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アイドル中山西子

地上戦を始めてから、既に1週間が経っていた。
紫苑軍の、地上戦素人の面々も、だいぶ戦い方をつかみ始めていた。
そんなある戦闘1時間前、グリード軍本拠地のジャングルには、オンしているメンバーが集まっていた。
別に集まる事はそれほど珍しくはないが、今日は珍しい仲間がオンしており、それがきっかけで集まっていた。
 サイファ「カニさん、仕事忙しそうですね。」
 キャンサー「うん、でもせっかく盛り上がってるし、ちょっとでも参加したくてぇ~w」
 真でれら「それにしても、喋り方変わりすぎ~」
キャンサーさん。
通称カニさん。
カニさんは前作で、サイファ軍所属の主要メンバーのひとりだ。
打ち上げにも参加していて、その時に分かったらしいのだけれど、結構有名な女優だったのだ。
名前を「中山西子なかやまにしこ」通称「しゃこたん」と呼ばれている。
前作の頃は今ほどは売れてはいなかったので、ゲームにも結構参加していたようだけど、今では超売れっ子で、アイドル業、歌手、タレントと、忙しくてゲーム参加どころでは無くなっていた。
しゃこたんが宇宙の絆をやっていた事は、ファンの間では有名だけど、それがどのキャラクターなのか、知る人は少ない。
ゲーム終盤までプレイしていた事は、しゃこたんブログに書いており、ジーク軍、紫苑軍、サイファ軍、ダイユウサク軍、グリード軍あたりに所属していた事は予想されている。
そして俺も今日まで、しゃこたんがサイファ軍にいた事は知らなかった。
 キャンサー「うむ。俺おかしいか?(笑)」
 LOVEキラ「ははは、カニさんだ。」
カニさんは、どうやらばれないように、前回では男喋りしていたらしい。
ネカマもいれば、その逆もあるって事ですな。
 アライヴ「それにしてもあのしゃこたんがサイファ軍にいたなんて。そして話せるなんて嬉しいです。」
俺はちょっと浮かれてしまっていた。
 紫苑「ハンドルハンドル」
 アライヴ「あっ!すみません。」
ゲーム内では、個人を特定できるような事は言わないのがマナーだ。
俺は浮かれてつい、しゃこたんと言ってしまった。
 キャンサー「大丈夫だよw特に隠してるわけでもないから。」
 サイファ「えっ?マジっすか。でも騒ぎになるかも…」
そのとおりだ。
あの、今や超アイドルのしゃこたん、それがココにいるなんて知ったら、みんなが集まってきかねない。
と、思った直後、チャットに大量の反応があった。
グリード軍のメンバーが、一気にキャット通信に入ってきた。
俺の一言でチャット画面は一気に流れ、俺が話に参加する余地が無くなってしまった。
カニさんへの確認や質問が大量だ。
同盟軍入り乱れてのチャットだったので、友軍チャットで行っていたから、ほとんど全員集合だ。
結局戦闘開始10分前まで、カニさんはたくさんの人達といっぺんにチャットしていた。
涼しい顔で。
って、見えないけれど。
流石、オタクアイドルとも言われているのは、伊達では無いって事か。

さて、戦闘が始まったが、そこからも更に大変だった。
カニさんも今日は戦うとかで、人型で出撃。
それをとりまくように、たくさんの人型が、人型キャンサーの周りを固めていた。
キャンサーさんには、1発たりとも攻撃を当てさせるなってのが合言葉のようで、身を挺して守っているようだった。
正に親衛隊のようだ。
敵からすればその行動に疑問を持つのは当然で、逆に敵を集めていた。
今日の戦いは、なんだか満員電車の中で戦うような、そんな感じだった。
敵のほとんどは、カニさんと親衛隊に任せて、俺たちは軽々と本拠地を落とした。
こんなに簡単で良いのか?なんて思っていたけど、親衛隊の多くが所属しているグリード軍の損害は、過去最高だった。
それでも親衛隊の人達は、皆満足そうだった。
損害も多かったが、楽しく勝利できたのだから、それで良いのだと思った。
23時過ぎ、カニさんは戦場から消えていった。
なんだか嵐が過ぎ去った後のような状況が残された。

完成!テンダネス

地上戦を始めて1カ月が過ぎた頃には、グリード軍の目標拠点数10は当然として、拠点は20まで増えていた。
