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  「おまたせしました。それではご質問を伺いましょう」


  「あの、焔さんが、5年前のハラスメントの被害者だったんですか?」


  「そうですよ」


  あっさりと悪びれもせずに、答える。

  動揺することもなく、紅茶のお代わりを注いでくれる。


  「でも名前は嘉納さんではないですよね?」


  「いろいろ方法があるんですよ」


  「それで、その……退学処分の後の」


  「なるほど。それで当時の住所辺りで探偵ごっこをしていた

   わけですか」


  全部知られていた。

  あくまで紳士的に応対する焔は、全てを既に掌握しているようで、

  恐ろしくなる。


  「母親が殺された件でしょう。あの当時は容疑者にされかかりました

   からね。近所での評判は芳しくないでしょうね。もうお聞きになった

   でしょうけれど、僕は幼いころから母にも祖父母にも冷遇されて

   いましたからね。大学も退学処分されて、行き詰まった若者が家族に

   鬱憤を晴らすと言うのは、分かりやすい筋書きですからね」


  さらさらと流れるように説明するその内容が、哀しくて、

  二人は何も言えない。


  焔はその反応にも大して気にも留めず、紅茶を飲みながら、

  当時を思い出す。


  山瀬への襲撃を諦めた日。

  後始末として自分の名義から、家を書き換えたことを知った

  母親が帰って来ていた。玄関から灯りが見えて、げんなりとする。

  末期と言えどある程度体の事由のある母親は、その衰えと共に

  権力が親族に渡っていても、まだ過去の栄光にすがろうとしていた。

 

  それを許せない親族は嘉納に家と母親の治療費だけを体裁の為に渡し、

  体裁の為だけの金を渡していた。病の進行と自身の我の強さも相まって、

  それを受け入れられない母親は、何かにつけ自分の不遇は、

  全て嘉納の不甲斐なさに原因を見つけようとするのだ。

  いくらアルバイトを増やしても、修繕費と学費、母親の手慰みに

  全てが費やされて行く。

 

  またあの生活に戻るのか。嘉納は心底疲れ果てていた。

  だが帰ったその広間は。

  鮮血で染められていた。

 

  嘉納は夢を見る。幾度も幾度も。肩の荷が下りた安ど感。見知らぬ殺意。

  今しがたまで自分が山瀬に同じことをしようとしていたのに、恐ろしくなって

  家を後にした。

 

  誰なんだ。

 

  まさか。

 

  思い当たる顔が幾つも浮かんでは消える。

  それから後、警察を呼んで実況見分してもらった。

  当然のように、普段から冷遇を受けている自分に容疑の目が

  向けられる。

 

  もうどうでも良かった。

  

  ここはなんて腐った世界‐。

 


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常川と優奈はしばらく言葉が出ない。

 焔は気を悪くしたようではないが、何か物想いをふけっている。

 そう。焔がそこまで堕ちたことの、そもそもの始まりは

 アカハラ事件に収束するのだ。

 あの事件は様々な悲劇の裏になり表になり、常に繋がっている

 メビウスの輪。それを断つことはできないのか。


 「幸いアリバイを証明してくれる人がいましてね。潔白は証明

  されたものの、住む家と財産を失ったので、それなりに大変

  でした」


 過酷な昔話をさらっと語る。

 

 「全部あのアカハラに端を発するんだよな」


 「……そういうことになりますね」


 カップを見ながら、こともなげに焔は返す。

 焔は意を決したかのように、喉から絞り出すように言った。


「嘉納さ、焔さんは、今まで復讐を考えたことはないのですか?」


「もしそうだとして、そうだと打ち明けると思いますか?」


「……仮定の話ですが、もし復讐を考えたことがあるのなら、

 どうして5年もかけてまで、土岐等さんの為にするのですか?

