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 焔には分かってしまうと、予感はしていた。
 優奈は全く動じない。

 

 「私もこちら側に来てしまいました」


 無邪気に微笑む優奈の、その顔に嘘はない。

 だから‐焔も仮面を脱ぎ、偽りのない素顔を露わにする。


 「……全力で憎め。僕はそれだけのことをした」


 「言われなくとも。あなたは、私の目標を、人生を奪ったんです」


 優奈の笑みは消え、いつもの控えめな物言いではなく、淡々と決意を

 表明する。瞳は真剣そのものだ。

 今までで一番明朗とした、物言い。

 これが本来の優奈の姿なのだろう。

 憎しみが自分の力を最大限に引き出す活力となる。

 どんな理屈よりも、それを救いとするのは必ずしも悪ではない。 

 

 そのまま真っ直ぐに歩いて来る優奈。

 眼前50cmの距離まで近づくと、見上げる。

 次の動作を予測して、焔は目を閉じる。


 だが、優奈が動くことはなかった。


 「何もしやしませんよ」


 言われて目を開けると、以前に焔が上げたネックレスを

 掲げている。

 導かれるまま焔は右手を差し出す。

 優奈は両手ではさみこむようにネックレスを掌の上に置くと、

 自分の手で蓋をした。


 「これはもう、私には必要のないものです」


 そのままくるりと後ろを向くと、言った。

 焔は優奈の表情を読むことが出来ない。


 「私は決して自首することはないし、あなたのしてきたことを

  訴えることもしない。代わりに、あなたは一度も罰を受ける

  ことなく、自分の罪に苛まれ続ける。未来永劫。死ぬまで。

  それが私の復讐です」


 「思い知らせてやりたいとは思わないのか」


 「あなたが自分のしたことにどう決着を付けるのか。私は残りの人生

  全てをかけて、見届けさせてもらう。あなたは聡い人だから、それが

  一番堪えるでしょう」


 「もとより告発する資格などない。……長い闘いになるな」


 「覚悟の上です」


 「生殺しとも言える」


 「あなた次第でしょう」


 時は二人の出会いから既に一巡している。

 それを示すかのように、薄く色づいた山桜が風にそよいだ。

  

 これからまた、澱となった情念は新しく形を変え、続いていく。

 来るべき浄化の日の為に。 

 


この本の内容は以上です。


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