俺の当初の予想よりはるかに少ないが、それは俺の見解が甘かっただけで、20でもかなり順調と言える。
紫苑軍の地上戦初心者な面々も、ようやくそれなりに納得できる戦いができるようになっていた。
そんな時、俺が以前から研究していた関節パーツの完成が報告されてきた。
 一生「よっしゃ!」
俺は誰もいない自室で、ひとり吠えた。
一度失敗した研究だったけれど、通常の関節パーツのデータを調べ、自分の頭で考えうる全てをぶつけて研究した。
調べてみると、やはりどうしても能力の低下は免れないが、十分戦闘に耐えうるだけのパワーは維持できていた。
問題は、製造コストがややかさむ事と、時間がかかる事くらい。
俺は早速パーツの製造を指示した。

次の日、パーツは完成していた。
人型パーツで、これほど時間のかかるものもそうはない。
これは、破壊された時に、修理する時間もかかってしまうって事だ。
俺は、パーツの予備を準備する事も必要だと考え、再び製造指示をだしておいた。
ドルをかなり使う事になるが、元々俺は、さほど破壊される事も無いし、修理をする事も少ないから、お金は余っていて大丈夫。
ただ、地上戦を始めてからは減る一方なので、軍から融資してもらう事も一応考えていた。
さて、数時間で目的の「パーフェクトテンダネス」が完成した。
パッと見、どちらが前でどちらが後ろか分からないような機体にする事もできたが、俺はあえて違いをつけた。
前後両方使える機体だとばれないようにするのも理由の一つではあるが、やはり全く同じだと格好悪い。
それに、後ろ向きで戦うと、レベルによる制限がかかる事は既に決まっている事だから、同じにする意味もない。
俺は早速テストバトルをして、試してみる事にする。
NPC相手にテストするのも味気ないので、友軍に誰かいないか声をかけてみた。
すると意外にも、あまり面識のないおとめさんが声をかけてきてくれた。
 おとめ「完成したんだぁ。じゃあちょっと私と遊ぼうよw一度戦ってみたかったしw」
 アライヴ「ありがとう。ではよろしくお願いします。」
平日の昼間にゲームできるのも、やはりゲームで食べている人たちだからか。
ほとんどニートの自分と比べて、少しやるせない気持ちになった。
だからこそ、たとえテストバトルでも負けたくない、なんとなくそんな気持ちになった。
さて、地上でのテストバトルは、宇宙とは勝手が違う。
宇宙では宇宙空間に出て戦うわけだが、まさか街で戦うわけにもいかない。
だからその拠点の、地形特性にあったフィールドで戦う事になるわけだ。
たとえば、以前話に出た海中都市アクアの場合は、水中戦がテストバトルのフィールドとなる、という話だ。
実際にテストバトルした事がないので、一応こういう言い方をしておく。
さて、これから我々がテストバトルする場所は、どうやら荒野のようだ。
これまで地球で戦ってきた戦場の多くが、荒野であった事を考えれば、当然のフィールドだ。
荒野に、我が愛機であるテンダネスが映った。
その向こうに、おとめさんのマイヒメも小さく映る。
マイヒメのビジュアルは、今まで見た人型の、どの人型とも違っている。
スカート部分が長く、地上で戦う時はホバータイプの人型としての移動が可能だ。
その分、敵に蹴りをいれたりといった攻撃はほぼ不可能で、接近戦での対応力は落ちる。
 一生「まさに姫といった感じだな。」
俺がそうつぶやいた瞬間に、バトルがスタートした。
接近戦での対応力が落ちるマイヒメとはいえ、おとめさんは接近戦が得意な人だ。
すぐに接近しようとこちらに向かってくる。
対応力を減らしてまで、こういったホバータイプにする事に疑問もあるが、おとめさんの戦い方に必要な要素なのだろう。
俺はまず、距離をとってビーム砲で狙い撃つ。
全く当たる気がしないくらい、華麗にかわされた。
 一生「流石にゴッドブレス、この人も並じゃない。」
俺は嬉しくなってきた。
これだけ強い人と戦える事に。
出し惜しみしても仕方がないので、フェンネルも展開する。
キュベレイに搭載している数には及ばないが、フェンネルは俺のこだわりの兵器だ。
地上戦では、その力を完全には発揮できないが、それでも俺には必要なものだった。
フェンネルがマイヒメに向かう。