 自分の人生を復讐に捧げる程なんて、忠誠を誓った主君みたいです」


「俺は土岐等の忠実なる味方と聞いている。他の奴らも味方なんて

 誰もいないと高を括っていたから、そんな存在が居ることを知って

 驚いていたよ。あんな状態だったから、誰も土岐等のプライベートなんて

 知ろうともしなかったからな」


「ひどい……」


「そうだな。本当に許されないことだ」


 嘉納だったころの焔は、ほとんど自分の事を語らない人間で、結局誰も

 二人の本当の関係性なんて分からなかった。


 それは間違いなく嘉納の成育歴に由来する。

 嘉納の母親はいつか結婚するつもりで嘉納を生んだが、

 結局それが実現することはなかった。

 母親は嘉納がいるせいで、結婚に踏み切れないと思い込み、虐待を

 繰り返していた。祖父母も娘が捨てられた証拠としか、嘉納を

 見ていなかったので、嘉納は優しいおじいさん・おばあさん像を

 見た事がない。学校でも親族の子らが中心となって、陰で

嫌がらせばかりをされていた。

 母の薫が、裕福な家の一人娘だった為、政略結婚の話もあったが、

 それも母親が蹴っていた。

 他の親族たちもこぞって財産目当てにやって来た。

 母親が病に倒れてからは、借金だけを押しつけて、金は全て

 掠め取られてしまったこと。

 

 「あの人に会うまでは、人生は苦行でしかなかった。人が信頼し合うことが

  夢物語だけの世界だと思っていた。少なくとも私の周りではそうだった。

  家にも学校にも居たくなくて、図書館で勉強していた時に現れたのが、

  彼女だった。彼女は僕に勉強を教えてくれ、奨学金の相談にも乗って

くれた。人との交流が苦手で話題だってほとんどない僕の話も、黙って

聞いてくれた。信用できなくて、好意を素直に受取れなくても

許してくれた。僕にいいことがあると、一緒に喜んでくれた。

その人に会って初めて生きていて良かったと感じた」


一言でこの関係性を説明することは出来ない。

恩人。尊敬。友人。先輩。

陳腐な言葉で片付けられるほど簡単なものではない。

 


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 常川と優奈はしばらく言葉が出ない。

 焔は気を悪くしたようではないが、何か物想いをふけっている。

 そう。焔がそこまで堕ちたことの、そもそもの始まりは

 アカハラ事件に収束するのだ。

 あの事件は様々な悲劇の裏になり表になり、常に繋がっている

 メビウスの輪。それを断つことはできないのか。


 「幸いアリバイを証明してくれる人がいましてね。潔白は証明

  されたものの、住む家と財産を失ったので、それなりに大変

  でした」


 過酷な昔話をさらっと語る。

 

 「全部あのアカハラに端を発するんだよな」


 「……そういうことになりますね」


 カップを見ながら、こともなげに焔は返す。


 「随分苦労したんだな」


 「人並み程度には」


  当時大学二年生だった焔は、既定の単位を取得していたので

  他大学への編入が可能だった。

  学資がないので、通信教育の大学で学士号を取得してから、

  大学院で和琴大学に舞い戻ったのだと、大して感慨もなく

  説明する。

  その冷静さに優奈は感服し、常川はなぜか下を向いて

  黙り込んだ。


   もう他に聞くことはないかと焔が促すと、

  常川は意を決したかのように、喉から絞り出すように言った。


 「俺が、土岐等を殺したんだ」


  常川はそういって顔を覆った。

  焔の顔はこちらからは見えない。

  常川はその顔を見て、心底怯えているところからして、

  すさまじい顔をしているのだろう。


 「理由を言え」


  いつもとは違う言葉使い。


 「あの日、俺は土岐等に呼び出されたんだ‐」


  常川はその時、休学していた。

  その分研究室とつながりが少ないとも言える。

  偶に来ても、土岐等への風当たりの強さを諫めることなどなかった。

 

