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浜辺のミステリー

初夏の風が、肌に心地良い昼下がり、普段から余り人気の無いこの海岸は

平日というせいもあり、通りを行き交う人の姿は全く無かった。

聞こえて来る波の音だけが頼りの心細い様な静寂さに「どうしようか」と

迷いながらの浜辺の散策は「朽ち果てそうな命」を探し始める趣味も手伝って、そのうち

気にならなくなる程、瞳は貝殻を拾い集めるのに夢中になっていった。

どれ位、歩いた頃だろうか視線を砂浜に注ぎながら、少しずつ

先へ先へと歩みを進める瞳の目に、ある異様な物が飛び込み、一瞬、立ち止まった。

近くで、寄せては返していた波が、いつの間にか遠くの方にあり

ちょうど干潮の時刻を迎えているのだろう。普段、波で覆われた砂浜との境目には

引き潮の波が断層を作り上げ、こんもりと盛り上がった砂の層が出来ていた。

その一角から、地上に向かって真っ直ぐ剥き出しになっているもの

海からの、様々な漂流物が流れ着く海岸に、色んな物が打ち上げられたとしても

決して不思議な事ではないが、比較的綺麗に清掃の行き届いたこの場所で

それは、一際目立った異様な物として、瞳の目に映った。

「こんな処に、人の『それ』が、あろう筈がない」

常識的な先入観が先立ちながらも無意識に距離を縮めた瞳は、次の瞬間、自分の目を疑った。

「そんな筈ない、これは何かの間違いだ!」

砂浜の、こんもりと盛り上がった層の中から剥き出しに伸びていたのは『肘から上の手』の部分だった。

その大きさから言っても、最初、人形のものだと思って近づいた瞳の先入観が見事に

打ち砕かれたのは、白くふやけて、開いた汗腺からうっすらとしたうぶ毛を認めた時だった。

しっかりと開かれた掌の先に爪まで生えていては、もう疑う余地もない。

これほど精巧に出来た人形はいない。人形位の大きさの・・・小さな新生児程の赤ちゃんの手!?

立ちすくむ瞳だったが、我に返り、辺りを見回しても人影はなかった。

「どうしたら・・・いいの?」

警察?とも考えたが自分の目だけの、状況判断では、どう伝えたら良いのか自信もない。

以前、悪夢の中で、信じられない光景を目の当たりにした時のように、混乱した頭が

思考を鈍らせ、収拾がつかなくなっていた。

「うぶ毛まで、ちゃんとあるけど本当にそうなの?」

「その前に、もっと確かめなくていいの?」

頭がぐちゃぐちゃで、とにかく纏まらない。警察に届ける前に、信用して貰う為に、もっと

確かめなければいけない気がした。

砂浜に埋もれたこの手の下は繋がっているのだろうか?再び、しばし立ちすくんだ。

「どうする・・・?」

そうは思っても、身体が拒否している。そうするには、気持ちの整理が必要みたいだ。

どんどん、暮れ始めてきた

肌の感触を触わって確かめるか、砂を掘り起こすか、証明するには、どちらかだと思うが、頭同様

体も硬直していて動かない。薄暗い闇が、少し恐怖心をも与え始めている。

誰かと一緒だったら、それが出来るかも知れない

「そうよ・・・何も、今、確かめなくても良いことだわ」

 

 

鈍くなっている判断力ながら、その場を逃れる口実が閃き、取り合えず、正確に場所を覚えといて

「明日でも来れば良いことだわ」

「明日来て・・・まだ、これがあったら、その時こそ本物って言えることだわ」

最終的に出した結論を、実行するのに時間は掛からなかった。

何度も後ろを振り返りながら、砂浜を後にする瞳の目に開かれた手の平が、段々、小さくなり

見えなくなっていった。


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