空中で静止させる事ができない地上では、常に飛行を続けなければならない。
だからフェンネルの設定は、常に相手と一定の距離を飛行し、攻撃できるタイミングで自由に攻撃するようにしていた。
それに合わせるように、こちらも攻撃を繰り出す。
マイヒメは意外とフェンネルに手こずる。
近接格闘には定評のあるおとめさんだが、ビーム砲などの飛び道具は、少し苦手のようだ。
それでも時間をかければ、そのうち全てのフェンネルは落とされるだろうし、攻撃チャンスは今のうちだ。
しかし、フェンネルを展開し、ビーム砲で隙を狙っても、ことごとくこちらの攻撃はかわされてしまう。
そのかわす姿は、なんとも美しい。
見とれている場合ではない。
長距離での、この絶対回避とも言える華麗さを見ては、接近して戦う以外に選択肢はないように感じる。
これがマイヒメの強さか。
俺の顔は、きっとにやけているに違いなかった。
何故ならとても楽しいから。
俺は意を決して、マイヒメに突っ込んでいった。
接近する際、一発ビーム砲を撃った後、ビームソードを起動する。
俺のビームソードは、ビーム砲もそうだが、腕に最初から搭載されているタイプだ。
手首によるひねりがきかない分、いくらか融通のきかない部分がある。
通常なら、ロックオンできるタイミングが100あるとするならば、俺の機体では90から95くらいになる。
でもそこは俺の操作、人型の体の向きを上手くコントロールする事で、十分カバーしていた。
接近した途端、マイヒメの動きが変わった。
持っていたライフルをその場に捨て、ビームソードを手に取った。
既に分かっている事ではあるが、マイヒメは二刀流だ。
そして俺の機体、テンダネスも二刀流が可能。
もう片方のビームソードも起動して、こちらも二刀流でいどむ事にした。
その間もフェンネルはマイヒメに攻撃を続けていたが、そんな事を忘れてしまうくらい、ただそこで息をしているような感覚で、全ての攻撃がかわされていた。
さて、この状態で近接戦闘をするとなると、フェンネルでの利点はほとんどないだろう。
俺はフェンネルを戻す事にした。
不規則に飛びまわっていたフェンネルは、テンダネスの肩と腰あたりにある格納場所へと戻ってきた。
急に画面が静かになった。
何故か一瞬両者動きを止める。
そして再び、戦闘が始まった。
ビームソードでの戦いでは、いつも不思議に思う。
何故、ビームソードでビームソードが止められるのだろうか。
それを不思議と感じたところで、何がどうなるわけではないが、戦いながらなんとなく考えていた。
戦いは一進一退。
関節のパーツも問題無く動き、今までよりも動作ブランクが少なく、それは限りなく0に近い。
動作ブランクとは、こちらが操作してから、それが実行されるまでのほんのわずかな時間の事だ。
それが0に近いという事は、パワーバランスがしっかりしていると言う事だ。
たとえば重い武器を持ったりすれば、それに伴うパワーが無い場合、すぐには動かせないというわけ。
いくらすばやく操作していても、思いどおりに動かなければ意味がない。
今まではそれでも、先を予想して操作し、或る程度の敵には立ち向かえていた。
しかし、実際思いどおりに動かせる機体に乗ると、その良さがひしひしと伝わってくる。
厳しい戦いを続けてきたのも、無駄ではなかったと思った。
今、自分の成長を肌で感じていた。
地上戦が得意なマイヒメと、接近戦が得意なマイヒメと、互角に戦っているのだから。
しかもこっちは、陸戦よりも、宇宙戦の方が得意な機体だ。
パイロットの力ではこちらが上だと、自分自身思えるに十分な戦いだった。
それでも、やはりマイヒメは強かった。
俺が少し隙を見せたら、見事に背後に回り込んできた。
おとめさんは、俺の機体が前後両方使える機体である事を知っている。
そして今回、その機体が完成した事も話している。
それでもあえて背後をとってきてくれたのは、このテンダネスがちゃんと機能するかどうか、試せるようにしてくれたのだろう。
俺はそれにこたえる為に、前後カメラを切り替えた。
それはすぐに完了し、前後逆のモードへと移行する。
後ろ向きでのレベルも十分にあげてあるので、機体の能力はほとんど落ちてはいない。