  それでも土岐等には、研究室の内情を知った上で、協力をして欲しい

  人がいた。山瀬との話し合いの後、土岐等は常川と地下二階で会う

  約束をした。


 「劇薬についてとだけ言った。あとは詳しく話すからと」


  俺はその頃既に、塔堂から劇薬が不自然に減っていることを知っていた。

  塔堂から聞いていたから。そして塔堂は姿を消した。


 「皆が奴の失踪に気付く前から、俺は知っていた。少なくともあいつが

   自分から姿を消した訳ではないことを」


  だから劇薬に関することで、何かヤバいことにクビを突っ込んだのだなと、

  ピンと来たよ。だからちゃんと行くつもりだった。

  それでも仕事でどうしても抜けられない用事ができて、ちゃんと携帯に

  連絡した。返事はそれでもなくて、あいつ怒っているのかと急いで行ったら、

  救急車で運ばれた後だった。


 「すまない。俺が時間通りに行っていれば。ごめん。この通りだ」


  土下座して謝る常川。

  それを見下ろす目がどんなものか、優奈は知りたくないと思った。


  傍に会ったゴミ箱を思い切り蹴飛ばすと、


 「気が変わらないうちに、目の前から消えろ」


 と言い捨て、それきり後ろを向いてしまった。



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 許されないと分かった上で、常川は土下座をして謝った。

 罵倒も非難も甘んじて受ける覚悟だった。

 それぐらいのことをした。


 その時の常川には、初めからなかったことにする厚かましさも、

 黙って罪を抱える覚悟もなかった。

 悪かったから謝る。

 思いつく償いの方法はそれだけしかなかった。


 「……いつか。いつか仕返しをしに来る者がいるかもしれない。

  その時には、そいつに、そいつの人生を返してやってくれ」


 その人は許すとも、許さないとも言わなかった。

 言えなかったのだ。

 常川がその復讐者にあるべきものを返すまでは。

 還らない魂を償うには、ただ役目を果たすしかないと常川は覚悟を決めた。

 

 「それで常川さんは」


 「加害者を反省させず、罰することもできず、ただ犯罪者として

 処罰されれば、そいつは一生加害者も世の中も憎むだけだ」


 「復讐に協力するつもりだったのですか?」


 「協力はしないが、犯罪者になることを防ぎたかった。

 正当な方法で加害者に思い知らせてやりたかった。

 俺は出来た人間ではないからな。迷うことの方が

 多かった」


この件が起こる前から、常川は人脈を活かして、当時の状況について

聞き込みをしていた。


  当時修士課程にも数人学生がいた。

  5年前の状況を聞く為に、奔走していると、一人が言った。

  員が進学せず、民間企業や官公庁に就職している。


 「あの時の雰囲気はかなり、異常でした。土岐等さんには本当に

  悪いことをしたと思っています。先輩なので、僕らも面と向かって

  失礼なことをしたりはしませんでしたが、細かなところで失礼を

  働いた覚えはあります」


  強要されたわけではないが、土岐等あかりを庇い立てできない

  雰囲気であったことは認めた。


 「研究室へは必要最小限しか行かないようにしていました。

  自分が何かされたわけではありません。先生が主導でやっていたこと

  ですから、注意なんてできる状態ではありませんでした。

  他方で土岐等さんを庇わなかった事にも、

  罪悪感があってとにかく関わらないようにするのが精一杯でした」


  もう一人のOBも言う。


 「雰囲気が最悪だったのは確かだった。常に土岐等さんの悪口を言って

  結束を固めているような雰囲気で。だから土岐等さんがいなくなると

  困った訳です。だからか 何かに付けて呼び出しては、いたぶっている。

  ある意味皆、土岐等さんに依存していたんです。そうでないと均衡が

  壊れてしまう。そんな脆さがあった」


  土岐等が恒常的にアカハラに遭っていたこと、加害者は複数いたこと、

  山瀬が主導していたことの証言はとれた。

  しかしこれは結局無意味だった。

  被害者として告発する人間がもういないのだから。

  遺族も大学側の態度にすっかり諦めて、諍いを望んではいない。

  そうこうしているうちに、訴訟可能な期間が過ぎてしまった。


 「俺も逃げた一人だ。土岐等が壊れて行くのを見ていられなかった。

  弱かったんだ。慰めることも、止めることもできなかった。

  土岐等でなりたっているその均衡を壊すことで、自分が代わりの

  生贄になるのが怖かったんだ」


  休学と言っても、その頃ビジネスに集中する為に節約のため、

  休学届を出していただけの常川。完全にノータッチだったわけではなく、

  少なくとも今よりも向上心のあった常川は、定期的に大学にいっては

  必要な業務をこなしていたようだ。


 「俺はその時まだ修士学生だったから、面と向かって批判することが

  できなかった。異様だったよ、あの雰囲気は。学部ゼミではあんな

  雰囲気ではなかったのに。目の前で明らかに無実の人が壊れて行く。

  無力感に耐えられなかった」


  常川は当時は大人しくて、他人事には我関せずの性格の学生だった。

  塔堂の所在を突き止める為に実家に電話した時にも、母親が随分変わった

  のねと電話越しに分かるくらいだ。相当の変化を遂げたのだろう。

  それがアカハラだとしたら、皮肉なことだ。

   

