き進んでいた。
艦船の操作は複雑ではないが、これだけの航行には、反射神経がかなり必要だろう。
小麗さんは、レースゲームが得意なのかも、そんな事を考えていた。
敵領域を一つ抜けて、いよいよ目的の領域へと入って行った。
陸地が途中までしかなく、後は海が広がっていた。
艦船でこのまま進むと、水中から攻撃を食らうだろう。
 アライヴ「そろそろ人型行くよ。」
 おとめ「了解~w」
 サウス「蹴散らしてくれるわ!」
この面子で戦うのは初めてだ。
俺は少しワクワクした。
まずは砂浜に降下する。
一応警戒はしたが、特に攻撃はなかった。
とても静かだった。
だけど、水中に必ずいる。
何故か確信があった。
俺達は後方に小麗さんの月天を残して、3機水中へと入って行った。
NPCの乗る人型は出さなかった。
初めての水中戦だし、逃げる事も考えていたから。
水中に入ると、体が少し重く感じた。
動きも遅い。
これは、今日初めて乗る機体だからレベルが1な事も影響しているが、それだけではない。
でも、これだけ反応が鈍い動きも、テンダネスで経験していたので、すぐに対応できる自信があった。
レーダーに反応があった。
魚雷の接近だ。
既に敵には、こちらが捉えられているようだ。
俺はすぐに迎撃用ミサイルを発射した。
水中で爆発がいくつも起こった。
その向こうで、おとめさんのマイヒメが、スクリューのように、島の方へと進んでいる姿が見えた。
 一生「すげぇw」
おとめさんは、変わったフィールドの戦闘が得意だ。
だから水中戦も得意だとは聞いていたが、コレは凄い。
サウスさんも迫力がある。
俺は少しにやけながら後に続いた。
すぐに敵機を目視できた。
同じくしてレーダーにも捉えた。
敵の数は15機といったところか。
数では圧倒的に不利だが、頼もしい味方もいるし、なんとかなりそうな気がした。
だがやはりそう簡単では無かった。
相手は水中戦になれた人達だ。
こっちには、素人もいる。
おとめさんが3機、サウスさんが4機落としていたが、俺はまだ0だった。
そして、サウスさんの人型サウスドラゴンが、かなり傷んでいるように見えた。
サウスさんは、強烈な攻撃力が売りな人だ。
だけど守りが弱く、誰かが守ってあげないと、その戦闘時間が長くはない。
俺は自分の無力さを受け入れ、サウスさんを守る事に戦い方を絞った。
後ろをフォローし戦う感じは、チョビとのコンビに似ていると思った。
今までやってきた事が、色々なところで生きている事が嬉しかった。
時間はかかったが、敵の数が残り3機となったところで、俺は1機でも落とそうと、戦いを挑んだ。
この戦闘の中で、人型レベルが2に上がっていた。
少し動かしやすくなってきた。
戦いは一進一退だった。
ただ戦っていて思ったのだが、地上戦よりは、宇宙戦に似ている気がする。
上下関係なく戦えるし、重力を感じない。
浮力と重力のバランスが釣り合えば、こんな感じになるのか。
宇宙戦をスローにした感じだと思った。
俺は試しに、フェンネルを出してみた。
横に動く事はできないが、地上で使うよりも使えそうだ。
水流はあるが、静止もできる。
フェンネルが使えたこの後の戦いは、俺は正に水を得た魚のように、縦横無尽に動き回って戦闘に勝利した。
島に上がって、小麗の艦船も参戦し、拠点は意外と簡単に落ちた。
敵側としては、頼りにしていた水中戦で負けたのが、痛かったようだ。
こうして、地上8つ目の拠点「尖閣」を手に入れた。

水中戦を経験した俺は、モノトーンを改良ドックに入れて、宇宙に帰る。
水中戦の要領はつかんだ。
次に水中で戦う時は、完璧にする。
その日から、俺は暇さえあれば、尖閣での模擬戦を繰り返した。

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