目の前のマイヒメが、得意とする技、ソードを両手に持ち、手をひろげて回転し攻撃する技、「旋風斬」で向かってきたが、一方のビームソードで回転軸をずらし、もう一方のビームソードでマイヒメを斬りつけた。
テストバトルは、俺の勝利で終わった。
テンダネスの完成と共に、俺自身の実力が、今までにやってきたきつい戦いのおかげで、大きく成長している事を確認できた戦いだった。

仕様変更

今日は、運営から重大な発表があった。
と言っても、以前から話が出ていた事だったので、大した驚きは無かったが、この事についてもう一度みんなで話し合いをしなければならない。
重大な発表と言うのは、ゲームの仕様変更の一つ。
ゲームと言うのは、仕様変更や、新たな機能が徐々につけられたりする。
理由は、ずっと同じだとゲームに飽きたり、プレイヤの成長に応じて調整が必要だからだ。
だけど、俺は仕様変更があまり好きではない。
それによってゲームバランスが崩れると、一々戦略や戦術を見直さなければならなくなるし、最悪、力の上下関係まで変わってしまう。
たとえば、フェンネルという武器がある。
これを、使う人が少なくて楽しめないからといって、もっと簡単に使えるように仕様変更されたりすると、俺の今までの努力が無駄になる事は確実だ。
もちろんそんな変更は無いと信じたい。
だけど現に、俺は仕様変更でネットゲームを辞めた事が多くて、仕様変更の発表があるたびに、俺は不安になった。
さて、今回の仕様変更だが、特にゲームバランスが崩れるものではない。
理由は、既に利用している人は利用しており、それがゲームの正式な機能として、導入されただけだからだ。
スカエポと言う、ネット上で複数の人が回線を繋ぎ会話ができる、ネット通話システムが今回の新機能。
ゲームバランスは崩れないし、より便利になる訳だから良いわけだが、今回わざわざ話し合いをしなければならないのには理由があった。
理由の一つは、正式な機能以外は使わないという人がいて、コレを期に使う事にするのかって事。
もう一つは、喋った事を文字に変換したり、色々と細かく設定できるようになったので、使うなら全ての指揮系統の再編も必要になる事だった。
ちなみに、我が紫苑軍は、軍としてスカエポは使用していなかった。
一部の人が、仲の良い人同士、使ったりしているとは聞いている。
でもそれだけだった。
外部チャットシステムも、紫苑さんが、サイファさんなんかとチャットする為に、IRCを使っているような話は聞いたが、積極的には使っていなかった。
つまり我が軍は、基本ゲームシステム内で、ほとんどやり取りをしていたってわけだ。
 アライヴ「スカエポ、結構使えそうな感じだね。」
俺は紫苑さん達と話をしていた。
実は俺は、今回の仕様変更によるスカエポ導入は、かなり有りがたい。
人型乗りってのは、戦闘中はかなり大変で、チャットしている余裕がないからだ。
でも、声で相手とやり取りできるなら、戦闘中でも作戦行動がやりやすくなるってわけだ。
 紫苑「ん~悩む。(@_@)」
紫苑さんは、実はスカエポ反対派だ。
ネットの良さは、喋らなくて良いところだとか言う人だし、ギリギリの戦闘時は、通信が混乱して、チャットの方が良いと考えていた。
ちなみに、前作とは違い、通信の傍受、盗聴、通信記録の奪取など、通信が相手に漏れるような仕様は廃止されていた。
理由は、外部チャットなどを使う人が多く、意味を持たないから。
だから、スカエポを使うメリットは「手が離せない時にでも簡単に連絡できる」その一点だけだった。
一方、スカエポのデメリットも話しておくと、「連絡が簡単にできてしまう事による、情報過多の混乱」と「喋る事の恥ずかしさ」となるのかもしれない。
 じぇにぃ「ぁれぇ~?ゎたしのぉ~がめん、スカエポつかぇなぃよぉ~?」
 アライヴ「あ、それ、バリューネットブラウザ、バージョンアップしてないからだよ。一度ブラウザ再起動してみなw」
銀河バリューネットのサービスシステムは、普通のサイトとは若干異なる進化を遂げていた。
だから、現在のシステムも、他とは微妙に異なる。
現在のネットゲームの主流は、ブラウザゲーム、通称ブラゲーである。
利点は、インストール不要な事だ。
ただし、ブラゲーは複雑なゲームには向かない。
理由は此処では割愛するが、そういった理由で、銀河ネットバリューのサービスをサポートできないのだ。