 「土岐等は、俺に救いを求めていたんだ。俺だけじゃない。修士の学生

  皆に求めていた」


  その時既に土岐等は学生相談所に提訴していて、その関係で証人が

  必要だったこともある。それでも誰も名乗りでなかった。


 「俺は見捨てたんだ。ビジネスは忙しかったけれど、自分が創業者

  なんだから時間の融通は工夫次第ではなんとかなったはずだ。

  学費もビジネスも後付けだ。俺は単にあそこから逃げたかった」


  そのことをずっと悔いているし、おそらく一生許されることではない。

  常川は自覚している。

  だからこそ初めから一貫して土岐等の味方に立っていた、人間を

  応援したいし、許しを請いたい。

  この罪悪感を埋める為ならばなんでもする。

  そう誓ったのだ。   


 「でも焔さんはもう」


 これまでの推理が正しければ、取り返しのつかない罪をいくつも

 犯している。

 どう助けることができるのか。どうすれば彼の気が済むのか。


 「まだ出来ることはあるはずだ。俺はもう静観し、やり過ごして後悔する

  ことだけは、絶対に嫌だ」


 常川の顔はいつもと同じに戻った。



1


 

 「僕は研究者生命を賭けて、この告発をします。学会から追放

  される覚悟は既にできております」


  焔は演壇で堂々と宣言をした。

  今日は山瀬が中心的役割を果たす学会。
  特に今日の学会は一月後の学会長選を前にした、
  貴重な場である。全ての発表の後には、会長候補者たちが
  会長選にあたっての抱負を話すのが恒例となっており、
  今日はいつも以上に重鎮が多い。その分発表者の緊張も
  高まっているようだ。

  他学部である焔は、懇意にしている教授二人の推薦をもらい、
  学会の趣旨に沿った題目の学会発表をする予定であった。
  直前まで常川と優奈も知らなかったので、学会会場で会って
  驚いた。焔は学科が異なるし、参加するにしても公聴するだけ
  だろうと思っていたら、講演者の発表者の名前にさりげなく
  混ざっていたので、そのチャレンジ精神には感服した。
  
  初めて聞く焔の発表に期待して、第一声がこんな不穏な始まり。
  これから焔が紡ぐ言葉に戦慄すると同時に、何が起きるのかと
  期待する。周囲もこの風変わりな始まりに、驚きを隠せない。

  
焔は続ける。

  自分は他の職に就くので、もう研究者の立場は不要だ。

  これはあくまで焔自身の意思であり、指導教官には何の責任もない

  ことを念を押すように強調した。

   

 「会長選投票直前のこの学会。私の発表を聞いてから、是非

  ご自分の投票を考えて頂きたい」


  この前置きはこのような学会発表の場ではあり得ない口上で、聴衆は

  顔を見合わせる。学会内部での選挙は、狭いコミュニティなので、

  投票と言ってもほぼ決定事項。投票はパフォーマンスのようなものだ。

  今回の学長選も立候補者は山瀬ともう一人の二人だけだが、ほぼ山瀬と

  決まっている。


   ざわめく聴衆。

  皆あれは誰だと顔を見合わせるが、発表者は事前の審査を経て認可

  された内容のはず。今になって拒否することは許されない。

  嵐の訪れを予感しながらも、聴衆には大人しく聞くことを選択した。

   