だから元々は、ソフトをダウンロードし、バージョンアップの度にバッチプログラムをあてて、更新するという作業が必要だった。
しかしそれは、それなりにPC知識のある人なら全く問題ないが、素人には難しく、ユーザーの伸び悩みに繋がっていた。
そこで出てきたのが、銀河ネットバリューサイト専用の、独自ブラウザだった。
このブラウザは、普通にブラウザとして使っても使いやすく、コレ自体がゲームプログラムになっているすぐれものだった。
バージョンアップ更新を自動にしていれば、インストールしておけば、後は何も問題無かった。
ただし、バージョンアップの更新は、主ブラウザを立ち上げた時と、18時から19時前にチェックが行われるので、ずっとブラウザを開いたままだと更新されない。
よって、更新が必要な時は、一度ブラウザを閉じる必要があった。
 じぇにぃ「ただぃま~でてきたよぉ~」
 アライヴ「良かったね!」
じぇにぃと話していると、少し癒される。
子供の相手をしていると癒されるのは、人間の本能だから当然と言えば当然か。
と言っても、中学生だからそれほど子供でもないのだけどね。
さて、スカエポをどう扱うか、議論は一向にまとまらなかった。
マイクとイヤホンを持っていない人に関しては、もちろん無理に使用を強制する事はない。
使いたい人同士で、喋りながらやるのも別にかまわない。
問題は、紫苑さんが指揮する作戦行動中、どうするかって事で意見が別れていた。
ただし、通話という意味では、夜遅い時間に大きな声を出せないとか、喋りたくない人もいるので、無理強いはできない。
全ては、スカエポの導入にあたってつけられた、新しい機能が問題だった。
それは、喋った音声データを文字データに変えて、チャット文字として自動的に書き込みができる機能だった。
 紫苑「ためしにやってます」
 アライヴ「もじになりますねー」
 スピードスター「おんぷ」
これは確かに便利である。
だけど、ただでさえ情報過多でチャットスペースが少ないのに、喋りやすくなったからと言って沢山やり取りすると、すぐに情報が流れていって、把握できない。
紫苑さんの命令もすぐに流れては、まとまった作戦行動ができなくなる。
でも、人型乗りとしては、スカエポで伝えられるなら伝えたい。
話し合いでは結局まとまらず、一度試してみるって事で、話し合いは終わった。
今日の戦闘は、スカエポを使いたい人は使って、音声ではなく、文字変換してチャット画面に流す機能を使う事になった。
 紫苑「あじさいとほしはきょてんひだりからしんこう これいはみぎからでおねがいします」
 紫陽花「りょうかい」
 スピードスター「おんぷ」
 小麗「しゃおれいだよ」
 アライヴ「そろそろでるよ」
 じぇにぃ「わたしも」
 ハルヒ「おれもでていいのかな」
 紫苑「ひとがたもそれぞれのたいみんぐでしゅつげきよろ しく」
 サラ「りょうかい」
 じぇにぃ「もうでちゃってるよ」
 アライヴ「あ ごめん しゃべりすぎ」
 スピードスター「だめだ よめん」
他にも多くの文字が、チャット画面を埋め尽くした。
試してみるとハッキリした。
これは使えない。
紫苑さんは、全ての人からくる情報を受けているわけで、俺よりもチャット画面がいっぱだろう。
この流れだと、命令を見逃すだろうし、ひらがなばかりで読みづらく、なんと言っても味気なかった。
結局スカエポは、その時の作戦によって、紫苑さんの判断で、必要な人だけ使うって事で決着がついた。
レイズナーさんの指揮している人達は、もちろんレイズナーさんに任せる事になった。
ただ、今回スカエポの導入で、軍のやり方について行けないと言って抜けた人が、3人いた事は、紫苑軍にとっては痛手だった。
やはり仕様変更ってのは、あまり良い物ではないなと、改めて思った。
あ、一応今回の戦闘は、我が軍の大勝利でした。
多少指揮系統が混乱しても、強い人が集まっているから、強い事に変わりはないからね。

砂漠での戦い

地球での戦闘は、後半戦へと突入していた。
と言っても、グリード軍が地球を制覇しそうだとか、そういう意味ではない。
連合期間が、残り1カ月を切ったって事だ。
そして、今日からは、新たな戦闘フィールドになる。
今までは、荒野、街が中心のフィールドだったわけだが、今度攻撃する場所は、砂漠がフィールドの大半だ。
話を聞くところによると、砂漠での戦闘は、ホバータイプの人型が圧倒的に有利なフィールドであるという事だ。
ウイングをつけて、空を飛んで戦おうと思っていたが、一度ホバータイプを試してみる必要がありそうだ。
俺の所持機、SSとテンダネスは、足がスカートタイプではないので、ホバーシステムをつけられない。
俺は久しぶりに、キュベレイに乗る事にした。
宇宙から地球におろし、ホバーシステムをつける。
意外と調整が難しく、今までのようにフェンネルを大量に搭載する事はできそうになかった。
それでも、戦闘開始時間の19時までには、それなりに納得できる状態になった。
いざ、戦闘開始だ。
まずは艦船で敵の拠点へと向かう。
俺はキュベレイ内で待機中だ。
この時間は毎回ワクワクするが、今日は少しドキドキも混じっていた。
しばらくすると、紫陽花さんから通信が入る。
 紫陽花「そろそろ出撃よろしくw」
 アライヴ「ラジャ!」
 チョビ「はーい」
 みゆき「了解w」
紫陽花さんの指示により、いよいよ出撃だ。
今回は、チョビとは共闘しない。
なんせキュベレイだからね。
ちなみにチョビも、人型をホバータイプに改良していた。
元々、素早い動きを旨とする機体でも戦い方でもないし、つけておいてマイナスはほとんどないはずだ。
問題は、お互いホバータイプで戦闘するのも、砂漠が多いフィールドで戦うのも初めてだって事だ。
艦船から発進して、砂漠へと降り立った。
足元がしっかりしていないから、ゆっくり機体が傾く。
放っておくと倒れるので、少し動いて体勢を整えた。
俺もチョビも、今までの戦闘で、多少砂地を経験はしているので、倒れる事は無かった。
しかし、やはりこんなところで戦うとなると、辛い事は確か。
みゆきちゃんも倒れはしなかったが、かなり苦労しているのが見えた。
敵の機影がレーダーに映る。
俺は早速ホバーシステムを起動した。
体が少し地面から浮き、機体が安定した。
ふわふわ浮いているような感覚は、今までにない感じだ。
ホバータイプと言えば、先日おとめさんとテストバトルした時の事を思い出す。
他にもサラさんやサウスさんが、ホバータイプを使うのを見ている。
どういう戦い方ができるかは、イメージとして頭の中には既にあった。
戦闘が始まった。
 一生「思ったより結構きつい。調整が必要だなぁ。」
動きは早く、スムーズに動けるのは良いが、上半身が安定しない。
こんなのでよく戦えるなと、少し感心する。
俺のキュベレイは、下手な踊りを踊っているように、フィールドを移動していた。
それでもなんとか、敵をうまく倒していった。
チョビを見てみると、なんの問題も無かった。
元々不安定な機体で戦い続けていたし、動きまわる戦術でもない。
むしろ回転が楽にできる分、今まで以上に良い戦い方ができているようだ。
チョビには砂漠があっているのだなと思った。
概ね砂漠の敵を撃破したところで、グリードさんの艦船の近くに集まる。
敵本拠地を落とすのは、今日はグリードさんの軍が行う。
同盟軍は、グリード軍に吸収されるような形をとっているので、別に誰が落としても、奪った拠点はグリード軍の拠点になる。
でも、拠点を落とした時の経験値や、陥落ボーナスアイテムなどは、拠点を落とした個別の軍、個別の部隊、個別の人へ入る事になる。
此処までは結構、紫苑軍やサイファ軍が落とす事が多かったので、今日は譲ろうと言うわけだ。
グリード軍と同盟を結び、共同戦線を張っているのは、あくまで地球戦になれる事と、地球用パーツを手に入れる為。
その代償として、拠点を増やす事に協力しているわけだ。
もちろん、今後の良い関係を築く為なのは言うまでもないだろう。
だから、経験値や戦利品は、譲る事も当然の事だった。
ただ、今日は手こずっていた。
グリード軍には、そこそこの人型乗りはいるみたいだが、トップクラスで戦えるパイロットがいない。
一人で状況を打開できるようなパイロットが一人でもいれば、グリード軍はもっと強くなっていただろう。
グリード軍が、今までなかなか拠点を増やせなくて、我々の協力を必要とした理由はそこにあった。