  焔の報告は各研究グループの結果発表ではなく、個人の発表

  ではあるが、その内容の目新しさからか参加者は多い。

  焔の題目を事前に知らなかったのか、出席者の一人が前列から、

  出口へ向かおうとする。


 「……山瀬先生、どうしました? 聞いていかれないのですか?」


  報告者が、参加者の行動を直接咎めることは、ありえない。

  他の聴衆までもがざわめきだす。


 「他に用事がある」


 「聞いて下さい。この報告は他人事ではない。あなたは是非

  聞いていくべきだ」


 「時間がないんだ」


 「あなたの次の予定は学会長選の挨拶だけのことは確認済みです。

  言い訳は見苦しい。聞きなさい」


  一学生が教授に話す言葉供思えず、一気に会場の緊張が高まる。

  外国からの聴衆だけが、傍に居る通訳に事情を聞いている。


 「続けます。この事例は、教授が一女子学生に対して行ったハラスメント

  事例です。内容をリストアップしました」


  パワーポイントを使った詳細な事例に、聴衆からため息が出る。

  内容の悲惨さに「ひどい」「何これ、犯罪じゃない?」などと

  口々に呟く声がする。

  証拠を隠滅する周到さ、圧力でねじ伏せる傲慢なやり方は、聴衆に

  負のイメージを植え付けるのに成功したようだ。

  もちろん証拠の音声や写真、診断書も抜かりなく紹介する。


 「今日はこの場にいる主犯者の名前を、皆さまに公表します。

  これだけのことをしても大学構内で当時は無罪になったのです。

  皆さまもう一度思い出してください。今庫の発表で我々はアカデミック・

  ハラスメントに関しては、断固たる態度をとるべきことを確認しました。

  そこで私は、このハラスメント加害者の無期限追放、詳細な調査報告と

  その公表、その協力者に対する処罰を徹底することを提案します」


  この場に加害者が居ると明言され、会場内に動揺が走る。

  今までの流れから優奈は、まさかと悪い予感がした。

  予感と言うより、予測。

  おそらくこの予測は合っているが、認めたくない。

  横に居る常川は、「面白いことになってきたな」と目を輝かせ

  ながらペットボトルの茶を飲む。

 

  「そこで今回は、このハラスメントの加害者であり、現在当学会の

   学会長選に立候補している山瀬教授について、その資質を問う為

   過去に犯した罪を公表しました。その善悪の是非を皆様に委ねたい」


  堪らず学界当局側から、待ったがかかる。


  「ここは、学会であって、裁判の場ではありません。そういうことは

   会議の時に……」


 「それではあなたたちは、内々に物事を進めてしまうでしょう。

  いくら体系を整備しても、絵に書いた餅では無意味なのです」


  この学会にはハラスメント加害者に対する制裁措置がないので、

  時勢に合わせて議論が始められたばかりだ。つまり現時点では

  何の措置もないことになる。


  聴衆は当日参加費を払えば、基本的に制限はないので、他大学からも

  学生や教師人が来ており、今日の学会の態度如何によっては

  大きな波紋となるのは間違いなかった。

  もちろんその余波は、焔自身にも訪れることは間違いない。

  それでも焔は全く恐れていない。

  事務を制して、自分のペースに持って行く。


 「ここに私は、5年前の女子学生殺人未遂の真犯人、山瀬教授の罪状に

  ついての大学における公開審問を願い出ます。後日警察にも告発します。

  殺人未遂ですから、5年ではまだ時効にはなりませんよね」


  会場が和琴大学キャンパス内なので、スタッフから参加者まで

  この大学の人間が多い。

  今この瞬間の山瀬の行動を、反応に目を光らせる。


 「学内では一度判決の出た事案に、再審理は認められないはずだ」


  反論はでなかったが、やはり口で言い負かすつもりか。

  そんな反応など焔の想定内だとばかりに、すらすらと焔は反論する。


 「ええ。その悪しき習慣もいずれは廃れるでしょうが。犯罪が関わって

  いますからね。再審理は世論の力を使ってでも実現させます。

  そして何より、あなたには学会からの永久追放を申請します」


  ここで焔は、山瀬に向かって指を指す。

  これに釣られて聴衆は皆山瀬の方を向く。

  その視線に居たたまれず、山瀬はせめてもと更なる反駁を行う。


 「余所者のお前に、そんな権限はない。これは名誉毀損だ。こっちこそ

  訴えてやる」


  ここで焔は両腕をバンとデスクに置いて、身を乗り出すようにして

  言った。

 

 「権限ならあります。僕はその時の被害者の一人である、当時の学部生

  嘉納宥宗です」

 

 みるみる山瀬の顔が青ざめていった。

 



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