どうやら拠点の中に、強い敵が1機いたようで、手こずっている。
本来、拠点や要塞内で、人型によって迎え撃つ事はしない。
理由は、拠点内でビームやミサイルなど攻撃する事によって、拠点内や要塞内を損傷させてしまうからだ。
ただ偶に、拠点内での戦闘を得意とする人もいるし、もう相手に明け渡す覚悟で、拠点内の戦闘を選択する人もいた。
 グリード「しかたない、俺が行く」
グリードさんが今までに何度か人型で出ているのを、俺は見ている。
そこそこ強い人だとは思うが、俺クラスから見ると、それほどではないし、大将がひとりで行くには危険だ。
万が一にも落とされるような事があれば、グリード軍には後に有力者はなく、軍自体存続は難しいと思われた。
 サイファ「危険です。誰か護衛をつけてください」
 真でれら「俺行こうか~」
 サイファ「いや、真じゃホントに護衛になるw敵の人型を倒せる人がいるだろ。」
サイファ軍の面々は、グリードさんとは仲良しなので、発言も結構気軽にできる。
しかし紫苑軍は、友達の友達みたいなものなので、少し発言しにくかった。
 グリード「いや、大丈夫だろ。敵は一機らしいし、うちの軍のメンバーもいるし。」
確かに数では圧倒的に勝っている。
でも、今まで手こずっていた相手に、グリードさんが行ったところで、状況を変えられるとは思わない。
俺か今日子さんか、後はサラさんか、この中の誰かはつれていって欲しいところだ。
なんだか嫌な予感がする。
此処での行動が、今後を大きく左右する気がする。
もし誰も一緒に行かなければ、きっと・・・
グリードさんの人型「飛影」が、旗艦「大和」より出撃するのが見えた。

グリード軍消滅

敵拠点へと、ただ一機向かう、グリードさんの人型「飛影」の姿が見える。
このまま行っても良いのだろうか?
きっと、今まで自力で落とせた拠点がほとんどなかった事と、今日はグリード軍が落とすと作戦で決まっていたから、無理して出撃しているのではないだろうか。
俺はとりあえず、紫苑さんに相談する為に、全軍チャットではなく、自軍チャットに切り替えて、声をかけた。
 アライヴ「紫苑さん、このまま行かせて良いの?誰か一緒に行った方が良いんじゃ?」
 紫苑「ちょっと考える。待ってて。」
この状況で考える?
紫苑さんの発言に、少し違和感を覚えた。
飛影の姿は、完全に拠点の中に消えていった。
すぐに紫苑さんから、個人通信が入った。
俺は回線を開く。
 紫苑「内緒の話がある(^0^)」
この通信、何か謀略の匂いがした。
 アライヴ「おけw」
 紫苑「実は俺は、此処でグリードがやられる事を期待している。」
やはりそうか。
でもこの言葉には、まだ嘘がありそうだ。
紫苑さんとの付き合いは長い。
これはきっと、この地球での作戦が決まった時から、既に決められていた事だろう。
俺の予想するシナリオはこうだ。
此処でグリードさんがやられる。
そうすると軍は、後継者に継がせるか、消滅かを決定する事になるが、グリードさんの軍には、後を継いでやっていける人物はいない。
となると、消滅やむなしって事で消滅させる事ができる。
本来、通常の状態で解散した場合、解散ペナルティとして、賞金査定にも響くと言われているし、将校以上の者は3ヶ月間、上位軍には入れない。
しかし、消滅だと話は別だ。
やられた大将は、人型、又は旗艦を失う事になるし、経験値も少しばかり減る。
おそらく賞金査定でも、それなりにマイナスになるだろう。
それでもグリードさんなら、大将として此処までトップクラスの軍を率いてきたわけだし、そもそも最初、サイファ軍に入りたいと言っていた。
1週間入る事はできないが、3カ月待つ事を考えれば、やられた方がメリットがあるのではないだろうか。
やられるなら、艦船に乗っている時より、人型に乗っている時の方が、予算的に考えても良い事を考えると、これはますます作戦だと思えてならない。
そして今まで既に40もの拠点を得ている。
グリード軍のメンバーが、自ら軍を立ち上げたり、周りの軍が中立拠点を奪うとしても、いくつかは紫苑軍とサイファ軍で奪う事ができるだろう。
というわけで、だいたいこんな感じになるものだと思っていた。

間もなく、グリードの死と、グリード軍の消滅を告げる告知が出た。
此処まではやはり予想どおりだった。
 紫苑「紫陽花の艦だけ残して、後は中立拠点を奪いに行く。アライヴでも此処の拠点無理そうなら、諦めて撤退してくれ。」
予定どおりと言わんばかりの命令が、当然のように発せられた。
気がつくと、星さんの艦船、スピードスターの姿はない。
既に向かっているようだ。
流石に早い。
小麗さんの艦船、月天も既に行動を開始していた。
星さんの速さは定評があるし、紫苑さんとはリア友だから、こうなる事を聞いていたのだろうし早いのは理解できるが、小麗さんとゴッドブレスのメンバーは流石だと思った。
 アライヴ「チョビ、行くよ!みゆきちゃんは一応、パープルフラワーの守りを!」
 チョビ「はい。」
 みゆき「了解」
俺はチョビをつれて、拠点へと向かった。
サイファ軍と競争になるかもしれないと思ったが、どうやらその様子はないので、既に話はついているようだ。
この素早い決断が、以前からの作戦だった事を確信づけた。
拠点に入っても、攻撃は全く無かった。
どうやら本当に、敵一機に止められていたのか。
拠点内を慎重に進んだ。
司令室まで無事たどり着ければ、拠点は落とす事ができる。
拠点戦ってのは、敵の攻撃をかいくぐり、無事そこまでたどり着く事が主な目的だ。
後はそこで、指定された操作を行うだけ。
拠点の内部構造は、全ての拠点で違う。
それに拠点の防御力によって、司令室までの距離が長くなったり、通路の開閉で迷路のように変わったり、指定操作が複雑化するので、防御力の高い拠点攻略は結構面倒くさい。
でも此処は、事前の諜報活動で、レベルはさほど高くない事は分かっている。
攻撃を受けなければ、5分もしないうちにたどりつけるだろう。
思ったとおり、2分ほどでゴールまでの道のりが見えてきた。
おそらく此処の細い通路をまっすぐ行ったところが司令室だ。
と、そこで思い出した。
此処には一機、強い敵がいた事を。
強力なビーム砲とミサイルが沢山襲ってきた。
狭い通路で、人型が2機、すれ違うのがやっとなくらいだ。
これだけ数を撃たれてはかわせない。
こんな風に守っている拠点だったのか。
今更知っても遅い。
俺はとにかく、致命傷にだけはならないように、被害を最小限にする事だけを考えた。
その時だった。
チョビの人型、ガードナーが俺のキュベレイを押しのけて前にでた。
そして盾の拡散ビーム砲を放った。
助かった。
 チョビ「私が止めるから、すうすんえ」
敵の攻撃を防いだチョビは、慌てているようで、チャットの文字がおかしかった。
でも言いたい事は理解した。
 アライヴ「了解!」
了解って返事は、ダイレクトキーとして設定してあるので、ボタン一つで返事をした。
チラッと、部屋の時計を確認した。
時間は22時45分だった。
PCディスプレイを見た。
ようやく敵機影を確認できた。
名前はアブサルート。
人型名は「拠点の虎」だった。
見ただけで分かる、火力重視の機体だ。
接近さえできれば一気に勝負を決められそうだが、この一本道で接近するのは至難の業だ。
本来なら出直して、強力な盾を持つ人型を2機、つれてきたいところだ。
だが今日を逃すと、再びここを攻める事は、しばらくできそうにない。
多かれ少なかれ、今日手に入れるであろう拠点を元に、地球での足場を固める必要があるからだ。
チョビには悪いが頑張ってもらおう。
接近さえしてくれれば、俺が必ず仕留める。
沢山のビーム砲とミサイルが襲ってくる一本道を、俺達はチョビの盾で受け止めながら、とにかく進んだ。
23時が近づいてくる。
23時は、チョビが寝る時間だ。
これを破る事は許されない。
いつも5分前に落ちるから、今日もきっとそうなるだろう。
ちなみに、戦闘中に落ちた場合は、一番近い友軍基地、又は艦船へと自動的に戻る。
その間攻撃されたら、もちろんダメージを食らう。
回線を切断して、30秒以上たってから完全破壊されても死なないが、機体のダメージは残るし、奪われれば相手の物になる。
意地でも終わらせなければ。
俺は、わずかに距離を残したところで、フェンネルを飛ばした。
そしてガードナーの前に出た。
目の前が爆発に包まれた。

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